有志の「女性の健康支援プロジェクト」と協力し、本当に必要とする施策を検討
2023年10月にZホールディングスとヤフー、LINEなどのグループ会社による再編を経て誕生した「LINEヤフー」。ヤフーは、2014年から有志による女性の健康支援プロジェクトが始まるなど、いち早く女性の健康課題に着目してきました。LINEヤフーとしての現在の取組をうかがいました。
- 月2回、女性の健康課題も含めたヘルスケアやDE&Iに焦点を当てたオンラインセミナーを実施
- 不妊治療への費用補助や休暇制度を設置し、不妊治療とキャリアの両立を図れる環境を整備
- 生理だけでなく、女性特有の心身の不調や対処に対象を広げたF休暇制度(エフ休)を導入

フェムテックを利用し、毎月オンラインセミナーを開催
昨年10月にLINEヤフーが誕生しました。女性の健康課題への取組に変化はありましたか?
谷口美明さん(以下、谷口さん)合併したグループ企業各社には、それぞれの特徴や企業文化がありましたから、互いの良いところを抽出して制度を整えてきました。例えば、ヤフーは従業員数が多く、世代の幅も広いので、あらゆるライフステージの従業員の事情を鑑みた制度を意識していました。一方、LINEはグローバル企業で、拠点のある国によって健康に対する意識や文化も異なります。そうした企業ごとの違いを整理しながらサポート体制を構築したうえで、「健康診断受診率100%。2028年度 特定保健指導完了率60%実施」を掲げ、従業員に働きかけています。
女性の健康への注力はもちろんですが、性別や国籍などを問わず、全従業員に最大限のパフォーマンスを発揮してもらう点に軸を置いて制度化しているのが、弊社の健康経営の特徴です。
女性の健康課題については、具体的にどのような制度や施策がありますか?
加茂 隆さん(以下、加茂さん)合併前の各社のすべての取組をいったんまとめて、精査しながら、決して後退になってしまわないように整えています。例えば、キャリアと不妊治療を両立するための「プレグナンシーサポート制度」は、不妊治療のために医療機関を受診する場合、年10日間の有給休暇を取得できます。また、一時的に業務から離れて不妊治療したい場合の休職制度も用意しています。本人負担の半額かつ1世帯あたり年10万円までの費用補助制度もあり、これは配偶者の治療も対象になります。
提携企業と一緒に、卵巣の中に卵子がどれくらい残っているかを調べるAMH検査(卵巣予備能検査)と健康相談を無料で提供する施策もスタートしました。その他、不妊治療や低用量ピルの処方、骨密度検査、女性以外も受けられる全身がん検査などで使える割引クーポンも提供しています。それらは、そのようなサービスを提供する企業を利用しています。
ヘルスケアのセミナーも定期的に実施されているそうですね。
加茂さん2022年から、企業のDE&I推進をサポートする事業者「Cradle(クレードル)」を利用して、月2回、テーマに沿った専門家を招いて無料のオンラインセミナーを開催しています。テーマ設定は、基本的にはクレードルに一任していますが、低用量ピルでの月経移動を説明するといった生理に関する情報はもちろん、妊娠・出産、更年期における女性の体の変化、男性の更年期など、全従業員に関わるテーマを選びつつ、ニュースで注目されている旬のテーマを盛り込むなど、従業員の興味を引くように構成していただいています。例えば、東京都で助成が始まったことで注目された「卵子凍結」は、「10分で分かる卵子凍結」という動画を見てもらいました。
セミナーは強制ではありませんが、「昼休みなど仕事の合間に気軽に聞いてください」というスタンスで周知しているのが功を奏しているのか、多くの従業員が受講しています。アーカイブ動画も用意しているので、家で家族一緒に見ているケースもあると思います。私自身、女性の健康課題について、セミナーを通じて初めて理解した内容もあり、管理職という立場として正しい知識を得ることはとても大事だと感じました。多くの従業員に受けてほしいと思ったので、社内SNSなどでセミナー情報を発信するなど、広く周知し、興味を持ってもらえるように努めています。
たくさんの制度や施策があると、かえって必要なものが必要な人に届かないのではないかという心配も出ます。それらを周知させる工夫はありますか?
加茂さん弊社では、従業員のコンディションやモチベーションなどを知るために定期的にアンケートを採っています。そういった機会に、「こういう健康に関する社内制度を知っていますか」という項目を加え、認知度を確認しています。「知らない」という回答が多ければあまり浸透していないということなので、われわれのアナウンスの仕方を変えるといった改善策を考えます。一方で、アンケートで聞かれたことで、制度を知る人もいますから、アンケート調査自体が認知度の向上にもつながっていると思います。
有志プロジェクトの働きかけで生理休暇の名称変更、適用範囲も拡大
ヤフーが女性の健康課題に取り組み始めたのが2014年というのは、とても早いですね。
鈴木麻未さん(以下、鈴木さん)背景としては、2013年ごろに子育て中の社員が互いに相談したり、繋がれたりする「パパママプロジェクト」が立ち上がっていて、それをまねる形で、2014年に「女性の健康課題」をテーマにしたプロジェクトをスタートさせました。当時は平均年齢も比較的若かったので、会社の成長にあわせ、社員のライフステージも変化し、それにあわせて発生する課題に対して有志プロジェクトが生まれていたんです。
「女性の健康支援プロジェクト」の活動としては、月に1回、メンバーで啓発アイデアや自身の課題感を話し合うランチ会を実施しています。また、女性が健康でいきいきと働けるために心掛けてほしい10項目を、女性従業員にアンケートという形で聞く「働く女性の健康チェックアンケート」というものも毎年実施し、経年で変化する課題、変化しない課題をモニターしています。
有志活動を通じて考えた、会社として取り組んでほしい施策は、DE&Iの事務局を通じて検討してもらうなど、会社に提案しています。
実際に制度化した提案はあるのでしょうか。
鈴木さん会社のさまざまな取組につながっていますが、中でも、2022年に生理休暇の名称をF休暇制度(エフ休)とし、生理だけでなく婦人科受診など女性特有の心身の不調や対処にも使えるように対象を広げたことは大きかったです。プロジェクトで女性従業員に生理に関するアンケートを採ったところ、生理休暇という名称だと使いづらいという声が多く聞かれました。そこで、その結果とともに、会社に名称変更などを提案し、実現しました。エフ休を使うときは、理由を申告する必要はありません。生理休暇の名称変更というだけでなく、通院まで幅広くカバーしたことで、エフ休を取ることが生理中であるとは限らないと認知されるので、取得しやすくなったという声が聞かれました。ヤフーで始まった制度ですが、LINEヤフーでも継続しています。
加茂さん働き方に関連していえば、コロナ以降、「オフィスや自宅などから、1番成果の出る場所を選んで働いてください」というスタンスを取っています。午前中はオフィス、午後は在宅としてもいい。もし生理痛がつらければ当然ながらエフ休を取得することもできますし、業務はできるけれども電車に乗るのがつらい、という状況であれば在宅で勤務をすることも可能です。こうした働き方は、女性の健康課題だけでなく、子育てや介護と仕事の両立のしやすさにもつながっています。
2022年には、ヤフーの社長を含めた役員11人が、女性の健康とメノポーズ協会の「女性の健康検定」を受検し、全員が合格したことが話題になりましたね。
鈴木さん女性の健康支援プロジェクトは2014年発足当初から協会と縁があったこともあり、健康課題への意識が高まったコロナ禍に、当時のスポンサー役員(※)に受検してもらいました。「『女性の健康検定®』の勉強を通して学んだことは、これまで知らなかったことばかりだった。とても勉強になった」と言い、ほかの役員にも受検を働きかけてくれました。結果、常務執行役員以上の全員がチャレンジに同意してくれて全員受検につながりました。それぞれの秘書も、多忙な役員たちが勉強時間を作れるように、受検を支えてくれました。
- ※スポンサー役員:有志プロジェクトごとに役員がスポンサーとしてつき、意見交換やアドバイスをする仕組み
経営層が知識を身につけたことで、どのような良いことがありましたか。
鈴木さん役員の方々が「勉強になった」と思ってくださったことが本当に良かったです。発言の一つ一つが社内外に大きく影響を及ぼす役員に、女性の健康課題について正しい知識を持ってもらうサポートができたと思っています。2024年3月の国際女性デーのイベントに登壇した役員が「女性の健康検定」のために勉強し、受検した経験を話してくれて、とてもうれしかったです。
全役員が検定に合格したことを社内で発表したときに、女性従業員からポジティブな感想が数多く返ってきたのが印象的でした。社外のニュースでも取り上げられ、反響もありました。当時は役員に女性がいなかったのですが、全員が女性の健康課題への知識があれば、男性でも施策の検討ができるようになるというポジティブな面もあると思います。
谷口さん当時、並行してDE&Iマネジメント研修を全管理職対象に実施していました。役員の行動は、女性活躍推進への本気度として、社内に伝わったと思います。
女性の健康における今後の課題を、どのように考えていますか
鈴木さん会社の規模がさらに大きくなったので、健康面において、誰が何に対してどんな課題を抱いているのかという現状をきちんと把握できているかという悩みはあります。まずはきちんと調べて把握したうえで、取り組んでいくことが大事だと思っています。
事業インターネット広告事業、イーコマース事業および会員サービス事業などの展開ならびにグループ会社の経営管理業務など
従業員数/28,502名 女性従業員数/11,352名(2024年3月末現在。主要な子会社を含む集計数値)
(※内容は2024年6月取材時点のものです)