SaaS事業社PHONE APPLI(フォンアプリ)は、2018年に健康経営を事業の軸に据えると決断して以来、経済産業省「健康経営優良法人2023(ホワイト500)」に5年連続認定され、総務省「令和4年度 テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞するなど、その取り組みが高く評価されています。女性従業員が話し合い生理休暇を「YOU休」という名称にするなど、女性の健康課題への取り組みを中心に話を聞きました。

PHONE APPLIの代表取締役社長、石原洋介さんが登壇したオンラインセミナーのアーカイブ動画はこちら。

POINT
  • ブレーンストーミングや座談会、アンケートで、女性従業員のリアルな声を吸い上げる
  • 上司と部下の「1on1ミーティング」、部署ごとに毎日行う「雑談タイム」で、話しやすい雰囲気づくり
  • 重要な施策の転換は、社長や役員が従業員の前でしっかりと説明する
出口まゆみさん・澁市咲希さん・朱本楽音さん写真
左から、PHONE APPLI ヒューマンサクセス本部 ヒューマンリソース兼ヘルスディベロップメント マネジャー 出口まゆみさん、ヒューマンリソース部 部長 澁市咲希さん、マーケティング企画本部 広報部 朱本楽音さん

生理休暇の有給休暇化で女性従業員の20%が利用。
名称は有休と響きが同じ「YOU休」を採用

生理休暇を「YOU休」という名称にした経緯を教えてください。

出口まゆみさん(以下、出口さん)PHONE APPLIは、2018年のオフィス移転を転機に、社長の石原洋介の旗振りのもと、「社員が健康でいきいきと働いている」状態を目指し、健康経営を推進してきました。「ウェルビーイングな会社にする」という課題が出たときに、ヒューマンリソース部で、何ができるかを話し合う中で、テーマの一つとして「女性特有の健康課題」があがったんです。

生理休暇については、どのように話し合ったのですか?

出口さん当時は健康経営を推進するにあたり、どのような健康に関する悩みがあるか、会社に何を期待するかなどを聞くアンケートを、全従業員に実施していました。そのとき、生理がつらいという意見が寄せられたんです。当時、無給の生理休暇はありましたが、実際にどれくらい使われているのか改めて確認したところ、ほとんど使われていませんでした。これは使いたい人がいないのか、知られていないだけで本当はみんな使いたいのか、疑問が湧きました。それを確かめるために、さらに女性従業員を対象にアンケートを行ったんです。

アンケートの結果はいかがでしたか?

出口さん「生理休暇は取らずに市販薬で我慢している」「有給休暇を使っている」などの声が届きました。「誰にもこのつらさを言えなくて、一人でしんどい思いをしています」という声もあり、会社の課題として取り組みたいと思いました。毎月、誰にも分かってもらえない苦しみを我慢しながら仕事をしているというのは、全然ウェルビーイングではありませんから。仕事の生産性が上がらないという点でも、会社の課題です。制度で症状を和らげることはできないのですが、せめて安心してほしいと思い、有給休暇にしたいと思いました。

生理休暇を「YOU休」という独自の名前にしたのが素晴らしいのですが、その名称はどのように生まれたのですか?

澁市咲希さん(以下、澁市さん)ヒューマンリソース部の女性メンバーを中心に、女性従業員でブレストしながらいろいろな名前を考えました。

名称に込めた思いを教えてください。

澁市さんアンケートの回答に、「生理休暇を取らせてください」という言葉自体が言いづらいという意見がありました。そこで、言いやすくなる言葉はないかと女性従業員が集まって考える中で、「YOU休」を思いつきました。YOUには、「あなたのための休み」という意味を込めており、2021年に生理休暇を1か月に1日分(午前休・午後休と分けて取得することも可能)、年次有給休暇とは別に取得できるようにしたのと同時に、名称も変えました。生理の不調だけでなく、不妊治療や更年期障害等の通院など、女性の健康にかかわるさまざまな理由で使ってもらえます。

この「YOU休」にはもう一つ、意図があります。発語したときに「有休」と音が同じことです。「生理休暇を取ります」よりも「“ゆうきゅう”を取ります」のほうが口に出すときに抵抗が少ないですし、上司は申請の承認時まで「有休」か「YOU休」かが分からなくても、休暇取得に変わりはないので問題はありません。

出口さん「YOU休」採用後は、有給休暇にしたこともあり、利用者が増えました。現在は女性従業員の約20%が利用しています。「YOU休を作ってくれてありがとうございました」という言葉をたくさんいただき、私が今までした仕事の中で、一番感謝された取り組みの一つになりました。同時に、こんなに悩んでいた人がいたのだと、私自身の気付きにもなりました。

テントタイプのミーティングルームで談笑する3名の女性
2018年のオフィス移転の際には、コミュニケーションが生まれやすいように、オフィスの内装自体を工夫。テントタイプのミーティングルームもあり、部署を超えた女性従業員同士の交流の場にも。

生理休暇は、男女が同じように
良いパフォーマンスをするために必要な施策

女性にだけ有休が増えることに、男性から異論は出ませんでしたか?

出口さんそれは、導入前に私たちも考えました。インターネットで調べると、生理休暇を「ずるい」と言う男性がいたり、そのように思われるのが不安という女性がいたり、心配になりました。そこで、ヒューマンリソース部のメンバーと役員とで慎重に話し合ったんです。

そのうえで、会社としては男女を平等に扱いたいけれど、生理や出産は、どうしても女性が担わなければならないものである。それに配慮するのは、女性をひいきするということでなく、男女が同じように良いパフォーマンスをするために必要な施策であると確認しました。役員も、きちんと説明すれば全従業員が分かってくれると判断し、導入を決めました。

実際に、説明する場を設けたのですか?

出口さん全従業員が参加必須のウェビナーを開催し、男性役員が、なぜ「YOU休」を導入するのかを説明しました。生理によってどれくらいパフォーマンスが下がるのかなど、導入の背景となる女性の体についても、その時に説明しています。

ウェビナー後は、どのような声が集まりましたか?

出口さん女性従業員からは「全従業員を対象に開催してくれたおかげで、男性にも生理や女性の健康について理解してもらうことができた」、男性従業員からは「女性の健康について学ぶことができる貴重な機会だった。周囲の女性に対して今まで以上に配慮したいと思う」といった回答がありました。「今後も生理や女性の健康について学ぶ機会を設けてほしい」という意見もあったので、2021年から年に1回、研修動画「みんなの生理研修」を視聴する機会を設けています。毎年同じものを見てもらっていますが、基本を何度も視聴して、きちんと知ることに意味があると考えているので、当面は新しい動画にする予定はありません。

朱本楽音さん(以下、朱本さん)弊社が2018年にウェルビーイング経営に転換し、それを事業の柱の一つに据えると決断した際には、社長の石原自身が全従業員の前で、自身の思いやビジョンの説明をしました。決定事項としてただ伝えるのでなく、その背景を、社長や役員など、意思決定する人たちが丁寧に説明することで、しっかりと根付いていると思います。

会社が2018年にウェルビーイング経営に方向転換したきっかけはあったのですか?

澁市さんもともと弊社は、企業のオフィス移転時に、IP電話の設備工事をおこなったり、企業が自社保有し運用する電話帳サービスを提供したりする事業が主でした。ゴールデンウイークや年末年始など、お客様が休みのときが最も仕事が多く、その時期には残業が増える傾向にありました。当社の過去を知る従業員は、そのときの状況を“毎日が関ケ原”と呼ぶ状態。しかも、1回サービスを売ったらそれで終わりで、疲弊する割には、売上が大きく拡大していくビジネスモデルでないことも悩みでした。殺伐としたオフィスを見て、石原が、もっと社員が健康的にいきいきと働きつつ、事業も成長する会社にしたいと考えたのが始まりです。

一方、IT人材はとても流動的で、その確保のためにはグローバルの企業とも競わなければなりません。給与で競っても上には上がいることから、「社員が健康でいきいきと働いている」という、就労環境で選ばれる企業になろうと考えました。

どのように実践したのですか?

澁市さん二つの課題を解決するために、ウェルビーイング経営と、それを事業化することに取り組みました。健康に関する施策を社内で実践し、そのノウハウを「働き方コンサルティング事業」につなげています。また、ウェルビーイングなオフィスには「お互いを尊重し感謝しあう文化」が必須と考え、弊社が提供するコミュニケーションポータル「PHONE APPLI PEOPLE」には、お互いの感謝をメッセージとして送り合う「PHONE APPLI THANKS」という機能が搭載され、弊社内にも導入されています。契約からビジネスが始まり、お客様の成功に尽力するサービスを提供し続けることで継続的に利益を生むサブスクリプション型の事業が加わり、従業員の負荷を分散させながら事業を伸長させられるようになりました。

1on1ミーティングは、部下が上司を
拘束できる、福利厚生に匹敵する権利

「お互いを尊重し感謝し合う文化」とのことですが、社内コミュニケーションにも力を入れているそうですね。

朱本さん週1回、上司と部下が一対一で話す、30分間の「1on1(ワンオンワン)ミーティング」と、部署ごとに毎日30分間「雑談タイム」を設けています。

1on1ミーティングは、どのように行うのですか?

出口さん社内に1on1ブースが設置してあり、そちらを利用します。オンラインで実施しても構いません。いずれの場合も、弊社で開発した1on1用のアプリに、マイクを通じて音声を送るようになっており、上司側は、オンタイムでどちらがどれくらい話しているか、発話量を確認できるようになっています。

1on1ブース。テーブルを挟んでソファが2脚あり、両サイドはドアも含め透明になっている
オフィスに設けられた1on1専用のブース。音は漏れないが透明性が確保され、密室になるのを防いでいる。テーブルには、発話量測定のための専用のマイクが設置されている。

発話量の測定は意味があるのですか?

出口さん上司と部下の話し合いは、上司が一方的に話しがちですが、石原の考えは、「1on1は、部下が上司を拘束できる、福利厚生に匹敵する権利」です。部下の考えが上司に伝わることが重要ですから、ケースによって数値のブレはありますが、部下が70%、上司が30%という割合で話すのを目安に、それを目指すことを推奨しています。

お互いに話すのが苦手だと、沈黙の30分になってしまいませんか?

澁市さんそのような意見は導入時にもありましたので、不安な方には、『シリコンバレー式 最強の育て方 人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング』(かんき出版)を読むように勧めました。

出口さん1on1が始まる前に、アプリの事前アンケートに答える形で、部下側が、その日の体調や話したい内容を伝えることもできます。1on1は、上司が部下のことを知るための機会ですから、テーマは部下の希望に合わせて、仕事のことでもプライベートのことでもいいということにしています。毎週30分の積み重ねで、もし体調面の不安があれば、上司の性別にかかわらず、話しやすい空気になるように心がけています。

そのほかに、毎日、「雑談タイム」も設けているんですね。

澁市さん原則毎日となっていますが、実際には、業務でほぼ毎日全員が顔を合わせているのであれば、「雑談タイム」は週1回にするなど、部署ごとに臨機応変に運用してもらっています。開催時は、直接オフィスに集まるか、オンラインでつながるか、いずれにしても顔を見て声を聞ける状態にしています。「雑談」となっていますが、仕事の話でもそれ以外の話でも構いません。ただ、目的は業務連絡でなく、部署のコミュニケーションをよくすることだという認識は持ってもらっています。

出口さんこれは、メンタルケアの部分が大きいです。こころの不調については、週1回のミーティングでは間に合わないこともあるので、毎日、メンバーの様子に気づき合うことが趣旨です。気になる人がいたら、「顔色が悪いけど、風邪でも引いたの?」「元気がないけど、何かあった?」などと声をかけるようにしています。そういった声がけも、普段、あまり話していない人が急に言っても委縮してしまいますから、何でもないときのコミュニケーション形成が大切だと思います。

女性従業員だけのチャットがあると聞きました。

澁市さん社内の連絡には、Microsoft Teamsを利用しており、そこに女性特有の健康課題について対話する、女性従業員専用のチャットが存在します。開設の背景は、女性には子どもを産むという身体的な特性があるため、男性とは異なる健康上の問題が存在することから、2018年、女性特有の健康問題に関する施策に対して、従業員の意見を募ったことが始まりでした。現在チャットルームには、すべての女性従業員が参加していて、例えばそこに「生理の悩みを教えてください」などとお題を投げると、それを見た参加者が、記名もしくは匿名でコメントをしてくれます。人事では、コメントを見てさらに詳しく話をききたい方には個別のヒアリングや座談会をおこなったり、性別を問わず全社員に対する説明会をおこなったり、集まった意見を参考に、各施策に反映しています。

個別に具体的でリアルな意見を集める段階において、それぞれのチャットでの対話内容は、参加しているメンバーにしか見ることができないようにしています。そのため、同じような症状や悩みをもつ皆さんが、安心して悩みを書き込めます。そのような場で集まったリアルな意見は、施策を考える際にとても役に立ちました。

出口さんこの意見は皆さんに知ってほしいと思ったら、ご本人に許可を取ったうえで、生理の研修動画視聴をする機会に、「当社にもこんなにつらい人がいるので、分かってください」というようにお話します。これは、知らない人に知ってもらうという意味もありますし、本当につらい思いをしている人への、「一人ではありませんよ、安心してください」というメッセージの意味も込めています。

株式会社PHONE APPLI

業種クラウドサービスの企画・開発・販売、アプリケーション開発・販売、働き方コンサルティング事業など
従業員数/253名 女性従業員数/82名(2023年9月現在)

(※内容は2023年9月取材時点のものです)