専門家コラム Column

女性に多い片頭痛。あなたの対処法は本当に正しい?

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五十嵐久佳さん写真

頭が痛くて仕事が手につかなくても、「頭が痛いのはいつものこと」などと、とりあえず市販薬を飲んで我慢していませんか。片頭痛を放置すると、痛みが慢性化して治りにくくなったり、市販の痛み止めを使い過ぎて薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)になったりすることがあり、注意が必要です。多くの女性が悩む片頭痛ですが、実は適切な治療を受けていない人が7~8割もいるといわれます。そこで、最新の正しい対処法について、頭痛専門医で、総合電機メーカーの富士通が運営する富士通クリニックなどで頭痛外来を担当している北里大学医学部脳神経内科学客員教授の五十嵐久佳さんに聞きました。

片頭痛によるパフォーマンス低下で年間3,600億から2兆3,000億円の経済損失

片頭痛は、頭の片側か両側がズキズキと脈打ち、動くと痛みが強くなるタイプの頭痛が4~72時間続く病気です。吐き気やおう吐を伴ったり、症状が出ているときは、通常は気にならない光や音、においを不快に感じたりすることもあります。頭痛が始まる前に、キラキラしたものが見えたり視野が半分欠けたりするなどの“前兆”がある人が1~3割います。
「病名から頭の片側だけ痛くなるのが片頭痛だと考える人もいるかもしれませんが、実は、4割の人は両側に痛みを感じています」と五十嵐さん。

日本では15歳以上の男女の8.4%、30代の女性では5人に1人、40代女性でも5.5人に1人が片頭痛と推計されています。しかし7~8割の人が適切な治療を受けていません(※1)。仕事や生活に支障をきたしたまま我慢して暮らしている人が多いと考えられます。
「頭痛による従業員の休業やパフォーマンス低下によって、富士通グループだけでも年間26億円、片頭痛に限っても国内全体では年間3,600億~2兆3,000億円もの経済的な損失が発生していると推計されています(※2)。近年、片頭痛の治療法は進化しており、適切な対処法や薬の使用で、頭痛発作が起こらなくなる人もいます。それなのに、7割以上の人が適切な治療を受けておらず、周囲の人や企業、あるいは本人さえも、片頭痛による支障を軽視していることが多いのは非常に残念です」と五十嵐さんは話します。

痛みで仕事や家事に支障が出るだけでなく、片頭痛の放置によって、発作が来る不安を抱えたり、人との約束を避けてしまったりするなどの心理的なストレスも増えてしまいます。

  • ※1日本頭痛学会 頭痛の診療ガイドライン2021
  • ※2Shimizu et al: J Headache and Pain 2021.22(1),29

生理前~生理中の女性ホルモンの急激な低下が片頭痛発作を引き起こすことも

女性の中には、生理の前や生理中に頭が痛くなる人も少なくありません。五十嵐さんが、以前、20~40代の女性を対象に実施したウェブ調査では、回答した2476人のうち27%は、生理が始まる数日前から生理中に頭痛を感じていました。そのうち65%は、片頭痛の疑いのある症状がありましたが、生理に伴う頭痛がある人の78%はその頭痛を「生理痛の一部」と考えていました(※3)

「生理痛とは子宮が経血を排出するために収縮する際に下腹部や腰に生じる痛みであり、頭痛は生理痛の一部ではなく、生理の時に頭痛が生じるということです。動くと悪化したり、吐き気や光・音過敏を伴ったりするようなら片頭痛の可能性が高いです。実は、片頭痛と女性ホルモンのエストロゲンとの間には密接な関係があります。片頭痛が20~40代の女性に多いのは女性ホルモンの影響を受けている人が多いからだと考えられます」と五十嵐さん。

エストロゲンの濃度は、排卵期をピークに下がり、生理中は最も低くなります。片頭痛の起こるメカニズムは解明されていませんが、エストロゲンの急激な低下により、脳の三叉神経が刺激され、炎症を起こす神経伝達物質が放出されて血管を広げ、炎症とともに片頭痛を引き起こすという説が有力なのです。

片頭痛発作が、生理周期・ホルモン変動と関連していることを示すグラフ。横軸は生理第1日を0とした日数(-20日~+20日)、左縦軸は発作回数(0~12回)、右縦軸はホルモン分泌量を示す。棒グラフ(ピンク)は片頭痛の発作回数を表し、排卵日ごろと生理前から生理中に発作が多く見られる。折れ線グラフはエストロゲン(赤)とプロゲステロン(青)の分泌量の変動を示しており、エストロゲンは排卵日前後に急上昇した後に急低下し、生理前にも一時上昇後に低下する。プロゲステロンは生理前に上昇した後に低下する。片頭痛の発作は、ホルモン変動と重なる傾向がある。出典:五十嵐久桂:診断と治療 2002,90(6):877-882より改変。
22人の頭痛ダイアリーをもとに発作の回数とホルモンの分泌量の変動を重ねてみた。
エストロゲンが急に減る排卵日ごろと生理前から生理中に発作が多いことがうかがえる。(五十嵐さんの資料より)
  • ※3五十嵐久佳,新薬と臨床 2009;58,27-36

月2回以上の頭痛、生活に支障が出ているなら頭痛専門医がいる医療機関の受診を

ときどきでも頭痛がある人は、まず、片頭痛の可能性があるかどうか確認してみましょう。過去3カ月間に起こった頭痛について、次の4つの質問に答えてみてください。

片頭痛のスクリーニング

1)歩行や階段の昇降など、日常的な動作によって頭痛がひどくなることや、あるいは動くよりじっとしているほうが楽だったことはどれくらいありましたか?

  • なかった
  • まれ
  • ときどき
  • 半分以上

2)頭痛に伴って吐き気がしたり、または胃がムカムカすることがどれくらいありましたか?

  • なかった
  • まれ
  • ときどき
  • 半分以上

3)頭痛に伴ってふだんは気にならない程度の光がまぶしく感じることがどれくらいありましたか?

  • なかった
  • まれ
  • ときどき
  • 半分以上

4)頭痛に伴って臭いが嫌だと感じることがどれくらいありましたか?

  • なかった
  • まれ
  • ときどき
  • 半分以上

(出典:日本頭痛学会誌 2015:42(1):134-143)
4項目のうち2項目以上で、「ときどき」または「半分以上」だった場合、片頭痛の可能性があります。専門医を受診することをお勧めします。

「月に2回以上片頭痛とみられるつらい頭痛がある、あるいは、頻度に関係なく仕事や生活に支障が出るような頭痛がある場合には、日本頭痛学会認定の頭痛専門医のいる医療機関を受診しましょう。また、1カ月に10日以上、頭痛薬や鎮痛薬を服用している人は、薬の使い過ぎでかえって頭痛が起きやすくなる、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)になっている恐れがあります。薬物乱用頭痛の場合には、徐々にその薬を減らし、頭痛の種類に合った予防薬を使うなど専門的な治療が必要なので、頭痛専門医に相談して治療を受けてください」と五十嵐さん。
頭痛専門医がいる医療機関は、日本頭痛学会のホームページで調べられます。

受診の際に活用したいのが頭痛ダイアリーです。これは、頭痛が起きた日時や頻度、症状、日常生活への影響度、誘因などを記入するもの。これをつけることで、片頭痛の重症度や、どういうときに頭痛が起こりやすいか確認できるのです。

「ダイアリーをつけてみることで、思っていた以上に、頭痛の回数が多いことに気づく患者さんもいます。光が頭痛を起こす誘因だとわかれば、外出するときサングラスをかけ、照明を落とした部屋で仕事をするなど、その方に合った対策を見つけるためにも有効です。医療機関を受診する際には、記入した頭痛ダイアリーを持参すると、診断や治療方針を決めるときに役立ちます」と五十嵐さん。
頭痛ダイアリーは、日本頭痛学会のサイトからダウンロードできます。

2021年以降、片頭痛の予防治療が進化
頭痛発作が起こらなくなる人も

片頭痛の治療には、①発作が起こったときに痛みを抑える急性期治療と、②薬で片頭痛を起こりにくくする予防治療があります。

①の急性期治療の中心になるのがトリプタン系薬剤です。トリプタン系薬剤は、三叉神経の異常な活性化を抑える抗頭痛薬で、点鼻薬、口の中で溶ける経口薬、自己注射薬などさまざまなタイプの薬が登場しています。頭痛に伴って吐き気やおう吐がある人は、吐き気止めの薬を使うこともあります。

②の予防治療の検討が勧められるのは、片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障があるような頭痛が月に3日以上あるときです。
「2021年に予防治療として、頭痛発作を引き起こすCGRPという神経ペプチドの活性を抑えるCGRP関連薬が日本でも使えるようになり、片頭痛の予防治療が大きく進歩しました。既存の予防薬であるカルシウム拮抗薬、βブロッカー、抗てんかん薬のいずれかを使ってみて、効果が不十分な場合には、CGRP関連薬を使います」

現在、保険診療で使えるCGRP関連薬には複数の注射薬と経口薬があり、治療の選択肢は広がっています。
「予防治療は一生続けなければならないわけではありません。片頭痛発作の回数が減って、予防薬を使わなくても済むようになる患者さんも大勢います。適切な治療を受けることで片頭痛発作が起こらなくなり、『もっと早く治療を受ければよかった』とおっしゃる方も少なくありません。命に関わるような病気ではありませんが、片頭痛が慢性化すると治りにくくなることも多いため、早めに受診することをお勧めします」と五十嵐さんは強調します。

片頭痛を起こす誘因を減らすために職場や周囲の人の理解が必要

片頭痛の治療では、片頭痛を起こす誘因を減らすことも大切です。どんなときに片頭痛が起こるかは人によって違いますが、主な誘因には、ストレス、緊張といった精神的な因子、疲れ、睡眠不足や生理のほか、天候や気圧の変化、温度差、人込み、におい、空腹、アルコールなどがあります。片頭痛はいくつかの因子が重なったときに起こることが多いので、睡眠不足のときにワインを飲むと頭が痛くなることがわかれば、きちんと睡眠を取るようにしたり、前日の睡眠時間が短い日に飲み会があってもノンアルコールにしておくようにしたりするだけでも、片頭痛発作の回数を減らせます。

「例えば、光や音が誘因になる従業員には、企業が照明を落とした静かな環境で仕事ができるようにするなど、職場の理解も必要です。経済産業省は、2021年度から『健康経営度調査』における『従業員への教育』に関する項目に、『片頭痛・頭痛』を新たに追加しました。頭痛持ちではない人も含めて職場での理解を深め、片頭痛に苦しむ従業員が仕事の合間に頭痛体操をしたり、適切な治療が受けられたりするような環境を整えてほしいです」と五十嵐さんは語ります。

富士通では健康経営の一環として、五十嵐さんたちが中心になって、従業員約8万人とその家族を対象に、2019年7月~2022年2月まで「FUJITSU頭痛プロジェクト」を実施しました。国際頭痛学会・日本頭痛学会と共同開発したeラーニング教材「頭痛の正しい知識と対処法」で学んだ後のアンケートでは、72.5%が「頭痛に対する考え方や意識が変わった」と回答しています。頭痛は「軽い病気」「病気ではない」と捉えている人が減り、「日常生活への支障が大きい病気」と考える人が70.6%に上りました。このプロジェクトでは、頭痛専門医による「オンライン頭痛相談」も実施し、従業員やその家族が、自分の頭痛について気軽に相談できるようにしました。

「頭痛教育の重要性から、『子どもたちの現在と未来を救うために頭痛教育プロジェクト』を立ち上げ、手始めに2025年11月に静岡県内の中高一貫の女子校で全校生徒、教員、保護者を対象に頭痛の講演を行いました。片頭痛への理解が広がれば、頭痛持ちの人が人知れず悩むことはなくなり、仕事や学校を休んだりパフォーマンスが低下したりすることによる社会的な損失も防げます。少しでも頭痛で困っていたら我慢せずに、近くの頭痛外来や頭痛専門医のいる医療機関を受診してください」(五十嵐さん)

五十嵐久佳さん
富士通クリニック頭痛外来
北里大学医学部脳神経内科学客員教授

1979年北里大学医学部卒業。英国The City of London Migraine Clinic留学、北里大学医学部内科(神経内科)講師、宮内庁病院内科医長、神奈川県歯科大学教授などを経て、現在は、富士通クリニック(神奈川県川崎市)と東京クリニック(東京都千代田区)で頭痛外来を担当。2014年4月より、北里大学医学部脳神経内科学客員教授。日本頭痛学会認定専門医。日本医師会認定産業医。頭痛患者の治療とともに頭痛に関する啓発活動と頭痛専門医の育成に力を入れている。著書(監修)に、『頭痛女子バイブル』(世界文化社)など。

(※内容は2026年4月取材時点のものです)