医療関連事業とニュートラシューティカルズ関連事業の両輪で、トータルヘルスケアカンパニーとして事業展開する大塚製薬は、製品開発で得た知見を活かし、社内の女性の健康課題への理解促進・サポートに努めるだけでなく、社外にも共有する、啓発活動にも力を入れています。2023年から、さらに踏み込んだ新しい試みに取り組む大塚製薬にお話を聞きました。
- 全女性従業員を対象に、任意の「女性の健康アンケート」を実施。従業員の現状を把握する
- 女性の健康に関する悩みを産婦人科産業医に相談できる。後日、医師から動画で個々に回答
- 2024年1月から、新たな制度として「セルフケア休暇」を導入。積立有給休暇制度もより使いやすい制度に改定

「女性の健康アンケート」は事前説明を重視、従業員の心理的安全性を確保
大塚製薬社内の、女性の健康課題に関する取り組みを教えてください。
武田めぐみさん(以下、武田さん)以前からさまざまな取り組みはしていますが、最近の大きなトピックスは二つあります。一つ目が、2023年より、大塚ホールディングス、大塚製薬、大塚製薬健康保険組合とで協力して、女性従業員を対象に「女性の健康アンケート」を開始したこと。二つ目が、2024年1月から、新たな制度として「セルフケア休暇」を導入することです。「セルフケア休暇」は、不妊治療や更年期症状等の治療、性別適合手術・ホルモン治療等を受ける場合に、性別問わず利用できます。女性はもちろんなのですが、性別に限らず、誰もが働きやすい環境を目指しており、より利用しやすい制度となっています。
まず、「女性の健康アンケート」についてうかがいます。どのような目的でアンケートを行ったのでしょうか。
武田さん当社は健康経営に取り組んでおり、女性の健康についての施策も行ってきましたが、2021年に社内で、もっと特化して取り組んでいきたいという意見が出ました。そのときに、具体的な施策を考える前に、社内の女性の健康についてしっかり把握するために、アンケートを実施したいと考えました。
ただ、健康に関するアンケートには、どうしてもプライバシーに踏み込む設問も含まれます。今後の施策を考えるうえで必要な情報が得られることも大切ですが、従業員にアンケートの意義を理解してもらうこと、安心してアンケートに回答してもらえるように準備することが大切なので、早急に行わず、準備期間をしっかりと取りました。近年では、社会的にもセクシャリティーやジェンダーに関する議論も増え、2023年に行ったアンケートはスムーズに開始できたと感じています。
どのようなアンケートだったのですか?
武田さんアンケート調査は、公衆衛生の専門家 の協力のもと行いました。例えば更年期症状の一つといわれる、汗をかきやすい、頭痛がするなどといった体調のことから、少し踏み込んだ設問まで、合計25問。初回ということもあり、回答した人たちからは、結構ボリュームを感じたという意見もありましたので、2024年度のアンケートは内容も見直し、設問数も調整する予定です。
2023年は現状把握が目的なので、抱えている不調など個人のことを聞く設問が多かったのですが、2年目以降は、会社の取り組みを通じて、健康に関する知識をどれくらい持てるようになったかも見ていかなければいけないので、それが分かるような設問を足していきたいです。
従業員の理解を得ることを大切にしたとのことですが、どのようなことをしましたか?
武田さん一番丁寧に行ったのが、従業員の心理的安全性を確保することです。まず、回答はすべて匿名で、個人は特定されません。さらにデータは社内の限られた担当者しかアクセスできないようにしており、社内に公表しているのは集団分析結果だけです。アンケートは匿名であることを伝えながら、なぜ調査を取るのか、その結果をどのように扱うのかを、私や健康保険組合の代表者が話している動画をeラーニングという形で見てもらい、理解していただきました。アンケートは任意でしたが、最終的に女性従業員の約7割が回答してくれています。
アンケートから、どのようなことが分かりましたか?
武田さん調査前、更年期症状に該当する症状をもつ人は、いわゆる更年期と呼ばれる年齢層に集中するのではと予想していました。ところが、更年期症状の中等度にあたる症状がある女性の割合を年代別に集計した結果、20代、30代を含む、幅広い年代に一定数いることが分かりました。
この結果を受けて、全従業員向けに、弊社の婦人科産業医の研修を、対面とオンラインのハイブリッドで行いました。アンケートの内容を共有したあとに、産業医 から女性の健康課題についての講演を行っていただきました。その他に、全従業員を対象に女性の健康について知識を深めてもらうためeラーニングや管理職研修での勉強会を行っています。また、健康保険組合でも産業医の研修動画を制作し、健康保険組合のホームページで公開するとともに、新たに産婦人科産業医に相談できる女性の健康相談窓口を設置しました。

産業医に婦人科医もいるのですね。
武田さんはい、内科・精神科に加え婦人科医とも産業医契約をしています。健康保険組合のホームページには、女性の健康相談窓口も設置しており、フォームに入力する形で悩みを相談できるようになっています。相談者には後日、婦人科医からの回答動画が健康保険組合から送られてきます。また、これまで寄せられた相談は匿名化され、相談内容と回答の要点が文章でまとめられており、従業員であれば誰でも閲覧することが可能です。女性従業員だけでなく、男性従業員が女性の家族のために相談することもあり、男女問わず利用されています。
新たな制度として「セルフケア休暇」を導入。積立有給休暇制度の適用も拡大
セルフケア休暇についても教えてください。
田中静江さん(以下、田中さん)さきほどもお話にあったように、不妊治療や更年期症状等の治療、性別適合手術・ホルモン治療等を受ける場合に利用できる制度です。これまでも不妊治療や更年期症状の治療の場合、積立有給休暇を用いることが可能でしたが、セルフケア休暇とすることで、性別を問わず、誰もが利用しやすい制度とするために新設しました。
誰もが利用しやすい制度とはどういった部分でしょうか。
田中さん不妊治療・更年期症状の治療ともに、性別にかかわらず必要となる可能性があります。また性別適合手術・ホルモン治療を必要とする場合も一定のまとまった休暇が必要です。セルフケア休暇とすることで、その先の理由を明確にしなくても利用することができます。
またセルフケア休暇導入にあたり積立有給休暇の適用範囲を拡大します。
どのように改定するのでしょうか。
田中さん弊社では、2年で失効してしまう年次有給休暇を積立有給休暇として50日分まで積み立てることができる制度を導入しています。これまで使用用途は、疾病や育児・介護・看護を目的とした利用のほか、不妊治療や更年期症状の治療としていました。介護や育児のほか、妊娠中の従業員が、産前休暇を長く取るのに使ったり、育児休業の一部を積立有給休暇にすることで、給与が100%もらえるようにしたり、状況に合わせて有意義に使われていますが、2024年のセルフケア休暇導入にあたり、生理休暇とセルフケア休暇においても積立有給休暇を使用できるようになりました。
女性自身が正しい情報を持ち、自分に合った対処の仕方を選択できるようにしていきたい
大塚製薬は、社外向けに女性の健康に関するセミナーを提供していますね。
田中さんニュートラシューティカルズ事業部という、科学的根拠をベースに健康維持・増進のサポートを目指した事業を展開する部門の中に、女性の健康推進プロジェクトという部署があります。大豆イソフラボンが腸内細菌によって代謝されて生まれるエクオールという成分が女性の健康と美に貢献することを見出し、2014年にエクオールを手軽に取れるサプリメントを発売しました。
女性の健康に関する研究開発や製品展開を進めるうえで女性自身も自身に起こる変化についてよく分かっておらず、対処法を持ち合わせていないことから、女性の健康について、もっと社会的に知ってもらいたいと考えました。女 性の健康推進プロジェクトが運営するホームページなどを通じてさまざまな情報を発信したり、社内外に向けてセミナーを行ったり、啓発活動をしています。
社内外向けのセミナーとは、どのような内容ですか?
田中さん女性自身のヘルスリテラシー向上と男性の理解促進への貢献を目的として、女性自身におこる変化に対して、正しい知識や選択肢を増やすための情報提供を行っています。女性活躍が叫ばれる中、女性特有の不調は「我慢するしかない」「当たり前のこと」と思っている方もまだまだ多く、女性自身も自分の身体に起こる変化についてよく分かっていないというのが現状です。女性がいきいきと過ごすためには、自分に合った対処法を見つけることが大切です。そのためには、様々な選択肢があることを知っていただく必要があると考えました。社外からの要望も非常に多く、省庁・自治体・企業など幅広い箇所で行っています。
大塚製薬にとって、女性の健康課題への取り組みはどのような意味を持ちますか?
武田さん従業員全体がいきいきと活躍できるために、健康課題を比較的多く抱える女性の健康課題の改善は、全体の改善へとつながっていると考えています。
社内において、女性が活躍するためには、健康で働きやすい環境が大切です。2023年は情報提供と管理職や男性従業員を含む周囲の理解促進を中心に行いましたが、2024年は、もう少し実践に踏み込んで、生活習慣を改善することで変化を生むようなプログラムをやっていきたいと企画しています。
環境や制度を整えていくことはもちろんなのですが、それに加えて、女性の健康について、みんなが正しい知識や情報を持つことで自身に合った方法で対処できたり、会社の制度やサポートを活用しながら体調維持・改善を目指すことができたりするのではと思います。そのため女性の健康についての啓発活動は非常に重要だと考えています。そしてこれは社内に限りません。女性にはライフステージごとに様々な変化が訪れます。仕事をしている・していないなどに関わらず、女性がいきいきと過ごすためには女性の健康について知ってもらい、対処の仕方を自分自身で選択してもらえるようにしていきたいと思っています。
事業医薬品・臨床検査・医療機器・食料品・化粧品の製造、製造販売、販売、輸出ならびに輸入
従業員数/5,761名 女性従業員数/1,425名(2022年12月31日現在)
(※内容は2023年11月取材時点のものです)