低用量ピルやホルモン補充療法(HRT)は不安? ホルモン治療への疑問に専門医がアドバイス【働く女性の健康相談室⑧】
月経困難症など、生理に伴う不快な症状を治療するために処方される低用量ピルや、更年期症状の緩和に用いられるホルモン補充療法(HRT)など、女性ホルモンのバランスを整える「ホルモン治療」は、大きな効果を実感している人が多い一方で、疑問や不安を感じて踏み出せずにいる人もいるようです。産婦人科医で産婦人科館出張佐藤病院院長の佐藤雄一さんが、わかりやすく解説します。
ホルモン補充療法(HRT)による乳がんのリスクは日常要因以下
ホルモン補充療法(HRT)を受けると乳がんになりやすくなると聞いたので、ずっと続けるのは怖いと感じています。本当に大丈夫なのでしょうか?
乳がんになりやすいとの根拠は、ホルモン補充療法(HRT)を約5年使用した場合、乳がんのリスクは1万人あたり年間で約8人程度増える、という米国の有名な研究(※1)が根拠となっていると考えられます。ただ、閉経後の肥満でも1万人あたり約20人前後は乳がんのリスクが増え、毎日の飲酒でも数人~10人程度増えるとされていますので、HRTによる乳がんのリスク増加は、日常要因と同程度かそれ以下であることが分かります。
「ゼロではないけれど、ごく小さな増加」なので、“乳がんのリスクが上がる”と心配するよりも、HRTを使うことで日常生活が改善されるメリットの方が大きいと私は考えています。また、HRTの使用中は、乳がんや子宮がん、卵巣がんなどを定期的にチェックすることになっているので、病気の早期発見にもつながります。医師のチェックを定期的に受けながらHRTを使うわけですから、過度な心配はしなくても大丈夫ですよ。
また、HRTのやめ時については、医療ガイドラインでは「5年をめど」に、リスクとベネフィットを確認することになっています。もちろん、5年より前に「そろそろいいかな」と思ったら、医師と相談して、薬を中止することもできます。実際には、5年を過ぎてもHRTの継続を希望する患者さんも少なくありません。
- ※1JAMA. 2002;288(3):321–333
「生理=デトックス」は誤り! 低用量ピルは「リスクよりベネフィットが大きい」理由
低用量ピルを飲むと、吐き気がしたという友人の体験を聞いて、使用をためらっています。またピルで生理を止めると、体外に悪いものを出す「デトックス」の機会がなくなるので、健康に悪いのではないでしょうか? 将来、妊娠もできなくなると聞いたこともあり、心配です。
低用量ピルを飲んで吐き気がするというのは、服用し始めの頃に起きやすい副作用の一つですが、最近はそうした副作用を減らすために、ホルモンの量を従来の低用量ピルより、さらに減らした「超低用量ピル」も登場しています。この超低用量ピルを使うと、ご心配のような初期の副作用が出る人がほとんど見られなくなっていますし、従来のピルを処方する場合も含め、当院では、吐き気が心配な人には「お守り代わりに」吐き気止めを処方しています(実際に使用される人は少ないようです)。
もし、副作用が出てしまった場合も、1~2週間程度で治まることが多く、1カ月たっても副作用が続く場合は、薬の種類を変えると良くなることもあります。
服用をやめた後の妊娠にも影響はありません。低用量ピルを長く服用した人は、短期服用者に比べて、服用中止後の妊娠率が高くなる傾向があるという報告(※2)も複数あります。これは治療中に子宮内膜症などの進行が抑えられ、状態が改善することが背景にあり、その結果、不妊のリスクを下げられるからだと考えられています。
「生理の出血で体の悪いものが排せつされるから、生理を止めると体に良くない」というデトックスの考え方は誤りです。毎月、排卵があると妊娠に備えて子宮の内側にある子宮内膜が厚くなりますが、妊娠しなかった場合に、その膜がはがれ落ちて血液とともに体外に排出される――これが生理です。子宮の中に悪いものが溜まっているわけではありません。ホルモン治療をすると排卵はお休みになるので、子宮内膜も厚くならないため、そもそも“出ていくべきもの”が形成されません。むしろホルモン治療で卵巣と子宮内膜を休ませることが、卵巣がんや子宮体がん(子宮内膜がん)のリスクを低下させることが、研究データで示されています(※3)。症状のつらさに悩む女性にとって、ホルモン治療はリスクよりベネフィットの多い治療であると考えます。
- ※2Snart Gravid study; Human Reproduction, 2013
- ※3Lancet. 2008;371(9609):303–314、Lancet Oncol. 2015;16(9):1061–1070.
妊活中の生理痛・PMSに悩む人へ、薬の賢い使い方と生活習慣の改善法
妊活のため低用量ピルを中止したら、ピルで治まっていた以前の症状が戻ってきてしまい、困っています。妊活中に、症状を軽くするいい方法はありませんか?
実は、多くの妊活中の患者さんが同じ悩みを抱えています。ピルを止めて、以前の症状が“再燃”する方は多いです。
その場合にできる対策は、大きく①妊娠に影響のない薬を使う、②地道に生活改善をする、の2つが挙げられると思います。
まず薬ですが、痛みに対しては、鎮痛薬を効率よく使うのがコツです。ポイントは、痛みが出たら「すぐ」、もしくは「そろそろ生理が来るな」という“痛みが出る前”のタイミングで飲み始めること。早く飲めば、生理痛を引き起こす痛み物質が大量に分泌される前に薬を効かせることができるので、最低限の薬で痛みがコントロールしやすくなります。「鎮痛剤は痛みがひどくなってから飲む」のは薬の効きが悪くなり、もったいない使い方です。
鎮痛剤のほかに、生理痛やPMSの症状に対応した漢方薬を処方することもあります。生理痛によく使うのは「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」、イライラに困っているなら「加味逍遙散(かみしょうようさん)」、イライラと便秘に困っているなら「桃核承気湯(とうかくじょうきとう)」、むくみがつらいなら「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」など、複数の症状に対応した処方も可能です。
生活習慣の改善にもぜひ、積極的に取り組んでください。普段、睡眠時間が短い人は、少しでも長く眠る時間を確保する。朝食を欠かさず、たんぱく質や鉄、亜鉛、マグネシウムなどの微量栄養素を中心に3度の食事の栄養バランスを意識する。体を温める生活にする、などを心がけてみてください。こうした生活改善は、症状の軽減に役立つだけでなく、妊活のためにも有用です。
低用量ピルを飲み忘れないためのコツと、飲み忘れた場合の対処法
勤務時間のシフトが日によって違うので、低用量ピルを飲み忘れてしまいがちで、続きません。何か良い工夫はありますか?
最近は、時間をリマインドしてくれるアプリもあるそうで、それを利用されている患者さんもいらっしゃいます。また、例えば「朝8時に飲む」など時間で決めるのではなく、最初の食事の後、寝る前、歯磨きの後など、生活行動に紐づけて習慣化を試みるのはいかがでしょうか?
ただ、服用時間を厳密に守ろうとするあまり、それができないから服用を諦める、ということにならないでほしいということもお伝えしたいです。飲み忘れた場合、避妊効果が落ちる可能性や、不正出血の可能性はありますが、それを知ってさえいれば、飲み忘れたことで体に何か悪いことが起きるわけではありません。飲み忘れに気付いたら、24時間以内ならすぐにその日の分を飲んで、翌日からは普通に決めたタイミングで飲めば問題ありません。ですから、服用時間にあまり神経質になりすぎずに、ぜひ、ピルを継続することで得られるメリットに目を向けていただけたらと思います。
別の方法としては、毎日飲まなくてもいいタイプのホルモン薬に変えるという選択肢もあります。これはIUS(子宮内黄体ホルモン放出システム、ミレーナ)を使う方法で、子宮の中に入れたT字型の小さな器具から女性ホルモンが少しずつ放出される仕組みです。婦人科でこの小さな器具を子宮に入れてもらえば(装着にかかる時間は、5~10分程度です)、その後は毎日ホルモン剤を飲む手間もなく、避妊効果のほか、生理痛や過多月経などの治療効果が5年間続きます(5年後に婦人科で交換してもらう必要があります)。もし、妊娠したくなったら、器具を抜去してもらうことで避妊効果はなくなります。出産未経験の方や、帝王切開の経験がある経産婦の方では、器具を子宮内に入れづらい場合がありますが、その点を除けば、低用量ピルが使えない喫煙者などもホルモン治療ができる点がIUSのメリットと言えます。
生理の回数を大幅に減らす「連続投与型」低用量ピルとは?
何カ月も生理が来なくなる低用量ピルがあると聞いたのですが、体に影響はないのでしょうか?
何カ月も生理が来なくなる低用量ピルとは、2017年に日本で保険適用になった新しいタイプの低用量ピルです。低用量ピルを飲んで起こる出血は、排卵を伴わない人工的な出血で、医学的には「消退出血」と呼びます。28日サイクルで定期的に出血を起こす従来型の「周期投与型」に対し、新しいタイプは出血を3~4カ月に1回に減らす「連続投与型」と呼ばれます。日本では現在、実薬を77日間服用し7日間休薬(出血を起こす)するタイプと、実薬を最長120日まで連続服用して4日間休薬する2つの連続投与型の薬があり、両方とも月経困難症や子宮内膜症に保険適用があります。
デトックスの質問のところでもお話ししたように、「低用量ピルで生理が来なくなるのは健康に影響がある」と心配する必要はなく、医学的には、低用量ピルで排卵回数を抑制することはむしろ現代女性の健康にとってメリットが多い方法と捉えられています。
昔は女性の出産回数が多く、排卵は一生のうちに50~100回程度だったといわれるのに対し、今は出産回数が減って一人の女性が生涯経験する生理の回数が多く、450回程度と試算できます(※4)。現代女性の多くが排卵を毎月繰り返すため、卵巣や子宮に負担が大きく、そのせいで子宮内膜症などの病気が増えているともいわれています。
生理痛は子宮内膜を体外に排出するために子宮が収縮することで生じる、出血に伴う痛みです。ピルによる消退出血でも痛みが生じる場合がありますが、連続投与型の低用量ピルは年間の出血の回数が減るので、痛みの回数が減る利点があります。また、ホルモン量が長期間安定しますから、ホルモンの変動で起きるPMSの気分の変調などが、より抑えられるメリットもあります。短所は、慣れるまでの間、不正出血が起きやすいという点です。一方で、周期投与のピルを服用すると毎月、定期的に出血があるので、きちんと避妊できていることを実感できるメリットがあります。今は、投与法も薬剤の種類も複数ある中から選択できるので、自分のライフスタイルや好みに合わせて、医師と相談してください。
- ※4HUMAN+日本産婦人科学会編著、Short RV: Proc R Soc LondB Biol Sci 1976; 195: 3-24より算出
順天堂大学医学部大学院卒業。順天堂大学付属病院勤務を経て、平成12年より産科婦人科舘出張佐藤病院勤務。生殖内分泌や腹腔鏡手術が専門。医学博士、順天堂大学産婦人科非常勤講師、日本専門医機構認定産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医、日本女性医学会認定ヘルスケア専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本抗加齢医学会専門医、公益社団法人日本スポーツ協会公認スポーツドクターなど。
(※内容は2026年5月取材時点のものです)