
生理前や生理中はほかの時期と比べて気分がすぐれないし、腹痛や頭痛にも悩まされている。経血でよく服を汚してしまう……。でも、「みな、この程度では病院に行っていないでしょ?」「生理痛でつらいなんて言う私は、弱い人間と思われないかしら?」。あなたは、こんなふうに思い込んで、ひたすらつらい時期を我慢して過ごしていませんか。
他人の生理の状態は聞きにくいこともあって、自分の生理痛の重さや出血の多さなどの客観的な基準がわからないために、本当はつらくて困っていても医療機関に行くのをためらっている人は意外と多いようです。そこで、どのような症状があれば受診をしたほうがいいのかの目安となる項目を愛育病院院長の百枝幹雄さんに聞きました。
症状があってつらいのに、多くの働く女性が「自分の症状は治療するほどではない」と思い込んで受診をしていないという調査結果があります(日経BP 総合研究所 2021年調査)。
愛育病院院長で産婦人科専門医の百枝幹雄さんは「本来、生理は痛みがないのが普通です。痛みがある時点で“正常”とは言えない可能性が高い」と話します。「痛みだけでなく、出血が多い、貧血で倒れてしまうなど、生活に支障が出てしまうようならそれは正常な生理ではありません」(百枝さん)。
あなたが、当たり前と思っている生理痛や生理前の不調、生理不順などは、実は病気のサインかもしれません。ですから、まず今の困った状態の背景に「病気」がないことを確かめることが大切なのです。
生理に伴う不調の多くは薬による治療で改善し、治療によって普段通りに仕事ができるようになることが多いと言われます。一方、治療せずに放置すると婦人科系の病気や生活習慣病につながることもわかっています。生理痛などの治療は、将来に起きる可能性がある病気の予防にもなるのです。

体を温める、市販の鎮痛剤を飲むなどのセルフケアで対処できる場合もありますが、そうしたセルフケアをしても効き目が薄く、生活に支障が出てしまう人はいるのではないでしょうか。
百枝さんは、「生理痛でつらい、と自分が思った時点で“月経困難症”という病名がつきます。『この程度で…』などとためらわないで婦人科を訪ねてほしい」と話します。
そこで、【生理中】の経血の量、痛みの程度、生理の期間や頻度、【生理前】の体と心の状態について、受診の目安となるチェック項目をお示しします。もし該当する項目があったら、婦人科を一度受診してみてください。
受診のタイミングは、必ずしも症状がある時期でなくても大丈夫です。生理が終わって症状が治まってからでも診断はできるので、タイミングを気にせず受診してください。
受診先探しの一つのヒントになるのは、日本女性医学学会が認めた「女性ヘルスケア専門医」がいる医療機関。生理や更年期などライフステージに合わせた女性医療に力を入れる最寄りのレディースクリニックや女性外来、婦人科などのサイトをチェックしてみてはいかがでしょう。
生理痛・過多月経・生理不順チェック
Check! 生理中に、こんなことが気になりませんか?
経血の量
- ナプキンの交換が間に合わず、洋服を汚すことが多い
- 日中でも常に、「夜用ナプキン」を使う日がある
- 「昼用ナプキン」では2~3時間、もたない
- 「夜用ナプキン」でも一晩もたず、夜中に交換したり、布団を汚したりすることもある
- タンポンとナプキンを併用しても、よく粗相をする
- 親指の先ほどのレバー状の塊が出る
- 生理2、3日目でも出血量が少なすぎる(ナプキンの交換が1日1、2回で済む)
痛み
- 毎周期、鎮痛剤を3日以上、飲んでいる
- 痛み止めを規定量飲んでも、効かないことがある
- 昨年より、今年のほうが、痛みがひどくなっている
期間や頻度
- 生理期間が1~2日で終わる、または8日以上続く
- 生理でないときに出血することがある
- 生理周期が25日より短い、または38日より長い
一つでも該当したら、婦人科で異常がないか、検査を受けてみては?
(百枝さんへの取材をもとに日経BP 総合研究所作成)
PMSチェック
Check! 生理前の5日間にこんなことがありませんか?
体の症状
- 乳房の痛み
- 頭痛
- おなかの張り、腰痛
- 手足のむくみ
精神的な症状
- 抑うつ気分
- 混乱
- イライラ
- 怒りっぽくなる
- 不安
- ひきこもり
- 過去3か月連続で、生理前の5日間に上の一つ以上の症状が出る
- 生理開始後、4日以内に症状が消え、13日目まで再発しない
- 薬やアルコールによる症状でない
- 社会的・経済的に明確な障害が認められる
こんな人は、PMS(月経前症候群)かもしれません。一度、婦人科を受診してみては?
(ACOG A Resource manual 4th Edition 2014)
東京大学医学部卒。聖路加国際病院女性総合診療部部長、同院副院長を経て2022年より現職。専門は子宮内膜症、子宮筋腫、不妊症などを扱う生殖内分泌学、内視鏡手術。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医など。NPO法人日本子宮内膜症啓発会議理事長。
(※内容は2023年8月取材時点のものです)