企業の取組事例 Case study

低用量ピルと漢方の処方料補助を、自分のからだや不調に向き合うきっかけに

[株式会社SAKURUG]

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システムやウェブサービスの開発/制作や、人材のマッチング事業などを手掛けるSAKURUG(サクラグ)は、従業員の過半数が女性、女性の役員比率も30%を達成した、女性が活躍する会社の一つ。そして、女性活躍を推進する中で、健康課題へのアプローチも重視しています。SAKURUGが取り組む女性の健康課題への施策について、執行役員の木村杏子さんに伺いました。

POINT
  • 低用量ピルと漢方の処方代を補助
  • ダイバーシティラーニングの一環として、女性の健康課題を知るセミナーを開催
  • 時短勤務の従業員が多く、お互いの事情を助け合う空気が醸成されている
木村杏子さん写真
SAKURUG執行役員、DEI推進室 室長 木村杏子さん

互いを思い合う空気の醸成に力を入れる

SAKURUGの、女性の健康課題に関する施策を教えてください。

木村杏子さん(以下、木村さん)2021年7月から、「SAKURUG Women’s保健室」を社内に設置しました。これは、健康経営の一環として、会社が女性メンバーのウェルネスを支援しようとする取組です。低用量ピル処方または漢方処方代を月額2,500円まで会社が補助する、生理痛や更年期症状、PMSなど女性特有の悩みについて、アプリを使ったチャットで専門家に相談できるというもので、いずれもスマルナの法人向けサービスを利用しています。また、「SAKURUG Women’s保健室」とは別に、ダイバーシティラーニングの一環として女性の健康課題に関するセミナーを行っています。

女性特有のからだの悩み相談は、外部サービスとは別に社内の「女性専用窓口」も設け、会社のポータルサイトからメールできるようになっており、例えば、不妊治療を始めるにあたって仕事と両立できるか不安があるなどといった個別の相談を受け付けています。内容をもとに窓口担当者が判断して、必要性と相談者の同意があれば担当の部門に取り次ぎます。

社外のサービスを導入したきっかけを教えてください。

木村さん最初は代表からの提案です。2021年当時は会社が大きく伸び始めた時期で、福利厚生も拡張していきたいと考えていました。採用が増え、社内にも子育てしながら仕事をする女性が増えていたこともあり、女性のための施策が必要なのではないかと思い至ったのです。代表自身は男性なのですが、私を含む何人かの女性メンバーと意見交換の場をつくり、性別問わずパフォーマンスを発揮するためにはどんな施策が必要なのかを議論しました。そこで、まずは女性の生理による体調のアップダウンを会社としてサポートすることを決めました。

フェムテック関連のサービスについては当時から代表が詳しかったので、導入にあたっては代表と当事者グループで相談し、オンラインでできる低用量ピルの処方や不調があるときの相談、セミナー開催などをまとめてサポートしてくれるものに決めました。

女性の健康課題に関するセミナーは、ダイバーシティラーニングの一環なのですね。

木村さん弊社のダイバーシティラーニングの一番大きなテーマが「隣の多様性」です。サポートが必要な従業員を会社として支援するのは必要なことですが、社内にお互いを思い合う空気が醸成されていないとうまくいかないと思います。皆がそれぞれの立場で主張し合うと、権利の奪い合いになってしまい、「多様性」という言葉と矛盾してしまいます。なので、ダイバーシティラーニングを取組の第一歩として、まずは自分とは違う属性の方の不便に思いを馳せ、できることを考えていくというマインドを醸成したいと思っています。

どれくらいの頻度で行っていますか?

木村さんだいたい月1回、任意参加で、主にオンラインで行っています。

女性の健康課題については、どのようなセミナーを開催しましたか?

木村さん女性のからだについて知るセミナーを開催しました。ホルモンの変化によって体調や気持ちにアップダウンがあることを、客観的に学べるような内容です。今まで自分の性格だと思っていたのが、実はPMSかもしれないなどと気づく機会になったらいいな、と思い開催しました。セミナーの後にディスカッションの時間を設けましたが、男性からも生理についての質問が出るなど、従業員同士のやり取りを通じて、お互いに理解する空気も生まれたのではないかと思います。

また、自分のからだを知るという意味で、性感染症のセミナーも行いました。なかなかオープンに話せないことですが、講師が実体験もふまえてお話してくださって、とても反響がありました。性感染症が不妊の原因の一つになっているという話があり、私も知らないことだったので勉強になりました。

セミナーの運営は、どのように行っていますか?

木村さん女性の健康課題については、フェムテック関連の企業様をお呼びすることが多いです。LGBTQのセミナーやジェンダーの平等など、ヘルスケア以外の内容については、テーマ設定や講師を探してアポイントを入れるなど、DEI推進室で行っています。

オンラインで行われているセミナーのスクリーンショット。男性3名と女性1名が映っており、同じく映っているスライドには「自分の意思とは関係なく起こる体調不良である」などのテキストが書かれている
セミナーはオンラインで開催。男性従業員も参加し、積極的に質問した。

補助に対しては、どのような反響がありましたか?

木村さん一つは、自分の生理の不調が、婦人科の受診や低用量ピルの服用で改善することを知れたという声がありました。もともとピルを服用していた従業員からは、働きながら通院のスケジュールを立てるのが大変だったので、オンライン処方を利用できるようになって助かったという声も聞かれました。また、生理の不調やPMSだけでなく、不妊治療中の従業員からも、治療の過程で漢方も利用しているので、補助が出てすごくうれしいと言われました。

現在の利用者は全対象者の10%程度で決して多くないのですが、会社の補助が、自分のからだや不調に向き合うきっかけになるといいな、と思います。

妊活のための休暇制度も整えたそうですね。

木村さん2021年から「妊活特別休暇」を導入しました。月3回、年12回を上限として、不妊治療の通院のために使える特別有給休暇です。1日休んでも、半休でも1回という換算になります。受診後の体調や病院の長い待ち時間を考えて1日休むこともできますし、仕事が忙しい時期に丸一日休めないからといって受診をあきらめることなく、半休で利用することもできます。女性だけでなく男性従業員も対象です。

事情を抱える従業員が「申し訳ない」と遠慮しない空気を作る

SAKURUGは、女性従業員比率が過半数を超え、管理職も30%を達成するなど、女性が活躍している会社ですね。

木村さんその理由の一つとして、働き方の選択肢が多いことが挙げられると思います。期間の制限なく少日数・時短でも短時間正社員として勤務が可能な体制を整えているのですが、2023年からは、時短勤務に加えてコアタイムなしのフルフレックスタイム制度を利用できる「短時間スーパーフレックス制度」も選択できるようになりました。育児や介護を抱える従業員はもちろん、スキルアップのために学校に通うなど、さまざまな理由で利用可能です。弊社の従業員は、正社員と非正規を合わせて約20%、正社員だけでも約15%が時短勤務で、そのほとんどが育児中の女性です。キャリア採用は、今は、時短勤務を希望して入社する“ママ社員”が本当に多いです。

短時間正社員は働き方も様々ですし、育児中だと、子どもの病気で急に休むなど、予定外のことも増えます。それが社内に、どのような事情にも柔軟に対応し合う空気を生んでいると感じます。弊社には、有給の生理休暇はないのですが、そのような空気があるので、調整し合って在宅勤務にするなど、部署ごとに上手に対処してくれています。自分の事情を我慢せず言える空気もありますね。

今はまだ全体的に従業員が若いのですが、いずれ、介護を抱えたり、更年期症状で慢性的な不調を抱えたりする従業員も現れると思うんです。そのようなときにも、時短勤務制度を上手に使って、仕事を続けてほしいです。

木村さんも、短時間スーパーフレックス制度を利用しながら、執行役員を務めているそうですね。

木村さんはい。出産を機に前職を辞めたのですが、子どもが1歳になったタイミングで再就職しようと思ったんです。ところが、待機児童の壁にぶつかってしまい、一時保育にしか預けられませんでした。預けられるのは週2~3日、8~17時で、なかなか働ける会社がないなかで出合ったのがSAKURUGでした。2020年に入社し、短時間正社員として、広報業務のほか、D&I推進室(現DEI推進室)の立ち上げなどに携わり、2022年から執行役員に就任、現在も短時間スーパーフレックスで働いています。

実は、入社して1年たった頃、社長からキックオフ(社員総会)の総合幹事を打診されました。フルタイムのメンバーが担当するイメージだったので、週3日時短勤務の自分にできるのか不安でした。けれど、社長から「できますよ」と言われて挑戦したところ、メンバー皆が積極的に私のスケジュールに合わせてくれて、やり切ることができました。普段はあまり関わることがない人たちとの共同作業は本当に楽しかったです。この経験をきっかけに、「時短勤務の自分にはできない」と遠慮しないことの大切さを学びました。

その経験は、仕事に生きていますか?

木村さんはい、DEI推進室で行う様々な施策に生きています。育児もそうですし、生理の不調やPMSといった女性の健康課題もそうですし、事情があって休まなければいけなかったり、パフォーマンスが落ちてしまったりすることは誰にでもあります。それを周りが気遣うだけでなく、当事者が申し訳ないと感じ、普段の仕事で遠慮してしまうことがないようにしたいです。そのために、あらゆる立場の不便に気づけるような、幅広い啓発を大切にしていきたいですね。

株式会社SAKURUG

事業QDXコンサルティング事業、Sangoport事業
従業員数/87名 女性従業員数/44名(2024年9月時点)

(※内容は2024年10月取材時点のものです)