企業の取組事例 Case study

「白のユニフォーム」を起点に女性アスリートの健康課題を問題提起

[SOMPOホールディングス株式会社]

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自社の女性従業員の健康課題にアプローチするだけでなく、プロジェクトとして取り組み、社会全体に理解の輪を広げる活動をする企業もあります。その一つが、SOMPOホールディングスです。若い女性アスリートをサポートする目的で始動したプロジェクト「OUR STORIES」を通して気づいた女性アスリートの健康課題に対して、どのようにアプローチしてきたかをうかがいました。

POINT
  • 女性アスリートの健康課題を、第三者の目を通して解決したい問題の俎上(そじょう)に上げた
  • 生理の不安からくる白いユニフォームの問題を当事者の言葉で発信
  • 多様なステークホルダーとの共創を生み、当事者以外を巻き込むムーブメントに
伊藤有希さん写真
SOMPOホールディングス 広報部 ブランド・コミュニケーショングループ 課長代理 伊藤有希さん

調査で分かった「女性アスリートが我慢し続けていたこと」

「OUR STORIES」とはどのようなプロジェクトですか。

伊藤有希さん(以下、伊藤さん)女子サッカーの未来を担う若手アスリートが、大好きなサッカーを生涯楽しめるような社会をつくっていく取組としてスタートしました。社会課題を多様なステークホルダーと一緒に解決していくプロジェクトとして展開しています。サブコピーは「あなたの声を、私たちみんなの物語に」。一人ひとりが抱えるモヤモヤを言葉にすることで、共感した人たちが集まり、共に解決へ向かっていく。そのプロセスを「聞く→語る→動く」という3つのステップで体現しています。この「まず耳を傾ける」というアプローチは、世の中の困りごとに寄り添うというSOMPOグループの創業精神にも通じています。

きっかけは、2024年7月にSOMPOグループが日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」とタイトルパートナー契約を締結したことでした。WEリーグの「女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する」という活動理念が、弊社のパーパス「“安心・安全・健康”であふれる未来へ」と響き合ったことで、契約が実現しました。そこから、WEリーグとともに子どもたちが選手と一緒に防災を学べるイベントなどを通じて、社会課題の解決に取り組んできましたが、もっと直接的に女子サッカーの課題にアプローチしたいと考え、「OUR STORIES」が生まれました。

プロジェクトでは、まずどのような課題を取り上げたのでしょうか。

伊藤さん女性が10代でスポーツをやめてしまうという課題に着目しました。UN Women(国連女性機関)公式統計(2026年5月)で、14歳までのスポーツ離脱率は、女性が男性の2倍だと報告されています。そのボトルネックを探るために、全日本高等学校女子サッカー選手権大会で史上初の3連覇を達成した強豪校、藤枝順心高校(静岡県)にお願いし、部員たちの声を聞かせてもらうことにしました。プロジェクトで大切にしている「聞く」のプロセスです。

2025年1月から2月にかけてアンケートを実施し、さらに学校を訪問して生の声を集めました。現役のWEリーガーと元選手(OG)に協力を仰ぎ、選手たちが本音を話しやすい対話の場をセッティング。そして、藤枝順心高校の生徒が出演するインタビュー動画を作成し、当社の公式YouTubeで発信させてもらいました。

その中で、女性アスリートと生理の課題に気づいたそうですね。

伊藤さんはい。「白いユニフォーム」に関する課題の中に、生理がありました。サッカーでは、両チームは、お互いに、また、審判員と区別できる色の服装を着用しなければならないというJFAの競技規則があります。「ホーム」と「アウェー」の2種類のユニフォームを用意する場合、片方に白系のボトムスが採用されることも多かったのです。

ところが、アンケートの自由回答やインタビューのときに「たとえ試合でも、生理のときは思いっきりスライディングできない」という意見が聞かれました。そのほかにも、「ユニフォームが透けるのが気になる」「更衣室がないグラウンドもあるため、木陰で着替えることがある」など、第三者の立場で聞くと衝撃を受けるような話もありました。一方で、選手たちは「ちょっと気になること」という印象でサラリと答えており、当事者にとっては日常的になっているがゆえに、問題にすることもなく、個々が我慢することで成り立ってきたことも分かりました。

そこでプロジェクトでは、まず「白いユニフォーム」の問題にアプローチすることにしました。2025年3月8日の国際女性デーに合わせて、藤枝順心高校の選手が出演した「10代で女子はスポーツをやめちゃう問題」をテーマとする対談動画「【サッカーが好き!でもほんとは】藤枝順心サッカー部×WEリーガー・WEクラブOGの対話」を公開しました。若い女性アスリートが感じる課題を対話する構成なのですが、「生理」などの言葉を前面に押し出すのではなく、「白いユニフォームへの困りごと」に束ねたことで、生理への不安や雨や汗による透け、更衣室不足といった複合的な課題が幅広い人に伝わりやすくなったと思いますし、部員のみなさんも話しやすくなったように思います

私も拝見しましたが、「何とかしたい」と思わされるような、訴える力がありますね。

伊藤さん映像で当事者が自分の言葉で語る力は大きく、行政や地域の企業、スポーツメーカー、大学の女子スポーツ研究者など、さまざまな立場の方から「一緒に取り組みたい」という反響をいただきました。まさに「語る」の力です。

ずっと存在していた課題なのに、「OUR STORIES」でクローズアップするまで顕在化していなかったというのは不思議ですね。

伊藤さん当事者が声を上げづらい構造は、プロジェクトを通じて浮かび上がったもう一つの課題です。全国の女子高校生・保護者・指導者を対象とした大規模な意識調査も行いましたが、寄せられた女性選手の声から、問題を感じたとしても「言っても変わらない」「言ったら不利益があるかもしれない」と考えていることが分かりました。伝えることで「レギュラーから外されるかもしれない」などと思ってしまう。困っていても、声を上げられない現実があると分かりました。

それは、働く女性たちにも共通している課題かもしれませんね。

伊藤さんそうかもしれません。上司に嫌な顔をされるかもしれない、生理痛でよく休む人だと思われると不利益があるかもしれないなどと考え、自分の体調について職場で相談しづらく感じるという構造は同じです。

藤枝順心高校の選手たちは、プロジェクトの中でも積極的に発言し、自分の気持ちを率直に伝えてくれました。その背景には、チームの指導者が、日ごろから丁寧に選手と対話し、さまざまな問題を解決してきた関係性がありました。対話しやすい指導者の存在が、選手たちの発言を引き出していたのです。このように、チームや組織に「この人になら話しても大丈夫」という信頼関係や心理的安全性が確保されていることは、健康課題を抱える人が声を上げるための第一歩になると感じました。

議論できる場をつくることで改善のスピードが上がった

国際女性デーで「白いユニフォーム」問題を提起した後は、プロジェクトはどのように進んでいったのでしょうか。

伊藤さんその年の9月に、静岡県藤枝市で多様なステークホルダーを集めた対話セッションを開催しました。1テーブルにつき1テーマを議論し合うかたちで、テーブルごとに「白いユニフォームに困る」「女子更衣室がなくて困る」などのテーマ設定をして、藤枝順心高校の選手、地元企業、自治体、学校関係者、スポーツメーカーといった方々が話し合う場をつくりました。

「白いユニフォーム」をテーマにしたテーブルでは、「透けない素材への変更」「ユニフォームパンツの色の変更」など具体的なアイデアが出され、検討を重ねました。直近は、汗をかいてもパフォーマンスが落ちないようにと速乾性のある機能性素材が採用されているのですが、生地素材の変更により、以前よりも透けやすくなったそうです。ユニフォームメーカーの方には、新たな気づきとなる意見でした。また、白いボトムスは生理のときににじんでしまわないか気になるという問題意識を持つ選手がいる一方で、白はかわいいから好きだという意見もありました。同じ女性選手の中でも全く違う意見があり、人によって感じ方は多様であることも実感しました。

2025年 11月には、全国の女子高校生・保護者・指導者を対象とした大規模な意識調査を実施しました。SOMPOホールディングスが実施したこの調査では、女子高校生の74.1%が「スポーツをやめたいと思ったことがある」、白いユニフォームについて48.7%が「困ったことがある」と回答(SOMPOホールディングス調べ。2025年11月実施)するなど、課題をファクトとして社会に提示しました。

このような過程を経て、どのような成果が生まれましたか。

伊藤さん藤枝順心高校の公式ユニフォームの白のボトムスが紺色に変更され、令和7年度(2025年度)高校女子サッカー選手権から採用されました。指導者の先生は「練習着のボトムスはすでに色変更していたが、公式ユニフォームの変更には2~3年かかると思っていた」とおっしゃっていましたが、プロジェクトで社会的関心が高まったことで大幅に前倒しになったそうです。

SOMPOグループ×WEリーグ「OUR STORIES」記者発表で、藤枝順心高校女子サッカー部の新ユニフォームを着用した選手とマネキンが登壇者とともに紹介されている様子
2025年12月1日に行われたSOMPOグループ×WEリーグ「OUR STORIES」記者発表では、藤枝順心高校女子サッカー部の新しいユニフォームが紹介された。(写真提供:SOMPOホールディングス)

また、新ユニフォームのお披露目の場で、動画に出演してくれた高校3年生の選手が「自分たちが発した言葉が、こんなに大きなことになって変化を生むとは思わなかった。少し言いにくいことも、口に出してみようと思いました」と話してくれました。声を上げれば社会は動くという体験を高校生のうちに積んでもらえたこと、それ自体がこのプロジェクトの大きな成果だったと感じています。

一部メディアで、なでしこジャパン(日本サッカー女子代表)でもユニフォームのボトムスが白から青に変わったと話題になりましたね。

伊藤さん海外のチームからスタートした国際的な波があっての変更だったそうですが、「OUR STORIES」の活動と時期が近かったこともあり、一緒にニュースとして取り上げられました。女性アスリートの健康課題に配慮するという社会の意識形成に、少しでも貢献できたのであればうれしいですね。

企業が女性の健康課題にプロジェクトとして取り組む意義を、どのようにお考えですか?

伊藤さんまず、企業が自社の社員に向けた健康支援をしっかり行うことは大前提です。SOMPOグループ社内でも、10月のピンクリボン月間の啓発展示や乳がん触診体験、全社員対象の女性の健康課題研修を実施しています。2025年11月には男性の更年期セミナーも実施しました。女性だけでなく、男性にも生理的な不調があり得るという気づきは、職場の相互理解を深めます。

その上で、「OUR STORIES」のような場を企業がつくることで、一社や一団体、一個人では動かせない課題解決をスピードアップさせる可能性が生まれます。スポーツメーカーや行政、学校、地域企業など、それぞれが単独では持ちにくい力を、共創によって発揮できると思います。

元サッカー日本女子代表で、5月になでしこジャパンのコーチに就任した近賀ゆかりさんは、「OUR STORIES」がスタートした当時、WEリーグ特任理事だったことから、プロジェクトにもご協力いただきました。発表会やインタビューの中では、「自分がプレーしていたころは、白いユニフォームが透けるのは当たり前だと思っていた」と、当事者の意見を率直にお話ししてくださいました。当たり前だと思われていたことにスポットを当てて議論を生み出すことの積み重ねが、社会を少しずつ変えていくのだと思います。

改めて、このプロジェクトを通じて女性の健康課題に関して伝えたいことはありますか?

伊藤さん女性の健康課題は、女性だけが我慢すればすむ問題ではありません。1人の「言えなかった本音」が多くの人を動かし、社会を変えていく。そのプロセスに企業として関われることに、大きな手応えを感じています。

「OUR STORIES」は生理だけのプロジェクトではありませんが、生理による競技への影響やユニフォームへの不安や「言えない」という心理的な壁は、働く女性が日常的に経験していることと重なっています。スポーツの世界での出来事を、職場や社会全体の問題として読み解いてもらえたらうれしいですね。

SOMPOホールディングス株式会社

事業損害保険会社、生命保険会社などの経営管理ほか
従業員数/531名 女性従業員数/175名(2026年4月1日現在)

(※内容は2026年6月取材時点のものです)

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