企業の取組事例 Case study

「生理休暇」を「エフケア休暇」へ名称変更。多岐にわたる職場で、女性の健康課題をサポート

[株式会社帝国ホテル]

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積立年次有給休暇(積立年休)を不妊治療に利用できる制度や、女性の健康相談窓口の設置など、女性の健康課題をサポートするための制度づくりに力を入れている帝国ホテル。接客部門や調理部門、バックオフィス部門など従業員の職場と働き方が多岐にわたり、一斉に情報伝達するのが難しい中、どのように施策を浸透させているのか、同社の取組と施策の周知方法をうかがいました。

POINT
  • 積立年休の取得事由に「不妊治療」を追加。プレコンセプションケアの社外相談窓口も設置
  • 社内で「乳がん検診体験会」を実施し、婦人科検診受診の心理的ハードルを下げる
  • 新しい制度、定期健診の受診促進など、周知したい情報は研修や社内報など複数の方法で拡散
玉置文枝さん写真
帝国ホテル 人事部 労務課 ダイバーシティ推進 支配人 玉置文枝さん

「生理休暇」を「エフケア休暇」に名称変更。取得しやすさを向上

2024年に、積立年休の取得事由を増やしたそうですね。

玉置文枝さん(以下、玉置さん)はい。私傷病、育児、介護、つわり等の事由で取得できる積立年休に不妊治療を追加しました。実は、不妊治療については制度化する以前から、相談を受けた上で、柔軟に対応してきました。今回、制度化することで、全ての従業員が取得しやすいようにしました。

「生理休暇」も事由に含まれますか?

玉置さん当社では、積立年休とは別に生理休暇を独立した休暇制度として設けており、月2日まで有給で取得できるようにしています。さらに、取得を促進する目的で、2023年に名称を「エフケア休暇」に変更しました。これは、「生理休暇」という名称が申請時の心理的なハードルになっているという意見を反映したものです。名称を配慮あるものに変えることで、女性従業員がより利用しやすい環境を整えています。

24時間体制の職場もありますか。女性特有の事由による体調不良で、休みを取得することにより、シフト変更や要員の確保が必要になりますよね。実際には休みづらいということはないでしょうか?

玉置さん接客、調理部門など、いわゆる現場のスタッフは、基本的にシフト制で勤務していますが、休みを取得する場合は、現場で臨機応変に対応する空気が醸成されていると思います。「不調があるときは、無理せず休んでくださいね」というお互い様の精神で、お休みする従業員の仕事をほかの人たちでサポートする社内風土があります。

ホテルは24時間営業なので、不規則な勤務体系で働く従業員も多く、立ち仕事も多いですが、心身ともに安心して働けるよう、福利厚生施設の充実にも力を入れています。バックスペースには、休憩室のほか、医師や看護師が常駐し、すぐに診察や相談できる健康管理室を設置しています。

女性の健康を推進する施策として取り組んでいることはありますか?

玉置さん2025年3月には、国際女性デーを機に、「乳がん検診体験会」を初めて開催しました。社内で「乳腺エコー検査」を無料で受けられる同イベントは、東京、大阪の2つの事業所で合計3日間開催し、いずれも満席でした。今後この体験会は毎年継続していきたいと考えています。

マンモグラフィーではなく、乳腺エコーなのですね。

玉置さん体験会は勤務時間内に参加できるようにし、所要時間を短縮するため乳腺エコーに絞りました。この体験会を含む一連の取り組みは、乳がんなどの治療を終えて職場復帰された従業員を支援する中で、「女性のがんの早期発見」に会社としてもより力を入れたいと考えたことがきっかけで、スタートしています。

特に若い世代は、「痛そう」「面倒だ」といった理由で検査自体をネガティブに捉えて受診をためらう傾向にあります。そこで、体験会では実際に乳腺エコーを受けてもらうことで「痛くないし、思ったよりも気軽だ」と実感してもらいながら、合わせて定期的な検査による早期発見の大切さを伝えています。最終的には、この体験をきっかけに、きちんと婦人科検診につなげていくため、2024年からは「婦人科検診補助」も新たに導入しています。

どのような補助でしょうか。

玉置さん乳がんと子宮がん検査を含む婦人科検診の費用補助を行っています。補助額は年間10,000円が上限で、従業員が自分で選んだ医療機関で受けた検診費用の一部を、健康保険組合が負担する仕組みです。従業員は、自分の希望に合わせて検査内容を選べるようになっています。

ちなみに、婦人科検診の補助を開始したとき、同時に歯科検診の全額補助もスタートしました。仕事が忙しいと歯科検診はつい後回しになりがちですが、歯の健康は全身の健康やQOL(生活の質)にも直結します。定期的な検診を通じてトラブルを早期発見し、治療につなげてほしいと考えています。こうした補助を充実させることで、従業員の健康を総合的にサポートしたいと思っています。

健康課題に対応する相談窓口もあるそうですね。

玉置さんはい、当社では、健康に関する相談を気軽にできる社外相談窓口を契約しており、2025年9月からは「プレコンセプションケア」の相談も可能となりました。プレコンセプションケアは、将来の妊娠・出産や、自分自身の生涯にわたる健康を考えて、性別を問わず若い世代が健康管理を行う取組です。当社としても、プレコンセプションケアは全従業員のライフプラン設計を支援するために重要だと考え、相談できる体制を整えました。

御社の健康経営への取組を教えてください。

玉置さん当社は東京、大阪、上高地すべての事業所において従業員食堂を自営化しています。東京の食堂「サステナブル カフェテリア エスポワール」は、2021年8月から自営化。管理栄養士の従業員がメニュー監修し、当社の調理スタッフが手掛けたヘルシーメニュー(スマートミール)も提供しています。1日に複数回食堂を利用するスタッフもおり、直接的に健康への貢献があるのはもちろん、健康的な食生活に対する意識付けにもなったと思います。

そのほかにも、従業員が自分の身体についての理解を深めるため、体組成分析や姿勢測定、筋力・野菜摂取量・糖化度測定の機会を、健康測定会「じぶんスキャン」と称して年1回、定期健康診断前に開催しています。

ホテル食堂のカウンターで、調理スタッフが客に料理の皿を手渡しており、カウンター上にはサラダやご飯の皿も並んでいる様子が写っている。
ホテルの調理スタッフが作る料理は、管理栄養士監修でクオリティが高く美味しいと人気。食堂は、従業員だけではなく、パートナー企業や取引企業の人たちも利用できる。

e-ラーニングや社内報で取組を浸透させる

健康に関する研修も行っていると伺いました。

玉置さんはい、全従業員対象の健康e-ラーニング研修を年1回必修としています。ダイバーシティ推進担当が毎年手作りし、女性の健康課題に加え、「不妊治療の休暇制度」など最新の社内制度や施策について設問に盛り込むことで、問題を解きながら自然に周知できるよう工夫しています。終了後のアンケートでは、健康課題に関する従業員の要望を直接ヒアリングしています。この声を施策検討の重要な情報源とし、PDCAサイクルを回すことで、制度の継続的な充実に繋げています。

そのほかに周知するために取り組んでいることはありますか?

玉置さんそうですね。接客や調理など、現場で働く従業員はPCに触れる機会が限られています。そのため、情報の周知には、複数の媒体を使い分けて、制度が浸透するように工夫しています。たとえば、私のセクションで発行している「ダイバーシティ通信」は、社内のイントラネットやデジタルサイネージに掲載するほか、バックスペースにある掲示板へ貼り出しています。

「ダイバーシティ通信」の紙面画像。左は2024年に発行されたもので、不妊治療に取り組む従業員を会社が支援する方針と、不妊治療の特徴、利用できる制度(男女ともに積立有給休暇利用、不妊治療カード案内など)を説明している。右は2025年に発行されたもので、調理職向けマタニティパンツとワンピースの導入告知で、厨房での着用写真や、締め付けず動きやすい仕様・ウエスト調節可能などの特徴を紹介している。
ダイバーシティ通信では、ダイバーシティに関する社内のニュースを紹介している。画像は2024年度と2025年度に発行された「ダイバーシティ通信」の一部。左は、積立年休を不妊治療のために利用できると周知する目的で発行された号。右は調理職用のマタニティパンツ導入を告知するもの。

企業として、女性の健康課題に取り組む意義をどのように考えていますか?

玉置さん現在、当社の女性従業員比率は年々増加しています。それに伴い、女性特有の健康課題も徐々に顕在化しています。
当社では、会社が従業員の健康を促進すると、一人ひとりのパフォーマンスが向上し、その結果最高のホスピタリティによってお客様が笑顔になる。これが、企業イメージや売上に繋がり、そこから得た収益をさらに従業員の健康に投資できる、という好循環サイクルを軸に考えています。

多様な従業員が優れたサービスを提供し続けるためには、健康上の理由による離職を防ぎ、長く安心して働き続けられる環境を整えることが不可欠です。女性が抱える健康課題に対しても、一つでも多く解決し、働き続けられる環境を整備することこそが、当社の成長に直結すると確信しています

株式会社帝国ホテル

事業ホテル事業
従業員数/1,813名 女性従業員比率/約40%(2025年3月31日現在)

(※内容は2025年10月取材時点のものです)