生理休暇を取りやすくするためのアイデアや注意すべきポイントとは?
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生理による症状がつらくて仕事に支障が出る女性のためにつくられた生理休暇。労働基準法によって定められた休暇ですが、職場によってはいまだに理解が広がらず、「使いにくい」「取りにくい」といった声があります。一方で、生理休暇を含めて女性が健康のために取得する休暇をすべて「エフ休」(エフ=femaleの頭文字)等と呼ぶことで、「生理休暇」という名称が取得しづらいという悩みを解消、休暇の取得を促進している企業も出てきています。生理休暇をもっと使いやすくするためにできる工夫や法律上の注意点などを、社会保険労務士、グレース・パートナーズ社労士事務所の佐佐木由美子さんに聞きました。
当日申請OK。診断書は不要
生理休暇を有給にする企業は全体の3割程度
そもそも生理休暇とは「生理日の就業が著しく困難な女性」が取得可能な休暇で、労働基準法68条に定められている法定休暇です。就業規則に生理休暇について触れられていなければ、「自分の会社には生理休暇がない」と勘違いしてしまう人もいるかもしれませんが、実際には、就業規則で規定されていないとしても、企業は生理休暇を申請された場合は拒否することはできません。ただし、有給か無給かは法律上、規定されていませんから、原則は無給でも、「有給の生理休暇は月1日」などと有給で休める日数を就業規則で規定しても構いません。
厚生労働省が行った「令和2年度雇用均等基本調査」では、生理休暇を「有給」とする事業所の割合は29.0%。これについて、中小企業の実態に詳しい社会保険労務士、グレース・パートナーズ社労士事務所の佐佐木由美子さんは、「中小企業の場合、生理休暇は無給休暇であることが少なくありません。また、有給休暇は1日だとしても、生理で2日以上休むこと自体を拒否することはできません。2日目以降は、年次有給休暇に切り替えることも、無給で休むこともできます。これを会社が拒否した場合は30万円以下の罰金が科されることも労働基準法で規定されています」と話します。
また生理休暇の場合は、当日の申請でも取得が可能。「生理休暇を取得した上で、不調が続く場合は年次有給休暇に切り替えてもよいでしょう。原則として特別の証明がなくても請求があった場合には与えることになっていますから、医師の診断書を必須とするのもNGです」(佐佐木さん)。
半休、時間休で休暇を体調不良に対処しやすく。
時間単位年休は労使協定が必要
また、生理休暇は半日や時間単位で取得することもできます。半休や時間休などを取り入れることで、使い勝手がよくなり、より取得しやすくなることが期待できます。
「ただし、年次有給休暇を時間単位で取得できるようにするには、労使協定の締結が必要になります」と佐佐木さん。
労使協定を締結し、時間単位年休が可能になったとしても、運用する際には、注意すべきポイントもあります。例えば、時間単位で年次有給休暇を取得することで、休みを取った気になってしまいがちな点。「年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者には、そのうち5日を1年以内に取得させることが労働基準法で義務付けられています。時間単位の休暇をたびたび申請していると、たくさん休みを取った気になってしまいがち。けれど時間単位年休は“最低年5日”のカウントに含めることはできませんし、半休を合計しても年5日に足りないケースもあります。本来の年次有給休暇の目的が疲労の回復であり、原則は1日単位での取得とされていますから、健康管理につなげるという意味で、生理を含めた不調への対処を年次有給休暇の時間単位取得に頼るのが適切なのか、運用する前にしっかりと検討することが大切です」(佐佐木さん)。
生理休暇の運用改善には、社内の
女性の体に関する知識向上が必須
生理休暇の「生理」とは、どのように法律で規定されているのでしょうか。「生理日に取得すると定められてはいますが、法律が制定された当時はそこまで女性の健康に理解が進んでいなかったため、詳細に規定されているわけではありません。例えばPMS(月経前症候群)など生理に由来する症状をどこまで認めるかについては、解釈に委ねられる部分もあります。また、生理痛を緩和するために受診することは生理休暇の範囲ですが、治療に使う低用量ピルの処方を定期的に受けるための通院などに生理休暇は適用されないと考えられています」(佐佐木さん)。
こうした解釈を含め、生理休暇が取得されやすい環境をつくるためには、制度の整備と並行して、生理について周囲の理解を深めることが必要です。「体調が著しく悪い人が、生理休暇を毎月取得したことで、その実情を理解していない上司や同僚などと対立が生まれ、職場にいづらくなり、退職してしまうというケースはいまだにあります。生理休暇を充実させることも大切ですが、ハラスメントやいじめが生まれないように啓発を進めることも大事。女性特有の症状で休暇を取得しやすくするためには、女性のホルモンバランスやその影響に関して、理解を深めるような教育活動は必須です。今は無料の研修動画やウェブ情報などもあるので、労使ともに生理休暇について理解を深めてもらいたい」と佐佐木さんは強調します。
企業の裁量で取得しやすくした「エフ休」
積立年次有給休暇制度の活用も
働く人の健康を守るために、休暇制度をめぐって新たな動きも出てきています。最近では、「エフ休」(関連記事:女性のための休暇「エフ休」を策定。福利厚生も斬新なネーミングで“バズ”らせる)や「YOU休」(関連記事:女性従業員へのアンケートがきっかけ。生理休暇を「YOU休」と名付け、取得しやすく)など、生理だけでなく更年期や不妊治療のときにも休みやすいように、独自の制度設計に取り組んでいる企業もあります。こうした工夫は女性向けの休暇だけとは限りません。
「一つの考え方として積立年次有給休暇があり、実際に取り入れ始めた企業もあります」(佐佐木さん)。
年次有給休暇は2年が消滅時効なので使いきれない人も少なくありません。消滅する分の有休を3年目以降も“積み立て”て、必要に応じて取得できるようにしたのが積立年次有給休暇。法律で規定されたものではなく、任意の制度ですから、取り入れるかどうかは各企業の裁量で、用途を限定することもできます。これを、健康課題対策として取り入れる企業が増えており、労働者自身の体調不良や通院、入院のときだけでなく、家族の看病や介護のときに使えるようにしているケースも見られます。病気などに使える有給休暇が別にあることで、年次有給休暇を“万一”に備えて温存する必要がなくなり、本来の目的通り、リフレッシュのために使いやすくなります。毎月の生理や、期間が長くなることもある更年期症状の対応のために年次有給休暇が削られてしまうこともなくなります。
「男女関係なく、いざというとき利用できる休暇制度であれば、労使ともに受け入れられやすいでしょう。こうした休暇は企業の裁量で制定することができます。まず従業員の方にヒアリングして、意見を反映しながら策定するとより良い制度になると思います」(佐佐木さん)。
生理休暇とは趣旨が異なりますが、ワークスタイルの選択肢を増やすことで、生理の不調や更年期症状を「休まなくてもいい不調」にする可能性もあります。
例えば、通勤ラッシュの時間帯に電車に乗らないことでラクになるのなら、フレックスタイム制の導入が効果的でしょう。コロナ禍を機に広がったテレワークや在宅勤務は、生理に限らず、介護や不妊治療、がんなどの治療などがある人でも、仕事を継続しやすくする制度で、ライフ・ワーク・バランスに寄り添った施策といえます。
グレース・パートナーズ社労士事務所、グレース・パートナーズ株式会社代表。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。開業後は中小・ベンチャー企業を中心に、多様な働き方のニーズに対応した就業環境づくりをはじめ、人事労務・社会保険面から経営と働く人を支援。働き方に関するルールやキャリア、社会保険制度等をテーマに、経済メディアや雑誌、書籍など多数執筆。
(※内容は2023年10月取材時点のものです)