
生理に伴う不調を我慢して、仕事を休まずに働く女性が多いことから、生理休暇の取得率が低いことを問題視する意見もあります。不調があるのにそれを我慢して働くことは、決して体のためにも、仕事のためにもいいことではありません。かといって、毎月、休暇をとって寝込む状態を繰り返すことは、つらい本人にとって望ましい状態とは言えないでしょう。生理休暇を、本人にとっても、企業にとってもいまより生産的な形で活用することはできないでしょうか。
女性医療の専門家で健康経営にも詳しい愛育病院院長の百枝幹雄さんの、生理休暇の新しい活用方法に関する提言に耳を傾けてみましょう。
女性が生理に伴う不調を我慢しながら出勤し、働いている(プレゼンティーイズム)ことが注目されるようになった昨今、「生理休暇の取得率の低さ」が問題になることも増えています。
生理休暇は労働基準法で定められた権利で、「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」とあります。しかし、現実には、ほとんどの人が利用していません。生理休暇を請求した人の割合は0.9%(※1)という報告もあります。
そのために、「もっと生理休暇を取りやすくするにはどうすべきか」との議論もあるようです。しかし、産婦人科専門医で、働く女性の健康問題に詳しい愛育病院院長の百枝幹雄さんは、別の視点から生理休暇の活用法を提案しています。
「痛みがつらい時や、吐き気やめまいがするような体調の時に、休みを取って家で体を休めることは大切です。ただ、毎月、休養するだけでは症状はその後も改善せず、年々、悪化することも少なくありません。これは本人の健康にとって、決していいことではありません。
しかし、彼女たちは症状がつらいにも関わらず、“自分の不調は我慢すべきもの” “受診するほどの症状でない”と考えており、医療機関を受診していないことが多いのです。
実際は、婦人科で適切な治療をすれば、9割程度の人は不調が改善されます。ですから、企業は不調を抱える女性従業員が治療を受けられるように支援策を検討したらいいと私は思っています。例えば、生理休暇を“治療のために婦人科を受診する”といった目的に積極的に活用することを促してみるのはいかがでしょうか」(百枝さん)。
企業は、生理休暇を取得せざるを得ないほど症状がつらい人に、「休暇を取得して休養をしつつ、できることならその期間に病院を受診して、治療の相談もしましょう」というメッセージを届け、実際に受診行動をしてもらえるように背中を押してあげる考え方です。

治療を開始すれば、症状が軽くなり
生理休暇を取る必要なく働ける人が増える
東京都の調査(※2)によると、2割強の女性が生理休暇を申請しない理由として「人手不足で休めない」と答えています。
「こうした人たちがすすんで適切な治療を受けてくれれば、当の本人もつらい状態から解放されていつものように働くことができますし、企業側にとっても生理に伴う不調による生産性の低下や労働損失に歯止めをかけられます」と百枝さん。
症状を改善する主な治療は、低用量ピルなどのホルモン剤を使って生理をコントロールする方法です。
現代女性は、初産が遅くなった、出産の回数も少なくなったなどの生活スタイルの変化で一生涯に起きる生理の回数が昔に比べ、約9倍多くなったとの研究があります。
「このように多すぎるようになってしまった生理を減らすことで、それに伴うつらい症状を減らすのがホルモン剤を使う治療です。排卵を抑制することで出血量が少なくなり、それに伴って痛みも軽減されます。もちろん、妊娠をしたいときは薬を止めれば、妊娠の妨げにはなりません。
受診回数は症状が安定すれば通常、3か月に1回程度ですし、最近はジェネリック医薬品も増えているので、治療費もかなり抑えられるようになっており、薬代だけだと月に500~1,000円程度で済むことが多いです。ですから、企業(や産業医)が婦人科の受診を上手に促し、その時間を確保してあげるのがよいのではないかと思っています」(百枝さん)。
産業医と連携して、休暇を取って受診した後の体調などをフォローしてもらうようにするのもいいかもしれません。
いずれにせよ、こうした考え方を実際に導入するためには、様々な条件などを整理し、現場で議論するポイントがまだまだあるでしょう。ですが、女性の活躍が当たり前になるこれからの時代は「ただ、休養するだけの生理休暇」ではなく、「積極的に症状に対処する生理休暇」といった具合に、意識も行動も変えていく必要がありそうです。
- ※1厚生労働省 令和2年度雇用均等基本調査
- ※2東京都 令和5年度働く女性のウェルネス向上事業アンケート調査
東京大学医学部卒。聖路加国際病院女性総合診療部部長、同院副院長を経て2022年より現職。専門は子宮内膜症、子宮筋腫、不妊症などを扱う生殖内分泌学、内視鏡手術。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医など。NPO法人日本子宮内膜症啓発会議理事長。
(※内容は2023年8月取材時点のものです)