日本人の平均的な閉経年齢は50歳前後。その前後10年が更年期にあたるので、45歳を過ぎたあたりからは、不調を「更年期のせいかも」と心配する人が増えてきます。一方で、生活や仕事に影響が出るくらいのつらい不調があっても、何も対策せずに我慢している女性も多いことがわかっています。最悪の場合には、せっかく積み上げてきたキャリアを何も対策せずに諦めてしまう人もいます。これは本当にもったいないことです。更年期障害には適切な治療法があります。必要な人が治療を受けるきっかけをつかめるよう、不調の状態をセルフチェックする項目をご紹介します。

最近、テレビなどでもよく耳にするようになった「働く女性の更年期」の問題。定年まで働き続ける女性が増え、40代、50代という体の変調時期にも、責任ある立場で仕事をする女性が増えているからこそ、社会からも注目されるようになった健康課題です。

更年期は、女性ホルモンの急激な低下によって女性なら誰にでも訪れるライフステージによる体調変化の期間。40代前後からは、自分の不調を更年期のせいではないかと心配する人が増えてきます。

その一方で、「本来は治療が必要なくらい深刻な更年期症状なのに、家族や職場のことばかりを優先し、自分のことを後回しにして我慢し続け、症状を悪化させたり、生活の質を下げたりしてしまう女性も少なくありません」と話すのは、東京大学大学院 医学系研究科産婦人科学講座 教授の大須賀 穣さん。

最悪の場合、イライラしたり、ときに気力が低下してしまうなどの症状を、更年期の症状と知らぬまま気に病んで、仕事や昇進のオファーを断ったり、仕事を辞めてしまう選択をする人も少なからずいることがわかってきました。女性が働きがいをもって活躍する社会の実現のためにも、「方法があるのに、それを知らずに諦めてしまう」残念な状況は減ってほしいものです。

また、更年期の症状は通常、一定の期間が過ぎたら落ち着いてくるもの。永遠に続くわけではありません。

更年期について話す大須賀 穣さん

40代、50代は女性の“健康の曲がり角”
積極的な治療や対策で、上手に乗り越えて

更年期の症状として有名なのは、急に汗が出る、のぼせるなどのホットフラッシュですが、冷えや指の関節の痛み、めまい、吐き気など、いろいろな体の部位にさまざまな症状が、女性ホルモンの低下が原因で発生します。

もし不調の原因が更年期によるものなら、生活習慣を整えたり、仕事のペース配分を見直したり、薬による治療などで改善させる方法はたくさんあります。

一方、40代後半ごろの年代は、ほかの病気も増え始める時期でもあります。更年期のせいだと勝手に思い込んで放置してしまうと、別の病気が原因で症状が起きている場合に、その病気が進んでしまうこともあり、心配です。

ですから、40代に入って最近調子が悪いな、という人は以下のチェックシートで自分の状態をチェックしてみてはいかがでしょう。これはSMI(簡略更年期指数)というツールで、医療機関でも更年期の診察の前に使うこともあります。点数によって受診が必要かどうかの目安になるので、ほかの病気の有無を確認することも兼ねて、受診してみることをお勧めします。

「指の関節痛などで整形外科、イライラなどで精神科など、症状に合わせていろいろな診療科を受診する人も多いのですが、この年代の女性には内科などで診断がつかない不調があれば、婦人科の可能性があると考えて受診していただきたいです」と大須賀さんは話します。

簡易更年期指数(SMI)を使って、自分の体調をセルフチェック
1. 顔がほてる 10 6 3 0
2. 汗をかきやすい 10 6 3 0
3. 腰や手足が冷えやすい 14 9 5 0
4. 息切れ、動悸(どうき)がする 12 8 4 0
5. 寝つきが悪い、または眠りが浅い 14 9 5 0
6. 怒りやすく、すぐイライラする 12 8 4 0
7. くよくよしたり、憂うつになることがある 7 5 3 0
8. 頭痛、めまい、吐き気がよくある 7 5 3 0
9. 疲れやすい 7 4 2 0
10. 肩こり、腰痛、手足の痛みがある 7 5 3 0

症状の程度に応じて自分で○をつけ、その点数をもとにして合計点を出してみてください。

  • 強:毎日のように出現
  • 中:毎週みられる
  • 弱:症状として強くはないがある

自己採点評価を以下でチェックしてください。51点以上の人でまだ受診をしたことがない人は、婦人科を受診して相談をしてみてください。

  • 0~25点 異常なし
  • 26~50点 食事、運動に注意
  • 51~65点 更年期・閉経外来を受診
  • 66~80点 長期間の計画的な治療が必要
  • 81~100点 各科の精密検査・長期の計画的な対応が必要

(1992:9:30-34 産婦人科漢方研究のあゆみ)

大須賀 穣さん
東京大学大学院 医学系研究科産婦人科学講座 教授

東京大学医学部卒。産婦人科医としての長年の経験をもとに女性のための包括的な健康支援の重要性を広く社会に訴えている。研究活動、教育活動にも力を入れており、多数の研究成果と優秀な産婦人科医の育成を通して日本の産婦人科医療の向上に努めている。多くの学会の役員、中央官庁委員としても女性の健康問題に取り組んでいる。2013年より現職。

(※内容は2023年9月取材時点のものです)