1985年に設立したPR会社サニーサイドアップグループは、2015年に、国内でもいち早く「卵子凍結補助」を福利厚生に導入するなど、女性の健康課題に積極的に向き合っています。時代に合わせてアップデートする同社の取組についてうかがいました。
- 働き方だけでなく生き方の選択肢も広げる制度として「Dear WOMAN」制度を制定
- 卵子凍結費用補助のほか、AMH検査と男性の精液検査費用補助も開始
- 企業横断・産官学連携の社会参画型プロジェクト「W society」を通じて、メンバーも啓発

卵子凍結とAMH検査費用の補助は、キャリアと人生を充実させる選択肢の一つ
サニーサイドアップグループでは、10年ほど前から、女性の健康に関する制度を作っているそうですね。
谷村江美さん(以下、谷村さん)2011年から、「32(サニー)の制度」を制定し、運用しています。「32の制度」とは弊社独自の福利厚生をまとめた名称で、32は社名の「サニー」にちなんでいます。最初に制定したままにせず、時代の潮流に合わせ、またメンバー(サニーサイドアップグループ内での「従業員」の呼び方)からの声を反映し、常にアップデートしています。その中に、2015年、「Dear WOMAN」制度を追加しました。
「Dear WOMAN」制度を、詳しく教えてください。
谷村さん2015年の制定時のメインとなる内容は、卵子凍結費用補助です。導入当時は他社の例は聞かれなかったので、企業の取組としては、国内初に近かったのではないかと思います。採卵や凍結、保存などの費用のうち30%を10年間、会社が負担します。2022年4月に、「Dear WOMAN」制度を拡大する形で、全女性メンバーを対象に「AMH検査」(抗ミュラー管ホルモン検査:卵巣の予備能【卵巣の中に残っている卵胞の数の目安】を反映する血液検査)の費用補助制度を導入しました。
卵子凍結とAMH検査の補助を決定した理由を教えてください。
谷村さんまず最初にお伝えしたいのですが、会社として妊娠・出産を奨励しているわけではありませんし、個人の思いや選択はすべて尊重されるものだということは、全社メンバーにも共有しています。導入のときに社内で話し合ったのは、結婚や出産もキャリアも含め、自分のライフステージというのは、必ずしも自分でコントロールできるものではありませんが、そういう中で、メンバーが少しでも選択できて、納得して決断できる環境を作りたいということでした。仕事を充実させながら、いつかは子どもも授かりたいと思っている女性にとって、心の安心材料になるように、会社としてサポートしたいと考えました。
卵子凍結は、国内でほぼ前例がない段階での導入とのことですが、制度として取り入れるアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
谷村さん2014年に、シリコンバレーのIT企業が会社の福利厚生に卵子凍結を導入しているというニュースを読んだのがきっかけです。そこから社内で、卵子凍結は日本でも一般的に利用可能なのか、どのような病院なら安心して受けられるのかなどのリサーチを、数カ月かけて行いました。また、導入の前に産業医の先生を招いて、メンバー向けに、卵子凍結とはどのようなものか、そのような技術が増えている背景は何なのか、また、女性のからだのメカニズムについても説明する機会を設け、しっかりと勉強してもらいました。
AMH検査への補助を導入するときにも、同様の勉強会は開きましたか?
谷村さんはい。導入の目的が、妊娠を計画している女性だけではなく、すべての妊娠可能年齢の女性にとって大切なケアとして、プレコンセプションケアが当たり前の世の中になってほしいということでした。具体的に出産を考えている人でなくても、自分自身のからだを知り、労ってもらう機会にしてほしいということも伝える機会として、オンラインセミナーを開催しました。
男性メンバーにも自分のからだに向き合う機会を作りたいと考え、2022年7月には、「Dear WOMAN」制度を拡大する形で、男性の精液検査への補助も開始しました。そのときに、弊社の女性メンバーのみを対象としていたAMH検査の対象範囲を、男性メンバーの家族やパートナーにも拡大しました。
セミナーは定期的に行っていますか?
谷村さん卵子凍結やAMH検査に特化したセミナーを、制度の導入時に行った際に大きな反響があったことから、2021年から始まったプロジェクト「W society(ダブリュー ソサイエティ)」を通じて、女性の健康課題についての啓発やセミナーを続けています。
PRの力で、社会全体に女性のからだについて「知る機会」を作っていく
「W society」について教えてください。
谷村さん女性の心身的課題(W=woman)×社会的課題(society)の両面から女性活躍をデザインするプロジェクトとして、サニーサイドアップグループのグループ会社の一つで、コミュニケーションの力を活用した社会課題解決事業を担う「グッドアンドカンパニー」が事務局となって立ち上げました。日本国内に内在する、心身的課題と社会的課題という、二つの大きな課題について、社会全体で向き合い、取り組んでいくことを目的に、さまざまな企業や団体、自治体、学術・研究機関等に参画を募り、企業横断・産官学連携の社会参画型プロジェクトとして推進しており、私が「W society」の主宰を務めています。
「Dear WOMAN」制度が始まった頃からずっと考えていましたが、卵子凍結への補助などを通じ医師の話を聞いたり、AMH検査の費用補助導入を検討したりする過程で、妊孕性(にんようせい)にはタイムリミットがあることを痛感し、PR・コミュニケーションを展開する弊社グループの知見を生かしたプロジェクトの発足を社長の次原に直談判しました。知る機会を持つのは大切だし、知らなければアクションは生まれませんから、弊社内でのアクションにとどめるのでなく、社会に広く知ってもらいたいと考えたんです。
2022年に、AMH検査費用補助のタイミングで行った弊社内のセミナーで、自分の妊孕性を知る手段の一つとして、卵子の数を把握することのできるAMH検査が有効だと話したところ、対象となるメンバーの約15%が2カ月以内に検査を行い、中には、子宮の病気や不調に気づき婦人科を受診した人もいました。社会に広く知ってもらう活動が必要だという思いは、ますます強くなりましたね。
サニーサイドアップグループだけの事業として行うのでなく、企業横断・産官学連携の社会参画型プロジェクトとしてスタートさせたのはなぜですか?
谷村さん女性が個々に女性の健康課題を意識し、問題を解決して、習慣化していくのは、なかなか難しいと思いました。女性が健康課題とキャリアとを両立するには、女性が健康課題を意識するのと同時に、企業が取り組んでいくことも必要だと考え、最初に経団連に後援をお願いしました。現在は、医師を中心としたメディカルパートナーと賛同クリニック、パートナー企業の方々に協力いただきながら運営しています。
先ほど、サニーサイドアップグループ内でも、勉強会の代わりになっているというお話がありましたね。
谷村さんはい。「W society」の活動の一つとしてセミナーの開催があり、「W school」という無料セミナーは、ランチタイムに3カ月に1度くらいのペースで行っています。
生理や更年期などの女性のからだについての話もあれば、男性の育児休業などの話もあり、それぞれのテーマに合わせて、医師などの専門家や企業のスペシャリストを招いています。私がファシリテーターとなって、オンラインセミナー形式で開催しています。「W society」のメールマガジンに登録してくださっている方々のほか、経団連や登録会員企業向けに案内もしていますが、弊社のメンバーも参加できるようになっています。メンバーも積極的に参加してくれており、これが社内セミナーの代わりになっていますね。

社長の次原悦子さんは、上場企業でも数少ない女性創業者ですね。女性の健康課題への取組について、社長の影響も大きかったのでは?
谷村さんそうですね。弊社には、実は生理や更年期に関する具体的な施策はないんです。というのも、創業当初から女性メンバーが多く、男女関係なく、メンバーが人生も充実させながら働ける環境づくりを重視していました。そのような中で、リモートワークやフレックスタイム制などの働き方だけでなく、部署の中でお互いに気遣い合い、サポートし合う文化も自然に育まれています。生理の不調があっても、リモートワークを上手に使ったり、「32の制度」にある「シエスタ制度」で認められた、就業中の公式睡眠タイムを利用して少し横になったりできます。健康課題だけでなく、例えば、私は娘の夏休み期間中にどうしてもスケジュールがうまく組めず、チームメンバーに相談して会社に娘を連れてきたことがあります。
そのようなカルチャーは、一朝一夕でできることではなく、社長を中心に、メンバーみんなで培ってきたものだと思います。必要な施策を制度にしていくことも大切ですが、特別な制度がなくても、それぞれの事情を知って丁寧にコミュニケーションを取っていけば、解決することも多いと思います。広報・PRのプロフェッショナルとして、社会全体に、そういった空気を作っていきたいですね。
事業ブランドコミュニケーション、フードブランディング、ビジネスディベロップメント
従業員数/360名(グループ連結) 女性従業員数/223名(2024年6月末現在)
(※内容は2024年8月取材時点のものです)