企業の取組事例 Case study

女性店長の実体験からの提案で低用量ピルへの全額費用補助を開始

[株式会社物語コーポレーション]

キーワードからキーワード別の記事一覧を見ることができます

「焼肉きんぐ」や「丸源ラーメン」などの飲食店を全国に展開する物語コーポレーションでは、2030年に女性役員比率30%、女性管理職比率10%を目標に掲げ、2018年から女性店長の育成を中心に、積極的に女性の働きやすさをサポートする施策を取り入れています。その一環としてスタートした低用量ピル服用に伴う費用補助を中心に、女性の健康課題への取組をうかがいました。

POINT
  • オンライン診療サービスと契約し、婦人科のオンライン診療と低用量ピルの処方費用を全額補助。
  • 全国の女性店長が集まって議論する「女性店長コンベンション」を開催し、現場で働く女性の声を吸い上げる。
  • 働く上での悩みを相談できる「あんしん相談室+Plus」と「パルスサーベイ」を通じ、健康課題に悩む女性の相談に乗る。
吉田健人さん、髙橋尚代さん写真
右から、物語コーポレーション 経営理念推進・Diversity & Inclusion本部 人財戦略部 部長 吉田健人さん、経営理念推進・Diversity & Inclusion本部 人財戦略部 マネジャー 髙橋尚代さん

施策導入の背景を明確にし、男性が多い経営層の理解を得る

女性の健康課題について、会社として従業員をどのようにサポートしているか教えてください。

髙橋尚代さん(以下、髙橋さん)2023年9月から、全女性従業員を対象に、企業向けのオンライン診療サービスを利用して、低用量ピルの服用にかかる費用を全額補助する福利厚生制度を導入しました。サービスの対象が40歳未満の女性となっており、2025年8月現在、対象者のうち8.6%が利用しています。

低用量ピルの費用補助を始めたきっかけを教えてください。

髙橋さん一人の女性店長から提案があったことで検討が始まりました。PMSで生理前後に体調不良になる方で、店長になったばかりの頃はシフトをやりくりして対応していたそうです。けれど、婦人科を受診して低用量ピルを試してみた結果、体調不良が改善しただけではなく、生理前後の気持ちの浮き沈みもなくなったことから、女性従業員を対象に低用量ピルへの費用補助をしてはどうかと提案してくれたんです。

現場の声を吸い上げるような仕組みがあるのですね。

吉田健人さん(以下、吉田さん)2023年から、年1回ペースで全国の女性店長と副店長、本社のマネジャー職が集まる「女性店長コンベンション」を開催しています。今年は3日間に分けて5~6月に開催し、約150名が、キャリア形成における不安や葛藤、日々の業務で感じる課題意識などについて意見交換しました。女性の健康課題もテーマに上がることがありますね。

また、事業部ごとに定期的に女性活躍推進のための会議を開いていて、そこで挙がった意見や提案は、Diversity & Inclusion本部に共有されます。それらをDiversity & Inclusion本部で検討した後、経営会議に提案されています。

現場に比べて本社の女性比率は低いとのことですが、経営層の会議に至る過程で、議論に女性が加わる比率が下がることが、施策導入の障壁になりませんか?

吉田さん弊社では、2022年に「D&I宣言」を行い、さまざまな立場の従業員が活躍できるための制度設計と社内環境づくりに力を入れていますから、女性に関する施策実現への障壁は感じません。ただ、インターナショナル(外国籍)やチャレンジド(障がい者)など多様な従業員がいる中で、女性への支援に偏っていないかを慎重に考えることはあります。ですから、経営層に、本当に必要な施策を提案する際には、導入の背景を丁寧に伝えるように心掛けています。

低用量ピルへの費用補助を導入するときは、「平等・公平」の観点を用いて説明しました。塀の手前から奥の様子を見るときに、「平等」とは同じ高さの踏み台を用意し、「公平」とは最終的に全員の頭の位置が同じになるように、身長に合わせた踏み台を用意するという説明で有名ですよね。費用補助が女性だけになるのは「平等」ではありませんが、仕事をする上で、女性だけに生理の不調による影響があるのなら、それを改善する薬への費用補助は「公平」のための施策にあたります。特に、店舗勤務は立ち仕事ですから、生理の不調を抱えた状態で他の人と同じように働くのは困難だと説明しました。施策における「公平性」は会社として重視している考え方なので、低用量ピルへの費用補助は経営陣からも総意で理解を得ました。

制度導入後、どのように周知しましたか?

髙橋さんまずオンライン上の社内掲示板に、福利厚生として低用量ピルへの費用補助が導入されることを掲載しました。そのときに、低用量ピルを服用することによるメリットとデメリットも一緒に掲載し、対象となる従業員には考える機会にしてもらいました。

弊社は全国に店舗がありますから、全社一斉告知をするだけではなく、事業部ごとの女性活躍推進会議でエリアマネジャーや店長に説明し、各店舗で女性従業員に周知してもらっています。新入社員研修でも、制度をしっかりと伝えています。

また、生理の不調の相談を受けたときには、婦人科の受診と低用量ピル服用の検討を勧めています。

生理の不調の相談には、オンライン診療の前に婦人科の受診を勧める

生理の不調を相談できるような仕組みが、社内にあるのですね。

吉田さん「あんしん相談室+Plus」という、社内のあらゆる悩みや不安を相談できる窓口があります。健康課題をはじめ、人間関係やキャリア相談、妊娠・出産、介護などの心配事を、経営理念推進・Diversity & Inclusion本部で受け付ける仕組みで、正社員だけではなく、弊社でパートナーと呼んでいる非正規雇用の方々も対象になっています。まずはメールで受け付けて、個別に連絡を取ります。相談者の希望に合わせて、メールや対面、オンラインなど、さまざまな方法でお話ししています。最終的に、必要に応じて別部門や外部機関につなぐこともありますが、最初は経営理念推進・Diversity & Inclusion本部のメンバーでうかがいます。現在は3名で担当しています。

アクセス方法はオンライン上の社内掲示板にも掲載していますが、店舗のスタッフルームや本社の掲示板にポスターを貼り、すべての従業員の目に留まるようにしています。窓口のメールアドレスだけではなく二次元コードも掲載し、アクセスしやすくしています。

社内の「あんしん相談室+Plus」リニューアルを告知し、秘密厳守で24時間365日相談受付可能、相談内容の範囲拡大と外部専門窓口案内を示す掲示ポスター。
社内に掲示されている「あんしん相談室+Plus」の案内ポスター。アクセス情報だけではなく、どのような内容を相談できるのかも例示している。

髙橋さん「あんしん相談室+Plus」以外に、定期的にパルスサーベイ(※)を実施し、体調や仕事へのモチベーションなどを確認しています。そこで、体調が悪いと回答した方には経営理念推進・Diversity & Inclusion本部から連絡し、詳しい事情を聞いています。

睡眠の悩みや仕事の悩み相談という場合でも、話を掘り下げていくうちに、実は生理の不調やPMSの悩みを抱えているということがあります。月に1人は、生理に関する悩み相談がありますね。会社で低用量ピルの費用補助をしていることは知っていても、服薬自体に抵抗がある従業員は一定数います。そんなときには、自分の体験を話しています。私は鎮痛剤で痛みを抑えるくらい生理痛が重かったんです。そこで、「私は低用量ピルを使ったら生理痛が軽減されて、鎮痛剤を服用しなくなりました」と実体験を交えると伝わりやすく、考えるきっかけにしてもらえます。そこで自分で考えて使用を決断した方もいるし、使用しない方もいますね。

ただ、相談されたときには、まず婦人科の受診を勧めています。生理の不調から病気が見つかる可能性がありますし、身近な人を子宮がんで亡くした経験からも、私自身が受診の大切さを感じているからです。福利厚生の低用量ピルの処方はすべてオンラインで完結しますが、まず一度は婦人科の受診をしてほしいと思っています。

  • パルスサーベイ…従業員に対して簡単な質問を定期的に繰り返す、意識調査方法の一つ。

女性の活躍に関する社内イベントも行ったそうですね。

髙橋さん今年の3月3日~15日に、国際女性デーに合わせて「Monogatari Women's Week 2025」を開催しました。従業員と役職を持つパートナー(非正規雇用の従業員)を対象に、ジェンダーギャップやジェンダーバイアスの理解度を自己診断するe-ラーニングを実施しました。また、東京オフィスのエントランスに、6名の事業部長が発信する「セクシュアリティの垣根を取り払い、誰もが活躍できる環境づくり」に向けたメッセージを掲出しました。

そのほかにも、経営理念推進・Diversity & Inclusion本部の女性メンバーが、オンラインの社内掲示板に女性の健康課題に関する情報を積極的に投稿しています。低用量ピルの費用補助に関してだけでも、制度の導入を伝えただけではなく、利用者が増えていると報告したり、服用した従業員の声を載せたり、自分が婦人科を受診した感想をレポートしたり、内容を変えながら、興味を持ってもらえるように継続的に情報提供しています。イベントや情報発信を通じて、健康課題の解決に向けた取組を推進していきたいと思います。

「Monogatari Women's Week 2025」開催を知らせる黄色のポスターが、オフィスエントランスのイーゼルに掲示され、国際女性デーに合わせたメッセージが記載されている。
「Monogatari Women's Week 2025」開催中のオフィスエントランス。
株式会社物語コーポレーション

事業外食事業の運営及びフランチャイズチェーン展開
従業員数/1,820名 正社員に占める女性比率/23.9 %(2025年6月30日現在)

(※内容は2025年8月取材時点のものです)