企業の取組事例 Case study

低用量ピルや卵子凍結への費用補助で女性社員の健康課題にアプローチ

[野村ホールディングス株式会社]

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大手金融グループの野村ホールディングスが2025年に女性社員の卵子凍結費用の補助を開始したことは、メディアでも取り上げられ話題になりました。女性の健康は会社の課題と捉え、低用量ピル服用への費用補助など、さまざまな施策に積極的に取り組む同社にお話をうかがいました。

POINT
  • 低用量ピル服用への全額費用補助を開始
  • 生理休暇の名称を「F休暇」に変更。取得要件にPMS(月経前症候群)を追加した
  • 卵子凍結に関する費用補助を開始。申請には、妊娠・出産や卵子凍結についての知識やリスクに関する動画を視聴し、理解を深めることを条件に
河野和絵さん写真
野村ホールディングス カルチャー&エンゲージメント部 ヴァイス・プレジデント 兼 ヘルスサポートグループ長 河野和絵さん

アンケートで女性の健康への課題感に男女差があることが顕在化

2025年4月から卵子凍結にかかる費用補助を含むプレコンセプションケアの啓発と、生理に関する制度の充実を進めているそうですね。

河野和絵さん(以下、河野さん)弊社では社員の自律的なキャリア形成を促進しており、女性社員に対しては、妊娠、出産、子育てを含むライフプランに配慮したさまざまな制度を整備しています。その一環として、卵子凍結費用の補助を開始しました。国内グループ会社の39歳以下の女性社員を対象に、卵子凍結にかかる費用について上限40万円を補助する制度です。同時に、生理に関する制度として、生理休暇の名称を「F休暇」へ変更し、取得事由にPMSも追加しました。

2024年10月には、国内グループの女性社員を対象に、低用量ピル服用のための費用を全額補助する制度もスタートしました。生理による体調不良の際にも休暇を取得しやすい環境を整備し、症状緩和のためのサポートを行うことで、女性社員が十分に能力を発揮し、より活躍できる職場になることを目指しています。

女性の健康課題に積極的に取り組むきっかけはあったのですか?

河野さん弊社の健康経営において「女性の健康促進」は重要なテーマの一つです。2016年に「NOMURA健康経営宣言」を発表してCHO(Chief Health Officer)を選任、経営戦略と結びつけた健康経営を推進してきました。その際に健康経営のテーマを5つ設け、女性の健康促進も生活習慣病対策やがん対策と並ぶ重要な項目となりました。2022年から社員の健康・ウェルビーイング支援をする法人向けサービス「Cradle(クレードル)」を導入し、DE&Iやヘルスケア関連のセミナーの提供を開始しました。これにより、女性の健康課題について多くの社員に理解してもらえる環境になったと思います。

2022年に女性の健康を学ぶセミナーを導入したのはなぜですか?

河野さん女性の健康課題としては、何十年も前から乳がん検診と子宮頸がん検診の受診費用を全額補助するなど、検診に力を入れていましたが、女性特有のがんというのは、女性の健康課題の一部にすぎません。しかし、それ以外の課題については、我々も十分に把握しきれていませんでした。そこで、年1回、全社員を対象に行っていた「健康意識調査」に、2021年度から女性の健康課題に関する質問も追加しました。そのアンケートで女性特有の健康課題で困ったことがある女性社員が約7割もいる一方で、女性の健康課題への対処に困ったことがある管理職は約5割にとどまるというギャップが明らかになりました(下図)。その結果から、女性の健康課題に関して深く理解している上司が少なく、職場で必要なサポートができていないと仮説を立て、女性の健康課題について学べる研修を開始しました。

女性社員と上司のヘルスケア課題認識を比較した横棒グラフ。女性社員は「月経関連の症状や疾患(月経不順・月経痛)」45.5%、「特にない」31.7%、「PMS(月経前症候群)等」28.6%、「メンタルヘルス」13.9%、「更年期障害」13.8%、「不妊・妊活」9.1%、「女性のがん・女性に多いがん」3.4%、「その他」3.0%で、約7割が何かしら困りごとあり。一方上司は「特にない」52.0%、「メンタルヘルス」28.2%、「月経関連の症状や疾病(月経不順・月経痛)」16.5%、「更年期障害」9.7%、「不妊・妊活」8.6%、「PMS(月経前症候群)等」6.6%、「女性のがん・女性に多いがん」4.7%、「その他」3.7%で、「特にない」と回答した上司が約5割と示されている。
女性には、「女性特有の健康課題で困ったことがありますか?」と質問し、男性には「女性の健康課題への対処に困ったことがありますか?」と質問して得られた結果。出典:野村證券「2021年度 健康意識調査」

2022年から、社内で制作した動画と外部サービス提供の動画を使ってオンライン研修を始めました。全社員を対象に、「企業が女性の健康に取り組む意義」というテーマで産婦人科医の高尾美穂医師とCHOの対談を動画配信しました。高尾先生には、企業が女性の健康に対する施策を行うようになった社会的背景や、健康管理における男女の違い、管理職や周囲の人が女性の健康について理解を深め、どうコミュニケーションを取るべきか、また女性も自らの悩みや問題とどう向き合うかなど、幅広く話していただきました。当時の男性のCHOが、先生のお話に対して「女性の健康について全然知らずに生きてきました」と率直な感想を述べたり、「女性の健康課題を経営層や管理職を含めた全員が理解していないと、会社は成長できない。とても重要なことですね」と語ったりしたことが大きな反響を呼びました。2022年に行った研修後のアンケートでは、96.1%の社員が女性の健康課題についての理解が深まったと答えています。

研修を受講した社員からは「会社の本気を感じた」「もっと早く取り組んでほしかった」といった声が寄せられました。男性社員の中には、「妻や娘の生理は触れてはいけない話題だと思っていた。そんなにつらいものだとは知らなかった」などと、家庭での気づきを共有してくれた方もいました。また、男性の管理職からは「女性の部下に対する声掛けの方法を研修で取り上げてもらって良かった」という声も聞かれました。一方、女性の管理職からは「部下の男性の健康のことを分かっていないかもしれないと思い至った。男性の健康課題について配慮するべきことを知りたい」という意見もあり、翌年には男性更年期に関する研修を取り入れました。研修を通じて、男女の相互理解が醸成されたという手ごたえがありました。

2022年以降も、研修は動画配信で継続しているのですか?

河野さんはい。毎年テーマを変えながら実施しています。施策を開始した当初は、男性のCHOが社員と同じ目線で学んでいく姿に共感を得られ、会社としてこれからしっかりと取り組んでいくというメッセージ性がありました。今は、女性であるCHRO兼CHOの尾崎由紀子が自分の体験も交えながら「女性の健康への取組は会社の課題」と話すことで説得力がありますし、女性社員にとっては励みになります。尾崎は、弊社が女性の健康に取り組む理由や健康経営の推進方針について毎年メッセージを発信しており、社内の空気醸成につながっています。

女性の健康課題への取組は「野村で長くいきいきと働いてほしい」というメッセージ

女性の健康課題に関する施策の手ごたえはいかがですか?

河野さん生理休暇を「F休暇」とし適用範囲も広げたことで、導入前と比べて取得者数は125%となりました。また、低用量ピルの費用補助制度を利用した社員を対象に実施したアンケートでは、制度利用前は生理が仕事のパフォーマンスに影響を与えていた日数の平均が1人あたり3.6日/月でしたが、利用後は1.9日/月に短縮しました。

低用量ピルへの費用補助は、現在、どれくらいの社員が利用していますか?

河野さん利用対象となる女性社員のうち、約1割が利用しています。

多くの方が利用していますね。研修などで周知した効果でしょうか?

河野さん女性の健康課題に関する研修は継続して実施していますので、その効果もありますね。ただ、影響が大きかったのは実際に制度を利用した社員のクチコミです。利用した人が「症状が緩和された」と周りに話し、それが広がっているようです。導入後から、ヘルスサポートグループに「低用量ピルへの補助があると聞いたのですが、どのように申し込むのですか?」「利用した同僚から話を聞いて興味があります」という問い合わせがたくさんありました。

こうして横のつながりで施策が広がっていくことも、風土醸成の成果の一つだととらえています。5年ほど前までは、職場で生理の話をするというのはあまりないことでした。それが、同僚の間で「低用量ピルを使って良かったですよ」と話せるような空気ができたのは、研修を通じて社内の雰囲気が変わったことの現れだと思っています。

生理に関する理解を促進するために、生理痛体験も実施したそうですね。

河野さん2025年7月に、野村證券大手町本社の会議室に生理痛を疑似体験できる装置を設置し体験ブースを設けました。休憩時間に任意で体験できるようにして、男女合わせて約110名の社員が参加しました。私も体験し、3段階ある痛みの1段階目で痛くて倒れそうになりました。一方で同僚の女性は同じ痛みを「この程度なら走れます」と言っており、女性でも痛みの感じ方に個人差が大きいことを改めて感じました。

生理痛を疑似体験する装置を装着した男性が椅子に座り、痛みに顔をしかめている様子。
生理痛体験の様子。男性は、1段階目で、その痛みに顔をしかめる人も続出した。

体験した人には、「体験で感じた腹部のつらさの度合いを教えてください」と「痛みが続いた場合に、通常の仕事と比較してどの程度のパフォーマンスを発揮できそうですか?」という項目が書かれた表を用意し、自分が該当する場所にシールを貼ってもらいました(下写真)。黄色が女性、緑色が男性です。その結果、男性の多くは腹部の痛みを「とてもつらい」と回答し、男女ほぼ全員が、痛みがあると普段のパフォーマンスを「発揮できない」と答えました。この結果は野村ホールディングスの社内ニュースでも共有し、メディアの取材でも取り上げられました。それにより、参加できなかった人にも生理痛のつらさを可視化できたと思います。

  • 腹部の痛みの強さをシールで評価するアンケート用紙の写真。「体験で感じた腹部の辛さの度合いを教えてください」と日英で書かれ、左端が「辛くない/Not painful」、右端が「とても辛い/Very painful」の横軸になっている。用紙上には黄・緑・青の丸いシールが多数貼られており、多くが右側(痛みが強い側)に集中している。
  • 「強程度の痛みが就業時間中ずっと続いた場合に、通常時と比較してどの程度仕事のパフォーマンスを発揮できそうか」を尋ねる日英併記アンケート用紙の写真。左端が「発揮できない/Not at all」、右端が「通常通り/almost like usual」の横軸になっており、回答を示す黄・緑・青の丸シールがほぼ左端に密集し、中央以降にはわずかしか貼られていない様子が写っている。

左が「体験で感じた腹部のつらさの度合いを教えてください」、右が「痛みが続いた場合に、通常の仕事と比較してどの程度のパフォーマンスを発揮できそうですか?」という質問の結果。

アンケート調査や体験会などで想定される課題を可視化しているのは、説得力がありますね。2025年4月に開始した「卵子凍結にかかる費用補助を含むプレコンセプションケアの啓発」も、アンケート調査がもとになっているのでしょうか?

河野さん卵子凍結については、従業員組合に20代の女性社員から、卵子凍結への補助を検討してほしいという要望が寄せられたことがきっかけでした。もともと弊社では、最大50日付与される傷病等休暇を、不妊治療を事由に取得可能にしています。傷病として申請するので上司に不妊治療と知られることなく休暇を取得することができます。また、不妊治療を事由とした最大1年間の休職制度もあります。このように、これまでも不妊治療についてはサポートをしており、健康意識調査でも、回答者の約9%が不妊治療をしていると回答しています。

ただ、卵子凍結は将来の妊娠を必ず約束するものではありません。凍結した卵子を維持していくランニングコストもかかるため、ヘルスサポートグループではかなり慎重に検討しました。最終的に、39歳以下の女性社員を対象に、採卵・凍結時にかかる費用のうち上限40万円を支給する制度として運用を開始しました。維持費については個人の負担としています。さらに、事前に妊娠・出産や卵子凍結に関する知識やリスクについて知る動画を視聴して理解を深めたうえで申請することを条件とし、そのために動画も制作しました。

2022年以降、女性の健康課題に対する施策を積極的に取り入れていますね。その中で、どの施策の反響が大きかったですか?

河野さん低用量ピルへの費用補助は施策導入後の利用者アンケートで非常に良い反応を得られ、手ごたえがありました。私たちにとって、ポジティブな結果です。弊社は健康経営に力を入れていますが、これまで健康に関する施策は、生活習慣病対策のように男性や年齢層の高い社員が対象となる場合が多い状況でした。そのような中で、卵子凍結や低用量ピルに関する施策は、今までなかなかアプローチできなかった年齢層の女性社員に届きました。その点をうれしく感じています。

女性の健康課題への取組は、野村ホールディングスにとってどのような意味を持つでしょうか?

河野さん弊社は、多様な人材こそが最大の「財産」であり、競争力とイノベーションを生む源泉であると考えています。さまざまな背景や価値観を持つ人材が最大限の力を発揮するために、性別に関わらずライフイベントと仕事を両立できる、柔軟な働き方を実現する職場環境の整備を推進しています。たとえば、女性社員が管理職をオファーされたとき、上司だけではなく会社の制度や企業文化によってバックアップしてもらえそうだと感じれば、今以上に女性の管理職は増えていくと思います。女性の健康課題への取組は、女性社員の就業継続を応援し、広く活躍の機会を提供する一助になると考えています。女性の健康課題に関する新しい施策を導入する際は、取組の説明だけではなく、そのような会社の思いをメッセージとして伝えることも心掛けています。

野村ホールディングス株式会社

事業証券業
社員数/27,242名 女性社員数/10,945名(2025年3月末時点)

(※内容は2025年12月取材時点のものです)