企業の取組事例 Case study

男性従業員の提案で、社内フェムテックイベントを開催。ボトムアップで“知る機会”をつくる

[JCOM株式会社]

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放送・配信サービス、通信サービスを中心に、全国5大都市圏で事業を展開するJ:COMは、女性従業員の提案でオンラインセミナーを開催するなど、ボトムアップで積極的に女性の健康課題に取り組んでいます。23年度からスタートした、新しい取り組みについてうかがいました。

POINT
  • 社内横断のタスクフォースチームが中心となり、社内でフェムテックイベントを開催
  • 人事本部主導で、女性従業員同士のネットワークをつくるための交流の場をつくる
  • 経営層が社内に向けて、女性の健康課題やキャリア形成の取り組みに関するメッセージを発信する
小野瀬亜理亜さん・高杉雄樹さん・小橋奈那さん・鈴木直也さん写真
左から、J:COM 人事本部 人財開発部 小野瀬亜理亜さん、人事本部 人財開発部 マネージャー 高杉雄樹さん、ビジネスデザイン本部 ビジネス開発第一部 小橋奈那さん、経営企画室 経営企画部 マネージャー 鈴木直也さん

部下や同僚をサポートできるように、女性のからだについて学びたい男性は多い

24年3月に、社内向けのフェムテックイベントを行ったそうですね。

小橋奈那さん(以下、小橋さん)3月18日に、本社の会議室を使ってフェムテック製品の展示を中心としたイベント「J:COM meets Femtech!」を行いました。目的は、女性のからだについて、女性自身はもちろん、男性にも知ってもらうきっかけにすることです。展示会場には、性別にかかわらず誰でも入れますが、1時間だけ女性限定の時間を設定し、男性がいると入りづらいという女性の声にも応えました。

フェムテックイベントを行うきっかけを教えてください。

鈴木直也さん(以下、鈴木さん)弊社には、トレンドやテクノロジーを使ってどのような新しい価値を提案できるかを研究する「イノベーション推進タスクフォース」という、社内横断型のチームがあります。ビジネスデザイン本部という、新規事業開発を行う部署の副本部長がリーダーとなり、各部署からの推薦でメンバーを募って立ち上がるチームで、任期1年でメンバーを入れ替えます。23年度は、男女半々の10名のチームで、新規事業につながる可能性のあるキーワードを検討しました。私は23年度のサブリーダーとして実務の中心を担いましたが、そこで、キーワードとして、私から提案したのが「フェムテック」です。

女性が自分の体験を踏まえて提案したのでなく、男性の鈴木さんが提案したんですね。なぜフェムテックに注目したのでしょうか。

鈴木さん私は、今は経営企画部に配属されていますが、以前は弊社の営業拠点で営業をサポートするチームにいました。当時のチームに在籍する女性メンバーの中には、PMSの症状がつらい日は出社できないなど、女性特有の健康課題を抱えた人もいました。さらに、数年前に、私の妻が卵巣嚢腫捻転(らんそうのうしゅねんてん)の手術をしたのですが、手術する前は本当に痛そうで。そういったことがずっと心に残っていて、女性の健康課題を解決したり疾患を早期発見したりということを、今のテクノロジーを使って解決できる可能性があると知り、チームの取り組みとして提案したいと思いました。

フェムテックを取り上げることは、すぐに賛同を得られましたか?

鈴木さんはい。メンバー全員が賛成してくれました。今ある事業に具体的に関連するわけではないけれど、すでに事業としてオンライン診療に取り組んでいることもあり、決して親和性がないわけではないと考えました。

会長・社長には、社内のフェムテックイベント開催を決めてから報告したのですが、「経営層は、なかなかすぐにはフェムテックやフェムケアというテーマには踏み込めない、だからこそ若手が声をあげてくれることはうれしい。ケーブルテレビ業界全体にもフェムテックを考えるきっかけとなるイベントとなることを期待している。J:COMが先陣を切って1歩踏み込むことが大事だ」と、強く背中を押されました。

会社として女性の健康課題に取り組んでいると示すには、社外向けのイベントにしたほうが伝わると考えがちです。社内イベントとしてスタートした理由を教えてください。

鈴木さん私の肌感覚で、フェムテックやフェムケアというものへの社内の認知度は、まだまだ低いと感じていました。いずれは事業につながるといいと思いますが、そのためには、まず従業員が知ることが大切だと思い、最初は社内向けの啓発から始めることにしたんです。

セミナーではなく、フェムテックイベントにするというアイデアは、どのようにして生まれたのですか?

鈴木さんタスクフォースチームでフェムテックを取り上げることが決まってから、いろいろなリサーチをしたのですが、その一環で、経済産業省で行われたフェムテックの展示を見に行きました。そこで、フェムテック事業社のfermataの方と知り合い、後日改めてお話したときに、企業向けのイベントサポートもしていると聞いて、協力をお願いしました。

小橋さんイベント当日は、fermata初の男性従業員の方に、男性目線で見たフェムテックについて話してもらったあと、弊社の女性従業員も一緒に登壇して、女性の本音も交えたトークイベントも開催しました。

フェムテックイベント会場写真。「みんなで知ろう 女性が抱える健康課題 J:COM meets Femtech!」と掲示されている
フェムテックイベント当日の様子。会議室には、日本未上陸を含むフェムテック・フェムケア製品などが約40品展示され、実際に見たり手に取ったりすることができた。

イベントは、タスクフォースチームだけで実行したのでしょうか?

小橋さんチーム内で事務局をつくってから、社内で運営メンバーを募集しました。その結果、事務局以外に12名のメンバーが集まりました。その半数は男性です。

鈴木さん女性と同数の男性希望者が集まったことには、私も驚きました。さらに、イベントの企画を練る段階で、20問程度の任意の社内アンケートも実施したのですが、800件の回答を得たうち、約55%が男性の回答だったんです。私と同じように、職場の部下や同僚女性の健康課題について学び、サポートできるようになりたいという男性が、実は多いのだと感じました。

今、同席している人事本部の高杉と小野瀬も、手挙げでプロジェクトに加わってくれたメンバーなんですよ。

高杉さんは、今、話題にしている「男性で手を挙げた」1人ですね。

高杉雄樹さん(以下、高杉さん)今回、この企画が上がった時点で、募集が開始されたら、率先して立候補しようと決めていました。私は人財開発部で、ウェルビーイング施策に取り組んでいます。女性の健康課題は、その中でも、最も大切なテーマの一つです。今まで、女性の健康課題についてのセミナーや研修などは行ってきましたし、経営層からも、女性活躍推進の一環として、女性の健康課題やキャリア形成に関するメッセージは発信いただいていますが、ボトムアップでフェムテックイベントという具体的な取り組みが立ち上がったことに興味を持ちました。

当初、フェムテックイベントは、女性の健康課題への理解促進という目的でマネジメントを行う管理者向けの必須研修としても良いのではないかとの議論もありましたが、準備期間が4か月程度と短く、告知が急になってしまうことから、まずは自発的な参加を呼び掛けるところからスタートすることにしました。

小橋さん社内のネットワーク上で告知したり、ポスターを貼ったりして参加を呼びかけたのですが、イベント当日はたくさんの人が来てくれました。管理職の方が周囲のメンバーにイベントのことを話してくれたり、部下と一緒に来てくれたり、年齢や性別が偏ることなく、みんなで盛り上げてくれました。

実際に参加した男性従業員からは、展示を見ること自体がハラスメントになるのではないかと不安に思っていたが、実際に自分の目で見て知ることで、タブーではないのだなと実感したという声が聞かれるなど、新たな気づきにつながったといった感想が寄せられました。

高杉さん私も、同じ部署の人を中心に、展示会に参加いただくように声を掛けました。

鈴木さん今回は東京・丸の内の本社だけで開催しましたが、たまたま有給休暇で東京に来ていた北海道の従業員が、このイベントに参加するために、わざわざ本社を訪ねてくれたのがうれしかったですね。

女性従業員同士のつながりを構築し、相談し合える環境をつくる

フェムテックイベントは、タスクフォースチームが中心となりボトムアップで企画されましたが、人事本部でも、23年から、女性の課題解決に関する取り組みをスタートしたそうですね。

小野瀬亜理亜さん(以下、小野瀬さん)女性従業員座談会「Career:café for JJ」(キャリア ツナグ カフェ フォー ジェイジェイ)という取り組みです。これは、健康課題をテーマとしているわけではなく、従業員間で多様なロールモデルとの交流を通し、女性従業員のキャリアアップに対する意欲向上や、女性従業員同士のネットワーク構築につなげることを目的としています。リアルの対面スタイルで、全国6拠点で開催しました。

「Career」は、自身の将来のCareerを考える&実現すること、「:」は、ふたつのものを繋ぐ、結び付けるという意味を込めた「J:COM」の「:(コロン)」、「café」はリラックスしてコミュニケーションが取れる場、「for JJ」は、ジェイコム女性のため、という意味を込めて、「Career:café for JJ」と名付けました。

スタートのきっかけを教えてください。

小野瀬さん人事本部では毎年従業員の意識調査を実施しています。女性従業員から約7割が男性という環境の中で、身近に女性のロールモデルがいないという声がかねてから多く聞かれました。会社としては、女性管理職を増やしたいと考えており、経営陣から、女性従業員のキャリア意欲を後押しする取り組みを考えてほしいと言われていたこともきっかけとなって、交流する場をつくることにしました。

参加は任意ですか?

小野瀬さんはい、希望者のみになります。ただ、今回は女性管理職という働き方を知ってもらうことが目的だったので、ロールモデルとなる女性管理職には人事本部から参加をお願いしています。最終的に、6拠点で女性従業員164名+女性管理職36名が参加してくれました。

開催当日は、東京本社の人事本部から運営担当が赴き、管理職女性1~2人に対し少人数の女性が座るようにテーブルと椅子をセッティングし、簡単なお菓子とお茶を用意しました。座る席はこちらで指定し、時間を区切って、管理職女性だけがテーブルを移動し、参加者が複数の管理職の話を聞けるようにしました。

終了後は立食形式の懇親会を設け、さらに掘り下げた話を聞きたいとか、管理職同士、参加社員同士で自由に交流したいという声にも応えています。

参加者同士で、健康課題についての話もされたそうですね。

小野瀬さんそうですね。これは運営として参加して、私も勉強になったことなのですが、参加した従業員の多くが、お客さまサポートや営業の担当だったんですね。普段は男性の多い職場で仕事をしていて、生理痛やPMSで体調がすぐれないときでも相談しづらいとか、生理のときに頻繁にトイレに行くのも気が引けるという声が聞かれました。そういったことを話せる環境がないという声が大きかったですね。

今回協力してくれた女性管理職は、結婚している人もいれば独身もいたし、子どもがいる人だけでもなく、本当に年齢もライフスタイルもさまざまでした。質問する女性は、ライフプランとキャリアに関することだけでなく、健康課題も含め、ちょっとした困りごとを「こういうときはどうしましたか?」などと質問していました。会社がセミナーとして学びの場を用意するだけでなく、女性同士をつないでサポートし合える環境をつくることは、本当に大切だと思いました。

取り組みを通じて、縦や横のつながりはできましたか?

小野瀬さんはい。先輩と後輩というつながりだけでなく、同じ業務をしている人同士でも連絡先を交換していました。

今後も「Career:café for JJ」は続けていく予定ですか?

高杉さん今後も継続して開催する予定です。今回は女性管理職との座談会を企画しましたが、来期は本部長や執行役員にも参加してもらい、さらに上位層の管理職を目指す層を増やしていきたいと思っています。女性限定にせず、男性管理職とも話したいという声も挙がったので、毎年、アプローチの形を変えつつ、続けていきたいですね。

JCOM株式会社

事業ケーブルテレビ局の統括運営を通じた有線テレビジョン放送事業及び電気通信事業、ケーブルテレビ局及びデジタル衛星放送向け番組供給事業統括
従業員数/16,305名(グループ総計) 女性従業員比率(正社員)/約30%(2023年3月末現在)

(※内容は2024年3月取材時点のものです)