健康相談室 Consultation

働く女性の健康相談室① ~今こそ知りたい、生理についての疑問~

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生理の不快な症状やPMS、更年期症状など、女性特有の健康課題を抱えながら仕事をしているという女性は多いはず。この連載では、「どう対処すると効果的?」「今さら聞けないけれど、これって普通?」など、働く女性から寄せられた疑問・質問に対して、専門家が回答していきます。第1回のテーマは生理の悩みについて、女性のヘルスケアの専門家で、よしかた産婦人科院長の善方裕美さんが答えます。

生理痛には鎮痛剤、低用量ピル(LEP)、漢方薬、結局どれがいいのでしょうか?

まず鎮痛剤は、生理痛がひどくなってからではなく、痛みが出る前に飲むのが正しい方法です。プロスタグランジンという痛み物質が出る前に抑えることが大切で、この方法で効くなら鎮痛剤もOK。ただし鎮痛剤を「毎月5日以上使う」「昨年より痛みがひどくなった」「指定量を飲んでも効かない」などの場合は、婦人科を受診してください。生理痛の原因が子宮内膜症などの病気なら、病気自体の治療をしないと痛みは解消しないばかりか、不妊のリスクも上がります。

婦人科では生理痛に対し、ほかの疾病や体質などが薬の使用条件に合っている場合には、低用量ピル(LEP)や黄体ホルモン製剤などのホルモン療法を勧めることが多いです。これらによって排卵を抑えると、痛みや出血量、出血期間も減りますし、卵巣を休ませるというメリットもあります。

一方、ホルモン治療に抵抗感がある場合やホルモン治療が禁忌となる人には、鎮痛剤に合わせて漢方薬を使います。機能性月経困難症※1の場合は、漢方薬が有効な場合も多く、最近では漢方薬の作用についてしっかりとしたエビデンスも増えています。いずれの場合も薬の効果は個人差が大きいので、医師と相談して合う薬を見つけてほしいです。

  • ※1機能性月経困難症…子宮に病気がないのに生理中に強い痛みがある病的症状で、若年層に多い

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同じ女性でも生理痛に個人差があるのはなぜ親から子に遺伝するのでしょうか?

血縁者に生理痛が重い人がいると生理痛が生じやすい、といった研究報告もあり、遺伝的な要素はありそうです。また、ホルモン感受性や体格などが似ているために、症状が親子で似るケースも。ただ、遺伝だけではなく、食事、睡眠、運動などの環境因子やストレスなどにも、生理の痛みは影響を受けます。親子は似た環境にいるので同じような痛みを感じるのかもしれませんし、生活を改善したら症状が変わる人もいるでしょう。一方、同じ人でも、年齢や出産回数などで痛みの程度は変化します。一般には出産回数が多いほど、また、年を重ねるほど痛みが減ると言われています。

36歳ですが生理が10日間ほど続きます。「このラインを越えたら受診を」という基準はありますか?

日本産婦人科医会によると「正常な月経」の出血持続期間は3~7日、平均は5日間です。「10日間」は正常範囲から外れるので、受診をお勧めします。以下の記事で紹介しているチェックリストに該当するような人は、痛みなどがなくても、一度、異常がないか診てもらってください。生理の不調は他人と比べにくいので「この程度で受診していいの?」と迷う人が多いようですが、つらい症状に自分が困っている時点で「月経困難症」と診断名がつきます。症状のレベルを気にせず婦人科に相談を。

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低用量ピル(LEP)などのホルモン治療を受けてみたいのですが、医師によっては治療をしてくれないところがあり、クリニック選びが難しいです。どのように受診先を見つければいいのでしょうか?

日本で月経困難症の保険治療薬として低用量ピル(LEP)が承認されたのは2008年で、比較的新しい治療法のため、残念ながら詳しくない医師がいるのも事実です。とはいえ、積極的にホルモン治療に取り組んでいる医師は、それをサイトに紹介していることが多いので、低用量ピル(LEP)や更年期のホルモン補充療法(HRT)などのホルモン治療を行っているクリニックか、まずはWEBで調べてみるのは一つの手です。また、日本女性医学学会が認定する「女性ヘルスケア専門医」はホルモン治療を学んでいます。有資格の医師がいる施設も目安になるでしょう。

ただ、調べて受診しても、医師との相性はあるので、仮に一回目で相性のいい医師に出会えなくても、諦めずに何軒か当たってみてほしいです。頼りになる婦人科かかりつけ医に出会えたら、この先の人生の財産になるはずです。

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生理痛だけではなく排卵痛もつらいのですが、排卵痛についてはまだ女性でも理解を得にくいと感じています。排卵痛の対処方法を教えてほしいです。

生理痛も排卵痛もあるのはつらいですね。排卵痛は、排卵に伴って起こる、2、3日程度の痛みで、排卵は、生理と次の生理の間、つまり28日周期の人なら生理後14日目前後に起こります。排卵の直前は卵胞が膨らむため卵巣が張り、卵子が卵巣の皮を破って排出されるときの刺激があり、痛みを感じる人もいれば、感じない人もいます。生理痛とは時期が異なりますし、生理痛ほど知られていないことも女性を悩ませています。

排卵痛も、生理痛と同様に鎮痛剤を使う、体を温める、リラックスするなどのセルフケアで少し軽減することができます。一方、医療機関での治療なら、低用量ピルなどの排卵を抑える薬を勧められるでしょう。排卵を抑制するホルモン治療の薬を正しく使えていれば排卵痛は起こらなくなります

低用量ピルを飲めば生理の悩みが改善されるなら試してみたいけれど、副作用も気になります。どんな副作用があるか教えてください。

低用量ピルは、使用初期に一時的に不快な症状が出ることはあります。代表的な症状は、軽度の頭痛やだるさ、吐き気、乳房のはり、むくみ、不正出血などです。

これは、低用量ピルによって女性ホルモンのバランスが変化し、体がそれに慣れるまでの間に起きるもので、通常は1~3カ月で治まります。症状が出て不安な場合は、いつ、どんな症状が起きたのかを記録しておき、医師に相談してみてください。

もう一つ知っておきたいのが、血栓症のリスクです。ただ、低用量ピルを服用していない人の血栓症の発症リスクは1万人あたり年間1~5人であるのに対し、服用者のリスクは同3~9人。一方、妊娠中は同5~20人、出産後12週間以内の産婦は同40~65人で、妊産婦のリスクの方が高く、リスクはわずかと言えます。万一の時も、対処法をあらかじめ知っておき、医師と連係して対応すれば、むやみに恐れる必要はありません。他には、5年以上の使用で、子宮頸がんのリスクがほんの少し上がるとされています。ただ、低用量ピルを服用していない人の発生率は1000人中3.8人に対し、服用者では4.8人に増えたとの報告で、裏を返せば1000人中1人しか増えないとも言えます。また、子宮頸がんはハイリスク型のヒトパピローマウイルス(HPV)感染があるかどうかがポイントになるので、HPV検査を受けておくと安心です。

低用量ピルを飲むとニキビがよくなると聞いたけれど、本当ですか?

低用量ピルには、使われている薬剤の作用でニキビがよくなるものがあります。ニキビはホルモンのバランスが変わったとき、また男性ホルモンの影響で起きやすくなりますが、低用量ピルはホルモンの量を安定させて排卵を抑制するメカニズムで生理痛を軽減します。一部の低用量ピルには抗アンドロゲン作用を持つ黄体ホルモンが入っているため、ニキビができにくくなるというメリットがあります。他にも、良性の卵巣腫瘍や骨粗しょう症、卵巣がん、子宮体がんなどのリスクを下げるなど多くの副効用があります(下表参照)。

OC服用に伴う副効用

発生頻度
・月経困難症
・過多月経
・子宮内膜症
・貧血
・良性卵巣腫瘍
・子宮体癌
・卵巣癌
・大腸癌
・尋常性ざ瘡(にきび)

(出典:日本産科婦人科学会 OC・LEPガイドライン2020年度版より抜粋)

生理痛がひどい月と、そうでもない月があるのはなぜ? どうしたらつらさを減らせる?

生理痛は、食事などの栄養や運動、睡眠、入浴などの生活習慣によっても左右されます。朝食を抜く日が多かったり、食事のバランスに気を使えなかったり、ストレスが多かった、睡眠不足が続いたなど、忙しくて生活習慣が乱れたら、生理にも影響が出たりするのです。いつもより痛みがひどいと感じるときは、生活習慣を振り返ってみることも大切です。きっと、思い当たることがあると思います。

例えば、鉄や亜鉛、ビタミンB群などが不足すると、PMSや生理痛に影響しやすいです。湯船につかる習慣がある人は、そうではない人より生理痛の人の割合が少ないという調査報告もあります。睡眠時間を十分確保する、運動・入浴など血流をよくする生活を心がけるなども、自分でできる重要なケアです。

ただし、半年前より明らかに痛みがひどくなったなどの場合は、病気の進行が原因の可能性もあるので婦人科を受診しましょう。

私は生理中に痛むお腹の場所が、その時によって移動する気がする(右上だったり左下だったり)。これは異常ではないのか、普通はどのあたりが痛むのか教えてほしい。

痛む場所が変わる理由として、いくつか考えられます。痛み方は人によっていろいろあり、痛みが子宮全体に広がる「放散痛」の場合、痛む場所が変わると感じるケースがあります。また、子宮や卵巣は体内で前後左右に微妙に動くので、臓器の位置によって、痛む場所が変わったと感じるケースもあるでしょう。もう一つは「子宮内膜症」の場合です。子宮内膜の組織は本来、毎月の生理周期に子宮の内側だけで増え、それが生理として排出されます。しかし、子宮内膜組織が経血とともに子宮以外の場所(例えば腹膜や卵巣内など)に飛び散って、その場所で増殖することがあり、この場合、子宮外の場所でも痛みを感じます。子宮内膜症は放置すると進行し、不妊のリスクにもなりますので、特に痛みが強い場合は、一度、婦人科でチェックを受けてください。

オーガニックのナプキンを使うと生理痛が軽くなると雑誌で読んだが、私は実感できなかった。本当に軽くなるのか、生理痛がつらい人はナプキン、タンポン、吸水ショーツ、月経カップのうち何を選べばいいのか、正しい情報を知りたい。

生理用ナプキンの素材の違いで、生理痛が軽くなるというエビデンスはありません。また、ナプキンや月経カップなど、使うアイテムによって痛みが変わるというエビデンスもありません。ただ、オーガニック素材がいい、という声が多いのなら、その理由で考えられるのは、皮膚への負担。皮膚がデリケートな人には、オーガニックの素材の方が、よりかぶれにくく快適、という側面があるのかもしれません。また、オーガニックの布ナプキンの場合、吸収ポリマーが入った普通のナプキンより頻繁に取り換えると思うので、経血で冷えにくい=痛みが軽減すると感じているのかもしれません。冷えは痛みを悪化させるからですが、これも素材による違いではなく、取り換える頻度、つまり「使い方」の違いによるものです。

グッズの選択については、人によって感じる快適さが違うので、気になるものを試すことをお勧めします。同じ人でも経血が多い時期は、タンポンや月経カップが安心という人もいるでしょう。一方で膣の中に留めるグッズを使うことに抵抗があるという人にとっては、快適とは言えません。どれがいいのかは使い方と好み次第。自分に合ったより快適な生理用品を探してみてください。

善方裕美さん
よしかた産婦人科(神奈川県横浜市港北区)院長
横浜市立大学産婦人科客員准教授

高知医科大学卒業。横浜市立大学産婦人科勤務、医療法人よしかた産婦人科副院長などを経て、2020年より現職。横浜市立大学附属市民総合医療センター婦人科ヘルスケア外来を担当。専門は骨粗しょう症、更年期医療。横浜市立大学産婦人科客員准教授として若手医師の育成に従事する一方、年間約700人の赤ちゃんが生まれる、よしかた産婦人科の院長を務め、産後ケアの充実にも取り組む。3人の娘と大好きな音楽ライブに参戦することが一番の楽しみ。

(※内容は2025年6月取材時点のものです)