ホルモン変動がある女性こそ知っておきたい「睡眠のトリセツ」
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あなたは昨日、何時間眠りましたか? 睡眠不足は仕事のパフォーマンスの低下や生活習慣病リスクの増加を招きますが、日本人女性の平均睡眠時間はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最短です(※1)。ただでさえ、女性は生理や更年期などに伴うホルモンの“波”の影響で睡眠の質が低下しやすいと言われます。女性が睡眠トラブルを改善し、安眠を目指すにはどうしたらよいのでしょう。睡眠の専門家である秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授の三島和夫さんにポイントを聞きました。
女性ホルモンの変動が、睡眠トラブルのもとに
「生理前は昼間も眠くて仕事に集中できない」「生理後、しばらくすると睡眠が浅くなる」……。そんな悩みを抱えていないでしょうか。生理の周期や妊娠・出産、更年期によるホルモンの変化は、睡眠に大きな影響を与えます。例えば、「生理前はとにかく眠い」という女性が少なくないのは、排卵が誘発されると、体が妊娠に備えて黄体ホルモン(プロゲステロン)を分泌し、子宮内膜を厚くし深部体温を上げるからだと考えられています。
「深部体温が上がっている状態だと熟睡できませんし、エストロゲンの分泌量が多くなる排卵前には眠りが浅くなります。女性はホルモンの変動に左右されるため、睡眠トラブルが起こりやすいのです」と三島さんは指摘します。
「まずは、アプリなども活用して、生理周期を把握してみてください。眠気が強くなる黄体期は、できたら仕事量を減らして早く寝るようにし、眠りが浅くなる排卵前にはアルコールや夕方以降のカフェイン飲料の摂取を避けるようにするなど、生理周期に合わせて生活習慣を見直すことでも、生理に伴う睡眠トラブルはある程度軽減できます」と三島さんはアドバイスします。
月経困難症などの治療に使われる低用量ピルには、排卵を抑制して女性ホルモンの波をなだらかにする作用があります。そのため、低用量ピルを使っている人は、黄体ホルモンの影響で眠くなる、などの症状も軽減します。
また、生理のときの出血などのために体に貯えている貯蔵鉄が少なくなると、むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)が出現して夜中に目が覚めたり眠りが浅くなったりしやすくなります。むずむず脚症候群は、夜間に脚がむずむずして痛みやかゆみが出たり、虫が這っているような感じがしたりする睡眠障害の一つです。
「生理の重い女性は、貧血とむずむず脚症候群を防ぐためにも、牛肉など赤身の肉やレバー、カツオやマグロといった赤身の魚など鉄分の多い食品を積極的にとってほしいです」と三島さん。
働く女性の3~5割は睡眠不足。睡眠不足はメンタルや認知症も招く
女性の睡眠問題で注目されているのが、日本人女性の平均睡眠時間が“世界一短い”ことです。
「睡眠時間が短いと、生理前にイライラして気分の調整がきかなくなったり、むくみなどが出る月経前症候群(PMS)や生理不順が生じやすくなります(※2)。生理関連の不調を減らすためにも、睡眠時間をしっかり取ることが大切です」と三島さんは強調します。
最新の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(厚生労働省)では、成人に6時間以上の睡眠を推奨しています。ところが、国民健康・栄養調査(2024年、厚生労働省)によると、働く世代の20代~50代の女性では、6時間未満しか眠っていない人が32.4~49.1%もいます。5時間未満しか眠っていない女性も20~50代では5.5~10.1%もいて、働く世代の女性の多くが睡眠不足とみられています。
「睡眠不足で影響が出るのは生理関連の不調だけではありません。睡眠時間が極端に短いと、肥満、高血圧、糖尿病、心臓病、脳血管疾患、認知症、うつ病などの発症リスクが高まることが分かっています(※3、4)。また、日本人労働者約13,000人を対象にした調査では、睡眠時間が6時間未満だと、睡眠障害の発症や精神状態の悪化、仕事のパフォーマンスの低下が起こることが明らかになっています(※5)。
恐ろしいのは、日本では電車やバスの中で爆睡している人が大勢いるのに、多くの人が自分の寝不足に無関心で、『何とかなっているから大丈夫』と思い込んでいることです」と三島さんは話します。
その人に必要な睡眠時間には個人差がありますが、次の6つの項目のうち、1つでも当てはまる場合には睡眠不足と考えるといいでしょう。
睡眠不足セルフチェック
- 朝、目覚めたときに休まった感覚がない
- 休日に平日よりも3時間以上寝だめをしてしまう
- 電車やタクシーの中でも寝落ちしてしまう
- 寝つきが極端によい
- 日中に眠気が強い
- 能率低下やイライラがある
(三島さん監修)
- ※2World Journal of Advanced Research and Reviews, 2023, 20(03), 425-431
- ※3Sleep Med. 2017 Nov:39:87-94.
- ※4Sleep Breath.2022 Sep;26(3):1479-1501.
- ※5Int J Environ Res Public Health. 2022 Sep 5;19(17):11143.
休日寝だめはNG。平日30分でも長く寝る習慣を
自分にとって必要な睡眠時間を知るには、長期休暇のときなどに連続して3~4日間、すっきり目覚める時刻まで眠った時間の平均値から算出できます。成人に必要な睡眠時間は6~8時間程度とされ、短い睡眠で健康を保てるショートスリーパーはほとんどいないこともわかっています。つまり、6時間未満しか眠っていない人のほとんどは、睡眠が不足している状態と考えられるのです。
睡眠不足による健康リスクを解消するために三島さんがすすめるのは、「休日に寝だめをするのではなく、平日に今より30分でもいいから早く就寝すること」です。
平日の睡眠不足を休日に取り戻そうとする「寝だめ」は、毎週末、時差のある地域への旅行を繰り返すことと似ているため「社会的時差ぼけ」と呼ばれます。社会的時差ぼけによって頻繁に体内時計のずれが生じると、肥満、糖尿病、うつ病、心臓病、脳血管疾患にかかりやすくなるなど様々な健康リスクが高まることがわかっています(※6)。
40~64歳の約3,100人を12年間追跡調査した結果によると、休日の寝だめで寿命短縮リスクが軽減するのは、「平日6時間以上寝ている人が、休日の寝だめ時間を1時間以内に抑えている場合だけ」でした。たとえ平日に6時間以上寝ていても休日に2時間以上の寝だめが習慣化している人と、平日に6時間未満しか眠っていない人は、休日の寝だめの有無や時間の長さとは関係なく、明らかに寿命が短かったと報告されています(※7)。
「つまり、休日にたくさん眠っても、平日の睡眠不足の体への負担は帳消しにはできないのです。時差ぼけ状態のまま週明けを迎えれば、頭がぼーっとして仕事にも差し支えます。働く女性は睡眠時間を削って、仕事や家事を優先して頑張ってしまいがちですが、この考え方を改めてほしいです。
適切な睡眠時間の確保は、心と体の健康と直結します。自分の心と体を守るために、まず、必要な睡眠時間はしっかり確保し、そのうえで残った時間を家事や趣味に当てる、という具合に優先順位を見直してください。高血圧や糖尿病になったら塩分制限や糖質制限をするように、睡眠不足を解消するために就寝時間や生活習慣を見直すのが当たり前になってほしいです」と三島さんは話します。
- ※6Nat Rev Endocrinol. 2023 Jul;19(7):383-384.
- ※7Sleep Biol Rhythms. 2023 May 5;21(4):409-418.
休日でも起床時間を固定、朝の光を“目に入れて”体内時計をリセット
ただ、夜型生活が習慣化していて、睡眠時間を確保しようとして早い時間に寝床に入っても、なかなか寝つけないという人もいるのではないでしょうか。
寝つきをよくするために実践したいのが、休日や在宅勤務で自宅にいる日でも、平日との起床時間のずれは1時間以内に留め、起床から3~4時間以内に日の光を浴びることです。ポイントは、起床時間を固定化させることと、起きたら日の光を浴びることの2点です。
ヒトの体には、起床後に日の光を浴びることで体内時計がリセットされ、そのタイミングから13~14時間後に、睡眠ホルモンであるメラトニンが分泌されて自然に眠くなる仕組みが備わっています。
「夜型で体内時計が後ろにずれている人は、休日も平日と同じような時間に起きて日の光を浴びることで、体内時計が前進して早寝早起き型になり、平日にも早く寝付けるようになるので、必要な睡眠時間を確保しやすくなります。光の浴び方については、網膜の中の体内時計に関わる細胞に光を届けるようにするのがコツです。平日は、満員電車のドアのところに立ったり、朝、通勤で歩くときに光の方向に意識的に目を向けたりするなどしてみてください」と三島さん。
なお、睡眠不足を昼寝で補う場合には、午後3時までに20~30分程度に留めるのがポイント。30分を超えたり、夕方以降にする昼寝は、夜の睡眠に悪影響を与えるからです。
「短い昼寝は眠気解消に役立つだけではなく、仕事のパフォーマンスも上げるので、社内に短い昼寝のためのスペースを作る企業も増えています。カフェイン飲料は、飲んでから20分後くらいに眠気を覚ます効果が出るので、スマートフォンなどで目覚ましをセットするとともに、コーヒーや緑茶を飲んでから短い昼寝をすると、すっきり起きられます」(三島さん)
睡眠の質を高めるためには、夜の光の調節にも注意が必要です。夕方以降に強い光を浴びると寝つきが悪くなったり睡眠が浅くなったりします。自宅のリビングや寝室の電気は暖色系にして間接照明にするなど、できるだけ明るさを抑えましょう。夜間にこうこうと電気がついた店に行ったり、寝室にスマートフォンやタブレット端末は持ち込んだりせず、できるだけ暗くして寝ることが安眠につながります。
「スマートフォンやタブレット端末の光はそれほど強くはありませんが、動画やSNSなどを見て気持ちが高ぶったり頭が覚醒したりしてしまうと寝つきが悪くなります。眠る前にはそうしたものは見ずに、クールダウンを心がけてください。就寝1~2時間前に入浴してリラックスし、深部体温が下がった頃に寝床に入るのが安眠のコツです」と三島さんは語ります。
更年期以降に増加する睡眠障害なら、専門家に相談を
女性の場合、閉経前後5年の更年期以降、女性ホルモンの急激な低下に親の介護、子どもの巣立ち、自分の病気などが重なる人が多いこともあり、不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が増加します。
「朝食をしっかりとって、朝は光を浴び、適度に体を動かし、寝る前にはスマートフォンやタブレット端末を遠ざけてリラックスするなど、これまで話してきたような生活習慣を見直しても睡眠に問題がある場合には、かかりつけ医や日本睡眠学会の専門医に相談してほしいです」と三島さんはすすめます。
国の働き方改革では、勤務終了後から次の出勤までの間に一定時間以上の休息(インターバル)をとる「勤務間インターバル制度」の導入を努力義務としています。ただ、労働安全衛生研究所が勤務間インターバルと睡眠時間の関係を調べた調査では、勤務間インターバルが3時間増えたとしても、その人の余暇時間が増えるだけで、睡眠時間を大幅に増やす人は少ないことがわかっています(※8)。
「睡眠が不足して心身がダメージを受けたら“赤い涙が出る”というような自覚症状があるわけではないので、勤務間インターバルが増えても睡眠を後回しにしてしまう人が多いのです。企業は、勤務間インターバルをしっかり取れる体制を整えるとともに、睡眠の重要性と健康の関連を認識できるような社員研修を徹底してほしいです。デバイスを使って、睡眠の評価をしてコーチングをするサービスなども増えているので、そういったものも取り入れながら、健康経営を進めるのが大事だと考えています」と三島さんは話します。
- ※8J Occup Health. 2018 May 25;60(3):229-235.
健康にいい睡眠のチェックポイント
健康にいい睡眠をとるには、以下のようなチェックポイントを参考に、生活習慣の見直しをしてみてください。
1.睡眠の質と量
- 最低でも6時間以上を目安とする
- 起床時間を一定にする
- 休日に寝だめ、夜更かしをしない
- 昼寝は、30分程度を限度に
2.環境
- 就寝前は、明るい環境の中にいない
- 就寝前にSNSやネットなど気持ちが高ぶるものを見ない
- 部屋の中は快適な温度を維持する
3.生活習慣
- 朝起きたら、光が網膜に届くように日を浴びる
- 朝食を抜かない
- 日中は適度な運動を
- 就寝間際の間食、夕食は取らない
- 寝る前はリラックスを心がける
4.嗜好品
- 夕方以降のカフェインは避ける
- アルコール、喫煙を節制
5.専門家への相談
- 上記のような生活改善をしても眠れない、休眠感がないときは、専門家に相談を
(厚生労働省『Good Sleepガイド-健康づくりのための睡眠ガイド2023-』と三島さんの取材を基に作成)
1987年秋田大学医学部卒業。秋田大学医学部精神科学講座助教授、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長などを経て、2018年より現職。専門は精神医学、睡眠医学、時間生物学。日本睡眠学会理事。『朝型勤務がダメな理由 あなたの睡眠を改善する最新知識』(日経ナショナルジオグラフィック社)など著書多数。睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。
(※内容は2026年6月取材時点のものです)