高尾美穂さん写真

女性が感じる生理のつらさや更年期の不調。これまで男性がほとんど知ることのなかった女性ホルモンに由来するさまざまな悩みについて、社会や職場でも理解しようとする機運が広がっています。とはいえ、男性が圧倒的に多い職場では、どうやって生理や更年期の不調を伝えればいいのか、悩む女性の声はまだ多く聞かれます。女性特有の不調と仕事との両立について、産業医で、婦人科医でもあるイーク表参道 副院長の高尾美穂さんにアドバイスを聞きました。

ここ数年、性別を問わずに生理について学ぶ勉強会やセミナーを開催する企業や学校が増えてきました。以前はタブー視されていた生理や更年期の話題も少しずつオープンに語られるようになって、女性特有の不調を理解しようとする取り組みが社会全体で広がっています。「いわば今は過渡期。まだ取り組みが進んでいない企業や職場でもこれから変化していけます。変わったほうが会社にとっても、個人にとってもメリットが大きい。女性も、その変化の波に積極的に乗るようにしたほうがいいと思います」とイーク表参道 副院長の高尾美穂さんは背中を押します。

研修の体験を共有することで
心理的安全性が生まれる

特に生理に関しては、社員研修や管理職研修の一つとして、生理の知識を学び、組織運営にそれをどう反映させるべきかを考える場を設ける動きが目立ってきています。「ここで大事なのは、研修や勉強会に参加した後に、男性上司や従業員が自身の体験や感想を、積極的にチームに共有することです」(高尾さん)。

例えば、朝の部会などの機会に、勉強会に参加してどう思ったか、家庭に持って帰ってどう話したかなどを参加者が伝えます。それによって、チーム内では生理について話題にしていい、という共通認識が生まれ、チームメンバーには、上司は生理について一生懸命学ぼう、理解しようとしている人だという理解が広がります。いくら世間やニュースなどで生理の話題が取り上げられても、「うちの職場で上司や同僚が実際にどう考えているかは分からない」と感じて、生理休暇の申請などを躊躇(ちゅうちょ)する女性は少なくありません。研修の体験を共有することで、「このチームでは生理や更年期の話題をしても理解してもらいやすい」という心理的安全性が培われます。

「日頃から生理や更年期のことをタブー視しないで、言葉にすることがすごく大事だと思っています。女性特有の悩みについて共通の知識ベースを持ってもらえるように、女性社員から、勉強会やセミナーを提案するのも一つの方法です」(高尾さん)。

40代以上の意識改革が
会社全体の変化を早める

こうした職場の改革を進めるには「男女とも40代以上が意識を変えることが重要」と高尾さんは指摘します。「男性上司は部下の女性が抱える生理や更年期の悩みにどれだけ対応できるかを、いまや、周囲から評価されている時代になったと気づいてほしいです。男女ともに40代以上の社員がどのくらいのスピードで変われるかが、会社全体の印象や変化を左右しているといってもいいと思います」。

一方で女性の側も自分の不調について、適切に上司や周囲に伝えようと行動してみることが大事。その際、言いたくない人は、あえて生理や更年期だと原因を詳細に言う必要はありません。「体調が悪いので、このぐらいの期間、これとこれについて、サポートをお願いします」と支援をしてもらいたい時期や内容をしっかり伝えることで周囲も準備や対応が可能になり、本人も働きやすくなります。

伝えにくい更年期の症状は
女性同士で共有することでも楽になる

更年期症状には、「仕事に集中できない」「やる気が出ない」などのうつ症状もあり、周囲に理解してもらいにくいという悩みもあります。「私が産業医として関わっている企業では、シスターフッドのような女性同士のメンター制度を設けているところもあります。上司と部下というよりも、もう少し近い年齢の同性同士でコミュニケーションを取る機会を定期的に持つ制度で、そこで吸い上げた内容はある程度、社内で共有することを前提にします。男性上司にはなかなか理解してもらいにくい更年期の症状は、女性同士で共有するだけでも気持ちが楽になります」(高尾さん)。

同時に、「これだけ社会も変化し始めているのだから、女性も生理痛や更年期の不調を仕方ないことだと放っておかずに、婦人科を活用してほしい」と高尾さんは訴えます。女性ホルモンの変動で不調を感じたら、まず婦人科に行って相談することが大事。低用量ピルやホルモン補充療法(HRT)などについて情報をアップデートすることで、いまの体調を改善する選択肢が広がります。

「女性には、女性ホルモンの変動について自分で把握して体調を管理できるようになってほしいですね。自分の体調や働く環境をよくするために、自分から動くことはとても大切。社会全体が変わるまでには時間の経過が必要です。それまでの間、ただ、受け身で待つのではなく、例えば1年かけて自分で体調がコントロールできるようにセルフケアや治療などの行動をしながら、周りには不調をきちんと伝えられるようにアクションを起こす。その両輪で進めていくことが必要だと考えています」。

職場で女性の不調による影響を減らすための着眼点

  • 研修の体験や感想を職場で共有し、女性の心理的安全性を高める
  • 職場の40代以上の意識改革が肝。スピード感も大切
  • シスターフッド制など同性同士のメンター制度の検討も
  • 女性は、期間、頼みたい業務内容を適切に伝える姿勢を
  • 女性は不調を放っておかず、婦人科に相談を
  • 女性からも、会社に研修の開催などの働きかけを
高尾美穂さん
医学博士・産婦人科医 イーク表参道 副院長
日本スポーツ協会公認スポーツドクター・産業医

東京慈恵会医科大学大学院修了後、同大病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て、2013年から現職。大学病院では婦人科がん(特に卵巣がん)専門。ヨガの指導者資格も持ち、ヨガ、アンチエイジング医学、漢方、栄養学、スポーツ医学を多角的に用い女性の心身をさまざまな角度からサポートする。

(※内容は2023年9月取材時点のものです)