男性の更年期はいつから始まる? 年齢・症状・効果的な対策を専門医が解説
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「更年期は女性特有のもの」と思われてきましたが、実は男性にも同じような心身の不調が現れることがあります。40歳を過ぎると、加齢やストレスなどを背景に、疲れやすさ、集中力の低下、気分の落ち込み、性欲の減退など、さまざまな症状が生じる場合があります。こうした“男性更年期”は仕事や家庭生活にも影響を及ぼすことがあり、生活に支障が出るケースでは放置は禁物です。今回は、男性更年期障害(LOH[Late Onset Hypogonadism]症候群=加齢男性・性腺機能低下症)の特徴や原因、治療法、そして日常でできる予防・改善のポイントについて、千葉大学大学院医学研究院泌尿器科の田村貴明さんに詳しく伺いました。
40~70代の約半数の男性が更年期症状の自覚あり
男性更年期(症状)は、40〜50代以降の男性に見られる心身の不調を指す言葉で、男性ホルモンの一種「テストステロン」の減少が関係していると考えられています。症状の現れ方は人それぞれですが、代表的なものとして以下のような例が挙げられます。
- 気分の落ち込み、意欲の低下、焦りや不安感などの精神的な不調
- 疲労感、眠りの浅さ、ほてりや発汗といった身体的な症状
- 性欲の減退、勃起不全などの性機能の低下
厚生労働省の調査(※1)によると、医療機関で「男性更年期」(加齢男性・性腺機能低下症=LOH症候群)と診断されたことがある40〜60代男性は約1%とされていますが、自覚症状がある、または周囲から指摘された人まで含めると10%を超えることが分かっています。
一方で女性の更年期では、40代で27.9%、50代で43.6%が症状を自覚しており、発症の割合は男性よりもずいぶん高い傾向にあります(※1)。
しかし、NTTデータ経営研究所の調査(※2)では、40〜70代男性の約半数が何らかの更年期症状を感じているという結果も出ています。特に働き盛りの世代では、以下のような仕事面での影響も報告されています。
- 集中力の低下により、ミスが増える
- 長時間の作業や残業がつらくなる
- 人との関わりを避けるようになる
このように、男性更年期の症状は「年のせい」で済ませられない重大な健康障害になることがあります。自分の体や心の変化に早めに気づき、必要に応じて医療機関に相談することが大切です。
- ※1厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」基本集計結果(2022年7月26日)
- ※2NTTデータ経営研究所「働く男女の更年期症状に関する意識調査」(2023年)
公のデータはないものの、女性の更年期症状ではホットフラッシュに代表される身体症状の訴えが多い傾向にあるのに対し、男性はどちらかといえば精神症状が目立つ印象だと田村さんは話します。「働く男性を対象にした調査でもっとも多い訴えは『集中力の低下』。そして『仕事のミスが増えた』『長時間のがんばりがきかなくなった』が続きます」
男性更年期の症状の例
- 精神・身体症状
- 不眠/疲労感/くよくよする/不安感/集中力や記憶力の低下
- 身体症状
- 動悸(どうき)/顔のほてり/発汗/頭痛/めまい/耳鳴り/筋量・筋力の低下/肩こり/腰痛/関節痛/手足のこわばりやしびれ
- 性機能症状
- 性的欲求の減退/早朝勃起の減少
男性更年期の症状はいつからみられる? 強いストレスによる“ホルモンの落差”が要因に
男性更年期の症状発症には、男性ホルモン「テストステロン」の減少が深く関係しています。テストステロンは誰でも加齢とともに少しずつ減っていきます。ただ、40歳を過ぎると職場での責任が重くなったり、家庭で介護や子育てなどの問題を抱えたりと、ストレスが急に増える人も出てきます。こうした強いストレスを受けることで、ホルモンの低下がなだらかではなく、急激に落ち込む「ホルモンの落差」が生じる場合があります。
この“落差”が大きい人ほど、男性更年期の症状が強く出やすいと考えられています。
- 仕事や家庭で強いストレスを感じている
- 睡眠不足や生活リズムの乱れが続いている
- プレッシャーが大きい立場にある
こうした環境要因が重なると、ホルモンバランスが乱れ、体調やメンタルに影響が出やすくなります。
一方、女性は閉経により誰にでもホルモンの急激な低下が起こりますが、男性にはそのような明確な時期はありません。
「男性更年期」は全員に起こるわけではなく、ストレスや生活習慣などの外的要因によって症状の起こり方が左右されるといえます。
田村さんは次のように話します。
「男性の更年期症状は、加齢だけではなく“環境ストレスの影響”が非常に大きいのです。日頃から心身のコンディションを整える意識が、症状の予防にもつながります」
ホルモンの低下のイメージ図
「男性更年期(障害)」という言葉は、中高年男性に見られる、ホルモン低下による身体的・精神的不調を広く含む一般的な呼称です。
医学的には血液検査でテストステロン(男性ホルモン)の値が一定の基準値よりも低いことが確認され、かつ精神的・身体的な症状がみられる場合に「LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)」と呼びます。
しかし、強い不調を感じても「年齢のせい」「気の持ちよう」と捉え、受診をためらう人が多いのも現状です。
田村さんは次のように指摘します。
「男性の更年期症状は、ホルモンが緩やかに低下していく過程で中高年を過ぎ、老年期になっても起こる可能性があります。女性のように“閉経”という明確な節目がないため、自分の体調変化をホルモンの低下と結びつけにくいのです」
「いつもと違う疲れ」「仕事への集中力低下」「気分の波」など、日常の小さなサインを見逃さないことが、早期の対策につながります。
男性更年期チェック
男性更年期が疑われる主な自覚・他覚症状。仕事や日常生活に支障をきたす項目が多いほど男性更年期症状の可能性が高いと考えられます。
本人が気にすべきこと
- 体調がすぐれず、気持ちが上がらない。集中力が保てない
- 尿が出にくい、あるいは頻尿ぎみ
- 寝つきが悪い、睡眠が浅いと感じる、寝汗をかく
- 最近、ひげの伸びが悪くなった
- 最近、朝立ちがない
- 筋力、握力の低下を感じる
周囲の人が気にすべきこと
- ちょっとしたことですぐ怒るようになった
- 表情に乏しく、笑わなくなった
- ぼーっとしていて、ミスが目立つようになった
- 好きな趣味やスポーツに興味を示さなくなった
- 急に付き合いが悪くなった
- おなか周りのポッコリが目立ち、全体的に太って見える
(田村さん作成)
ここで、男性ホルモンであるテストステロンの役割について少し触れておきましょう。
テストステロンは主に精巣でつくられ、骨格や筋肉、体毛など「男性らしい体」を形成し、性機能に関わるだけではなく、外向きな行動活性をつかさどる重要なホルモンです。近年の研究で、テストステロンが全身の健康維持に深く関わっていることが明らかになってきました。
特に、中高年以降にテストステロンが不足すると、メタボリック症候群を引き起こし、ひいては心血管・脳血管疾患の発症リスクが高まるほか、筋力や認知機能の低下などにも影響し得ることが分かってきました。社会課題である心血管や脳血管の疾患、フレイルや認知症といった疾患とテストステロンの低下が関わることが明らかになってきたことで、単なる加齢現象ではなく、男性の健康全体に関わる社会的な課題として注目されるようになっているのです。
関連動画:【○×でわかる、学べる!③】皆で知っておきたい「男女の更年期」
テストステロン補充療法が男性更年期の治療の柱。症状の管理に精通した医療機関選びを
男性更年期の診療では、まず血液検査でテストステロン値を測定し、ホルモンの低下度合いや症状の種類、生活への影響を総合的に評価します。
田村さんは次のように説明します。
「ホルモン値だけではなく、これまでの病歴や心身の状態などを踏まえて診断を行います。テストステロンの数値が基準値に近くても、症状の程度や生活への支障を考慮して“男性更年期障害”と判断されることもあります」
評価には、精神面・身体面・性機能に関する自覚症状を点数化する「AMS(Aging Males’ Symptoms)スコア」という質問票が用いられます。
男性更年期障害の治療の中心となるのが、不足したテストステロンを外から補う「テストステロン補充療法」です。
「テストステロン補充療法」は保険診療の範囲内では注射剤(筋肉注射)で行われ、2週間〜1、2カ月に1回程度の頻度で投与します。投与後1〜2日で血中ホルモン濃度が上昇し、2週間ほどかけて緩やかに元の値に戻ります。テストステロン補充療法は、即効性を体感する人が多く、気力や集中力の改善を実感しやすいのが特徴です。
ただし、副作用には注意が必要です。
- 赤血球の増加による血液の粘度上昇(血液がドロドロになる)
- 前立腺肥大の進行
- 肝機能の変化
- 精巣の萎縮や精子の減少(長期間の投与の場合)
そのため、定期的な血液検査や前立腺のチェックを行いながら、投与量や頻度を慎重に調整する必要があります。
また、妊活中の男性では、長期間のテストステロン補充により精巣の萎縮や精子の減少が起こる可能性があるため、使用は推奨されません。
さらに、症状がうつ病など他の病気によるものと疑われる場合は、心療内科や精神科など適切な診療科への連携が求められます。
田村さんは次のように注意を呼びかけます。
「男性ホルモン治療に詳しい医師のもとで、正確な診断と安全な管理のもとに治療を受けてください。自由診療で頻繁な投与を勧める医療機関や、海外製剤を個人輸入して使うことにはリスクがあります」
医療機関を探す際は、「日本メンズヘルス医学会」認定のテストステロン治療認定医を目安にするのがおすすめです。同学会の公式サイト(テストステロン治療認定医について | 日本メンズヘルス医学会)では、全国の認定医名簿を確認できます。
テストステロン補充療法
- 注射剤(筋肉注射):保険適用。2週間~1、2カ月に1回投与。治療費の目安は3割負担で数千円/回(診察・検査代等含)
- 塗布剤、内服薬:保険適用外(自由診療)。治療費は医療機関によって異なり数万円かかる場合も
男性更年期障害のテストステロン補充療法には、健康保険が使える場合と全額自費(自由診療)になる場合がある。保険が適用されるのは、血液検査でテストステロンの値が一定の基準値より低いなどで「加齢男性・性腺機能低下症(LOH症候群)」と診断されたときであり、使用可能な製剤は注射剤に限られる。一方、診断基準を満たさなくても「疲れや意欲・集中力低下の改善や向上」を希望する場合や塗布製剤や内服製剤での治療を希望する場合は、自費診療を実施する医療機関で、全額自費での治療になる。
男性更年期症状の改善・予防に有用な「食事・運動・睡眠」のポイント
テストステロン補充療法のほかには、症状緩和を主な目的に、漢方薬が処方されることもありますが、「大前提として生活習慣の見直しは必須」と田村さん。食事、運動、睡眠が3本柱で、男性更年期症状の改善だけではなく予防にも重要と話します。
食事は特にビタミンDとミネラルを意識したいもの。「ビタミンDはホルモン合成に重要な働きがありますが日本人の約7割は不足しているといわれています。青魚やキノコ、ナッツに多く含まれており、日光を浴びることで、体内で活性化します。ミネラルは海藻や海塩に多い。中でも亜鉛はテストステロンの合成に重要なので意識して。貝やレバーなどに多く含まれます」
運動面では、特に筋トレがテストステロンの分泌促進に効果的とされており、「大きい筋肉を動かすスクワットや腕立て伏せが特におすすめです。ひどい筋肉痛になるほど行う必要はなく、1日10回×朝昼晩の3セットでいいので、毎日続けることが重要です」
また、ホルモン分泌をよくするには生活リズムを整えることが大事です。「中でも、質の良い睡眠は絶対条件」と田村さん。「夜、良い睡眠のために何をするかよりも、朝の行動が大事です。毎朝できるだけ同じ時間に起きて太陽の光を浴びることで体内時計が整います。そのことによって、夜に自然な眠気をもたらすメラトニンというホルモンの分泌が促され、質の良い睡眠が得られるようになります。ですから、朝が重要で、決まった時間に起きて太陽の光を浴びることを意識してほしいと思います」
改善や予防には、これらの食事・運動・睡眠といった生活習慣を整えることが大前提ですが、もう一つ大切なのが、「社会とのつながり」を持つことだと田村さんは話します。
「人との関わりやつながりはとても重要です。誰かの役に立ったり、『ありがとう』と言われたりすることで、ホルモンの分泌が高まると考えています。仕事の場でも、オフの時間でも、積極的に人とコミュニケーションを取ることが大切なのです。また、趣味や地域活動など、自分が楽しめることを通してコミュニティーの中に身を置くような生活をしていると、更年期症状の改善にも予防にもつながります」
男性更年期症状のセルフケアのポイント
- 食事
-
- ビタミンD(青魚、キノコ、ナッツなど)
適度に日光を浴びることで、体内で「活性化ビタミンD」となりホルモン分泌を促す - ミネラル全般(海藻類や海塩)、特に亜鉛(貝、レバーなど)
- ビタミンD(青魚、キノコ、ナッツなど)
- 運動
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- 筋トレ
大きな筋肉に負荷をかける……スクワットや腕立て伏せなど。10回を1セットとして1日3セットを目安に。 - ウオーキングなどの有酸素運動も行うと、さらに良い……最低でも週に2、3回は行うのがおすすめ。
- 筋トレ
- 睡眠
-
- 朝、できるだけ決まった時間に起きて、朝日を浴びる
近年では、「男性更年期」をテーマにした講演会やオンラインセミナーなどを開催し、社内での啓発活動に取り組む企業が増えています。田村さんは企業で取り組むべきこととして、「まずは、正しい情報を職場で共有することが重要です」と話します。
かつては、気力の低下や疲労感といった男性更年期の症状があっても、自覚できずに不調を抱え込んでしまうケースが多く見られました。しかし、女性の健康支援が職場で進む中で、男性の更年期症状も健康経営の観点から無視できない課題として認識され始めています。
個人としても企業としても、男性更年期の背景にあるホルモン変化やストレスの影響を正しく理解し、生活習慣の改善といった予防策の重要性を共有することが大切です。そして、「体調の不安を気軽に相談できる窓口を作ることも有用です」。
必要に応じて医療機関の受診を勧め、産業医とも協力しながら適切なサポートを受けられる環境づくりを進めることが、働く世代の健康維持に欠かせない取り組みといえるでしょう。
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千葉大学医学部卒業。泌尿器科専門医。医学博士。ロボット(da Vinci)手術認定医、テストステロン治療認定医。日本泌尿器科学会、日本癌学会、日本メンズヘルス医学会など多数の学会に所属。千葉や神奈川の地域中核病院で主にがん診療に従事した後、現在は大学でがんの転移メカニズムや早期診断の基礎研究に取り組む一方、男性更年期の診療や啓発活動にも力を入れている。
(※内容は2025年11月取材時点のものです)