専門家コラム Column

生理痛よりも悩みが深い? PMSにどう向き合う
症状の記録や生活改善、ホルモン治療で症状緩和

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小川真里子さん写真

「感情をコントロールしにくくなる」「うつっぽくなる」「集中力が続かない」などの症状を、生理前に感じるPMS(月経前症候群)。日本医療政策機構の調査では、働く女性の約7割が生理前になんらかの不調を感じたことがあると回答しています。一方で、それがPMSのせいと気づかない人も多く、うまく対処できずに悩みを抱えている人の数は少なくありません。PMSの特徴や対処法について、ふくしま子ども・女性医療支援センターの特任教授、小川真里子さんに聞きました。

PMSは、Premenstrual Syndromeの略で、日本では「月経前症候群」と呼ばれます。生理の3~10日前に精神的、身体的な症状に悩まされるものの、生理が始まるとそれらの症状が消失する、というのがPMSの特徴です。実に、働く女性の約7割が悩んでいるといわれます。しかしながら、PMSについての正しい情報はあまり周知されていません。「生理の出血のように分かりやすいサインがなく、一定の症状が皆に同じように起きるわけではないので、自分が困っている症状はPMSによるものだと気付かない人も少なくありません」(小川さん)。

PMSの特徴は、その症状が多岐にわたること。「イライラする」「憂うつな気分になる」「やる気が出ない」「感情のコントロールが利かなくなる」などの精神的症状、「乳房の張りや痛み」「疲れやだるさ」「肌荒れやにきび」「腹痛や下痢」などの身体的症状があり、その種類は200種以上といわれます。人によって感じる症状が違い、同じ人でも月によって症状が違うこともあります。

どうしてそんなに多様な症状が起きるのか。「PMSが起きるメカニズムは、まだ詳しく解明されていない部分もありますが、排卵から生理までの黄体期に、エストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)の量が急激に変動することが影響していると考えられています」(小川さん)。ただし、PMSの症状があるということは、すなわち、きちんと女性ホルモンが分泌されていることの証しでもあるのです。

PMSチェック

下のような症状が過去3カ月連続で、生理前の5日間に一つ以上起こり、三つの★に当てはまるなら、PMSを疑ってみて。

体の症状

  • 乳房の痛み
  • 頭痛
  • おなかの張り
  • 腰痛
  • 手足のむくみ

精神的な症状

  • 抑うつ気分
  • 混乱
  • イライラ
  • 怒りっぽくなる
  • 不安
  • ひきこもり
  • 生理開始後、4日以内に症状が消え、13日目まで再発しない
  • 薬やアルコールによる症状でない
  • 社会的・経済的に明確な障害が認められる

(ACOG A Resource manual 4th Edition 2014)

日記をつけることで周期や症状を認知

実はPMSの問題は精神的な症状に関して、より深刻です。急に怒りを抑えられなくなる、ヒステリックになってしまうなどの精神的症状が本当はPMSが原因であるにもかかわらず、そのことを知らず、自分の性格を責めたり、人間関係がうまくいかなくなって傷ついたりする人が少なくないのです。

では、自分に起きている症状がPMSかどうかを知るには、どうしたらいいのでしょう? 一つは上のチェックリストを実施してみてください。もしも該当したらPMSを疑ってみて、婦人科を受診することをお薦めします。

もう一つ小川さんが薦めるのが記録をつけてみることです。「まずは自分の症状がいつ起きているかを把握するために、簡単な日記をつけてみてください。書くことで自分の症状のパターンや、症状がいつ起きていつ終わるか、それによって自分が何に困っているのかが分かります」と小川さん。日記やスケジュール帳、スマートフォンのカレンダー機能などを使って2カ月以上継続して記録することで、体調の変化や生理との関連が把握できるようになります。

「困っている症状が生理前に集中していて、生理が始まるとなくなっているようだったらPMSの可能性が高いということになります。逆に、もし生理周期と関連していないと分かったら、違う病気が潜んでいるかもしれないと疑うこともできます」(小川さん)。

日記につけたいのはこんな項目

  • 乳房の張り
  • むくみ
  • にきび
  • 便秘
  • だるさ
  • 食欲の増進
  • 下腹部痛
  • 頭痛
  • 疲れやすい
  • うつっぽさ
  • 気分の変動
  • イライラ
  • やる気が出ない
  • 眠気
  • 仕事が手につかない
  • 怒り

(小川さんの取材を基に作成)

日記をつけることのメリットは他にもあります。「日記をつけることで認知行動療法と同じような効果が期待でき、症状が軽減することもあります。自分に起きている症状を書き出して客観的に把握することが、受け止め方や考え方を変えることにつながるのです。また、イライラしたり、怒り過ぎたりしたことの原因が、女性ホルモンの変動に起因するのだと分かったことで、自分を許すことができたという人もいます」(小川さん)。記録をつけて、行動と症状の関連を客観的に理解すること自体が治療にもなるわけです。

気持ちの変動がPMSによるものだと分かれば、生理前の時期に大事な話し合いをしない、スケジュールに余裕を持たせるなどの対処も可能に。身の回りの人に自分がPMSだと告げることで、余計なトラブルを防ぎ、コミュニケーションが改善できるよう、意識して行動することもできます。「海外では、ボーイフレンドに“I'm PMSing(今、PMSの時期)”と伝えて、相手とのトラブルを予防するなどの知恵が一般的に使われているようです」(小川さん)。

PMSによる症状は仕事に影響することもあるため、当事者以外も、PMSについて正しい知識を持つことが働きやすさを向上させることになります。「女性特有の体調不良には、月経困難症(生理痛など)だけでなく、生理前に起こるPMSがあることを知っているだけでも、職場での不要なトラブルを防ぎ、全体のコミュニケーションが円滑になり、結果として女性の離職を防ぐことにもつながっていきます」(小川さん)。

食事・睡眠 セルフケアで改善することも

では、PMSを改善するにはどのような方法があるのでしょうか。「生活習慣を見直すなどのセルフケアでも改善が期待できます。第一に喫煙者はPMSのリスクが上がります。そのため、喫煙をやめるか、たばこの量を減らすことが症状の緩和につながります。また、アルコールやカフェインなども取り過ぎると症状が悪化しやすいといわれます」(小川さん)。

次に小川さんが強調するのは、食事をきちんと取ること。「ダイエットなどで食事を抜くと、血糖値が変動しやすくなってしまいます。よくあるのは、イライラして甘い物を食べ過ぎてしまうケース。甘い物を食べると一時的に気持ちは落ち着きますが、血糖値も大きく跳ね上がり、その後に急降下。この血糖値の乱高下の影響を受けて、またイライラしてしまうという悪循環が起こりやすくなります。忙しくて朝食を抜く人も多いようですが、血糖値の上がり下がりをできるだけ抑えるためにも、食事はきちんととることがPMSの改善にもつながります」。

また、ストレスもPMSを悪化させる原因となることが分かっています。「PMSで寝付きが悪くなったり、逆に日中の眠気が強くなったりすることもありますが、できるだけリラックスできる時間を持ち、睡眠や休養をきちんと取ることも大切です。適度な運動とバランスの取れた食生活、十分な睡眠を取ることなど、どれも当たり前のことですがライフスタイルを整えることでPMSの症状は緩和されます」(小川さん)。

PMSは婦人科の受診を

ライフスタイルの改善とともに、婦人科を受診して治療することも検討してみてください。「治療では、低用量ピルを使うことでホルモンの波を抑え、PMSの改善が期待できます」と小川さん。

低用量ピルは女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの合剤で、排卵を抑制して経口避妊薬として使われる自由診療のOC(Oral contraceptives)と、月経困難症や子宮内膜症に伴う痛み改善のために使われる保険適用のLEP(Low dose estrogen progestin)の二つのタイプがあります。二つのタイプは、成分はほとんど同じですが、使用目的によって保険が使えるかどうかが変わるため、薬の呼び方が変わります。「PMSがある人は月経困難症を併発していることが多いので、月経困難症のある方は婦人科で相談すれば保険適用でLEPを処方してもらうことができると思います。ホルモン療法以外にも、症状に合わせて漢方薬を使うこともできます。また、精神症状が強い人には抗うつ剤も有効です」(小川さん)。PMSのような症状で困っているなら、本当にPMSなのか、他の病気のせいではないのかを鑑別するためにも、「症状の程度を気にせず、一度、婦人科を受診してほしいです」と小川さんは呼びかけます。

小川真里子特任教授
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター

福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学産婦人科を経て、2007年に東京歯科大学市川総合病院産婦人科助教、11年同講師、16年同准教授。24年4月より現職。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本心身医学会心身医療専門医、日本女性心身医学会認定医などの資格を持ち、PMSや更年期などの診療にあたる。

(※内容は2024年5月取材時点のものです)