保育従事者のトイレと生理の悩みを解決するために「生理用品のサブスク」を導入
「自由にトイレに行けない」「生理用品を携帯するのが難しい」――保育所運営会社さくらさくみらいの調査で、保育従事者(保育園で働く保育士、栄養士、看護師など)がトイレと生理に関して悩みを抱える割合は一般企業の約30倍だと分かりました。その問題を解決するために、さくらさくみらいでは、2023年からサブスクリプション(サブスク)を利用し、保育現場の従業員が自由に使える生理用品を各保育所に配置しています。保育現場における女性の健康課題への取組をうかがいました。
- 全国88カ所の保育所に、職員が自由に使える生理用品を設置
- 1時間単位で取得できる年次有給休暇を使い、体調不良時の出勤を調整できる
- 保育室と離れた場所に休憩室を設置。仕事と切り離された環境で休める
生理用品の設置により自由なタイミングでトイレに行きやすくなった
運営する保育所に、共用で使える生理用品を配置しているそうですね。
西尾義隆さん(以下、西尾さん)2023年から、生理用品のサブスク「職場のロリエ」を利用し、弊社が運営する全国88カ所の保育所に従業員が自由に使える生理用品を置き始めました。
もともと、保護者が利用できるサービスとしておむつのサブスクを導入していました。希望する保護者が登園中は保育所に届いているおむつを無制限で使える有料サービスで、おむつに名前を書いて持たせる手間が省けます。そのオプションとして「職場のロリエ」があったことから、利用することにしたんです。おむつは保育所ごとに必要な枚数を発注していますが、そのときに生理用品も一緒に発注してもらっています。
女性従業員から、職場における生理の問題を解決してほしいという要望はあったのでしょうか?
西尾さん生理用品のサブスクを導入する前に「トイレ・生理の悩み実態調査」を行ったところ、自由なタイミングでトイレに行けず、勤務中に生理用品を交換するのをわずかでも「我慢している」と答えた割合は29.5%。担任業務を持つ保育士に限定すると約37%でした。サブスク運営会社によると、その割合は一般の企業の約30倍だそうです。「トイレのたびに控室に生理用品を取りに行かなければならず大変」「ポケットに入れていたものを落としてしまい、園児に説明できずに困った」といった声も寄せられ、調査を通じて「トイレと生理」は保育の現場において大きな課題だと分かりました。
職場に生理用品を設置するようになった反響はいかがでしたか?
西尾さん良い反響がありました。実際に「助かります」という声も聞きましたし、導入後のアンケートでも、回答者の33.3%が、職場に生理用品が設置されたことで「生理用品の交換頻度が上がった」と回答しました。さらに66.8%が、「以前よりも働きやすくなった」と答えています。
生理用品を設置するだけで、トイレを利用する頻度まで上がったのは興味深いですね。
西尾さんそうですね。意図したわけではありませんでしたが、生理用品を設置することで結果的に、生理現象を我慢することなく働いてほしいという会社の思いが伝わったと思います。生理に関して、保育従事者同士が現場でどのようにフォローをし合えるのかを改めて話し合うきっかけにもなったのではないでしょうか。
会社が保育従事者をケアすることで、保育の安全が保たれる
他にも女性の健康課題に関する取組はあるのでしょうか?
西尾さん健康課題の解決に特化した施策ではありませんが、年次有給休暇を1時間単位で取得できるようにしています。体の不調があるときに、朝1時間有休を使って出勤時間をずらすこともできます。子どもの学校の用事を終わらせてから出勤したり、子どもが病気で早く帰る必要が出た場合に使ったりするケースも多いですね。
突発的な時間単位の有休取得は、シフト調整が大変ではありませんか?
西尾さんそうですね、簡単ではありません。導入当時は管理する側から大変だという声も聞かれましたが、それでも安心して長く働き続けてもらうために必要な制度だと考え、皆で慣れていきました。子どもの年齢に応じて必要な保育士の人数は法律で決まっていますが、弊社ではそれ以上を配置して、突発的な休みにも対応しやすくしています。運営する保育所も多いですから、比較的近い保育所に応援を頼めるようにもしています。
体調が悪いときに、中休みとして有休を1時間取ることも可能ですか?
西尾さん制度としては可能ですが、実際には、有休を使うまでもなく適度に休憩をはさみながら勤務できるようにしています。そういった助け合いは現場にお願いすることになるのですが、会社ができることとして、すべての園に従業員用の休憩室があり、保育園内に準備できない場合でも園の近くに設けています。
園児の姿が見えると反射的に体が動いてしまいますから、保育室から離れた場所でゆっくりと休んでほしいと思っています。
そのような休憩室があることで、「体がつらいときに無理をしないでください」というメッセージにもなりますね。
西尾さんそうですね。保育現場は体力を使うので、体のケアはしっかりとしていきたいですね。女性に限定しませんが、本社と一部の保育所で、土曜日に無料でマッサージを受けられるようにもしています。希望者に対して予約制での提供ですが、プロのマッサージ職の方に来ていただいています。
メンタルケアとして取り組んでいることもありますか?
西尾さん業務における悩み相談は園長にすることが多いのですが、本社の職員に相談できる窓口も設置しています。さらに2023年からは、従業員向けに「はたらくみらい相談室」を開設しました。こちらは外部の専門家につながるサービスで、従来の相談窓口よりも気軽に相談してもらえます。保育士や栄養士など、保育職ならではの悩みや葛藤、女性のキャリアなどについてアドバイスを聞けます。それらは、従業員のメンタルケアをしたいと考えて導入しました。
すべての保育所に施策を周知して運用するために、どのようなことをしていますか?
西尾さん一つは、デジタル社内報を使ってお知らせしています。社内報は、本社のPR担当が作成し、オンラインで配信しています。新しい制度の周知だけではなく、社内のニュースを載せたり、プレゼント企画を実施したり、興味を持たれるように工夫していますね。本社と現場との距離をできるだけ縮められるように、本社で勤務する私たちの思いも伝えています。
また、管理職研修で説明することもあります。以前は、女性の更年期症状について話しました。保育士は20~30代が多いのですが、長く勤めていただける仕事なので更年期症状が出る世代もいます。知識として知ってもらった上で、現場では、必要に応じて配慮するようにお願いしています。
管理職は女性が多いのですか?
西尾さん多いですね。ただ、経営陣はほとんどが男性です。近年、社会的に女性の健康課題に注目が集まる中で、男性である私たち経営陣も、女性には生理があり、仕事に支障をきたすことがあると意識するようになりました。周りの女性に聞き、生理以外にもPMSがあるなどと勉強してはいますが、本当に理解するのは難しいです。ですから、管理職を中心とした女性従業員の意見を大切にしています。発言しやすい雰囲気を、しっかりと作っていきたいですね。
女性の健康課題への取組は、保育所にとってどのような意味があるでしょうか。
西尾さん保育の質の向上と安全には、保育従事者の心身の健康が不可欠です。保育従事者は常に自分よりも子どもたちを優先して行動していますから、彼らの心身のケアは会社の責務です。ごく一部の保育従事者による虐待がニュースになり、責任感と愛情を持って保育を行う大半の保育従事者にまで厳しい目が向くという残念な現状があります。虐待が起きてしまう一因は、保育現場のストレスです。保育従事者の心身の健康維持に努めることは安全な保育の提供につながりますし、その取組を積極的に外部に発信することで、利用者にも安心してもらえると思います。
2026年から本格実施される予定の「こども誰でも通園制度」(0歳6か月から満3歳未満で保育所等に通っていない子どもを対象に、保護者の就労要件を問わず月一定時間まで時間単位などで通園できる制度)により、今後、保育所の利用者は増加する見込みです。一方で、慢性的な保育士不足が続いています。保育従事者の心身のケアはもちろん、仕事とプライベートを両立しやすい体制を整えたり、収入面の不安を無くしたりすることで、長く働ける環境を整えることが必要です。保育の現場を離れた人に「また働きたい」と戻ってきてもらえるような職場にすることは、保育業界全体の課題だと思います。
事業保育所の運営
従業員数/1921名 女性従業員数/1853名(2026年1月15日時点)
(※内容は2025年12月取材時点のものです)