専門家コラム Column

更年期以降のデリケートゾーンのヒリつきや違和感は「GSM」
生産性低下やうつも招くが、一日たった数分のケア習慣で改善!

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関口由紀さん写真

「下着がこすれて痛くて仕事に集中できない」「トイレが近くて会議が憂うつ」——更年期以降に増えるデリケートゾーンのトラブル。これは、女性ホルモンの低下が原因であることが多いのですが、1人で悩みを抱えがち。放っておくと仕事の効率ダウンやメンタルへの悪影響も。実はこれらの症状の多くは、毎日のちょっとしたケアで改善に向かうと話すのは、女性泌尿器科医で女性医療クリニックLUNAグループ理事長の関口由紀さん。昨今「GSM(Genitourinary syndrome of menopause:ジー・エス・エム=閉経関連泌尿生殖器症候群)」として静かに注目されている女性特有の困りごとの対処法や治療法を聞きました。

閉経後女性の2人に1人がGSM
女性ホルモンの減少で、フェムゾーンの皮膚・粘膜・皮下組織が弱って起こる

女性は閉経を迎えると、女性ホルモンの減少によるさまざまな不調が起こりやすくなります。フェムゾーン(腟と外陰部)のかゆみやヒリつきなどの違和感もその一つです。女性ホルモンには腟の粘膜や皮膚を潤し保護する働きがあるので、分泌が減ると乾燥し、萎縮しやすくなるからです。それにより性交痛が起こることもあります。

また、尿道の締まりや細菌に対する防御機能にも関係しているため、閉経後は頻尿や尿もれ、膀胱(ぼうこう)炎のリスクも高まります。女性の生活の質を著しく下げるこうした症状は、海外の研究によれば45歳以上の女性の2人に1人という高率で起こるとされています。

「しかし、こうした症状は長らく放置されており、閉経関連泌尿生殖器症候群、略してGSMと呼ばれて世界的に問題視されるようになったのが2014年から。以降、積極的にケアや診療を行うべきとの啓発が進められるようになりました」と関口さんは話します。

GSMの三大症状は①外陰部の萎縮によるかゆみなどの不快感、②再発性膀胱炎・頻尿・尿漏れ等の尿トラブル、③性交痛や性交後出血です。①のかゆみは、世界的に1番頻度の高い症状ですが、海外では③のセックスのトラブルが2番です。日本では②の尿路系のトラブルが2番で、③のセックスのトラブルは3番です。

まずは、ご自身のフェムゾーンの状態をチェックしてみてください。セルフケアの方法は後述しますが、不快感の程度によっては女性泌尿器科や婦人科を受診するほうがいい場合もあります。

関口式オリジナルGSMチェック表

GSMの三大症状はフェムゾーン(腟と外陰部)の萎縮によるかゆみなどの不快感、尿トラブル、性交痛。下表の合計点が大きいほど日常生活に支障が出やすいといえる。

ほとんどない ややある かなりある 常にある
腟萎縮 外陰・腟に違和感がある
(かゆい・痛い・ムズムズ・ヒリヒリする)
1 2 3 4
外陰・腟に炎症がある
(赤くなっている・ただれている)
1 2 3 4
外陰・腟が乾燥していると感じる 1
する
2
少しする
3
ときどきする
4
常にする
外陰・腟から不快な臭いがする 1
ない
2
週1回以下
3
週2回~数回
4
常にある
尿漏れ 尿漏れの頻度 1
ほとんどない
2
ややある
3
かなりある
4
常にある
尿漏れの量 1
ない
2
パッドは必要ない
3
パッドが必要
4
大きなパッドが必要
咳やくしゃみで尿が漏れる 1 2 3 4
尿の回数が多い(自分の印象でよい) 1 2 3 4
急に尿意を感じることがある 1 2 3 4
膀胱炎を繰り返している 1 2 3 4
性交(※) 性交時に不快感がある 1 2 3 4
性交時にうるおい不足がある 1 2 3 4
性交時に痛みがある 1 2 3 4
性交時に出血する 1 2 3 4
性交痛のためセックスしたくない 1 2 3 4
  • 性交とは、腟性交だけではなく、愛撫、前戯、マスターベーションなども含む
  • ■合計点数20点未満
    今のところ安心。だけどGSMになる可能性がないわけではないので、日々のケアを始めましょう。
  • ■20点~40点未満
    中等度以上のGSMの可能性があります。3カ月以上セルフケアをしても症状が改善しない場合は、医療機関を受診しましょう。
  • ■40点以上
    重度のGSMの可能性があります。急いで医療機関を受診してください。

(外陰腟症状質問票(VSQ)、腟健康指数(VHI)、女性性機能質問紙(FSFI)、国際尿失禁会議症状質問票(ICIQ-SF)を参考に関口さんが作成)

なお、閉経前の年齢であっても強いストレスを受けるなどでホルモンバランスが乱れると、GSMに似た症状が表れることがあります。また、授乳中や低用量ピルを長年服用している場合などもホルモンバランスが乱れやすくなる人がいて、同様の症状が出ることがあります。

もちろん、かゆみや違和感の原因がすべてホルモンのせいとは限らず、下着やナプキンの刺激、蒸れ、感染症などが関係していることもあります。しかし、いずれにしても「月経のあるなしに関わらず、フェムゾーンの不調にもっと注意を払って、積極的にケアをすべきです」と関口さんは全年代の女性に注意を促します。「排せつや歩くこと、性生活にもかかわるフェムゾーンの不調の解消は、健康寿命を延ばすことにも関係すると思っています」(関口さん)。

なお、デリケート=「繊細」と呼び、触れてはいけないものと捉えるのは日本の古い価値観、と関口さん。「デリケートゾーンという用語は、日本人が作った造語にすぎません。この考え方が浸透しているせいで、自分の体の大切な部分なのに、直接見たことがない、という女性がとても多いことが残念です。デリケートゾーンではなく、女性を表すフェムをつけた“フェムゾーン”として、もっと積極的に自分の体に向き合ってほしい」と話します。

入浴後の保湿と簡単な体操がオススメ
2週間続ければ、変わってくる

GSMのケアには、大きく分けて「フェムゾーンの保湿」と「骨盤底の強化」の二つがあります。フェムゾーンの乾燥を防ぎ、皮膚や粘膜を保護することで、かゆみや違和感といった不快な症状を和らげることができます。

また、頻尿や尿漏れの改善には、恥骨から尾骨にわたるハンモック状の骨盤底(図)の筋肉や組織を強化する簡単な体操を行うことで、頻尿や尿漏れの改善にもつながります。

「骨盤底トレーニングのポイントと骨盤底」というタイトルの下に、女性の骨盤断面図が描かれており、子宮、膀胱、直腸などの内部臓器と、それらを支える骨盤底の解剖学的構造、および尿道口・腟口・肛門の三つの開口部の位置関係が詳細に示されたイラストが描かれている
骨盤底は、膀胱や直腸、子宮などの骨盤内の臓器を下から支える部分で、筋肉(骨盤底筋群)やじん帯、筋膜、皮下組織などから成る

保湿は難しく考えず「普段体に使っているローションなどを、フェムゾーンにも塗ればOK。フェムゾーンの表面や内側の皮膚・粘膜と、腟は人さし指の第二関節が入るくらいまでの範囲に」(関口さん)。皮膚が敏感な人は、弱酸性やムース状などの低刺激タイプや、フェムゾーン(デリケートゾーン)専用の保湿剤を選ぶと安心です。専用の保湿剤は有効成分にこだわっているものも多く、より高い保湿効果を求める人にも向いています。

もちろん、清潔を保つことは大前提。「顔と同じつもりで、フェムゾーンの状態も気にかけケアしてほしいです」(関口さん)。欧米では「女性の第二の顔」と呼ばれるほど、フェムゾーンはきちんとケアすべき場所との認識が広まってきているそうです。

保湿ケアの最適なタイミングはお風呂あがり。清潔な状態でケアできるのと、下着をはく前のルーティンとして習慣にすれば、続けやすくなるからです。「保湿剤は、まずクリトリス・尿道口・腟に塗ります。腟は、指の第二関節程度までの範囲(腟前庭)を目安に、やさしく保湿剤を届けましょう(上の図の腟口から指を入れ、指が届く範囲に塗り広げる)。このとき、指を入れた状態で腟をぎゅっと締め、入れた指をおなかの奥に引きこむようにする動作を2~3回繰り返すことで、骨盤底の強化も同時に行えます。さらにフェムゾーンの表面全体とひだ状になっている内側にも塗り広げ、さらにその外側(外陰唇)と肛門まで塗り広げます」(関口さん)。

GSM対策セルフケアのポイント

  • 清潔な状態で行う(お風呂あがりが最適)
  • 日常使っている保湿剤をフェムゾーンの表面・内側に塗り広げる
  • 腟は指の第二関節程度まで(腟前庭)の範囲に(その奥まで塗っても問題は無い)
  • 腟に指を入れた状態で腟をぎゅっと締め、おなかの奥の方に向かって、指を引き込む(引き上げる)ような動きの体操(トレーニング)も2~3回繰り返す

このやり方なら二つのケアを一連の流れでできて、かかる時間も数分程度。2週間から1カ月程度続ければ、多くの人が、症状の改善や手ごたえを実感し始めると関口さんは話します。

尿漏れや頻尿などの尿関連の悩みが強い場合は、さらにこの骨盤底トレーニングの機会を日常生活の中で増やしてみるのもお勧めです。

「①おなかやお尻を動かさず肛門を締める、②腟口と尿道口を締める、③指を入れて奥の方に引き上げた時の感覚で、肛門、尿道口、腟口(骨盤底筋群全体)を筋肉の力だけでおなかの奥の方に引き上げる運動(入浴時に指を入れてやったときのような動きを指なしで行う)を、通勤電車で座っているときなどのルーティンにしてみては」と関口さん。

1:締める(持ち上げる)ときは息を吐きながら3、4秒かけてゆっくりと。
2:最高に締まった(持ち上がった)ところで4、5秒キープ。可能なら10秒を目指す。
3:息を吸いながらゆっくり筋肉を緩める。
これを2、3回繰り返します。

骨盤底トレーニングは、「正しくできていれば効果は確実に表れる方法」ですが、問題は正しく行えているか、自分で確認しにくい点。うまくできているか心配なときは、正しいトレーニングの動きに導くためのフェムケアグッズを使ってみるのもいいでしょう。腟トレボール、インナーボールなどと呼ばれているものがあります。

日常生活のルーティンにしたい骨盤底トレーニングのやりかた

部位

  • ①おなかやお尻を動かさず、肛門を締める
  • ②おなかやお尻を動かさず尿道口、腟口を締める
  • ③おなかやお尻を動かさず肛門、尿道口、腟口を、おなかの奥のほうに向かって引き上げる

回数やポイント

  • ①締める(引き上げる)ときは息を吐きながら、4、5秒かけてゆっくりと
  • ②最高に締まった(持ち上がった)ところで4、5秒キープ。可能なら10秒を目指す
  • ③息を吸いながらゆっくり筋肉を緩める
  • ④これを2、3回繰り返す
骨盤底トレーニングができるグッズが多数登場」というタイトルの下に、ピンクや紫色を基調とした様々な形状と大きさの骨盤底トレーニング器具のイラストが描かれている
『セックスにさよならは言わないで 悩みをなくす腟ケアの手引き』関口由紀著を参考に作図

症状の改善がみられたとしても30%未満程度だったら、「気軽に医療機関を受診してほしいです」と関口さん。

受診する診療科は婦人科や女性外来、女性泌尿器科など。「重症の腹圧性尿失禁・過活動膀胱・骨盤臓器脱などの骨盤底障害などには、手術療法があります。再発性膀胱炎や性交痛などのGSMには、女性ホルモンの局所投与がとても効果的です。さらにごく一部ですが、硬化性苔癬(こうかせいたいせん)や外陰前庭痛症候群といった病気が隠れていることがあり、これらは内服治療と局所治療の組み合わせが必要になります。

「セルフケアだけでは十分な改善が得られないほど症状が強いケースや、もっと満足感をアップしたい場合などは、フェムゾーンだけに局所投与するホルモン補充療法やレーザーで腟の粘膜を若返らせる治療などの医療的なアプローチをクリニックでは行っています」(関口さん)。

また骨盤底トレーニングの体操が正しくできているか、専門家に確認してもらうための骨盤底リハビリテーション外来を設けている医療機関もあります。

セルフケアで症状が改善しない人は――

受診先
女性泌尿器科、婦人科、女性外来
治療法
  • 局所的ホルモン補充療法…フェムゾーン(腟と外陰部)だけに作用する女性ホルモン剤の局所投与
  • 腟のレーザー治療などのエネルギーデバイス治療…腟粘膜にレーザー光やハイフ(HIFU)、超音波等を当て、若い粘膜の再生を促す

職場でも男女で知識の共有研修を
女性の人生の質を高めるGSMケア

GSMに適切な対策を講じ、症状が改善されれば、不快感やわずらわしさがやわらぎ、仕事により集中できるようになります。その結果、生産性が向上して業務成果も出やすくなります。もちろんプライベートでも、日々快適に過ごせるようになるでしょう。GSMを知り適切にケアすることは、女性が元気に人生を楽しみ、充実させる「一生モノのルーティン」といっても過言ではありません。

職場ですぐにできることもあります。「40代以降の女性特有の不調は、ホットフラッシュやイライラなどのいわゆる更年期症状だけではないこと。GSMという悩みを多くの女性が抱えていて、それは珍しいことではないこと。フェムゾーンを意識してケアすることで症状が改善することなどを、女性だけではなく男性や管理職にも研修などを通じて伝え、職場の共有知識にしてほしい」と関口さん。「男性も女性がホルモンのせいでそのような症状を抱えやすいこと、治療で改善することを知っておく必要がありますし、全員の共通理解になれば組織全体の業績向上や、雰囲気の良い職場づくりにもつながっていくはず」と話します。

さらに、人生100年と言われる今の時代、“元気で長生き”のカギもフェムゾーンが握る、と関口さん。「高齢になってからの排泄トラブルは要介護に直結しかねません。更年期前からのフェムゾーンの保湿ケアと骨盤底トレーニングは有効な予防策になります」(関口さん)。GSMケアは将来の自分からもきっと感謝される、実りの大きい自己投資でもあるといえるでしょう。

関口由紀さん
女性泌尿器科専門医
女性医療クリニックLUNAグループ(横浜市中区)理事長
横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学講座客員教授

人生100年時代における女性の骨盤底・血管・骨・筋肉の総合的かつ生涯にわたる維持管理を提唱し、閉経前、閉経後それぞれの女性を対象としたクリニックを主宰。近年は女性のためのインターネットサイト・フェムゾーンラボを立ち上げ、GSMをはじめとした女性の健康向上の啓発に力を入れている。

(※内容は2025年6月取材時点のものです)