企業の取組事例 Case study

生理休暇を「Her Day Leave(ハーデイ・リーブ)に名称変更。女性のからだの不調全般に適用を拡大

[オルガノン株式会社]

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米国ニュージャージー州ジャージーシティに本社を置くオルガノンは、3年前に米国の大手製薬企業から会社分割という形で設立された、女性の生涯を通じた健康の向上に注力するグローバルヘルスケア企業。医薬品や医療機器、医療ソリューションの提供を通じて、女性の健康をサポートすることを企業理念に据えています。オルガノンが社内に対して行う女性の健康課題に関する取組について、代表取締役社長の櫻井亮太さんにうかがいました。

POINT
  • 生理休暇の名称をHer Day Leaveに変更。「Her Day」という言葉に、女性が自分のために取る休暇という意味を込めた
  • Her Day Leave導入前に月経痛体験などのイベントを行い、女性の健康課題を社内で話しやすい環境を作る
  • 3月8日の国際女性デーを、グローバルの拠点すべてで全従業員有給休暇に設定
櫻井亮太さん写真
オルガノン 代表取締役社長 櫻井亮太さん

生理痛体験イベントで従業員同士のディスカッションの機会を設ける

2023年9月に、生理休暇をHer Day Leave(ハーデイ・リーブ)という名称に変更したそうですね。

櫻井亮太さん(以下、櫻井さん)生理休暇は、それまでも有給休暇で取得できましたが、制度はあるのに使われていない状態でした。その理由を社内でヒアリングしたところ、上長に「生理休暇」と申請するのに抵抗があるという声が聞かれました。そこで、名称をHer Day Leaveとしつつ、1か月に3営業日まで、1日または半日単位で有給として取得できるようにしました。

Her Day Leaveという名前は、どのように決まったのですか?

櫻井さんLeaveは、英語で休暇を表します。そこにHer Day=彼女の日という意味の英語を付けることで、女性が自分のために休める休暇だと表しています。Her Day Leaveに名称変更するのと同時に、休暇の適用範囲を生理だけでなく、PMSや更年期症状など、女性のからだ特有の不調にまで広げました。Her Day Leaveについては、取得時に、生理やPMS、更年期症状などの事由を言わずに取得できます。

名称変更の際には、説明会などを開いたのでしょうか?

櫻井さんHer Day Leaveのスタートは23年9月1日でしたが、実際にはその年の初めから導入を決定していました。ただ、運用に向けての議論を進める中で、名称を変えても、職場の理解が進まなければ取得しにくい環境は無くならないのではないかという意見も出ました。そこで、導入に先駆けて、その年の4月に女性のからだに関する社内イベントを行いました。

どのようなイベントですか?

櫻井さんオフィスにイベント会場を作り、半日使って、生理に関する商品を展示して手に取って見られるようにしました。また、「月経痛VR体験装置」を使い、生理痛体験も実施しました。従業員のほぼ全員が参加しました。生理痛体験は、機械を使うために時間の制約もあり、半数ほどしか体験できませんでしたが、その後に参加者を男女が半々に近づくように8名程度のグループに分けてディスカッションの時間を持ち、体験できなかった人とも共有できる場を作りました。

櫻井さんも体験しましたか?

櫻井さんはい、体験しました。痛みは想像を超えていましたね。この痛みを抱えて電車に乗るなんて、どんなにつらいだろうと思いました。ただし、デバイスは電気で刺激を与える疑似体験であり、EMS(Electrical Muscle Stimulation:電気筋肉刺激)のトレーニング機器に慣れている人は痛いと感じにくいとか、体形によっても差があるなど、絶対的なものではありません。女性も体験しましたが、「私の痛みはこんなものではない」とか「痛みの感じが違う」などの“反論”も聞かれました。ですが、それをきっかけに「これよりも痛いの?」とか、「どんな痛みなの?」などと、生理痛に関する会話が男女間で生まれたので、実施したことには意味があったと思います。 体験会当日は、海外からのビジターが来ていたので、生理痛体験をしてもらいました。男性は未経験の痛みで驚いていましたし、このような機会を会社として設けたことにも興味を持たれました。

  • スクリーンに「電極パッドの貼り方」というスライドが投影されている

    「月経痛体験」の説明をする、奈良女子大学准教授の佐藤克成さん。

  • 月経痛を体験している櫻井社長

    月経痛VR体験装置で、想像以上の痛みを体験し、思わず手を握り締める櫻井社長。

イベントをきっかけに、生理休暇やHer Day Leaveの取得率は上がりましたか?

櫻井さんはい、上がりました。名称の変更は簡単なのですが、それよりも、女性が、職場の男性が理解しているという前提を感じられることが重要だと、この経験を通して感じました。

生理中でもPMSでも、みなさんが休むわけではなく、実際には出社している人が多くいます。当事者である女性が休みやすくなるだけでなく、周りにとっても、つらそうな様子を見たときに、声を掛けてもいい、気遣いしてもいいという雰囲気ができたのが良かったと思います。特に男性従業員は、心の中で心配していたとしても、女性は自分のからだのことで男性から声を掛けられたくないのではないかと危惧してしまいますからね。

イベントは、会社の人事部などが主導で行ったのですか?

櫻井さん弊社には、「JOIN(ジョイン)」という従業員の有志の集まりがあり、彼らが企画しました。JOINは、約2年間の任期で、交代のタイミングで会社が公示する応募方式です。弊社には組合がないのですが、その代わりとして、従業員の意見を聞いてもらったり、イベントを企画してもらったりして、良い職場環境や社内カルチャーを作っていくこと、従業員のエンゲージメントを作っていくことに協力してもらっています。

女性のからだに関するイベントも、従業員の中に月経痛VR体験装置を使ったことがある人がいて、Her Day Leaveの導入に合わせて体験会をしてみてはどうかというアイデアを提案したことで、JOINが半日使って開催するイベントとして企画を立てて、実行してくれました。

3月には、女性の健康と権利の大切さを伝える国際的な活動「ホワイトリボン」が企画した「ホワイトリボンラン」というチャリティランイベントがあり、弊社は公式拠点の運営を担いました。イベントの実行も、JOINが中心となって、従業員からサポートメンバーを募って行いました。

Her Day Leaveは女性の健康のための休暇とのことですが、不妊治療も含まれるのでしょうか?

櫻井さんHer Day Leaveは、女性のホルモンに起因するような体調不良に限定しています。それ以外については、「Flexi Leave(フレキシ・リーブ)」という別の休暇を利用してもらっています。これは特別有給休暇として、1年に10営業日まで取得できる休暇で、自分の傷病や家族の看病・介護、また妊娠中の通院や、その付き添い、出産の立ち合いなどに利用できます。不妊治療も、Flexi Leaveを使えます。

国際女性デーを全従業員有給休暇に指定

休暇制度だけでなく、働き方でも、女性の健康課題と仕事の両立がしやすくなるように整えているそうですね。

櫻井さん柔軟な勤務体系を取っています。制限なくリモートで仕事ができることになっており、出社を強要していません。また、裁量労働制を基本としています。コアタイムもありませんから、自分で判断して、日によっては短時間勤務にすることもできます。

これは、女性、男性に関わらず、さまざまなバックグラウンドの人たちが活躍できる環境を、会社として整えていきたいという思いから導入しました。日本では、フルタイムで働けることを前提にした会社の制度や仕組みが主流ですが、一方で、女性が家庭のケアの部分を担うことが多く、働きづらさがあると思います。それを当然とは思いませんが、会社としては、今の社会状況でも女性が最大限にパフォーマンスを発揮できる環境を整えていきたいと思っています。

3月8日の国際女性デーを休暇にしているそうですね。

櫻井さん2022年から、オルガノンは、世界に140か所以上の拠点がありますが、全世界的に、3月8日を全従業員有給休暇に指定し、女性や家族の健康に向き合う機会としています。

社会的にも考える機会にしてもらいたいと思っており、2023年には、米国の経済新聞ウォール・ストリート・ジャーナルに、国際女性デー全社一斉休暇の一面広告を掲載しました。日本法人では、W society実行委員会と共同で、『女性の健康とキャリアに関する調査』を行い、今年の3月8日に調査結果を発表しました。

従業員も個々で“発信”しているそうですね。

櫻井さん「Out Of Office」という画像を作って、3月8日に届くメールなどへの自動返信に設定したり自身のソーシャルメディアに投稿したりするムーブメントもあります。グローバルの従業員の間で自発的に発生したもので、3月8日に「国際女性デーの休暇で本日は会社にいません」とアピールする活動ですが、興味を持った他社の方から反応をいただいたという話も聞きました。

女性の健康と従業員のウェルビーイングを考えながらビジョンを達成していくことを会社の基本方針としていますが、それを会社として行うだけでなく、従業員一人一人からも、少しずつムーブメントとして広げていかれるといいと思っています。

オルガノン株式会社

事業医療用医薬品輸入製造販売
従業員数/約100名 女性従業員比率(正社員)/約45%(日本法人のみの従業員数、2024年5月末現在)

(※内容は2024年5月取材時点のものです)