不動産業を営むスワンは、従業員7名(2023年9月現在)のうち女性従業員が3名。その全員がアジア系外国人(中国・台湾)です。休み方や病院の利用の仕方などへの感覚の違いを乗り越えて、女性の働きやすさを実現したのは、女性社外経営顧問の丁寧なコミュニケーションでした。
- 体調が悪そうな女性には、周りの目が気にならないように直接声掛け
- 若い女性社員を集め、気になる症状は早めの婦人科の受診を勧める
- 年次有給休暇を時間単位で取得できるようにし、体調不良以外でも使いやすくする

小規模の企業の職場改善は
話しやすい社外経営顧問が着手
女性社員の健康課題に取り組む大屋さんは、スワンの従業員ではなく、社外経営顧問だそうですね。
大屋邦子さん(以下、大屋さん)依頼を受けたのは2019年頃ですが、当時は、出社しても、みんなが自分の仕事だけに集中していて、あいさつもない状態。個人間は仲がいいのですが、基本のコミュニケーションが不足しており、職場の雰囲気が良いとはいえませんでした。小さな会社なので皆さん、思うことがあっても、変えてもらうには社長に直接言わなければならず、言いづらい状況だったようです。従業員のうち女性は3人。みなさんアジア系の外国人です。彼女たちの働きやすさも考え、男性である社長から、“中間管理職”のイメージで話しやすい女性に入ってほしいと、もともと知人だった私に相談がありました。
就任し、最初に着手されたことは?
大屋さん最初に取りかかったのはあいさつやマナーからですが、大きく動いたのは就業規則を社長と作ったことです。弊社は従業員が10名未満なので、就業規則を作る義務がありませんから、以前は社内ルールがあるだけでした。そのため、従業員が休暇や福利厚生をしっかりと理解できておらず、活用されてない実態がありました。体調が悪そうな女性が無理して出勤していることもあったため、しっかり休暇制度を活用しながら働いてほしいと考え、就業規則を作ることを提案しました。
2020年、まさにコロナの感染が拡大し始める頃で、在宅勤務など、柔軟な働き方の仕組みを整える必要に迫られていたという背景もあります。その時に、生理休暇もしっかりと記載し、従業員には休む権利があることを説明しました。
生理休暇は利用されましたか?
大屋さんそれが、利用されなかったんです。女性従業員は3名で、みなさんアジア系の外国人です。日本では、生理の話もオープンに話せるようになってきていますが、中国などアジアの女性は、まだ人前で話すことはできないという意識が強く、生理休暇の話をしても、生理のことを人前で話すなんて……と戸惑われてしまいました。また、生理休暇は無給だったこともあり、休んでもらえませんでした。
それでも必要性を感じたそうですね。
大屋さん目に見えて、生理痛が重くてつらそうな女性がいたんです。彼女に、本当につらいときは無理しないでもらえるように、休みやすくなる方法を考えました。ちょうどその頃、東京労働局で、有休の時間単位取得を導入した企業に補助が出る助成制度があったんです。有休で、さらに時間単位なら、利用してもらえるのではないかと、作ったばかりの就業規則をさらに改定して、時間単位での有休取得についても盛り込みました。
すぐに利用されましたか?
大屋さんすぐに、というわけにはいきませんでした。人数の少ない会社なので、ちょっとしたことで休んだら申し訳ないなど、気持ちの問題も大きかったんです。そこで、そういった空気があっても、「休みます」と言えて、休みを必要としていそうな1人に、有休を取ってくれるように頼みました。“ファーストペンギン”になってもらおうと思って。
最初は、個人的なことで休む必要はないなどと遠慮されましたが、「今、助成金の申請をしていて、従業員が休んだ報告書を出さないとお金がもらえないんです。だから、遠慮せずに休んでください」と説明しました。すると、「え、休むと会社のためになるんですか?」と驚かれたので、「会社のためになるので、時間単位の有休を使ってください」とお願いしました。それで心のハードルが下がったようで、利用してもらえたんです。
その後は、別の方に、「あの方も利用したので、あなたも使ってみたら?」と説得し、個々に話しながら、有休を取りやすい雰囲気を作っていきました。

自分たちで掃除するトイレには
使い捨てのサニタリーボックスを採用
生理痛がつらそうな女性社員の方も、お休みされていますか?
大屋さん彼女には、個別に声を掛けました。周りの目が気になるようだったので、職場に彼女しかいないタイミングで、生理がつらいのではないかと聞きました。
どのように話しましたか?
大屋さん隠しているようだけど、隠すような話ではないと説明し、生理についての知識も伝えました。そのうえで、婦人科にかかりつけ医を持ってほしいという話もしました。
その後、他の女性従業員にも生理の話はしましたか?
大屋さん20代、30代の若い女性ばかりなので、全員を集めて話しました。まず、経血が多い、生理痛がひどいなど、生理が重い場合は、子宮内膜症などの病的な理由も考えられるので、すぐに婦人科を受診してほしいと、医療機関にかかることの重要性を説明しました。さらに、健康診断で女性特有の病気についても検査してもらえるので、年齢に合わせて必要なものを受けるようにも話しました。
また、トイレにサニタリーボックスを置く相談もしました。実は、職場に男女兼用のトイレが一つしかなく、サニタリーボックスを置いていなかったんです。オフィス内のトイレのほかに、オフィスが入っているビルの廊下に共用のトイレがあるので、みんな、生理中はそちらのトイレを使っていました。なので、私から、サニタリーボックスを置くことを提案しました。
受け入れられましたか?
大屋さん職場のトイレに自分の使用したナプキンを捨てるというのはかなり抵抗があるとのことでした。けれど、生理中のお客さまがいらして、トイレを使ったときに困るから置かせてほしいと説得しました。
その結果、納得してもらい、捨てる際の衛生面の抵抗がないように、使い捨てボックスタイプを導入しました。ただ、彼女たちが実際にそれを利用しているかというと、やはり生理中は、オフィスビルの共用トイレ、それも、人があまり来ないような遠い場所にあるトイレを利用しています。他の従業員から見える場所のトイレを、長時間利用しなければならないというのは、職場の人の目が気になるようです。

健康についての会話が増えることで
柔軟な働き方が促進された
就業規則を作り、個々に必要に応じて有休を使うように説得したことで、職場の雰囲気は変わりましたか?
大屋さん変わりました。女性に限らず従業員全員が年齢を重ねてきたこともあり、ちょっとした雑談の中にも健康についての会話が出るようになっています。それに伴い、「今日は体調が悪く通勤電車に乗るのは避けたいけれど、家で仕事はできます。電話も取れます」などとしっかり伝え合えるようになり、スムーズに社内が回っていると思います。
時間単位の有休も、男女問わず、とてもよく利用されています。体調不良だけでなく、子育て中の方は、子どもの送り迎えやイベントなどでも利用していますね。時差出勤制度を導入し、コロナの感染拡大中に在宅勤務できるように職場環境も整えたので、それらを組み合わせながら、みなさん活用してくれています。
職場の設備も、健康に配慮したものを導入していると聞きました。
大屋さん座ったままの作業が続くと腰に負担がかかるので、スタンディングデスク(4人分のスペース)を一つ入れています。職場はフリーアドレス制になっており、立って作業したい人は、そのデスクを使っています。
また、クッション付きの長いソファを一脚、骨盤サポートチェアを五つ用意しています。自由に使っていいようになっており、男女問わず大人気で、すべて使用されていることもよくあるんですよ。疲れたときは、ソファで少し休んでもらうこともできます。

大屋さんは、普段は特に社内の制度設計に関する仕事をしているわけではなく、ビジネス法務以外には法律関係の資格を持っているわけでもないんですね。どのように知識を得ているのですか?
大屋さん東京しごと財団や厚生労働省のウェブサイトを見たり、東京都の「TOKYOはたらくネット」内の各事業のメールマガジンに登録したりして、企業向けの助成などを確認しています。助成に合わせて社長と相談し就業規則を改定していくことで、徐々に整っていっています。メールマガジンでは、他企業を見学できる機会を設けて募集していることもあり、利用しています。また、X(旧Twitter)で、中小企業向けの情報を発信しているようなアカウントをフォローし、情報を得ています。私もアカウントを持っており、「この企業は見学を受け入れてくれますよ」などと発信するようにしています。
業種不動産事業
従業員数/7名 女性従業員数/3名(ともに2023年9月現在)
(※内容は2023年9月取材時点のものです)