“フェムアクション”の事業化が、女性の健康課題はみんなで取り組むべき課題という空気を生んだ
OA機器やオフィス家具などを取り扱う、オフィスサプライ事業を中心としたオフィス関連商社、オカモトヤは、1912年(明治45年)に東京・虎ノ門で文具店として創業した老舗企業です。女性活躍推進やフェムテックなど、女性のQOL(生活の質)向上につながる取り組みを“FemAction(フェムアクション)”と名付け、2022年に、性差による働きにくさの解消を実現するための新規事業「Fellne(フェルネ)」を開始した同社の、女性の健康課題に関する施策をうかがいました。
- 女性従業員を対象に、女性の健康とキャリアに関する研修とワークショップを実施
- フェムアクション事業を立ち上げ、社外に向けて、女性のQOL(生活の質)を向上するアクションを広める
- 女性だけで議論せず、男性の意見を積極的に求め、当事者以外にも伝わりやすいアプローチを見つける

ワークショップで、女性のライフステージの変化とキャリアを一緒に考える
22年に女性活躍推進の一環で、女性従業員向けの研修を行ったそうですね。
園田美公さん(以下、園田さん)22年に、女性従業員向けに、女性の健康とキャリアに関する社内研修が4回行われました。女性のキャリアに関する講師を招き、参加者が、自分がどのように働いて成長していきたいかを考えたのですが、その中で、女性には男性にない体の構造があり、それによる不調もあることや、妊娠・出産とキャリアの両立の問題に直面することがテーマの一つに上がりました。
山内杏子さん(以下、山内さん)研修ではワークショップ形式で、4~5人のグループに分かれ、仕事と健康について話し合ったり、自分が感じている悩みや疑問を書き出したりもしました。
実際に参加して、新しい気づきはありましたか?
山内さん自分の考えを言語化することで、これからどのようなキャリアを積んでいきたいのかを再認識できました。また、先輩女性が、どのようなタイミングで仕事や健康で悩んできたのか、それをどのように乗り越えたのかを聞くこともでき、とても参考になりました。妊娠・出産や育児と仕事との両立だけでなく、更年期症状や、介護と仕事との両立など、本当に幅広く聞けました。
研修は誰からの提案でしたか?
園田さん22年に社長に就任した鈴木美樹子から提案されました。鈴木は前社長の娘で、弊社の4代目になります。06年に入社し、14年に専務取締役に就任しましたが、オカモトヤに入社後、2度の出産を経験し、妊娠中も育児中も仕事との両立に苦労した経験から、15年から働き方改革に取り組んできました。最初は、業務用の電話を留守番電話に切り替える時間を19時から定時の18時にするという小さなことから着手し、残業を減らしたり、在宅勤務や時差出勤を導入したり。それにより、従業員が育児と仕事の両立をしやすくなりました。
女性が働き続けるためのサポートも継続的に行っていましたが、その背景には、やはり鈴木自身が、女性のライフステージの変化とキャリアの両立の難しさや、女性特有の健康課題による働きにくさを経験したことがあります。社長就任の年には、社内向けには女性従業員への研修を行い、社外に向けてはフェムアクション事業「Fellne」を立ち上げました。
「Fellne」について、詳しく教えてください。
園田さん社会全体にフェムアクションを増やすことを目的に立ち上げたプロジェクトです。主に企業向けに、フェムアクション関連商品を販売したり、フェムアクションを増やすための製品やサービス、空間を企画したり、導入のサポートをしたりしています。取り扱う商品は、既存のものを仕入れてもいますが、「災害レディースキット」はプロジェクトチームで開発し、販売しています。

プロジェクトが立ち上がるきっかけを教えてください。
園田さん20年に、企業のブランド力やイノベーション力を向上させるための経営講座に鈴木と私とで参加したのですが、ワークの一つとして、オフィスで自分たちが困っていることを挙げました。そのときに、鈴木が、月経血の量がすごく多いことを困りごととして話したんです。それで私も、生理痛で倒れ、電車を止めてしまったことがあるという話をしました。
そのような会話から、「生理とトイレ」というキーワードが浮かびました。月経血が多いと、生理用品をトイレの専用回収ボックスに捨てる際にトイレットペーパーで何重にもくるんで捨てるけれど、ボックスが小さすぎて入らないという話から、高齢で成人用のオムツを使用している人は困っているのではないかという話にまで広がりました。
弊社はオフィスサプライ事業を手掛けていますが、まだトイレには着手できていませんでしたから、「生理快適プロジェクト」として、トイレを中心に、健康課題と仕事の両立を考えるプロジェクトを始めました。
トイレのプロジェクトから、フェムアクションのプロジェクトに変化しましたね。
園田さん実際にスタートしてみると、配管の問題もあり、イメージしたトイレをそのまま形にするのにはハードルが高いことが分かりました。一方で、生理や女性の健康課題へのアプローチは、トイレ以外にもできることがある、フェムテックという市場があるということが分かりました。そこで、トイレにこだわらずに考え直しました。
現在、「Fellne」には何人が携わっていますか?
園田さん7名のうち専属は私だけで、他は別の部署との兼務です。プロジェクト発足時から、手挙げ制でメンバーを募っています。現在は、6名が女性、男性は1名という構成です。
男性も自分から希望したのですか?
園田さんプロジェクト発足時に1人いた男性は、EC事業を行うために技術的に参加してもらったのですが、現在の男性メンバーは自分から希望してくれました。女性の健康課題に興味があるというよりも、新規事業の立ち上げを、キャリアの成長の場と考え興味を持ったそうです。
山内さん私も彼と同じように、新しい仕事へのチャレンジが目的でした。プロジェクトが社長直轄というのも、なかなかできない経験だと興味を持ったんです。女性ならではの問題意識などと言われますが、私は、生理を自分の困りごととしてとらえてはいませんでしたから、プロジェクトを通じてさまざまな女性の話を聞く機会があり、学ぶことが多いです。
男性の素朴な疑問が、広く理解されるアプローチのヒントになる
女性の健康課題に関するプロジェクトは、悩みを持つ女性たちが集まって進めていくイメージですが、オカモトヤは少し違うのですね。
園田さん社外向けの事業として立ち上がっていることが大きいかもしれません。ただ、プロジェクトの発足は鈴木の生理の困りごとでしたし、私自身、前職で体調を崩し生理が止まったことがあるので、同じ女性に自分の体を守る大切さは伝えたいと思っていました。ですから、プロジェクトの根底には、自分たちの体験を踏まえて、女性の健康課題を解決することで、女性の働きにくさを解決していきたいという思いがあります。
園田さん自身の問題意識もあるのですね。
園田さんはい。私は前職が、長時間労働が常態化し、休日も電話やメール対応を求められる、とてもハードな職場でした。上場前のベンチャーで、みんなが上場に向けて頑張っていましたから、その働き方を当たり前だと思い、体調を崩して生理が止まったにもかかわらず、長い間放置してしまったんです。その後、妊娠を考えたときに、医師から、生理が止まっている時期が長かったため子宮の状態が悪く、着床しないかもしれないと、不妊を告げられてしまいました。そのようなこともあり、きちんと休みが取れて、定時で帰れるような企業で働きたいと、弊社に転職しました。
今はパートナーと話し合って、子どもを持たない人生をポジティブにとらえていますが、不妊を告げられたときは、やはりショックでした。そのときに強く思ったのが、自分の体は自分にしか守れないということ。ですから、女性には、体調が悪いときはきちんと言って休んでくださいと伝えたいし、社会や企業も、それができる環境であってほしいと思っています。
一方で、チームには、女性の健康課題が“自分ごと”ではない男性もいますね。気を使って、話しづらくならないですか?
園田さんむしろ新しい気付きをもらえる、大切な存在です。プロジェクトですから、生理の話にも不妊の話にも、男性であっても自然に参加しています。そんな中で、例えば女性同士で生理のつらさを話していると、男性メンバーが「男性はどういうふうに声を掛けたらいいですか?」とか、PMSでイライラするという話のときには、「どうしたら落ち着きますか?」など、当事者以外ができることを疑問として意見を出してくれます。
女性の健康課題は、確かに女性の問題なのですが、男性に理解してもらうことも必要です。ですから、チームに男性がいて、何も知らない男性の目線で質問をしてくれるのは、意義のあることだと思います。
山内さん「災害用レディースキット」は、企業の防災担当者に直接見ていただく機会も多くあります。先日、男性の担当者から、「生理用品には昼用と夜用があるけれど、朝用は必要ないんですか?」と質問されました。私たちは、昼用は何度もトイレに行ける日中用、夜用は就寝用と当たり前のように考えていたので、とても新鮮でした。自分たちが当たり前だと思っていることに、違う目線で疑問を感じて意見をもらえるのは、とても勉強になります。
園田さん当事者が集まって、深めていく議論も大切ですが、さまざまな視点から広く意見をもらうことも、課題解決には重要です。「Fellne」が社外に向けた事業としてスタートしたことで、どちらもできる環境が整っていると思います。
女性の健康課題に関する事業をスタートしたことは、オカモトヤの中でも、女性の健康への理解が深まるきっかけになっていますか?
園田さんはい。フェムアクション関連商品の展示会を、顧客となる企業向けに社内の展示会場で行いましたが、鈴木が社内にも展示会に足を運んでくれるように案内したことで、弊社の従業員も男女共にたくさん来てくれました。
山内さん私も説明ブースに立ったのですが、男性上司が来てくれました。生理用品を見て、「このピラピラは何?こんなに大きさの種類が必要なの?」と質問されたので、ピラピラは羽根といって生理用品がずれないように下着に固定するものだとか、日によって月経血の量が違うことや、人によっても量が違うことなどを伝えました。そこから、生理中は洋服ににじんでいないか気になることや、私は学生時代から生理痛対策で低用量ピルを服用しているので、薬を使う方法もあることなども話しました。
まさか上司と生理の話をする日がくるとは!と思いましたが、目の前にプロダクトがあることで、セミナーなどの座学とは違う話しやすさがあったと思います。
展示会を経て、社内に生理について話しやすいオープンな雰囲気は生まれましたか?
山内さん15年に始まった働き方改革以降は、在宅勤務や時差出勤の制度を使いながら、女性自身が体調に合わせて働き方を調整できますが、それに異を唱えられたことはなく、もともと理解のある職場になっていました。けれど、展示会や「Fellne」のプロジェクトによって、女性の健康課題は、みんなで解決していかなければいけない問題だという空気が共有できたように思います。
オカモトヤは、年齢の高い男性も女性の健康課題に向き合っているのが素晴らしいですね。
園田さんプロジェクトを通じて感じるのが、年齢を問わず、話せば分かってくれる男性が多いということです。女性も、「男性には分かってもらえない」という思い込みを捨てて、一緒に考えましょうと提案をしていくことが大切だと思います。
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東京・虎ノ門のオフィス内には、24年1月から、「Fellne」が提案するセルフメンテナンスルーム(写真内右手前)を設置。2メートル四方のボックスを重ねた個室だ。このスペースは、従業員が実際に利用するとともに、ショールームとして見学も受け入れる(予約制)“ライブオフィス”になっている。
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メンテンナンス時間をより快適にすごせるよう、モードチェンジを後押しする「アメニティバー」を同時に展開。アロマディフューザーやストレッチ器具等のほか、生理用品やメイク落とし、汗拭きシートなど、女性に役立つ衛生グッズも用意されている。
事業文具、事務用品、OA機器、オフィス家具の仕入、販売。コピー機、加算機の修理。印刷物の販売、フェムアクション事業等
従業員数/133名 女性従業員数/45名(2024年2月現在)
(※内容は2024年2月取材時点のものです)