企業の取組事例 Case study

人事部と健康保険組合と産業医が協力して、従業員のニーズに応える施策を検討

[コニカミノルタ株式会社]

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電機メーカーのコニカミノルタは、女性従業員への健康に関するアンケート結果から生理の不調と更年期症状が仕事へのモチベーションを下げることに気づき、会社がサポートすることに決めました。人事部と健康保険組合、産業医が一体となり従業員の健康を支える同社のコラボヘルスを中心に話をうかがいました。

POINT
  • 女性従業員のアンケート結果をもとに、フェムテックを利用した生理の不調と更年期症状へのサポートを開始
  • 月1回の健康施策に関する会議には、健康推進グループと健康保険組合の担当者のほか、常勤産業医も参加
  • 従業員主導の女性グループで部署を超えた女性のつながりを作り、相談したり支え合ったりしやすい空気を醸成
鈴田 朗さん・伊東和志さん・大本哲子さん写真
左から、コニカミノルタ健康保険組合 常務理事 兼 健診センター長 鈴田 朗さん、コニカミノルタ 人事部 健康推進グループリーダー(部長) 伊東和志さん、同 プロフェッショナルプリント事業本部 製品開発センター PPプロセス開発部 3Gマネージャー 兼 人事部 違いを力に!推進室 大本哲子さん

女性の健康セミナーを開催し、職場の理解を深めた

コニカミノルタでは、フェムテックサービスを使った、生理の不調と更年期症状改善のためのプログラムを導入したそうですね。

鈴田 朗さん(以下、鈴田さん)まず2021年に、オンライン診療と低用量ピルの処方の「月経プログラム」と、オンライン診療と漢方の処方の「更年期プログラム」を試験的に導入しました。告知して募った希望者に半年間、プログラムを利用してもらって効果検証したんです。すると、「月経プログラム」の利用者では、生理に伴う不調があるときのパフォーマンスのスコアが23.5ポイント改善しました。「更年期プログラム」では、更年期症状があるときのパフォーマンスのスコアが6.2ポイント改善しただけでなく、「更年期症状によって1日中寝込むほど生活に支障がある」と回答した人が、33.3%から6カ月で5.9%に減るという、大きな変化がありました。そこで、女性の生理に伴う不調と更年期症状には、継続的にサポートすることに決めました。

試験導入のときには、健康保険組合(以下、健保)が費用を全額負担しましたが、第2回は、期間を1年間に延長し、後半の半年は利用した分を自己負担にするように検討しています。施策の目的は女性従業員が自身の健康に意識を向けることですから、予算に限りがある中で、1人に手厚くするよりもできるだけ多くの人に利用してもらえるほうがいいと考えました。ただ、試行錯誤している段階なので、利用者の声なども参考にしながら、本当に必要とする多くの人に役立つ取組にしていこうと思っています。

プログラム導入のきっかけを教えてください。

鈴田さん弊社の健康診断の問診票はマークシート式で、会社と健保とで協力して設問を作っています。その中に、女性特有の不調に関する質問を入れたことがありました。すると、多くの女性が、女性特有の不調で業務を休んだことがあったり、生産性の低下を感じていたりすることが分かりました。ところが、生理の随伴症状に伴う受診率を聞いたところ、不調があると自覚がある人のうち受診経験のある人は13.9%。更年期症状の受診率は9.9%で、とても低い数字でした。弊社では、会社が従業員の健康をサポートすることで、エンゲージメントと仕事へのモチベーションが上がることを重視していますから、女性の健康課題改善に取り組むべきだと考えました。

試験導入の前には、女性の健康課題に関するセミナーも開催したそうですね。

鈴田さんいきなり「フェムテック」といっても、なかなか手が挙がらないのではないかと考え、人事部 健康推進グループと健保と共同開催で「女性のからだ知識セミナー」を行いました。「月経セミナー」と「更年期セミナー」の2回に分け、産婦人科医もそれぞれ別の方にご登壇いただきました。両方合わせて700名ほどの参加者がありましたが、そのうちの約30%が男性で、職場での理解が深まるきっかけになったと思います。

健康保険組合にITの専門職を登用。データを駆使して健康課題に取り組む

乳がんと子宮頸がんの検診受診率向上にも力を入れているそうですね。

鈴田さん2012年頃から、受診率向上に取り組んでいます。というのも、健康診断のときの検診受診率を調べたときに、乳がんと子宮がんの検診受診率が他のがんに比べてとても低かったんです。一方で、高額医療者の割合は、他のがんに比べて大きかった。2つの結果から、女性のがんは早期発見できていないと判断しました。

定期健康診断は、大きな事業所だと社内で行うので仕事を少し抜けるだけで受けられますが、女性のがん検診を含む婦人科検診は自分で医療機関に行かなければならなかったので、忙しいと受診しづらいのではないかと考えました。そこで、乳がんと子宮頸がん検診を受けられる検診車を、大きな拠点を中心に導入しました。提携の医療機関も増やし、できるだけ受診してもらえるように環境を整えています。検診費用は全額健保で負担していますが、伝わっていない人もいると考え、健保からのお知らせとしてPRするようにしています。

定期健診の問診票や従業員アンケート、高額医療費の割合など、さまざまなデータを活用して、必要な施策を考えているのが素晴らしいです。

鈴田さん現在は、健保の中にITスキルの高い従業員を数名集めて、データ分析専門のチームを作っています。健診などのデータは個人情報が分からないように加工すれば会社と健保とで共有できますから、積極的に活用しています。

会社と健保の連携が取れていないとできないような施策が多いですね。

鈴田さん会社と健保による「コラボヘルス」は、2012年から特に力を入れており、密に協力し合える体制を整えました。その成果が出ていると思います。コラボヘルスに本格的に取り組んだのは、メンタル不調者が増加したこと、会社の平均年齢が40代半ばに差し掛かり生活習慣病が増えたことが理由でした。医療費の増加により健保の赤字が続き、2011年に保険料率を大幅に引き上げざるを得なかったんです。従業員に大きな負担をかけたことで健保も会社も危機感を持ち、協力し合って健康課題に取り組まなければならないと考えました。それまでも半期に一度、健保と会社とのミーティングはあったのですが、なかなか話がまとまりませんでした。そこで、2012年から2022年まで、人事部健康推進グループリーダーが健康保険組合常務理事を兼務する体制とし、健康課題に対する取組の決定と実行へのスピード感をアップさせることにしたんです。

伊東和志さん(以下、伊東さん)さらに、健保と会社の人事部を社内の同じフロアに置き、物理的な距離を縮めました。鈴田は今、健診センター長という健保を代表する立場で、私は会社の人事部 健康推進グループリーダーなのですが、2人の席はほんの少し歩く程度の距離です。健保は会社から独立した組織ですから、私から指示してはいけないのですが、気になることがあればすぐに確認できるので、連携を取りやすくなっています。

会社の健康推進グループと健保の一部メンバー、それに常勤産業医も入って「一体運営領域」というものを作っていますが、そこで、健康診断結果、ストレスチェック、医療費のデータを加工したものを共有し健康戦略を立案しています。どのような課題があるのかを抽出し、そこから施策を立案するのですが、そこには常勤産業医にもしっかりと関わってもらっています。

産業医も会議に参加するのですか?

伊東さん月1回、2時間程度の会議があり、参加してもらっています。データの検証や必要な施策について、専門家目線で意見をもらえるのはもちろんですが、たくさんの従業員とリアルに接しているので、現場の声を伝えてもらえるのがとても大きいです。産業医のおかげで、ニーズに刺さる施策を立案できていると思います。

これは偶然なのですが、3名の常勤産業医が全員女性なんです。会社組織は男性が多いので、どうしても女性の声というのが届いてこないのですが、女性産業医がいることで、細やかな提案をもらえています

女性従業員のグループ活動で、部署を超えたつながりを強化

コニカミノルタは、会社の規模が大きい一方で女性従業員比率が低く、拠点が多いので女性が少ない職場が生まれやすいという、メーカー特有の難しい状況がありますね。会社の制度を整えても、周知に時間がかかるなど、使ってもらいづらいということはありませんか?

大本哲子さん(以下、大本さん)当初はそのような課題もありましたが、制度面の改善と併せて制度利用者だけでなくすべての従業員への啓発をおこなうことで制度利用が進みました。そして、私たちにもできることがあるのではないかと思い、女性技術者が中心となり、2020年にERG(従業員リソースグループ)「リケジョ・ネットワーク」を立ち上げました。男性に比べると女性技術者が少なく、職場によっては女性が1人という環境もあることから、女性技術者同士の横のつながりを作り、悩みを相談したり助け合ったりすることが目的です。“理系”の女性が中心ですが、サポートメンバーとして男性にも加わってもらいました。活動は、家庭・子育てとの両立、キャリアなどテーマを決めた対話会やオンラインワークショップが主ですが、グループチャットを通して、いつでも情報共有や相談ができるようにしています。

グループの立ち上げには、大本さんの個人的な経験も大きかったそうですね。

大本さん私は、男女雇用機会均等法施行直後に女性技術者として入社しました。面接のときから「女性にも長く働いてほしい」と言ってもらい、入社時からプリンタの開発というやりがいのある仕事をさせてもらっています。福利厚生も整っていて、ライフステージの変化があっても仕事が続けられるように制度面で手厚いサポートがありました。それにもかわらず、実際には、出産後は何度も仕事を辞めようと思うほど、仕事と育児の両立が難しかったんです。

その理由を振り返ると、制度だけではサポートしきれない、気持ちの部分が大きかったと思います。仕事をしながら家事や育児をしていると、どちらも中途半端な気がして自己嫌悪に陥ってしまいました。利用できる制度があっても、申し訳ないという気持ちもあるし、あまり使っている人もいないし、自分で無理をしてしまうこともありました。それでも仕事を続けられたのは、社外の理系女性たちの支えがあったからでした。先輩たちから、仕事を続けるためのアドバイスをもらいながら、「仕事はやめないほうがいいよ」と何度も励まされました。

今、私は50代後半ですが、本当に仕事が楽しくて、辞めずに続けてよかったと思います。子どもが大学生になり手が離れたタイミングで、「リケジョ・ネットワーク」の立ち上げを考えました。私が若い頃に比べれば技術職の女性は増えていますが、まだまだ職場によっては、私と同じような壁にぶつかっている女性技術者がいると気づいたんです。私が社外の理系女性とつながることで救われたことを社内でやりたいと思い、弊社のDE&Iを担当する「人事部 違いを力に!推進室」に相談して、理系の女性従業員をエンパワーするグループを立ち上げたんです。

今は理系だけでなく、あらゆる職種の女性従業員が参加できるグループになっていると聞きました。

大本さん2023年度からは、職種を問わず、女性従業員をエンパワーするグループになりました。名称も「himawari」に改め、仕事のやりがいを高め、自分なりの輝き方をみつけてワークもライフも充実させたい、という思いで活動をしています。女性同士が助け合うことを目的とするグループですが、現在は男性も含めて、約100名のグループになっています。

オンライン会議をしている大きなディスプレイの周りでピースサインをしている5名の女性。ディスプレイには4名の女性が写っている
「himawari」の会議は、多くの拠点からも参加できるように、オンラインも活用している。

健康課題の解決を含め、女性従業員の働きやすさに、グループ活動はどのような貢献をしていると思いますか?

大本さん私はプリンタ開発の仕事と違いを力に!推進室を兼務しています。その仕事の一つとして、週1回、室長に「himawari」の活動報告をしています。その場で、チームメンバーから会社への提案を共有したり、メンバー同士の話し合いから感じた、女性が管理職になるのを躊躇する理由を率直に伝えたりできます。それが、会社の施策の助けになっていると思います。

また、使える制度があり働きやすい環境も整っているのに、自分個人の事情と仕事の両立が難しいと感じてしまう、システムの“すき間”を埋めるのにも役立っていると思います。自分の意見を言いやすかったり、お互いを助け合ったりする空気感の醸成は、会社からのトップダウンだけではなかなか実現しません。直属の上司以外に相談できたり、社内で同期以外に友達のような関係ができたり、ネットワークが広がることで仕事を続ける上での安心感が強くなります。先輩女性からのアドバイスと励ましで管理職に挑戦する勇気が出ることもあり、女性活躍推進にもつながります。休暇取得などの制度利用も、会社とグループとで一緒になって取得促進を啓発することで、男女共に利用しやすくなり、従業員全体のエンゲージメントが上がります

「himawari」がどこまで直接の影響を与えているかは測れないのですが、弊社の女性の離職率は年々低下しています。女性の育休取得率は100%ですが、男性の育休取得率も2021年度は43.4%だったのが2023年度は75.2%に、平均取得日数も2021年度は47.4日だったのが72.7日になり、とても伸びています。人事部の取組と従業員のネットワークという両輪で働きかけることが、良い影響を与えているのではないかと思います。

グループ活動をもっと充実したものにできるように、今は日本IBMが設立した女性技術者のネットワーク「COSMOS」に参加し、私たちも勉強しています。

伊東さん2023年度からは、「Well-being 2025」と題する健康中期計画を策定し、会社全体の健康度を向上させること、プレゼンティーズム(病気や疾病を抱えた状態)とアブセンティーズム(仕事を欠勤や休業している状態)を改善し生産性を向上させることで、会社としての持続的成長を目指しています。生理の不調や更年期症状を改善するためのサポートは、その考えに基づき、健康推進グループと健保とで協力して行っています。

弊社では、多様性がイノベーションを起こす源泉だと考えています。女性の活躍を促進することは、あらゆる社会的マイノリティーへの活躍促進にとっての一丁目一番地です。健康推進グループの取組は、女性の働きやすさを支え、活躍する土台作りになるものですから、違いを力に!推進室とも連絡を取り、お互いに勉強しながら施策を進めています。私個人は、女性の健康課題に対する取組は、女性を特別扱いするということではなく、会社の中にある偏りを調整することだと考えています。

コニカミノルタ株式会社

事業デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業、インダストリー事業、画像ソリューション事業
従業員数/40,015名 女性従業員数/12,516名(ともに連結、2024年3月末時点)

(※内容は2024年11月取材時点のものです)