従業員が自発的に取り組む意欲が必須。ムードや“つながり”を会社が作る
「健康経営の推進には、一人ひとりが違う状況に対応していくために『さまざまな角度からアプローチ』していくことが重要なポイント」というのは、ファミリーマートの健康管理室マネジャー、淺田智美さん。女性従業員へのヒアリングで健康経営の必要性を強く感じ、従業員の健康管理を推進している淺田さんと、ダイバーシティ推進を担う北原和佳さんに、同社の女性の健康に関する施策を聞きました。
- 関心を引く声掛けで、男性にも女性の体に関するセミナーへの参加を促す
- 縦に、横に、女性同士のつながりを作り、相談しやすい環境を作る
- 組合と協同し、労使が手を取り、従業員の健康に取り組む

「ゼロ円」のコンテンツも活用。
セミナーと動画を中心に情報提供
ファミリーマートの、女性の健康に関する取り組みを教えてください。
淺田智美さん(以下、淺田さん)生理や更年期といった、女性の体に関する社内セミナーを、年1回、1時間程度で開催しています。男性が女性の体について知らないというのもありますが、女性自身も自分の体のことを意外に知らない。ですから、情報提供を最初にやるべきだと考えました。2019年からスタートし、初年度は女性だけを対象にしたのですが、2年目から、男性も参加できるようにしました。
「女性の体のセミナー」に対して、男性は最初から興味を持ちましたか?
淺田さん最初は参加者全体の1割未満と、決して多くありませんでした。そこで、「男性にも更年期があるんですよ」など、自分のこととして興味を持ってもらえるような言葉で声掛けをした結果、男性の参加者も増え、2022年度には約200人の参加者のうち、約3割が男性になりました。そのときのテーマは「職場内のコミュニケーションをより良くするために! ~男女のホルモンバランスを理解することで、職場円満!~」というもので、コロナの感染症対策のために会場の人数は制限を設けましたが、同時にオンラインでも配信したことで、これまで参加が困難だった地方の従業員も多く参加することができました。
男性の参加者は40~50代が多かったのですが、奥さんや娘さんがいる方もいて、実感として「勉強になった」という声が多く聞かれました。中には「これは全社員に聞かせたほうがいい」と言ってくださる方もいて、きちんと伝えれば、男性も、女性の体のことは必要な知識と感じるのだと手ごたえを感じています。
そのような取り組みは、予算もしっかりつくイメージです。
淺田さんところが、そんなに使っていないんですよ。本社には、従業員用のリフレッシュスペースがあり、そこは費用をかけましたが、基本的には「ゼロ円」のコンテンツを活用しています。
ゼロ円!?
淺田さんセミナーや動画などは、独自に制作しなくても、探すと無料で行ってくれるものがたくさんあります。たとえば、東京都のサポート事業を利用したり、スポーツ庁のスポーツエールカンパニーに認定されていると利用できるものがあったり。女性の健康に知見のある企業が無料でセミナーや動画を準備してくれることもあります。そういったものは、それぞれのイベントポータルサイトをチェックしたり、他社の事例を参考にしたり、情報収集をして活用しています。
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東京・田町にある本社には、マッサージチェアを置いたリラクゼーションスペースがある。
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ストレスチェックやメンタル不調のチェックをできる機械は、自由に使える。
情報発信にも力を入れているんですよね。
淺田さん毎月「健康ニュース」を人事の担当者が制作し、全従業員向けに配信しています。面白そうだと感じてもらえるように気になる言葉や目を引くビジュアルにすることで、「楽しみにしています」と声を掛けられることもあり、一定の効果を感じます。ニュースの内容は、産業医からの情報や健康イベント情報などをまとめた当社オリジナルのもののほか、健康保険組合や無料で提供されているニュースなどを活用し、分かりやすい健康情報を提供しています。毎月の健康ニュースの配信は大変ですが、外部のものをうまく活用することで、効率よく配信しています。
「健康ニュース」では、女性の健康として、月替わりのテーマで情報提供しているほか、動画で学べるセミナーも準備し、衛生委員会で従業員に利用してもらえるように呼び掛けてもらうなどしています。セミナーだと“機会”になってしまいますが、動画ならいつでも見られますから、より多くの人にアクセスしてもらえます。動画も上でお話した無料で提供されるもののほか、健康保険組合が提供するものも積極的に活用しています。

女性同士のつながり作りも重視しているそうですね。
北原和佳さん(以下、北原さん)若い女性従業員と先輩女性従業員をつなぐ、女性同士をつなぐということを、積極的に行っています。それは、身体面だけなく、メンタル面でのサポートという意味も大きいです。座談会を開催し、若い従業員に先輩の働き方や育児との両立について聞いてもらうと、自分の将来をイメージしやすくなります。地方の営業所は、女性が1人ということもありますから、そういった女性たちに、セミナーで実際に集まってもらったり、女性管理職はまだ少ないので、女性管理職の育成としてメンターや女性管理職候補同士につながってもらったり、さまざまなテーマで横のつながりを作れるようにアプローチしています。それらは、ダイバーシティ推進グループから該当者に声を掛けて行うことも、メールマガジンに掲載して参加者を募ることもあります。
女性同士のつながりは、女性の健康を考える上でも必要ですか?
北原さん必要ですね。会社における健康への取り組みは、病気に関するものだけでなく、予防と、万一体調を崩した場合でも働き続けられるという安心感の形成も重要です。心身の健康には個人差がありますから、会社として、それぞれのケースに100%合う施策を準備するのは難しい。そういう中で、同性にちょっとした顔見知りの先輩や連絡できる人がいて、健康面でも仕事のことでも相談できるというのは、安心感につながると思います。
会社からのトップダウンでなく、組合と協力して取り組んでいると聞きました。労使が一緒に取り組むことに意義を感じますか?
淺田さんとても大きいです。健康は個人の意識による部分が大きいので、会社からの呼びかけだけでは難しいんです。組合が中心となって、従業員からも自発的な活動が起こるのは理想的です。会社が企画したセミナーへの参加を組合からも呼び掛けてくれますし、組合独自の活動もあります。
協同する空気はどのように生まれたのでしょうか。
淺田さん会社にとっては、従業員が健康で生き生き働くということは、生産性が上がるというプラスがあります。組合にとっても、会社が組合員の健康に取り組むというのはメリットのあることですから、同じ方向を向けますね。
また、弊社には20年前くらいから続いている「労使みんなで歩こう」という企画があります。年2回、春秋の1か月間、従業員がそれぞれチームを作り、ウオーキングの目標を立てて達成度を競い合います。もともとは組合だけの企画でしたが、それだと組合に入っていない人が参加できないので、会社の企画にして全従業員でやりましょうということになりました。こういった風土があって、労使協同がスムーズにいったように思います。
女性従業員へのヒアリングで“健康経営”の必要性を認識。会社に提案するきっかけに
女性の健康に関する取り組みは、健康経営の中でどのような位置づけですか?
淺田さん弊社の健康管理室は、2019年に立ち上がりました。それまで私は人事部の労務担当だったのですが、2017年にダイバーシティ推進グループが立ち上がり、人材活用という意味での女性活用への取り組みが進む中で、私も「女性従業員が働きやすい会社」というキーワードで何かしたいと思いはじめました。
周りの女性に話を聞くと、生理のときはどうしてもパフォーマンスが落ちるなどの意見が得られました。自分自身を振り返っても、体力面での疲弊がありました。国の健康経営に関する資料などでも、健康状態とパフォーマンスの関係のデータなどが出されていましたし、生理、PMS(月経前症候群)などによりパフォーマンスに影響の多い女性の健康について考えることは、健康経営で考えるべきポイントだと思いました。
健康管理室はスムーズに立ち上がりましたか?
淺田さん健康は個人が管理するべきものという声もありましたが、国の出しているさまざまな健康に関する指標からも、取り組むべきだと説得しました。会社が従業員の健康に取り組むというメッセージを社外にも、そして従業員にもしっかり理解してもらうため、健康管理室という組織を作りました。
提案した淺田さんが、そのまま健康管理室に着任されたんですね。
淺田さんはい。もともと健康にとても興味があり、自身でやりたい気持ちがあったので、素直にやりたいと手を上げました。ただ、この「興味がある」の大切さは、社内で啓発する際にも感じています。
健康経営で本当にアプローチしたいのは、不摂生がやめられない従業員なのですが、そこに直接働きかけようと思っても、なかなか響きません。一方、もともと健康感度の高い従業員は、イベントやセミナーにも積極的に参加してくれます。そして、「参加して良かった」「今度は一緒にやりましょう」などと部署で話題にしてくれます。そういった小さな変化で、社内の健康ムードが少しずつ高まります。
女性は健康意識が高い人が多いので、女性の体に関する取り組みをすると一定の盛り上がりがあります。女性にアプローチするというのは、社内全体の健康ムードを高める一助になると思いますね。
女性の健康に関する取り組みがもたらした、良い影響はありますか?
北原さん育児休業を取得した従業員には、復職時にパートナーと受けられる「ライフ&キャリアデザインカレッジ」という復職研修を実施しています。外部の専門講師を招き、「復職後に育児と仕事を両立するための心構え」をレクチャーしてもらったり、先輩従業員とディスカッションをしたり、より具体的なイメージをもって復職の準備を進められるようにしています。当初は女性従業員向けのつもりでしたが、男性の育児休業者も増えていていることや、パートナーとの参加を勧めていることもあり、今の参加率は、実は男女半々なんですよ。ニーズの広がりに応えて、より参加しやすいように、2021年以降はオンラインで開催しています。これは直接、従業員の健康に関する施策というわけではありませんが、女性への施策が男性にも広がるケースが増えています。
淺田さんそれは、健康に関しても同じですね。私たちは女性向けだと思っていたのに、男性従業員の反応から、男女に関係なく全従業員にニーズのあると気づかされることは多くあります。女性の健康に取り組むことは、会社が今まで手掛けてこなかった潜在的なニーズに気づくための、角度の違うアプローチにもなっていると思います。
業種コンビニエンスストア事業
従業員数(単体)/5,718名 女性従業員数/1,216名(ともに2023年2月現在)
※従業員数は、正社員、嘱託契約、アソシエイト、社外からの受入出向者を含む。社外への出向者、派遣社員、アルバイト、パートを含まず
(※内容は2023年9月取材時点のものです)