生理不順、貧血、糖尿病リスク7倍……働く女性の健康リスク、「FUS」って何?
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「FUS(ファス)」という言葉を知っていますか? FUSとは、「女性の低体重/低栄養症候群」(Female Underweight / Undernutrition Syndrome)の略。日本肥満学会が2025年4月に新しく提唱した概念で、18歳以上、閉経前までの女性を対象としています。
世界の中でもやせ志向が強い日本では、過度なダイエットなどにより、栄養不足ややせ過ぎの女性が増えています。低体重(やせ)や低栄養が、生理不順や筋力低下、そして糖尿病リスクなど、健康にさまざまな影響を及ぼすことが分かってきており、働く女性の健康を守るために注目すべき概念になっています。今、FUSという概念を社会に提唱しなくてはならなかった背景と、働く女性のFUSへの対応策について、順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学・スポートロジー、代謝内分泌内科学教授の田村好史さんに解説してもらいました。
日本の「やせ」女性は2位の韓国の2倍
OECD諸国で突出した1位
「日本では『やせる=美しい』という価値観が社会に深く浸透しているため、やせ過ぎの女性が多いことが問題になっています。日本のこの状況は世界的に見ても特殊で、日本女性のやせ過ぎが国の重要な健康問題であるとの強い危機感を持っています」と話す田村さん。やせた女性の健康問題に関する研究を続ける田村さんは、FUSの提唱者の1人です。
成人では体格指数(BMI、単位:kg/m2)が18.5未満の状態を「低体重(やせ)」と定義しますが、日本のやせた女性の割合は16.15%。OECD加盟国の中で最も高い数値であり、2位の韓国(7.86%)に比べて倍以上の差があります。特に若い女性のやせ志向は年々高まり、2023年の国民健康・栄養調査では、20~30歳代の女性の5人に1人(20.2%)が「やせ」という深刻な状況です。
やせた女性が世界一多いことが、日本の健康課題の一つ
「若い女性だけでなく、日本では全世代の女性にやせたいという願望が強くあります。メディアや広告、SNSなどを通してさまざまなダイエット情報などが氾濫し、糖尿病や肥満症の治療薬である『GIP/GLP-1受容体作動薬(マンジャロ)』を、健康な女性がダイエット目的で注射し、健康を害するというような社会問題も起きています」と田村さんは警告します。やせた女性を美化する価値観が、過度なダイエットに結びついているのです。
生理不順、免疫力の低下、骨量低下……
健康への悪影響は将来まで含めて深刻
肥満が健康に悪いことは社会に浸透しています。そのため、太っていることの逆の概念である「やせ」は健康にいいことだと考えている人も多いようです。しかし近年の研究で、「やせ・低栄養」も、さまざまな健康障害を引き起こすことが明らかになってきました。栄養・エネルギー不足はホルモンバランスを乱し、生理不順や無月経を招きます。女性が気にする美容面にも影響があります。抜け毛、髪の衰えや肌荒れのほか、便秘や冷え、疲れやすさなどの不定愁訴も低体重や低栄養が原因になることがあります。
感染症にかかりやすいなどの免疫力の低下、貧血、筋力の低下なども引き起こし、不妊や将来的な骨粗しょう症、妊娠・出産時のリスク増大にも影響を及ぼします。
こうした健康障害は、女性個人の健康問題というだけでなく、職場の生産性の低下に直結します。また、定年延長で高齢労働者が増えてきた現代は、転倒による女性の骨折が労災として増えるリスクも抱え、職場の安全性の低下にもつながると考えられます。
さらに、次世代への影響もあります。「妊娠前のやせが妊娠糖尿病のリスクとなることがすでに明らかになっていますが、さらに、やせた女性では低出生体重児(2,500g未満)の赤ちゃんが生まれやすくなり、そのような子どもは将来的に糖尿病になりやすいことも分かっています」(田村さん)。
やせた女性は高血糖のリスクが7倍
血糖値の上がりやすさは欧米の肥満女性と同レベル
さらに、田村さんらの研究では、やせた若い女性に糖尿病予備軍が多いことも分かってきました。標準体重(BMI18.5~23.0kg/m2)の女性に比べて、日本の20代のやせ女性は耐糖能異常者(糖尿病予備軍)が約7倍も多く、このタイプの日本女性は欧米の肥満の人(19~34歳、BMI30以上)と同レベルかそれ以上に血糖値が上がりやすいことが明らかになったのです。「詳しい関係性はまだ解明されていませんが、やせた女性は筋肉が少ないため、筋肉に取り込める糖の量が少なく、また血糖値を下げるインスリンの分泌が少ないのではないかと考えられます」(田村さん)。
また、閉経後の女性の調査からは、やせた女性では、筋肉が少なく、筋肉に脂肪が溜まっている人ほど血糖値が高くなることが明らかとなっており、筋肉の量や質の低下が高血糖の原因になっているのではないかと推測されています。
このように、低体重や低栄養は、女性が一生の間に抱える“不調のスタート地点”になっていることも多いので、早く対策を打つことは、その先の多様な健康障害への連鎖を止めることにつながると考えられます。
「FUS」という言葉で、やせリスクを見える化
こうした状況を“見える化”し、警鐘を鳴らすため、日本肥満学会が2025年に提唱したのがFUSです。FUSとは「低体重または低栄養の状態を背景とした疾患・症状・徴候を合併している状態」と定義され、広く注意を呼びかけています。「これまではやせよりも肥満への対策が重視されてきたため、低体重や低栄養への対策は不十分でした。メタボという言葉ができて肥満による健康への影響が可視化されたように、FUSという言葉を通じて、低体重や低栄養が引き起こす健康被害を症候群として見える化したいと考えています」と田村さんは解説します。
FUSにはまだ正式な診断基準はありません。「しっかり食べていても、体質的にやせていて健康に問題がない方もいらっしゃいます。その一方で、体重が正常範囲でも栄養が足りていない方は潜在的にかなりいらっしゃるのではないかと考えています。FUSは低体重または低栄養で生じる症候群であるため、正常体重で低栄養の方もなり得るのです」(田村さん)。
やせでも普通体重でも、3~4つ以上該当する人はFUSの可能性?!
田村さんらが18~40代の10,379人を調べたWEB調査では、69%が下のような不定愁訴のうち、3つ以上に該当していました。以下の項目に3~4つ以上該当する人は、食生活や生活習慣を見直してもいいかもしれません。
- 冷え性
- 肌荒れ
- 髪の衰え
- 疲労感・倦怠感
- 慢性頭痛
- 睡眠の質の低下
- メンタルの不調(うつっぽさ)
食が細い人は、食回数を増やしスープも活用
食べて活動量を増やし、エネルギーを回す
女性が低体重や低栄養になってしまう原因には、主に次の3つがあると考えられます。1つはやせようとして食事を制限していること。もう1つは、忙しくて朝食や昼食などを抜いてしまうこと。3つ目は胃腸が弱くて食が細いことです。
「脂っぽいものを食べると胃がもたれる3番目のようなタイプの女性も少なくないですが、いずれのケースも、食事の量が少ないと動く量も自然に減り、それが睡眠の質の低下やメンタル不調の原因となる可能性があります。食事を十分な量取れないことは健康に悪影響を及ぼしますが、動かなくなると、さらに調子が悪くなるという悪循環にはまるのではないかと考えています。私たちの研究でもやせた若い女性では、少なく食べて動いていないという『エネルギー低回転型』の人が多いことが分かっています」。
では、自分がFUSの症状に当てはまっているとしたら、どう対処すればいいのでしょうか。
「一番大切なのは食事の内容です。毎回の食事に、肉、魚、大豆など、たんぱく質の入った主菜、そして野菜などの副菜を食べることを意識すれば、自然にビタミンやミネラルなども取れるメニューになります。そして欠食をしないこと。栄養バランスのいい食事を3食きちんと食べていれば、極端な栄養不足にはならないはずです。実際、食事を改善することによって、いろいろな体調不良が改善したという声をよく聞きます」。
とはいえ、「もっと食べなくてはと思っても、すぐにお腹がいっぱいになってしまって、たくさんは食べられない」という悩みを抱えている人もいるでしょう。
「一度にたくさん食べられない人は、食べ方を工夫するのがいいかもしれません。例えば、良質な油を含んでエネルギー補給がしやすく、微量栄養素も豊富なナッツなどを常備して間食にしたり、オリーブオイルをドレッシングやさまざまな料理で活用したり、高カロリーで栄養価の高いポタージュなどの飲み物を活用するなど、食事の回数を増やし、胃腸の負担が少ない形状のものや、多種類の栄養が取れる高カロリーの食品を選んでみるのもいいでしょう」。
このように栄養とエネルギーを補給することに加え、忘れてはならないのが、しっかり活動する・運動することです。近年は在宅ワークも普及し、かつてに比べて通勤に費やす時間も減ったため、運動量が大きく減ってしまった人も少なくありません。「1日で何歩歩いているか、スマートフォンなどでチェックするといいでしょう。今の基準は1日8,000歩、高齢者では6,000歩が目標です。在宅の日も、通勤時間に相当する時間を外に出て歩くなど、運動する時間を意識して作るようにしないと、たちまち運動不足になります。活動量を増やして食べたエネルギーをしっかり回すことが、FUSを脱却するポイントになると考えています」。
「やせや低栄養と健康障害」に関する研修の機会を
20代で1度、骨密度を調べ現状把握も
FUSに対して、職場でできる取り組みにはどんなことがあるでしょうか。田村さんは、「やせや栄養不足であることが生涯の健康に与える影響について、企業でもきちんと学べるような研修の機会を作ってほしい」と言います。従業員に正しい情報を啓発した上で、さらに「20代の従業員が一度、骨密度を測定できる機会を提供すること」も検討してほしいと提案します。やせ・低栄養の影響は、骨の状態から探ることもできるからです。
骨粗しょう症は高齢者がかかる病気と思われていますが、その予防は早ければ早いほどいいです。一般的に骨量や骨密度のピークは20~30歳頃。20代のうちに1度は骨密度を測り、自分の状態を把握しておくことが予防意識につながると考えています」。計測して、もし骨量が十分でない場合は、低体重や低栄養、生活習慣について危機感をもって改善するいいきっかけになりますし、少しでも若いうちに十分な栄養と運動を意識するようになれば、骨の量を増やすこともでき、将来の骨粗しょう症の予防も期待できるからです。企業がそうした機会を作り、早期に本人の気づきを促すことはとても大切です。
将来的にはFUSの診断基準が提示されることになるようです。やせや低栄養は個人の問題というより、社会的な価値観が及ぼす影響が大きい課題です。企業が、やせや低栄養の問題の解消に取り組むことは、女性従業員の多様な不調の解消につながることが期待できるからです。
1997年順天堂大学卒業後、カナダ・トロント大学生理学教室で糖脂質代謝の研究に従事。2005年順天堂大学大学院博士課程修了後、07年より同大医学部内科学代謝内分泌学講座准教授。16~18年にスポーツ庁参与を務めた。24年より現職。企業や自治体とともに、FUSややせの問題に取り組む「マイウェルボディ協議会」を立ち上げ、社会的な価値観を変えるための活動を行う。実際に、参画企業とともに健康診断などで骨密度のスクリーニングについての効果検証などにも取り組んでいる。
(※内容は2026年6月取材時点のものです)