女性の健康課題に先駆けて取り組むことで“選ばれる会社”になる
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SES(システムエンジニアリングサービス)事業者の日本ナレッジスペースは、女性の健康課題へのサポートはもちろん、多様な福利厚生制度で注目を集めています。「人が資産の業態だから、福利厚生には力を入れたい」という松岡竜邦社長に話をうかがいました。
- 低用量ピルのオンライン診療と処方費用を全額会社負担で補助
- 全体会議やチームミーティングなど、口頭で福利厚生の開始を伝え、利用を促す
- 睡眠や食事に関する支援など、健康に関する複数の福利厚生を用意

生理休暇の利用状況を確認し、ピルのオンライン処方サービス導入を検討
女性の健康課題に対し、どのようなサポートをしているか教えてください。
松岡竜邦さん(以下、松岡さん)2017年頃から健康経営に取り組んでいます。その中で、女性に対するサポートとして最初に取り入れたのが、「女性疾病の健康診断補助制度」で、健康診断のときに、希望する女性従業員全員に、全額会社負担で乳がん検査(マンモグラフィ)と子宮頸がん検査を実施しています。また、昨年から、「女性の体調維持補助制度」として、フェムテックサービスを利用した、低用量ピルのオンライン診療とピルの処方費用の補助をスタートしました。契約企業のサービスを個々に利用してもらい、1カ月ごとの利用分が会社に請求される形で、全額会社が負担しています。女性従業員だけでなく、男性従業員のパートナーも対象です。
フェムテックによる低用量ピルへのサポートを取り入れたきっかけを教えてください。
松岡さん当社の管理職が集まって情報交換するリーダーミーティングで、法人向けのピルのオンライン診療サービスが話題になり興味を持ちました。そこでまず、弊社の事務担当に就業規則にある生理休暇を利用している従業員がいるかを聞いたところ、「いる」とのこと。ネット検索で他企業の導入事例も読み、大手企業でも取り入れているのであれば、広く利用されている安心できるサービスなのだろうと考え、前向きに検討しました。その後に女性従業員を対象に、低用量ピルへの補助があったら使ってみたいかを聞いたところ、使いたいと答えた人が多く、正式に導入を決定しました。
そのときのアンケートでは、低用量ピル補助のほか、家事代行サービスへの希望も聞き、女性の健康支援を目的とした福利厚生のアイデアも募りました。家事代行は女性だけのことではありませんが、せっかくアンケートを採るのであれば意見を聞きたいと思って盛り込みました。福利厚生は、基本的には私を中心とした経営層がいいと思ったものを導入しますが、1人よがりにならないように、必ず従業員の意見を聞くようにしています。

現在は何名の方が利用していますか?
松岡さん約10名です。女性従業員の5割程度ですね。
日本ナレッジスペースは、SESの事業者です。SESはITエンジニアを企業に派遣する契約形態ですから、日本ナレッジスペースのオフィスではなく、契約企業に赴いて仕事をします。なかなか従業員が一堂に会する機会がない中で、新しい福利厚生などを周知するのは大変ではないですか?
松岡さん年3回、従業員全員が集まる全体会議をしています。そこで、新しい福利厚生がスタートすることを説明します。スタート時にイントラネットにも掲示し、各課のチームミーティングで管理職からも周知してもらいます。ですから、福利厚生について知らない人はいないと思います。
全体会議では、女性に関するものだけでなく、全員に関する健康課題についての話もよくします。昨年12月は、専門家を招いたがんに関するセミナーを行い、がんが恐ろしい病気だということと、検査の重要性を周知しました。もちろん、女性のがんについてもお話していただきました。
SEの健康をサポートできる会社づくりが設立時の目標
現在、60以上の福利厚生があるそうですね。その中でも、健康支援、健康管理に関するものが多くあると聞きました。力を入れる理由を教えてください。
松岡さん私の前職での経験がベースにあります。メーカーで営業をしており、SEと一緒に客先に行くことが多かったのですが、皆さん、体調が悪そうで。きちんと寝ているのかな……と心配していました。SEの働き方が社会問題になった時期もありましたよね。ですから、会社を立ち上げたとき、SEの健康をサポートできる会社にしたいと思ったんです。会社が軌道に乗らなければ福利厚生は充実させられないので、2014年の設立から3年かかってしまいましたが、2017年から積極的に健康に関する福利厚生を増やし、ようやく理想の形になってきました。
福利厚生には経費がかかります。経営を圧迫しませんか?
松岡さん福利厚生の予算は大きくとっています。その分、削れる経費は削っています。例えば、オフィスです。弊社は160名の企業ですが、オフィスは必要最低限の規模で従事し、賃料を抑えています。従業員のほとんどが契約企業で仕事をしますし、数名のバックオフィススタッフも基本的にリモートワークですから、このサイズで十分です。
SESという業態は、優秀なエンジニアの人数が事業拡大の鍵を握ります。福利厚生を含めて従業員の働きやすさに投資することでエンジニアから選ばれるのであれば、決して過剰な投資だとは思いません。顧客からも、「多いね!」と驚かれることはありますが、会社の特徴が出ていいと評価されています。エンジニアにも珍しがられていて応募者が増えてきましたから、人材確保という面でも効果を感じています。エンジニアは技術を持っていますから、人材が流動的なんです。そのような環境で、弊社は福利厚生のおかげで選んでいただけています。
睡眠や食事をサポートする福利厚生も多いですね。
松岡さんSEの睡眠不足は、私の心配の一つでした。「睡眠改善補助制度」では、睡眠外来を利用した場合、その費用の一部を補助しています。「遺伝子検査制度」では、外部サービスを利用して体質分析・食事分析・運動分析ができ、その結果に合わせて、不足しがちな栄養素(サプリメント)を宅配したり、フードバランスアプリを利用したりできます。これは全額会社負担です。
「規格外野菜」を従業員の自宅に定期配送する福利厚生もあるそうですね。
松岡さん「野菜摂取補助制度」ですね。これは、従業員の健康をサポートするだけでなく、社会課題の解決につながる取組もしたいと思って始めました。味や品質に問題がなくても流通せず破棄されてしまう「規格外野菜」を、希望する従業員の自宅に月1回届けるもので、従業員の野菜接種量の向上と環境保護の両方を目的にしています。1回5kg届くのですが、かなり食べ応えがあります。従業員のほぼ全員が利用していますね。
人気のある福利厚生はあるのですか?
松岡さん健康には関係ありませんが、「身だしなみ補助制度」が一番人気です。年3回、上限5,000円で使える制度で、洋服や化粧品の購入、美容院の利用、歯の治療にも使えます。客先にうかがう仕事なので、身だしなみも気を付けてほしいと思って取り入れました。
会社として福利厚生を充実させる一方で、従業員が働くのは契約先の企業です。生理休暇を利用したい女性が、契約先の都合で休めないこともあるのではないですか?
松岡さんエンジニアは、それぞれ弊社の決まった課に所属し、企業に赴いています。そして、課のリーダーに毎週、週報を提出しています。そこに悩みが書かれていれば、リーダーがヒアリングし、契約企業と話し合ったうえで配置替えをしています。女性が毎月、生理休暇を取得したいのに取れないという悩みがあれば、リーダーと相談し、出社が必要ない職場に配置替えできます。そういった悩みは、エンジニアが直接会社に言うのではなく、リーダーに相談できるので、言いづらさはかなり軽減されていると思います。
担当する企業によって、仕事の内容も、出社が必須かそうでないかも、本当にさまざまですから、どの企業を担当するかは、会社が一方的に決めることはありません。体調に不安がある場合はリモートが主体の企業を希望するかもしれないし、逆に、人と会うのが好きだから毎日出社する職場で働きたいエンジニアもいます。エンジニア一人一人に合う職場とマッチングできるように、リーダーが気を配っています。
健康診断の受診率も100%なんですね。職場が別々だと、受診を促すのも大変ではありませんか?
松岡さん健康診断は、期間をあらかじめ告知して、期間内で、会社が病院の予約を入れます。日時も会社で指定してしまい、事情がある場合のみ日時を調整し直します。そのことに異論は出たことがありませんし、受診率も100%です。予約を本人に任せてしまうと、予約しそびれて受診しないこともあると思います。健康診断は自分の健康のために大切なもので、最優先のスケジュールだと考えてもらっています。
弊社ではメンタルケアにも力を入れています。従業員は全員、契約している公認心理師と年1回以上の面談をしています。また、新しく入社する人には、必ず最初に面談してもらっています。入社時の面談を参考に、配置先を配慮することもありますね。
健康に関する取組の中でも、女性の健康課題に取り組む意味はどのようなことですか?
松岡さんエンジニアに占める女性の割合は20%程度と言われています。ただ、エンジニア自体が不足している中で、女性の採用も増やしていかなければいけないと思います。一方で、まだまだ男性主体で作られてきた、女性には働きづらい職場環境ですし、女性の健康に配慮した施策を取り入れている企業も少ないです。そのような中で、早くから女性の健康課題に取り組むことで、女性から選ばれる企業になれるのではないかと期待しています。
事業情報処理サービス
従業員数/152名 女性従業員数/23名(2024年10月時点)
(※内容は2025年1月取材時点のものです)