企業の取組事例 Case study

女性従業員の働きやすさ向上のため、低用量ピルへの補助を開始

[株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス]

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総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」や総合スーパー「アピタ」などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)は、2020年に初の女性執行役員に二宮仁美さんが就任して以来、積極的に女性活躍推進に取り組んでいます。2023年からスタートした低用量ピル処方費用の補助制度の導入は、二宮さんの「ピルって避妊薬じゃないの⁉」という、自身の誤解への気づきがきっかけの一つでした。ただ導入するだけでなく、ポスターを掲示するなど、周知のための工夫も詳しく伺いました。

POINT
  • 国内の女性従業員と従業員のライフパートナーを対象に、低用量ピルの処方費用を補助
  • 女性の健康セミナーを実施。役員と管理職は参加必須に
  • 女性トイレの個室に、新しい補助制度を周知するためのポスターを掲示
二宮仁美さん写真
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス 取締役 兼 執行役員、ダイバーシティ・マネジメント委員長、クリエイティブ本部長、コーポレートコミュニケーション本部長、ドンペンプロジェクト 責任者 二宮仁美さん

社外取締役である産婦人科医の提案で女性の健康セミナーを実施

PPIHの女性の健康課題への取組を教えてください。

二宮仁美さん(以下、二宮さん)2023年3月から、メデリの法人向けサービスを導入し、低用量ピル処方費用の補助制度を開始しています。国内の法人で働く女性従業員と従業員の女性ライフパートナーを対象とし、弊社の女性従業員は診療費、低用量ピル代、自宅への送料の全額を会社が補助しています。また、従業員の女性ライフパートナーは、半額を会社で補助しています。

“ライフパートナー”とは、どのような方ですか?

二宮さん弊社では、2018年から「ライフパートナー制度」が導入され、同性カップルが法律婚と同様に福利厚生を享受できるように制度を整えました。2021年には、それまで自治体の同性パートナーシップ制度を利用していなければいけないという条件があったのを、同住所に住民登録していると分かる住民票の提出があれば利用できるようにしました。先ほどお話した女性ライフパートナーは、従業員の性別を問わず、その方のパートナーが女性であれば対象となります。

どのようなきっかけで低用量ピル処方への補助を始めたのでしょうか。

二宮さん2022年に行った女性の健康セミナーがきっかけです。役員、管理職、女性従業員に分けて行い、女性従業員は任意ですが、役員と管理職は参加必須にしました。管理職と女性従業員は地方に勤務している方もいますし、会議室の広さの都合もありましたから、対面のセミナーを行いつつオンラインでも受講可能というデュアル開催でしたが、役員は全員、会議室に集まってもらいました。

女性の健康セミナーの実施は、社外取締役の産婦人科医の方からの提案でした。弊社のオンラインの社内報でその方が社長の吉田と対談したときに、「働く女性はもっと自分のからだのことを知ったほうがいいし、企業として、役員も管理職も、女性の健康課題をもっと知らなければいけない」とお話しいただいたのです。その産婦人科医の方から、「僕がセミナーをやりますよ」と提案いただいて、私が担当しているダイバーシティ・マネジメント委員会から正式に依頼しました。

そのセミナーには、もちろん私も参加しました。産婦人科医の方の話を伺って、生理の不調やPMS(月経前症候群)が仕事に大きな影響を与えているということ、人によって症状に差があるので、同じ女性でも症状が重い人のつらさを理解できるわけではないと知ることができました。その話の中で、低用量ピルの紹介がありました。生理やPMSでつらいときの選択肢の一つとして有効だけれど、まだ日本での使用率が低いというお話を聞き、「え、ピルって避妊薬じゃないの?」と私は驚きました。周りの女性に聞いても、ピルが避妊に使われるという知識はあっても、生理やPMSの治療薬としても使われると知っていた人はほとんどいませんでした。

二宮さんの気づきが、低用量ピルの補助につながったんですね。

二宮さんそうですね。セミナーの後に改めて自分で調べて、低用量ピルを使うことで月経痛などの体調不良が改善する可能性があるのなら、会社として補助したほうがいいのではないかと思い至りました。

セミナーの準備をしている頃に、不妊治療をしている人の話を聞いて、子どもができるというのは奇跡的なことなのだと痛感していたことも影響しました。若いときは、子どもは自然にできると思いがちです。特に女性は、早い時期からからだに関する知識を持っていないと、仕事が楽しくて出産を先延ばしにして、子どもを望んだときに妊孕性(にんようせい)の低さに驚くということも起こってしまいます。女性自身がからだのことを知ったうえで、キャリアプランを考えたほうがいいと思いました。低用量ピルへの補助は、実際につらい女性へのサポートはもちろんですが、従業員たちが女性のからだに向き合うきっかけにもしたいと思っています。

施策を広く周知するため、トイレの個室に手作りポスターを貼った

制度の周知にも力を入れたそうですね。

二宮さん社内のポータルサイトに「低用量ピル服用費用の補助制度」の案内を掲載しましたが、それだと不十分だと思いました。そこで、女性トイレの個室にポスターを貼りました。そうしたら、じっくり読めますよね。からだのことですし、人に見られないところで読みたいかな、と。利用するかどうかは別として、「ピルって何?」「なぜピルなの?」などと気になる人もいるのではと思いました。

ポスターの一部。全体的にピンクの淡い色使いで、「PPIHグループ限定♡正社員、契約社員、エキスパート社員 女性従業員ピル代無料 従業員ライフパートナーピル代50%OFF」などと書かれている
実際に掲示されたポスター(一部)。「写真素材は、サービス提供会社からいただきました。きれいで、目に留まるデザインを心掛けました」。

それは効果がありそうですね!

二宮さんありました。ポスターには、低用量ピルで生理の不調やPMSが軽減されるなどの情報も入れ、掲載したQRコードから制度利用案内のページにアクセスできるようにしました。そこから利用してくれた人もたくさんいました。

コーポレートコミュニケーション部の女性メンバーがコピー機でプリントアウトして、皆で一生懸命貼ってくれて。トイレは結構たくさんあるのですが、本当にアナログな方法で。案外そういうものが、効果があるのですよね。

管理職にも働きかけたそうですね。

二宮さん管理職にはセミナーをして、「低用量ピルへの補助を始めることになったので、あなたの部下にも周知してください」とお願いしました。全社向けのお知らせだけだと自分事として捉えにくいのですが、“あなた”とお願いすると、やらなければ!という気持ちになってもらえるのです。事前に女性の健康セミナーも受けているので、皆さん、本当に意識が高くて。面談のときに、女性の部下に対して「こういう制度があるんだよ」と個別に話してくださった方もいたそうです。皆の前では、話すほうも聞くほうも抵抗があるだろうと配慮してくださったのですね。そういう感じで、皆の力で社内に広まりました。

現在は、どれくらいの従業員が利用していますか?

二宮さん月平均で120~130名くらいです。国連が発行している「避妊法2019」によると、日本のピルの内服率は2.9%とされていますが、弊社は5%くらいの女性が使っているので、日本の平均よりも高いです。そのようなことからも、社内での認知はされていると思っています。

店長や管理職に女性を増やし、すべての人が働きやすい職場づくりを目指す

セミナーによって、全体の意識が高まったとのことですが、店舗ではいかがでしょうか? ドン・キホーテをはじめとして、PPIHは本当にたくさんの店舗がありますね。

二宮さん弊社では、パート・アルバイトの方たちを、「メイトさん」と呼んでいます。各店舗のメイトさん一人一人まで本社でケアするのは、はっきり言ってしまうと難しいです。ですが、店長やエリア責任者などには研修を通じて、会社の意思はしっかりと伝わっていると思います。女性の健康セミナーについては、動画にして、社内ポータルサイト内で、いつでも見られるようにしていますから、店舗スタッフにもいつでも見てもらえます。店舗ごとに抱える状況も課題も違いますから、それぞれの責任者が中心となって、会社の意思を実現してほしいと思っています。

また、女性活躍推進の取り組み中で、「RISE!100」という、店長の女性比率を向上させる取組も行っています。店舗で活躍する女性が増えることで、今以上に女性のメイトさんの働きやすさも向上していくと考えています。

「RISE!100」について、詳しく教えてください。

二宮さん私は2020年に、弊社初の女性執行役員に就任しました。就任時に会長と社長から、弊社の女性は皆、実力があって頑張っているのに、なぜ管理職や役員に女性が少ないのか、活躍できない理由が会社の仕組みにあるのではないかと言われ、女性が実力を発揮できる環境づくりをする役割を拝命しました。そこで、人事に関する仕事をしている人を中心に、部署を超えた横断的な組織として、ダイバーシティ・マネジメント委員会を立ち上げました。毎年メンバーの入れ替えはありますが、常時約15名が参加していて、定期的に会議をしています。女性活躍推進のための課題を洗い出し、それを解決するための制度や規定を整えたり、啓発のためのイベントを考えたりしています。

その中の一つが、「RISE!100」で、2021年5月からスタートした、店長候補となる女性に約半年かけて参加してもらう研修プログラムです。研修の内容は、店長に必要なスキルや知識、コンプライアンスを習得するWeb研修や、現役の女性店長との交流会、キャリア相談のための1on1ミーティングをダイバーシティ・マネジメント委員会のメンバーと行うなどしています。それまで漠然としていた“店長の仕事”を具体的につかむことで、店長になることへの不安を払拭するとともに、店長を目指す女性に対してキャリアアップの機会を提供することができ、2021年6月期は13名だった女性店長数が同期比で2024年には46名になりました。

しっかりと成果が出ていますね。

二宮さん「RISE!100」は、女性活躍推進のための施策の中でも、最も顕著な結果が出ています。そのほかにも、女性従業員を対象とした「カレッジ型キャリアアップオンラインセミナー」を開催したり、社内向けポータルサイトでキャリアアップしている女性従業員のインタビューを掲載したりしています。女性従業員の定着率と女性管理職の登用は、数値目標を公表し積極的に取り組んでいますが、最終的な目標は、女性だけでなくすべての人が働きやすい会社になることです。性別としてほぼ半数いる女性が働きづらかったら、マイノリティーの方々の働きやすさを実現できるとは思えません。女性のための施策は、すべての人が働きやすい会社になるための第一歩だと考えています。

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス

事業ディスカウントストア事業、総合スーパー事業など
従業員数/17,107名 女性従業員数/5,517名(ともに連結、2023年6月時点)

(※内容は2024年10月取材時点のものです)