女性従業員の比率が約90%の明治安田生命は、女性従業員の健康こそがお客様へのサービスの向上につながると考えます。スタッフと保健師を合わせた約20名で、本社や全国1,100か所以上(2023年9月現在)の営業拠点などで働く従業員の健康改善に取り組む健康経営推進担当部の施策を中心に話を聞きました。

POINT
  • 女性従業員でブレストを行い、女性の悩みに寄り添った支援策を順次拡充
  • 女性の健康課題への理解浸透のため、女性自身向け、管理職向けに動画を提供
  • 社内の風土醸成に向けて、組織の一体化を図る全社プロジェクトを通じて、各部署での創意工夫ある取り組みをボトムアップ活動で推進
桑山裕衣さん・安藤奈緒さん写真
右から、明治安田生命 人事部 ダイバーシティ推進室長 桑山裕衣さん、健康経営推進担当部 安藤奈緒さん

外部のオンラインサービスを導入し
24時間不調を相談できる体制に

明治安田生命の、女性の健康に関する取り組みを教えてください。

安藤奈緒さん(以下、安藤さん)東京・丸の内の本社内に従業員が利用できる診療所があり、そちらに今年(2023年)婦人科外来を新設しました。また、産婦人科医や助産師、小児科医に電話やチャット、LINEで24時間いつでも相談できるオンラインサービス『産婦人科・小児科オンライン』(Kids Public社)も導入しました。小児科もセットになっており、夜間でも相談できるため、夜に子どもが熱を出して心配なときなどにも利用でき、子育てと仕事を両立する従業員にも好評です。

それぞれ、導入した理由を教えてください。

安藤さん弊社は女性従業員の割合が多いので、社内診療所に婦人科外来を新設しようという声は以前からありました。一方で、健康経営推進担当部内で議論を重ねる中で、就業中に診療所に行きづらいとか、女性であっても“婦人科”に抵抗がある人がまだまだいるので、相談窓口のようなものもあったほうがいいという声も出ました。そこで、担当部に所属する保健師に相談し、外部サービスを導入することになったんです。

保健師も健康経営推進担当部に在籍しているんですね。何名くらいいるんですか?

安藤さん4名在籍しています。保健師は、健康診断やストレスチェックなどの運営や事後フォロー、過重労働やメンタルヘルス対策、疾病罹患者の就労支援対策など、さまざまな業務に取り組んでいますが、それに加えて、新しい取り組みへのブレストにも参加してもらい、スタッフが出すアイデアにアドバイスをもらったりしています。

保健師の参加は有意義ですか?

安藤さんすごく勉強になります。私たちスタッフは健康管理などに関する知識・経験の面では臨床経験が豊富な保健師にはかないません。保健師は、病院で経験した実際の患者さんを受け持った際の話を交えながら、私たちスタッフのアイデアに対し、より効果的な施策となるような工夫や改善点を提案してくれます。

先ほどお話したオンラインサービスも、時間外でも健康に関する心配事などを相談できるといいのではという私たちのアイデアに、保健師が「病院に行くほどではないけれど、ちょっと不安なときに聞ける、あるいは、病院に行くべきですか?ということを相談できるサービスがいい」とのことで、Kids Public社のサービスを見つけ、提案してくれました。

新しい施策を始めるときは、何度かブレストという形で打ち合わせに参加してもらい、どのようなサービスにしたらいいか、さらに、運用が始まったらどのように周知していくといいかまで意見をもらい、その内容を踏まえて進めるようにしています。

診療所で女性医師の診療を受ける女性
東京・丸の内にある本社内の診療所、婦人科外来の様子。気になる症状があるときなど、就業時間の合間に聞くことができる。

管理職向けの動画では、女性の健康課題だけでなく、
声のかけ方など具体的な内容に

動画やセミナーも活用されているそうですね。

桑山裕衣さん(以下、桑山さん)女性の健康課題の施策については、健康経営推進担当部とダイバーシティ推進室が一緒に企画・検討を行なっています。ダイバーシティ推進室の役割は、従業員への理解を促進すること。女性自身向け、管理職向けの2種類の動画を制作し、従業員に提供しています。制作は知見のある外部企業に依頼することもありますし、産業医や保健師に登場してもらい、弊社ならではの視点で自前で制作することもあります。

動画やセミナーには種類があるんですね。

桑山さん女性自身向けの動画は、妊娠・出産、そして日々の体調にかかわる生理などをテーマにしたものが多いです。女性向けに制作していますが、男女関係なく、全従業員への視聴を促しています。更年期については、従業員への理解促進についてはこれから取り組むべき課題で、従業員に占めるシニア層の割合は増加していきますので、今後、力を入れていきたいと思っています。

管理職向けのものは、どのような内容なのですか?

桑山さん管理職向けの動画は、女性にはどのような健康課題があるかを解説したうえで、所属員への声かけの仕方なども盛り込んでいます。体調が悪そうな女性がいても、周りの状況をみて声をかけることや、女性から話しやすい面談の仕方などといった、具体的な内容になっています。

男性への施策には、他にどのようなものがありますか?

桑山さん男性の育児休業の取得推進という目的もあるのですが、配偶者が妊娠した男性従業員向けに、女性には妊娠から出産までどのような体や心の変化があるのか、どのようなサポートを期待しているのかを、臨床心理士が解説する動画を制作しました。さらに、今年度から社内システムで、配偶者の出産予定日を事前に報告する仕組みを導入したので、対象者にメールを送信し、参考情報を提供するとともに、動画視聴を推奨する予定です。

育児についてだけではなく、女性の体について知る機会にもなるので、動画の視聴によって理解が深まり、徐々に部署内で女性の体を気遣う風土が醸成されることを期待しています。

女性のがん検診への補助にも力を入れていると聞きました。

安藤さん2022年度から補助を始めています。同年度に弊社の主力商品である総合保障保険の特約として、「がん検診支援給付金付女性がん保障特約」を発売することがきっかけとなりました。この特約は、女性がん検診(乳がん検診・子宮頸がん検診)受診により異常指摘がなかった場合に給付金をお支払いするものです。お客さまにがん検診の受診を推奨する以上は、まず従業員自らががん検診を積極的に受診しようということで、社内で受診勧奨を行うとともに、実際に女性がん検診を受けた従業員には実費を全額補助(上限あり)することにしました

利用者は多いですか?

安藤さん2021年までは、女性従業員の約3割しか女性がん検診を受けていなかったのですが、導入後の2022年は約6割が受けました。受診率の向上により、女性がんの治療を始めた従業員が増えており、がんの早期発見・早期治療につながったものと考えています。

弊社は北海道から沖縄まで、全国に拠点があります。健康に関する取り組みは本社が主体で行っているため、全国で活用されているかが分からないことを懸念していました。たとえば、従業員向けに女性の健康に関する情報提供を行っても、どこで観られたかまではデータが取れませんが、がん検診の利用者は、どの拠点で何人利用したかが分かります。その結果、全国で利用者が増えていると確認できました。あくまでも検診費用の補助だけなのですが、それでも、従業員のための取り組みが、全国にきちんと届いているという一つの手ごたえを実感しました。

健康への取り組みは、「活躍を応援しています」という女性従業員へのメッセージに

女性の健康に関するさまざまな施策を、全国の従業員に知ってもらうのは難しくないですか? あまりにも多すぎると、本当に必要な情報にたどり着かなさそうです。

安藤さん弊社では、お客さまや地域の方々と従業員とが一緒になって取り組む「健康に向けた前向きな活動」=「みんなの健活プロジェクト」というものを推進しています。従業員については、歩数や毎日の生活習慣を記録できる専用アプリの推進など、さまざまな活動に取り組んでいますが、女性の健康に関しては、健康推進専用の「健活ポータルサイト」を開設しており、その中に、今年、「女性の健康」というタブを新設しました。そこを開けば、婦人科外来や相談窓口の利用案内、動画の視聴など、女性の健康に対する取り組みが網羅できるようになっています。

制度や動画コンテンツを作っても、利用してもらえないと意味がないので、ただ作るだけでなく、どのように周知するか、グループ内で日々議論をしています。情報を専用サイトに掲載するにしても、一番目に留まる場所を考える、あるいはセミナーに関する情報はビラにして配るなど、1人で考えて実行することはなく、保健師なども含め、複数の視点で考えます。

積極的に利用し、取り組んでもらえるような施策は実施していますか。

桑山さん弊社には、「お客さまとの絆」、「地域社会との絆」、「働く仲間との絆」、そして「未来世代との絆」という、4つの絆を深める「Kizuna運動」という企業風土・ブランド創造運動を展開しています。全社の各部署で取り組む小集団活動なのですが、具体的にどのような活動に取り組むかは、各部署の工夫に任されています。この活動で「働く仲間との絆」を深める取り組みは、組織内でウオーキングなどを呼びかけ習慣化するなど、健康に関してお互いに気遣い合うという風土づくりに一役買っていると思います。

弊社のような拠点の多い企業で社内に浸透させるためには、目指す姿やテーマを伝えたうえで、ボトムアップで推進する仕組みが非常に有効であると思います。ある部署では、女性従業員から「女性の体調について、管理職にもっと知ってもらいたい」と提案があり、「Kizuna運動」の一環として、部署内で動画を視聴する機会をコーヒータイムに設けたそうです。普段の話ではなかなか知る機会がない女性の体調のことについて、より理解を深めてもらうために、女性従業員がクイズも制作したとか。その際に男性の上司からは、「一人で動画を見るのは恥ずかしいし、女性従業員や妻にいきなり聞けないし……と思っていたので、みんなで知れる機会があるのはいいね」という声があったと聞き、非常にうれしくなりました。

女性の健康に取り組んだことで、どのような良い効果があったでしょうか。

桑山さん女性従業員全体に、「女性の活躍を期待しています」というメッセージが伝わったかなと思います。2012年にダイバーシティ推進室が創設されてから、女性のキャリアアップ支援を重点的に進めてきたことで、女性が自身の能力を最大限に発揮して、長く働き続けることが会社の成長につながると理解され、男性管理職が女性を応援する風土が醸成されていることを感じています。

ただ、“女性の活躍”と言われても、男性と同じようには働けない……と感じる女性もいると思います。「女性の健康」に関する取り組みが加わったことで、会社は女性をサポートしたい、そして長く働き続けてほしいというメッセージが広く届いてほしいと思っています

今後の取り組みの課題はありますか?

安藤さん婦人科外来は本社の診療所にしかないので、全国どこでも診療が受けられるようにしたいと話し合っています。今の婦人科外来を、オンライン診療でも対応したいという構想があります。

明治安田生命保険相互会社

業種生命保険
従業員数/47,385名 女性従業員数/42,812名(2023年3月末時点)

(※内容は2023年9月取材時点のものです)