企業の取組事例 Case study

生理の不調や更年期症状、不妊治療などで取得可能な「SRHR休暇」を導入

[株式会社サンリオ]

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130の国と地域にキャラクタービジネスを展開し、グローバルエンターテイメント企業で知られるサンリオが2025年4月に導入した「SRHR休暇」は、ニュースで取り上げられるなど話題になりました。「性と生殖に関する健康と権利」と訳されるSRHRに関する休暇とはどのようなものかを中心にお話をうかがいました。

POINT
  • 性別に関係なく取得できる「SRHR休暇」を導入。正社員だけではなく非正規雇用社員も利用可能に
  • 全従業員を対象に行ったアンケート調査で、健康課題やキャリアアップの阻害要因などを可視化
  • 自社キャラクターを社内の健康アンバサダーとし、健康に関する施策への関心を高める
浜田直子さん、稲葉結衣さん写真
右から、サンリオ 人事本部 組織開発部 健康推進課 浜田直子さん、人事本部 人事企画部 人事企画課 稲葉結衣さん

生理休暇を見直し、性別を限定せずに利用できる休暇として運用を開始

現在、女性の健康課題に対して、どのような取組をしているかを教えてください。

浜田直子さん(以下、浜田さん)2025年4月から「SRHR休暇」を導入しました。SRHRとは、「Sexual and Reproductive Health and Rights」の略で、「性と生殖に関する健康と権利」と訳されます。これまで生理休暇で対象としていた生理による体調不良に加えて、不妊治療や卵子凍結、更年期症状など、女性に限らず男性も利用が可能になりました。通常の生理休暇の解釈だと、生理中にしか取得できなかったのですが、新しい制度ではPMS(月経前症候群)でも取得可能です。

取得日数の制限はありますか?

浜田さん制限は設けていません。取得事由や症状に合わせて、ご本人と所属部署の上司とで話し合いながら決めることを原則としつつ、長期で取得したい場合は人事も含めて話し合うなど、臨機応変に運用しています。

その間の賃金は、どのような扱いになりますか?

浜田さんSRHR休暇は無給となっています。

今後、有給にする予定はありますか?

浜田さんまだ始まったばかりの制度で、どのような症状や治療でどのくらいの期間休む必要があるのかを、運用する側が把握しきれていません。有給にする場合は日数制限を設ける必要があります。その結果、長く休む必要がある方が使いづらくなってしまうデメリットも考えられますから、現状はスタート時の制度設計で様子を見ていきたいと思っています。

利用できるのは正社員だけですか?

稲葉結衣さん(以下、稲葉さん)アルバイトなどの非正規雇用のスタッフも利用できる制度になっています。特に店舗は非正規雇用のスタッフに支えられていますから、必要なときには、雇用形態に関わらず、皆さんに利用してもらいたいです。

男性の利用は、どのようなケースを想定しているのでしょうか。

浜田さん不妊治療のための休暇は男女共にニーズがあると思います。また、男性従業員から更年期症状が気になるという声も聞かれましたから、そのような方にも利用していただけると思います。

SRHR休暇を導入したきっかけを教えてください。

稲葉さん2024年に雇用形態に関わらない従業員対象のアンケート調査を行ったことです。「なぜサンリオで働くのか」と題して、健康課題だけではなく、仕事を継続するために必要なことなどを調査する、大規模なものでした。その結果から、回答した女性従業員の約50%が「結婚・出産・育児に伴い、キャリアアップをあきらめなければならない環境だ」と感じていたことが分かりました。そのことから、女性のキャリアにとって制約になっていることを取り除いていくために導入された施策の一つが、SRHR休暇でした。

アンケートは定期的に行っているのですか?

稲葉さんエンゲージメントサーベイ(従業員と会社とのつながりの強さを測定するための調査)は定期的に行っていますが、2024年のアンケート調査は、それとはまったく別の単独の調査です。

なぜそのような調査を行おうと思ったのですか?

稲葉さん弊社では、2021年に「One World, Connecting Smiles.」という新しいビジョンを設定しました。一人ひとりの笑顔を作り出し、さらに世界中に幸せの輪が広がっていくことによって「みんななかよく」という企業理念の達成を目指すことを意味しています。そのビジョンを実現するために人事本部としてできることは何があるかと話し合ったのですが、最初に出た意見のほとんどが、仮説や予想に基づくものばかりでした。

その頃、社内で生理休暇がどれくらい利用されているのかが気になって調べたところ、3年間で1度しか利用されていないことが分かりました。このことを上司に共有したところ、従業員の生理に関する課題を解決するためのプロジェクトチームができました。そちらでも、なぜ生理休暇が使われないのかを調査したいという意見が出て、従業員向けのアンケート調査に含めることになりました。

どれくらいの設問数のアンケートでしたか?

稲葉さん会社のVMV(ビジョン・ミッション・バリュー)への共感や職場環境、キャリア、働き方など、全部で77問ありました。これでも、最初に120問くらいあったものを、「多すぎるから」と言って減らしたのです。

ただ、設問数が多くなったのは、本当に何が知りたいのかをしっかりと話し合った結果でもありました。例えば、「生理休暇が使われないのはなぜか」という設問を考えているときにも、チーム内で、休みたい理由は生理の不調だけなのか、更年期症状が仕事に影響を与えているケースもあるのではないか、不妊治療のように周りは気づきにくい事情もあるのではないかなどと問いが膨らみました。それなら、生理だけではなく、皆が休みたいのはどのようなときなのかも可視化したい……というふうに設問数が増えていった経緯がありましたので、回答を集めやすくするために極端に設問数を減らし、本当に聞きたいことまで削除してしまうことは避けたいと思いました。

アンケートでは、健康課題によって働きにくさを感じている人が、それが解消したときにどれくらいエンゲージメントが上がるのか、逆に、制度がなくても企業風土によって現場でサポートされているケースがどれくらいあるかといったことも知りたいと思いました。ただ、意見を集約するだけではなく、後からデータ分析するときに、さまざまな角度で比較検討できるように設問を設計しました。働き方、福利厚生、プレゼンティーズム(出勤しているが、健康上の問題で本来の能力を発揮できない状態)などの労働生産性、さらに職場内のコミュニケーションや組織に関する問いを入れることで、社内のどこに課題があるのかが分かるようにしたのです。

アンケートへの回答は任意ですよね。設問数が多いことで、回答率が低くなりませんでしたか?

稲葉さんそれが、雇用形態に関わらず約750名が回答してくれました。

素晴らしいですね。それだけのデータが集まれば、説得力がありますね。

稲葉さんそうなのです。店舗で働くスタッフ含め約750名が77問に回答したデータは、とても説得力がありました。必要な施策を提案するときに、アンケート結果の数値を使って説明したことで、経営層が積極的に賛同してくれました。SRHR休暇の実現にも、本当に力になりました。

回答率を上げるために、どのような工夫をしたのでしょうか。

稲葉さんアンケートへの協力を求める際に、最初に「設問数が77問もあって多いです」と伝えました。その上で、「皆さんの現状を知って会社の施策に生かすためなので、頑張って答えてください」と、意義を伝えました。オンライン上で答えるアンケートだったので、従業員全員に社内のイントラネットでお知らせしましたが、店舗スタッフには社用のPCが支給されていないので、スマホで読み取ることでアンケートにアクセスできる二次元コードを発行し、それを店舗で共有してもらいました。

回答率を上げるための工夫ではありませんが、アンケートに回答して良かったと思ってもらえるように、施策に生きたものについては、「アンケートの結果、このような制度ができました。皆さんが協力してくださったおかげです」としっかりと伝えました。実際に、アンケートの結果から、育児短時間勤務の利用対象を、子どもが小学校3年生を修了までのところを小学校6年生を修了までへと延長しました。この制度変更も、2025年4月、SRHR休暇導入と同時に発表しています。アンケートを採って終わりではなく、それが施策に生かされたと伝えることで、アンケート自体をエンゲージメントの向上につなげられたと思っています。

生理休暇をきっかけに、休みが必要なのは「生理」だけなのかを議論

当初課題としていた生理休暇の取得率向上については、アンケート結果からどのような話し合いがされたのでしょうか。

稲葉さんアンケートを実施する前は「生理休暇」という名称が、取得のハードルを上げているのではないかと考え、名称を見直す意見が出ていましたが、チーム内で話すうちに、性にまつわる健康課題というのは生理だけではないことが見えてきました。アンケート結果から、更年期にあたる年齢の従業員は男女共に多く、更年期症状を気にする男性の声も届いていましたので、名称変更する上で、年齢や性別を問わず利用できる制度にしたほうがいいのではないかという観点で、話し合いが進みました。

そのコンセプトが出たときに、私は「SRHR」という概念がぴったりだと感じました。実は私は、学生時代にフェムテックライターとして活動していたことがあり、この言葉に触れる機会があったのです。そこで、チーム内でSRHR休暇という名称を提案しました。

聞きなれない言葉に、戸惑われませんでしたか?

稲葉さん皆さん、「そんな言葉があるんだ」という感じでした。ただ、この言葉を説明する段階で、チーム内の議論がとても盛り上がったんです。チームの中には、もともと従業員の女性比率が高く、性別に関係なく活躍できている会社だから、SRHRのような概念をあえて言葉にしなくても皆が分かっているという意見もありました。一方で、事業が拡大すると共に多くのキャリア採用社員や新入社員が入社しており、性の捉え方も変化し、新しい課題も増えている中で、暗黙の了解や社内文化に頼るのではなく、改めて言葉にして伝えていく必要があるのではないかと伝えました。チーム内でも、「そうだね。なんとなく分かっている、と納得するのではなく、きちんと言葉にしていこう」という意見でまとまり、あえて説明が必要な言葉だからこそ、「SRHR休暇」の名称を採用しました。

導入するにあたり、説明会は開いたのですか?

稲葉さんはい、オンラインの説明会を開きました。冒頭は人事本部長が、「サンリオが考えるDE&I」について説明をした後、担当者からSRHR休暇を導入する意図と、どのような制度かを説明しました。「SRHR」というアルファベットだけではピンとこないと思いましたから、「性と生殖に関する健康と権利」という日本語訳も添え、「すべての人の『性』と『生き方』を尊重するという意味があります」とお話ししました。1時間の説明会のうち、後半は実際の申請の仕方をレクチャーしました。「システムに入って、休暇申請のページのこの部分で、プルダウンで選んでください」というように、かなり具体的に説明することで、利用のハードルを少しでも下げたいと思いました。

動画をアーカイブとして残し、店舗のPCなどでも見られるようにもしました。弊社は、店舗が多いので施策の詳細を全従業員に伝えるのはなかなか大変なのですが、SRHR休暇がニュースなどで取り上げられたことで、「何だろう?」と興味を持って見てもらえたように思います。

導入後の反響はいかがでしょうか?

浜田さん良い反応が返ってきています。妊活のために利用している例を聞きましたし、導入から半年経過した時点で21名が取得しています。利用についての問い合わせも増えていますね。今までは妊活のときには有給休暇を使っていたという方から「もっと早く導入されていたらよかった」という反応もあり、必要とされていた制度だったのだと実感するのと同時に、制度を迅速に整えていく大切さを改めて感じました。

その他にも検討している施策はあるでしょうか?

浜田さんSRHR休暇が導入されたばかりですし、女性の健康課題については、今ある制度の浸透に注力しつつ、従業員一人ひとりが自分の健康に向き合う空気の醸成を優先課題にしています

2022年にデビューした「がおぱわるぅ」というキャラクターを、2025年から社内の健康アンバサダーに任命して、社内イベントやキャンペーンのほか、ポスターや啓発資料に登場させたりしています。健康に関する取組は、社内全員に関心を持ってもらうのはなかなか難しいのですが、エンターテイメント企業らしく自社のキャラクターを活用して、まずは関心を持ってもらうことから始めています。

「がおぱわるぅがワオワオ!健康アンバサダーに就任!」と書かれたパネルの横に「けんこう」と書かれたタスキをかけた「がおぱわるぅ」のぬいぐるみが写った写真
社内の健康アンバサダー「がおぱわるぅ」。タスキをかけた大きなぬいぐるみは、レセプションに設置されていて、健康経営をアピールしながら来客との会話のきっかけにもなっている。

2025年から健康経営にとても力を入れています。健康でなければ新しいチャレンジをする力は生まれないと思うので、経営課題として、従業員の健康に取り組む必要を感じています

また、「One World, Connecting Smiles.(一人でも多くの人を笑顔にし、世界中に幸せの輪を広げていく。)」という会社のビジョン実現には、それを支える従業員が笑顔でいられることが必要です。健康に対する悩みや不安を抱えていては笑顔を維持することは難しいですから、会社としてサポートしていくことが不可欠です。同時に、運動習慣を持つなど自分の健康に気を付けるような啓発をしたり、生理や更年期について学ぶ機会をつくったりして、今、不調を抱えていない人たちに対しても、しっかりとアプローチしていきたいと思っています。

株式会社サンリオ

事業ライセンス事業、物販事業、テーマパーク事業、デジタル・メディア事業など
従業員数/797名 女性従業員数/541名(嘱託・アルバイト等を除く。2025年3月31日時点)

(※内容は2025年12月取材時点のものです)