6割が経験している経血漏れ。貧血対策のためにも出血量減らす治療を
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「生理のとき経血が漏れて服が汚れる」「昼間も夜用ナプキンを使っている」――。心当たりのある人は、生理のときの経血量が多過ぎる「過多月経」かもしれません。約6割の女性が経血漏れを経験しているとの生理用品メーカーの調査結果もあります。経血量が多過ぎる場合に病気の心配はないのか、どんなときに受診すべきかを、女性のヘルスケアの専門家、よしかた産婦人科院長の善方裕美さんに聞きました。
「経血が漏れる原因はいくつかありますが、婦人科を受診したほうがいいのは経血量が多く生活に支障をきたすような過多月経のときです。「1周期の月経量150ml以上」が過多月経の目安ですが、具体的にいうなら、昼でも夜用の生理用ナプキンを使っている、普通のナプキンでは心配で頻繁にトイレへ行くような人は過多月経かもしれません。次のチェックリストに一つでも当てはまる人は、婦人科を受診してほしいです」と善方さんは話します。
過多月経セルフチェック
- 昼でも夜用のナプキンを使う日が3日以上ある
- 昼用のナプキン1枚では、1時間もたない
- 経血にレバーのような大きな塊が混じっている
- 以前より経血量が増え、日数が長くなった
(善方さんの取材を基に作成)
経血量が多い人は子宮内膜症や子宮筋腫の可能性
「過多月経の原因になる主な病気には、子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫があります。また、月経量が多いと貧血にもなりやすくなります」と善方さん。経血漏れは服が汚れて困るだけではなく、病気のサインかもしれないのです。
子宮内膜症は、本来は子宮の内側にある子宮内膜が腹膜、卵巣・卵管など子宮以外にできてしまう病気です(関連記事:生活に支障が出る生理痛や過多月経は病気のサインかも。我慢せず婦人科に相談し、早く元気な毎日を取り戻して!)。同じような病気である子宮腺筋症では、子宮の筋肉の中に子宮内膜が生じます。本来の場所ではないところにできた子宮内膜も、女性ホルモンの影響で生理のたびにその場所で生理のような出血を繰り返します。一方の子宮筋腫は、子宮の筋肉にできる良性のこぶ(腫瘍)で、経血量が増える原因になります。
「この三つの病気では子宮内膜の総面積が増えるために、生理のときの出血が多くなり、レバーのような大きな血の塊が出たりします。そして、そのために貧血になりやすくなりますが、蛇口をしっかり閉めないと水漏れが防げないのと同じで、いくら鉄剤を補充しても出血量を減らさない限り貧血はよくなりません。ですから、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症の貧血に対しては、生理のときの経血量を減らすことができるホルモン治療(内分泌療法)を検討する必要があります」と善方さん。
選択肢はホルモン剤での薬物療法や外科的治療法
ホルモン治療の選択肢の一つが、子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)という方法です。これは、黄体ホルモンが子宮内に持続的に放出するように作られたT字型の器具で、これを子宮内に置くと、そこから黄体ホルモンが少しずつ放出されることで子宮内膜の増殖が抑えられ、結果的に経血量が減るので生理痛も緩和します。一度挿入すれば最長5年間は効果が持続するとされています。妊娠しているのと似たような状態になるので偽妊娠療法とも呼ばれ、避妊効果もあります。
「IUSはほとんど副作用がないので、T字型の器具が挿入できそうな人はこの治療がお勧めです。ただ、出産経験がない人は挿入できないことがあるのと、近いうちに妊娠を希望している人には不向きです。そういう人には、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP剤)か、プロゲスチン単独の製剤を使って、生理のときの出血量を少なくします。子宮に病気があって出血量が非常に多いときには、GnRHアナログかGnRHアンタゴニストという別のホルモン薬を使って、一時的に生理を止める偽閉経療法を行うこともあります」と善方さんは説明します。
LEP剤は、いわゆる低用量ピルとも呼ばれる避妊薬と同じ成分です。脳下垂体に作用することで脳が妊娠していると勘違いするので、卵胞の発育と子宮内膜の増殖が抑えられ、生理のときの出血量や痛みが軽減します。プロゲスチン製剤は、主に子宮内膜症や子宮腺筋症の治療に使われる薬で、子宮内膜の増殖を抑える作用があります。
一方、GnRHアナログ・アンタゴニスト製剤は、子宮に病気があるときに使われる薬です。GnRHアナログ製剤には点鼻薬と注射薬があり、GnRHアンタゴニスト製剤は内服薬です。どちらも女性ホルモンの分泌を抑えて生理と排卵を止めるので、一時的に閉経状態になります。
ただしLEP剤は、吐き気や頭痛、血栓症、プロゲスチン製剤は不正出血などの副作用が出ることがあります。GnRHアナログ・アンタゴニスト製剤では、ほてりやのぼせなど更年期障害のような症状が出ることがあります。一時的にでも閉経状態になると骨粗しょう症になる恐れがあるので、GnRHアナログ・アンタゴニスト製剤の使用は原則として6カ月間までとされています。
「子宮内膜症や子宮腺筋症に対しては、腫れているところを取り除いたり、子宮内膜を焼いて固まらせることで出血を止めたりする治療法もあります。子宮筋腫でも場合によっては筋腫のみ、あるいは子宮を摘出する手術が選択肢になります。子宮に病気がない場合でも、生理の出血量は減らせます。貧血を防ぐためにも、出血の多さに悩む人はできるだけ早く婦人科医に相談してほしいです」と善方さん。
長時間会議には休憩を、トイレに行きやすい雰囲気づくりも
一方で、経血量がそれほど多くない人でも、ナプキンがずれたり、仕事が忙しくてナプキンを換えられなかったりして、経血漏れが生じている場合もあるでしょう。
「量は多くないのに経血漏れが気になる人は、ナプキンではなく、タンポンや月経カップ、ナプキン不要のサニタリーショーツなどを試してみてはどうでしょう。女性特有の健康課題についてテクノロジーでの解決をめざすフェムテックで新たなグッズも出てきています。自分に合った生理用グッズを見つけて、生理の時期を少しでも快適に乗り切ってほしいと思います」と善方さんはアドバイスします。
職種にもよりますが、経血漏れに悩む女性がいる職場は、トイレに行きにくかったり会議が長かったりする可能性があります。
「性別に関係なく体調が悪いときはあります。管理職の方々には、誰もが仕事中でもトイレに行きやすいようにし、2時間以上の会議では休憩を取るなどの配慮をお願いします」と善方さんは強調します。
横浜市立大学産婦人科客員准教授
高知医科大学卒業。横浜市立大学産婦人科勤務、医療法人よしかた産婦人科副院長などを経て、2020年より現職。横浜市立大学附属市民総合医療センター婦人科ヘルスケア外来を担当。専門は骨粗しょう症、更年期医療。横浜市立大学産婦人科客員准教授として若手医師の育成に従事する一方、年間約700人の赤ちゃんが生まれる、よしかた産婦人科の院長を務め、産後ケアの充実にも取り組む。3人の娘と大好きな音楽ライブに参戦することが一番の楽しみ。
(※内容は2024年9月取材時点のものです)