企業の取組事例 Case study

管理職の共感から広がる、女性がいきいきと活躍できる職場づくり

[東京ガス株式会社]

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「誰もが活躍できる組織の実現」を目指してDE&Iを推進。女性活躍をその端緒として位置付け、積極的に取組を進めている東京ガス。休暇制度やガス制服(ユニフォーム)の見直し、セミナーを通じた管理職の意識改革など、女性特有の健康課題に対する施策に短期間で次々に取り組んでいます。

POINT
  • 管理職層の意識改革により、女性特有の健康課題の悩みを相談しやすい職場づくりを推進
  • 会議における休憩ルール化、搾乳スペースの確保、不妊治療のための長期休職も取得可能に
  • トップ層の女性が自分の健康課題の体験談を共有し、女性従業員をエンパワーメント
日野勝裕さん、宮沢有紀子さん、伊藤美礼さん写真
右から、東京ガス 人事部 人事戦略グループマネージャー 日野勝裕さん、人事部 人事戦略グループ 挑戦と多様性推進チーム チームリーダー 宮沢有紀子さん、人事部 人事戦略グループ 挑戦と多様性推進チーム 伊藤美礼さん

困った経験がある女性従業員は7割強。アンケート結果で施策推進を決断

東京ガスでは、2020年頃から積極的に女性特有の健康課題に取り組んでいるそうですね。

日野勝裕さん(以下、日野さん)「制度・福利厚生」「管理職向け意識改革」「サポートする取組」という、大きく分けて3つのアプローチで取り組んでいます。

「制度・福利厚生」の軸は、休暇制度です。年次有給休暇のうち毎年失効する分を最大55日まで積み立てられる「保存休暇」があり、それを生理休暇や妊娠中の通院や不妊治療のための休暇としても利用できます。

そのほか、2021年4月から「ライフデザインサポート休職」を導入しました。不妊治療のための休職制度で、最大1年間取得できます。それまでも有給休暇や保存休暇を使いながら仕事と不妊治療を両立している従業員はいましたが、通常の休暇制度では突発的な通院や治療中の体調不良と仕事の両立が難しいという声もあったことから、不妊治療のために長期休暇を取得できるようにした制度で、これまでに数名が利用しています。

「管理職向けの意識改革」とは、どのようなことをしているのでしょうか?

日野さん2023年に「見て・聞いて・知って 女性特有の健康課題 フェムテック体験セミナー」を開催しました。正しい知識を得るための講演と、社内外の女性役員によるパネルディスカッションという構成で、約40に及ぶフェムテック製品も展示しました。女性健康課題というテーマにも関わらず、男性管理職を中心に約600名が参加し、従業員の関心を高めるきっかけとなりました。

セミナーを開催したきっかけがあったのですか?

日野さん女性活躍の阻害要因を考える中で、女性特有の健康課題が社会課題としてメディアで取り上げられることが増え、弊社でも取り組むべきではないかと考えたことがきっかけです。社内での取組を検討するにあたり、まずは実態把握が必要と考え、2023年に女性特有の健康課題に関する社内アンケートを採り、グループ全体から男女合計約600名の回答を得ました。

伊藤美礼さん(以下、伊藤さん)アンケートの結果から、職場で女性特有の健康課題で困ったことのある女性従業員が7割に及ぶことが分かりました。弊社は男性従業員が8割を占めており、こうした話題を相談しにくいといった実態があります。そこで、女性特有の健康課題は「個人の問題」から「組織として対応すべき課題」であるという意識付けを促したいと考え、セミナーを開催しました。

宮沢有紀子さん(以下、宮沢さん)アンケートでは、「女性特有の健康課題について知識があるか」を聞いており、男性の約8割、女性も約4割が「詳しく知らない」「知らない」と答えています。そのため、男性だけではなく女性にも正しい知識を伝えることが必要だと考えました。

また、私は長く東京ガスで働いていますが、女性に生理などに起因した困りごとがあるのは当たり前で、わざわざ会社で話すものではないという認識でした。周りの女性達も同様だったと思います。こうした状況を変えるために、困りごとを相談しやすい環境をつくっていきたいと思いました。

日野さんセミナー当日は、サンリオエンターテイメントの小巻亜矢社長と弊社のDE&I推進担当役員である小西雅子によるパネルディスカッションを実施して、キャリアと女性のからだについて自身の経験を通じたリアルな話を共有する場としました。小巻さんからは、女性がキャリアを築く上で健康課題が阻害要因になりえること、その上で、出産や病気でいったんキャリアが途絶えても取り戻す機会は訪れるというメッセージをいただきました。小西からは、生理中に長い会議があるときに心配になったことやお客さまと一緒のときに離席できずに苦労した経験を話してもらいました。女性従業員は、トップに立つような女性も自分たちと同じように悩んだことがあると勇気をもらい、男性従業員は課題の存在に気づく機会になったと思います。

2024年には「生理痛体験会」も開催したそうですね。

日野さん女性特有の健康課題の一つである「生理」は腹痛を感じる女性が多くいますが、男性にとっては、痛みとそれに伴う悩みを想像することは難しく、取組への理解が得にくい実態があります。そこで、男性をはじめとした周囲の共感を促して、意識改革と行動変容を推進するため、「生理痛体験会」を開催しました。当日は、役員と各部門、各カンパニーの人事担当マネージャーの男性約20名が体験しました。

私も体験したところ、3段階の2段階目ですでに痛かったです。ところが、機械操作を担当していた女性は気にせず、「次は『強』です」「ランダムモードです」と、どんどん進んでいきました。「ランダムモードなんてあるの?」と驚いている間に、痛みが不規則にやってきて……。終わってから痛みと驚きを宮沢と伊藤に伝えたら、「女性はこれが毎月、約1週間続くんですよ」と言われ、知識を得ていることと体験して理解することはまったく違うのだと思いました。参加者の自分事化に向けて体験会を実施した意義があったと思います。

弊社では、在宅勤務に一律の利用制限は設けず、職場や個人の事情に合わせて利用できますが、セミナー後は、より一層相談しやすい環境づくりを管理職に意識してもらい、柔軟な働き方を推進しています。職場ごとに、1on1や職場ディスカッションを取り入れて工夫しています。

また、女性従業員から、「長い会議があるとお手洗いに行きにくく、生理中だと心配」という意見があったので、人事で「1時間以上の会議には、5分以上の休憩を取る」というルールを策定し、周知しました。

男性2人が椅子に座り生理痛の体験をしている様子
2024年の生理痛体験会の様子。

取組を通じて広がる理解の輪

最初にうかがった3つのアプローチで、「サポートする取組」にはどのようなものがありますか?

日野さんガス制服(ユニフォーム)に関する見直しが進んでいます。ガス制服の色がグレーで、生理中は不安だという声が聞かれました。そこで、生理中でも不安なく業務ができるよう、フェムテックインナー(吸水ショーツ)の導入をトライアルで実施しています。

宮沢さん今年2月から、マタニティーガス制服(ユニフォーム)も導入しています。これまでは男性のガス制服を着たり、ボトムスは自分で用意したり、女性が自分で工夫していたと聞き、会社として取り組むべきだと思いました。また、2023年から、全社に生理用品を防災備蓄品として常備し始めました

女性特有の健康課題に対して積極的に取り組み始めたときに、反発は起こりませんでしたか?

宮沢さん「実際に困っており、取り組んでくれてありがたい」という声をいただく一方で、一部の社員からは「オープンに話すのを望まない女性もいる」という意見をいただくこともあります。社内にどのような課題があるかを示しながら、アンケート結果などを使って「施策を進めることで、このような良い結果が得られました」と説明し、理解してもらうように努めていきたいと思っています。

伊藤さん取組を進めながら理解の輪を広げていく大切さは、業務を通じて感じました。マタニティーガス制服を導入する過程で、製作に携わるさまざまな方に今ある課題を説明する機会があり、理解を深めていただきました。導入後に女性従業員から良い反響があったことで、関わった皆さんに、必要としている女性がいるということも実感していただけたと感じています。

生理痛体験会実施後は、「自分の職場でも体験会をしてみたい」といった相談があったり、女性特有の健康課題をテーマにディスカッションを実施した職場があったりと、各職場での取組が広がっています。また、女性従業員からの意見をもとに、社内に搾乳スペースを設置しました。仕事を進める過程で、私自身に女性従業員から「良い取組を進めてくれてありがとうございます」とか「楽しみです」などと感謝の言葉を掛けられることもあります。弊社には面識の有無にかかわらず感謝を伝え合う文化が自然に育まれており、その文化に、私も力をもらっています。

女性特有の健康課題に取り組む意義を、どのように考えていますか?

日野さん女性活躍推進は、ジェンダー平等や女性の経済参画促進など、社会的な意義を果たす側面もありますが、持続的な成長ができる組織・企業グループに変革していくことが最大の目的です。女性特有の健康課題に対して取り組むのもその一つ。阻害要因を取り除き、女性がいきいきと活躍できる取組を進めていきたいと思っています。

東京ガス株式会社

事業都市ガス・LNG販売事業、電力事業など
従業員数/7,259名 女性従業員数/1,248名(2024年3月末現在)

(※内容は2025年7月取材時点のものです)