企業の取組事例 Case study

複数のフェムテックサービスを導入。生理の悩みや不妊治療などをサポート

[株式会社ポーラ]

キーワードからキーワード別の記事一覧を見ることができます

全国での化粧品の製造販売を軸に、スキンケア・メークブランドの展開、エステティックサービスの提供などを行うポーラでは、女性従業員の健康課題解決のために積極的にフェムテックを導入しています。さらに、女性のライフステージに関わる健康課題を社会課題と考え、それをサポートするプロジェクトを次々に立ち上げています。人事戦略部 ワーキングイノベーションチームで、女性従業員の課題解決に取り組む3人に話を聞きました。

POINT
  • フェムテックサービスを利用し、健康課題に関するセミナー動画視聴や不妊治療へのサポートを実施
  • 生理用品のディスペンサーや、オンラインで完結する低用量ピルの処方など、生理の悩みに応えるサービスを導入
  • 女性従業員の悩みや問題意識を積極的に共有することで、新しいプロジェクトを立ち上げる原動力にする
廣川直子さん・國友渉さん・鈴木ひなさん写真
右から、ポーラ 人事戦略部 ワーキングイノベーションチーム 廣川直子さん、人事戦略部 ワーキングイノベーションチーム チームリーダー 國友 渉さん、人事戦略部 ワーキングイノベーションチーム 鈴木ひなさん

女性の健康課題のプラットホームとなる
フェムテックの導入で細かいニーズに応える

ポーラでは、さまざまなフェムテックを、福利厚生として取り入れていると聞きました。

廣川直子さん(以下、廣川さん)企業のダイバーシティ&インクルージョン推進を支援するCradle(クレードル)や女性の健康課題改善をサポートするルナルナ オフィス、生理用品を個室トイレに常備するディスペンサーOiTr(オイテル)など、複数のサービスを導入しています。また、福利厚生アウトソーシングサービスWELBOX(ウェルボックス)を福利厚生の一つとして取り入れていますが、基本のプランに、弊社オリジナルのメニューとして、吸水ショーツやピル処方などの生理関連の商品購入の費用補助を組み入れてもらっています。

取り入れた時期ときっかけを教えてください。

廣川さん最初は、2021年に取り入れたCradleです。その頃にフェムテックについて国内でますます認知が広がり、関連企業も増え始めました。女性の健康課題に関してプラットホームとなっているようなフェムテックを導入すると、カウンセリングを受けた従業員がそのプラットホーム内で医療機関も探せたり、個別の細かいニーズに応えるような情報や施策を見つけられたり、社内で独自に取り組むよりも広く丁寧なサポートができると分かり、フェムテックの導入を検討しました。

現在はどのように利用していますか?

廣川さん従業員に学習動画やウェビナーの視聴を推奨しています。生理やメンタルケアなどの健康問題だけでなく、企業におけるダイバーシティの重要性を解説したり、女性のライフプランニングを紹介したりとテーマが幅広く、それらを医師や専門家が解説してくれます。

鈴木ひなさん(以下、鈴木さん)毎月2本くらい、新しい動画やウェビナーが公開されるので、そのたびに私が、Microsoft Teamsの社内チャットなど全従業員が見られるところに、「このような動画が公開されたのでご覧ください」とリンク付きで紹介しています。

日本全国の産婦人科・不妊治療・乳腺科などの医療機関と提携していて、それぞれの医療機関で利用できる割引サービスが紹介されています。例えば、出産時にかかる分娩費用・分娩介助費用や不妊治療などへの割引を受けられます。若い従業員の中には、まだ結婚も出産の予定もないけれど、自分の卵巣の状態を知るために、AMH検査(卵巣予備能検査)を受けた人もいて、当事者以外にも、自分の体に向き合うきっかけになっています。

廣川さん不妊治療への補助は、WELBOXを通じて、卵子凍結に関わる保管初期費用、不妊治療の個人負担費用について、一部補助もしています。

これは、希望する従業員への実質的なサポートと同時に、不妊に悩むことも治療を受けることも普通のことだという意識を、社内に浸透させたいという思いもあります。導入検討時に不妊治療の経験がある従業員にヒアリングしたら、治療当時は上司にも同僚にも相談できなかったという答えが返ってきました。プライベートのことは自分で解決しなければいけない、我慢しなければいけないと思ってしまったそうです。そのような話を複数の方から聞き、女性自身の意識を変えたい、社内制度を整えることで、自分の悩みを開示することに抵抗のない空気を作っていきたいと話し合いました。

生理用品配布ディスペンサーは
女性従業員から届いた要望で実現

生理についての施策もあるのですね。

廣川さん最も利用されているのが、OiTrです。

導入のきっかけを教えてください。

鈴木さん従業員から「会社のトイレに生理用品を置いてほしい」と、人事戦略部にチャットで意見が届きました。会議と会議の合間に急に生理になったけれど、生理用品を買いに行く時間がなく、気になって気になって、その後の仕事に集中できないことがあったそうです。

そこで、ワーキングイノベーションチームで検討したのですが、生理用品は医薬部外品に当たるため取り扱いに細かい基準があり、独自で行うのは難しいと分かりました。当時はまだ企業向けに生理用品配布サービスを提供している事業者はありませんでしたが、試験段階という企業を見つけて交渉し、導入しました。

どのように利用するのですか?

鈴木さんスマホに入れた専用アプリ(無料)を起動し、個室トイレに設置されたディスペンサーに近づけると、生理用ナプキンが1枚出てくる仕組みです。商業施設などに設置されたものは、ディスペンサーのディスプレーにいろいろな企業のCMが流れ、その広告収入で無料配布が実現していますが、弊社は法人契約なので、毎月一定額を会社からサービス提供事業者に支払っています。なので、ディスプレーには自社商品の紹介動画を流しています。

トイレに設置されている生理用品無料配布ディスペンサー
複数導入したフェムテックの中でも、最も利用されている生理用品無料配布ディスペンサー

ほかにも生理に関する施策はありますか?

鈴木さんルナルナ オフィスを導入しています。このサービスの利点は、オンラインで低用量ピルや漢方の処方をしてもらえることです。オンラインでつながった婦人科医師の対面カウンセリングを受けると、郵送で送ってもらえます。カウンセリングはスマホで10分もかからずにできるので、休憩時間などに会社からでも利用できます。

私自身、高校時代から生理が重く、低用量ピルを服用しています。自分に合ったかかりつけの婦人科クリニックがありますが、会社からは遠く、平日しか受診できません。入社前は、生理の不調と仕事を両立できるのかと不安だったので、ルナルナ オフィスには本当に助けられています。

オンラインで完了するのは便利ですね。

廣川さん東京の本社内にある健康管理センターには産業医が常駐しており、女性の婦人科医に週1回勤務していただいています。対面だけでなくオンラインでもカウンセリングを受けられるため、地方勤務の方々にも利用していただけますが、とても人気があるので先々まで予約が埋まりがちです。そのような場合でも、健康管理センターのカウンセラーにオンラインで相談したり、ルナルナ オフィスのオンライン診療を活用してもらったり、できるだけ選択肢を増やしていきたいと思っています。

鈴木さん本社の勤務時間はコアタイムのないフルフレックスなので、仕事を調整しながら中抜けすることも可能です。実際に、出社時間を遅くしたり仕事を中抜けしたりすることで、休暇を取ることなく病院で受診している従業員も多いです。

國友 渉さん(以下、國友さん)本社ではそのような柔軟な働き方が可能ですが、百貨店などの全国のショップで働く販売スタッフは、仕事の時間をフレキシブルに調整することが難しいので、空き時間にアクセスできるようなオンラインサービスは役立っていると思います。

また、本社よりも固定した場所や人間関係で仕事をするため、本社の情報が届きにくく、自分の悩みの開示についても遠慮してしまいがちです。ですから、本社の女性管理職をチューターにして、個々に悩みを聞いたりアドバイスをしたりするなど、1人で抱え込んでしまわない環境づくりを心掛けています。

廣川さん会社の健康診断では、希望者は無料で婦人科検診を受けることができます。指定の医療機関での受診で、子宮頸がん検査は全年齢、乳がん検査は30歳以上の女性が対象です。

女性トップ就任で女性の健康課題への
取り組みはスピード感がアップした

2020年にポーラでは、及川美紀さんが、日本の大手化粧品企業では初となる女性トップに就任しました。その影響は、女性の健康課題に関する施策にもありましたか?

廣川さんそれまでもさまざまな取り組みへの提案はありましたが、実行のスピードが上がりました。男性も従業員を思う気持ちは同じですが、女性の悩みを実体験している方が意思決定の場にいると、女性に関する施策への決断が早いと感じます。

2021年からは、配属された部署とは関係なく参加できるビジネスアイデアコンテストが定期的に開催され、プレゼンテーションが通れば事業化する機会が設けられましたが、そこでも女性の健康課題に関するプロジェクトが選ばれました。

どのようなプロジェクトですか?

廣川さん1人の女性従業員が、自分のSNSなどを通じて約100名の女性に生理に関するアンケートを行い、そこから考えた課題を、2021年の社内のビジネスアイデアコンテストに「女性の健康をテーマにした新規事業」としてエントリーしました。ポーラは2023年5月に、女性のライフステージに関わる健康課題を、改めて社会課題として見つめ直すことを目的とした「フェムケアプロジェクト」を本格的に始動すると宣言しましたが、このプロジェクトにも彼女のアイデアや実体験が大きく影響しています。

最初の活動として、2023年5月から9月まで、異業種合同参加型プロジェクト「タブーを自由にラボ」が開催されました。女性の活躍や女性の健康経営に取り組みたい企業16社とポーラが共創し、ポーラのプロジェクトメンバーがファシリテーターとなり、さまざまな課題について話し合った取り組みです。

そこから新しい事業は生まれましたか?

廣川さんプロジェクトの目的は、具体的なビジネスを生むことではなく、女性の体や健康市場について学び、同じ課題意識がある人たちが集まって解決策を話し合うことでした。そこで得た気付きを参加者がそれぞれの企業に持ち帰り、自分たちができることを提案していくきっかけ作りの場だったと考えています。

ポーラで個人の悩みや経験が共有されることで新しい取り組みが生まれているように、企業同士がつながって話し合い、それぞれ声をあげていくことで、日本も少しずつ変わっていけるのではないかと思っています。

國友さん2023年7月にリリースしたmamaniere(ママニエール)という産後ケアアプリは、従業員の提案を事業化したもので、経済産業省令和5年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」に採択され、さらに10月には、すぐれたBabyTech商品やサービスを表彰するコンテスト「BabyTech© Awards 2023」の「妊活と妊娠部門」にて大賞を受賞しました。化粧品のパーソナライズドサービスブランドで実施してきた肌分析の技術を応用して産後の母親の心身の健康状態を分析し、必要なケアを案内するサービスです。

鈴木さん外部の方から、ポーラで新しい取り組みがどんどん立ち上がる理由を聞かれることがあるのですが、従業員が自分の悩みをオープンに話す場と雰囲気があること、それを世の中に役立つような仕事に展開していこうという意識が社内全体にあることが強みだと思います。

廣川さん従業員の課題認識を共有する場としては、社内で部署は関係なくメンバーが集まって作るグループ活動があります。これを私たちは“ワーキンググループ”と呼んでいますが、同じ課題意識を持つ有志が集まる活動で、現在は15~16個くらいあります。例えば、更年期の悩みを抱えた女性従業員が、意気投合した同僚と「クラブアマゾネス」というワーキンググループを立ち上げ、ランチタイムにオンライン交流会を開催したり、婦人科医を招いた講義をウェビナーで開催したりしています。いずれも社内チャットで告知するなどしてメンバーが増えていきます。

國友さん2021年からは「SDGs大会」という、全国の店舗スタッフやビューティーディレクターがグループごとに独自のサステナビリティ活動を、秋に発表し合う場を設けています。その一つとして、2022年に静岡県エリアでは生理の貧困を解決する取り組みを発表。その活動は、テレビの特集で生理の貧困を知った1人のスタッフからの提案でスタートしました。静岡県の男女共同参画センターに働きかけ「生理貧困窓口」を設立してもらったり、NPO法人と連携して市内の定時制高校や経済的に困難を抱えている方に生理用品を無償配布したりしています。

鈴木さん私が社内のフェムケアプロジェクトに加わったきっかけは、仕事の面談で生理の悩みも話したときに、当時の上司から、フェムケアに関するタスクフォースが立ち上がったのでやってみてはどうかと勧められ、自分で会社に希望を出したことでした。個人の悩みが多くの従業員に役立つ施策につながる今の仕事に、本当にやりがいを感じています。管理職以上の立場の人たちに、個々の課題を仕事につなげる意識が共有されていることは、新しい取り組みを生むだけでなく、従業員の自発性を引き出していると思います。

株式会社ポーラ

業種化粧品製造・販売、エステティックサービス事業
従業員数/1,349名 女性従業員数/1,039名(2023年10月現在)

(※内容は2023年10月取材時点のものです)