企業の取組事例 Case study

経営層が妊活体験を積極的に発信。性の問題について話しやすい空気を醸成

[株式会社アイスタイル]

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美容系総合サイト「@cosme(アットコスメ)」の運営など、美容に関する事業を手掛けるアイスタイルは、従業員の女性比率が約70%。“女性の会社”だからこそ、性に関する健康課題を「女性の健康課題」ではなく「性と生殖に関する健康課題」と呼ぶなど、全従業員に関わる課題として扱っています。同社の取組についてうかがいました。

POINT
  • 外部サービスを利用し生理の不調・妊活・更年期症状などを広くサポート
  • 施策検討段階で約30名の従業員にヒアリングして、課題の本質を見極めた
  • ボードメンバーらのメッセージやトークセッションなどを動画で配信し啓発
奥田早央里さん写真
アイスタイル ヒューマンリソースセンター ピープルリレーション部 部長 奥田早央里さん

従業員へのヒアリングで分かった企業風土醸成の重要性

アイスタイルでは、生理休暇の名称を変えたそうですね。

奥田早央里さん(以下、奥田さん)2年ほど前に「iケア(アイケア)休暇」に変更し、生理休暇に充てるだけでなく、更年期症状や妊活など「性と生殖に関する健康課題」全般に使える休暇にしました。現在は、男女関係なく、月1日、有給で取得できます。

名称変更のきっかけを教えて下さい。

奥田さん弊社は、会社のサステナビリティを考える上で、「人材のエンパワーメント」を最重要課題の一つとしています。2020年頃からは、人事を担当するヒューマンリソースセンターのピープルリレーション部が中心となり、従業員のライフプランとキャリアプランをサポートするために妊活への補助を検討しました。その際に、従業員のニーズを知るために、社内のイントラネットで協力者を募りヒアリングし、「生理休暇」という名称だと申請しづらいという意見が出たことから、名称を変更することにしました。

アイスタイルは美容関連事業で女性との親和性が高いですし、女性従業員も多いですから、「生理休暇」を申請しづらいというのは意外に感じますね。

奥田さんそうですね。ところが、協力してくれた約30名全員にヒアリングした結果、ほとんどの人から「制度が整っていても利用できる風土がない」「職場の理解がほしい」と言われました。生理休暇も、上司の性別に関係なく申請しづらいとのことで、名称変更の必要性を感じました。我々の想定では、休暇を含む新しい制度への期待要望が多いだろうと考えていましたが、ヒアリングの中ではそのような意見よりも、「まずは周囲の理解が必要だ」という話が多く、企業風土の醸成が一番の課題だということが分かりました。

どのように風土を醸成したのでしょうか?

奥田さん従業員へのヒアリングに先駆けて検討し始めていた外部サービス「carefull(ケアフル)」を、2021年から導入しました。生理、妊活、更年期といった「性と生殖に関する健康課題」をトータルパッケージでサポートするサービスなのですが、福利厚生サービスとして、提携している医療機関やフェムテックサービスなどで割引を利用できるだけではなく、オンラインセミナーを提供している点でもニーズに合っていました。サービス提供会社はスタートアップで、相談していた当時は、まだサービスを導入している企業はありませんでした。そのような背景から、導入に向けて弊社の希望を細かく聞いていただけたこともありがたかったです。

オンラインセミナーも活用しているのですね。

奥田さんはい。外部サービスによるオンラインセミナーやオンデマンドの動画だけではなく、社内のオリジナルのセミナーも開催しながら、月1回は発信しています。外部サービスを導入した際には、当時の社長であり現会長の吉松徹郎からの、会社として従業員の性と生殖に関する健康課題に寄り添うことで安心してキャリアプランを立てられるサポートをしたいというメッセージを動画配信しました。社長が自身の経験も含めて、理解やサポートについてお話いただいたことで、社内の空気も大きく変わったと思います。

社内オリジナルのセミナーは、講師の選定もピープルリレーション部で行うのですか?

奥田さん社内でアレンジするものは、講師を招くものよりもトークセッションが多いですね。皆がオープンに話せる空気を作れるようにと、弊社の共同創業者であり現取締役の山田メユミと弊社従業員とで、自身の経験を交えた不妊治療に関するトークセッションも行いました。社内の人のリアルな話が聞けるので反響が大きく、オンラインでたくさんの従業員に視聴されています。

トップ自らが体験談を開示するのは、影響力がありそうですね。

奥田さん今でも管理職や上層部が率先して不妊治療経験等を共有してくれたり、「男女両方の話だよね」と話題にしてくれたりします。企業の風土づくりは、マネジメント層から意識が変わることで進みやすくなると思います。

オンラインセミナーや動画をよく活用しているのですね。従業員の視聴率は高いのでしょうか。

奥田さん弊社は、動画配信が重要な情報発信ツールなんです。コロナ感染拡大で出社できなくなったことをきっかけに全社会議がオンライン化し、社長(当時)の吉松が必要なことをしっかりと伝える手段として動画配信を重視したことから、2020年頃から多用し始めました。吉松は社長として考えていることを伝えるほか、テレビ番組『徹子の部屋』をイメージした『てっちゃんの部屋』という、ゲストを招いて15分程度のトークをするコーナー作るなど、“スピンオフ”的な動画を配信することもありました。制作も社内で行うのですが、字幕を付けて分かりやすくするなど、編集も上手で面白いんです。定期的に配信されていたのですが、会社の動きも分かるということで、ほとんどの従業員が視聴していました。

そのような経緯で従業員に動画を視聴する習慣ができ、現在は会社全体で動画を活用しています。総会などの配信には文字起こしが付いていますから、ライフスタイルに合わせて動画かテキストのどちらで確認するかも選べます。通勤電車で文字起こしを読む人もいますし、食事しながら動画を倍速で視聴している人もいます。

動画サムネイルには、てっちゃんと奥田さんが映っている。画像下部に「第90回 今週のてっちゃん てっちゃんと語る生理・妊活・更年期編」というタイトルが表示されている。
「てっちゃんの部屋」に奥田さんが出演し、生理・妊活・更年期について話したこともある。

「女性の」とせず、性別関係なく関心を促す

外部サービス導入のきっかけは妊活へのサポートを検討したことでしたが、現在は、どのように広がっているでしょうか。

奥田さん福利厚生サービスの割引が利用できるので、結果的に幅広くカバーされています。オンライン診療は、現在では産婦人科診療のみならず内科診療まで幅広く利用できますし、オンラインで低用量ピル処方サービスも利用できます。内科診療は性別に関係なく利用できますし、妊活や更年期の悩みは女性だけではなく男性にも共通のものです。サービス導入時から「女性の健康」という言葉を使わず、性別や年代を問わず利用してほしい制度として認知に努めています。

個別の健康相談に応えるようなシステムもあるのですか?

奥田さん一つは外部サービスの匿名掲示板サービスを利用して性と生殖に関する健康課題を中心にお悩み相談ができます。掲示板に悩みを投稿すると、同じ悩みをかかえた匿名社員からのコメントや提携した医師から回答がもらえるんです。掲示板には、サービスを利用するすべての事業者に開放されているものと弊社の従業員だけが使えるものとが用意されていて、聞きたい内容によって使い分けられます。

もう一つは、ピープルリレーション部が管轄する健康相談窓口です。こちらは健康課題だけでなく働き方や職場環境など幅広い悩みに関する窓口で、オンライン面談を受け付けています。健康課題について、専門知識を要する医師の診断のような回答は行いませんが、悩みに寄り添い客観的に状態を見てできるアドバイスを行ったり、改善策につながる社内制度を提案したりするなど、産業カウンセラー有資格者も含めて様々な悩みに対応しています。

女性の健康課題への取組について、従業員の自発的な活動もあったと聞きました。

奥田さん女性従業員が中心となり、社内の部活動として「フェムテック部」が立ち上がりました。例えば、自分たちでフェムテック商品を使い比べて「これが良かったです」というような記事を社内イントラネットに掲載するなど、情報発信を通じて社内に生理についてオープンに話せる雰囲気を作る活動等を行っています。会社の取組とは全く別の活動でしたが、社内の風土を変えたいという思いが一緒でしたから、外部サービスの導入時には認知向上に協力してもらいました。また、フェムテック部が独自に試して反響が大きかったものを、会社で制度化できないかと提案もしてくれました。昨年、いったん活動を終了したのですが、従業員から風土の醸成に力を発揮してもらえたことがありがたかったです。

今後、取り組みたい課題はありますか?

奥田さん性別に関係なく必要とされている健康課題として、メンタルヘルスへのサポートの取り組みを強化していきたいと考えています。弊社がビューティー関連の企業であること、従業員の女性比率が約70%ということから“女性の企業”と見られることが多く、男性がマイノリティーになりがちです。女性管理職比率も55.4%と高く、「女性の」という枕詞を使わなくても、さまざまな取組が自然に女性向けに映ってしまいます。ですから、生理を含む性に関する課題を「女性の健康課題」ではなく「性と生殖に関する健康課題」と呼ぶなど、女性向けだと思われがちなものほど性別を問わず興味を持たれるように発信できるように心掛けています。

株式会社アイスタイル

事業美容系総合サイトの企画・運営、関連広告サービス、マーケティング・リサーチサービスの提供
従業員数/681名 女性従業員数/484名(常用雇用者。2024年6月時点)

(※内容は2025年3月取材時点のものです)