企業の取組事例 Case study

健康支援の男女格差解消のために女性の健康課題に向き合った

[カシオ計算機株式会社]

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健康経営優良法人「ホワイト500」の中から、特に優れた企業50社を選ぶ「健康経営銘柄」に、2025年3月に選出されたカシオ計算機。2021年度から始まった健康経営の本格的な取組の中で、最優先課題の一つと位置付けられたのが女性の健康課題でした。医療職も加わった健康経営推進チームが一丸となり、社内に女性の健康に配慮する空気を醸成していった過程をうかがいました。

POINT
  • セミナーとeラーニングは「全従業員向け」「女性向け」「管理職向け」に分けて実施
  • 10月のピンクリボン月間に、女性特有のがんに関するセミナーを実施。セルフチェックの啓発を強化
  • 不妊治療のために通算1年まで休職できる制度を実施。不妊の無料相談ができる社外窓口も設置
岡野聖子さん、高林久美子さん、濱本敦子さん写真
左から、カシオ計算機 人事部 業務グループ 健康経営推進チーム 岡野聖子さん、人事部業務グループ グループマネージャー 高林久美子さん、人事部 業務グループ リーダー 濱本敦子さん

看護師の「女性への健康支援が足りない」という思いが取組の発端

カシオ計算機が、女性の健康課題を施策として取り組み始めたきっかけを教えてください。

岡野聖子さん(以下、岡野さん)当社では、企業価値向上のために人的資本経営が必須であると考えています。そのような観点から、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できる職場をつくっていくために、会社として従業員の健康に配慮していこうと、2021年に健康経営推進チームが発足しました。

健康経営推進チームは、人事部内に発足したのでしょうか。

濱本敦子さん(以下、濱本さん)はい。人事部のメンバーと本社内の診療所の医療職とで発足しました。診療所も、人事部内の一組織です。岡野は診療所の看護師ですが、健康経営推進チームにも発足当初から参画しています。医療職で常時関わっているのは岡野のみですが、女性の健康課題のほかにも禁煙や睡眠などさまざまな課題を扱いますから、各課題に1人、医療職の担当者が配属されています。

医療職ではない人事部のメンバーからは、専門的な内容や施策の進め方などを相談することも多いですし、医療職の方々からいただいた資料に対して難しいと感じる部分があれば、素人を代表して質問したり、分かりやすい内容に変えていったりする役割も担っています。また、従業員に向けて施策をアプローチする際にも「このような言い方をしたほうが興味を持ってもらえますよ」など、医療職の経験に基づいたアドバイスをいただけます。

チームに医療職の方がいるのは、心強いですね。従業員の健康に配慮する環境づくりという目的の中で、女性の健康課題に着目したのはなぜでしょうか。

岡野さん私自身が医療職として会社に関わってきた中で、女性の健康課題に着手できていないと感じていました。当社ではメタボ対策や生活習慣病対策などは比較的しっかりと行っていましたが、結果的に男性中心の施策に偏っていたのです。最初に、チーム内で取り組むべき課題の優先順位を検討したときにその課題感を伝え、男女間の健康支援のバランスを改善したいと話しました。2021年当時は社会的に女性の健康課題が注目され始めていたことも後押しとなり、女性の健康課題に優先的に取り組んでいこうと、チームの意見がまとまりました。

どのようなことから着手したのでしょうか。

高林久美子さん(以下、高林さん)制度を整えるのはもちろん、教育、環境整備、医療支援を組み合わせて総合的に行っています。教育面では、2022年から継続的にセミナーやeラーニングを通じた学びの機会を提供し、会社全体に配慮できる土壌をつくっています

岡野さん2022年度は導入期として、全従業員を対象に、女性特有の健康課題に関する理解促進セミナーや動画配信を実施しました。職場における心理的ハードルの低減を重視し、女性の健康課題を全従業員の共通理解とすることで、配慮の土壌づくりを目指しました。

2023年度は展開期として、女性従業員向けに乳がんなどの特定疾患に関する情報提供や検診啓発を強化し、女性の自己健康意識向上を促進しました。実は、女性の健康意識向上は、健康経営推進チーム発足当初から課題として感じていたので、2022年に社内全体への施策を実行したことで、次のステップとして実現できました。

2024年度は発展期として、セルフチェックや健康測定会の導入により行動変容を促進するとともに、外部専門医による相談窓口を整備し、安心して相談できる環境を構築しました。2025年度以降は、eラーニング、体験型ワークショップ、管理職研修を通じて、健康配慮が根付いた組織文化の定着を目指しています。

セミナーやeラーニングは、いつ、どのような内容で行っているのでしょうか。

岡野さん現在は、年2回、3月の国際女性デーと10月のピンクリボン月間のタイミングに合わせてイベントなどを開催しつつ、会社の課題に沿ったセミナーやeラーニングを実施しています。

特に、10月はピンクリボン月間に合わせて、乳がんなどの女性特有のがんに関連したイベントやセミナーなどを開催しています。これまでには、専門医を招いて、マンモグラフィとエコー検査の違いなど、乳がん検診がどのようなものかをお話ししてもらったり、セルフチェックの重要性を伝えたりしました。特に、セルフチェックの啓発には力を入れています。検診だけに頼るのではなく、自分で気づくことができれば、早期発見の確率が上がりますから。2025年度は、セミナーだけではなく、乳房セルフチェック用の手袋を女性従業員に無料で配布しました。ピンクリボン月間をきっかけに、触診を抵抗なく行ってもらえれば、と思っています。

女性特有のがんについてはポスターを社内に掲示して、男性従業員にも知識として伝わるようにしています。

乳がん検診とセルフチェックを促すブースと、その使い方説明シートの写真。上部に「乳がん検診があなたを守る!」と書かれたピンク色のスタンドと、赤いパッケージの「Breast Self Checker(ブレストセルフチェッカー)」が箱に入っている。手前のシートには「Breast Self Checker 使い方 How to use」と題した4コマのイラストがあり、女性が片腕を上げ、反対の手で乳房全体や脇の下を順番に触ってチェックする手順が描かれている。
女性従業員に配られた「Brest Self Checker(自己検診用ブレストセルフチェッカー)」。特殊加工された薄いフィルム状の手袋が、触診の仕方が書かれた説明書と一緒に折りたたまれて入っている。

女性特有のがん以外の女性の健康課題に関しては、2022年から継続して全従業員向けの内容で行っているのでしょうか?

岡野さん初年度は全従業員向けに同じ内容で行いましたが、翌年からは、「全従業員向け」「女性向け」「管理職向け」に分けて実施しています。配慮の土壌づくりのためには、全従業員が基本的な知識を得る必要があると思いますが、一方で、立場の違いによって興味を引くアプローチ方法も知りたいことも変わります。例えば管理職には、ただ女性の健康課題について伝えるだけでなく、女性の健康課題による社会全体への経済損失に触れたり、部下の健康管理マネジメントについて取り上げたりして、より管理する立場に必要な内容にしています。

立場の違いによる課題は、どのように見つけているのでしょうか?

岡野さん毎年3月に、全従業員を対象にアンケートを行っており、その結果も参考に社内にある課題や施策を検討しています。アンケートは、健康的に働ける社内環境を整えるのに必要なことや現在の困りごとなどを聞く、5~6問程度の簡単なもので、選択式と自由回答を組み合わせたものになっています。そのアンケートで、管理職層から「理論は理解したが、具体的にどのように対応したらいいか分からない」といった声が寄せられたことから、管理職向けに具体的な声掛けの方法などを盛り込んだ動画も制作しました。

実は、東京都「働く女性のウェルネス向上委員会」に掲載された動画を管理職向けのeラーニングとして活用しました。健康経営推進チームでいろいろな情報を調べている中で生理のVR体験デバイスの動画を見つけたのですが、体験した男性が「お互いに助け合い、できるところはサポートしていきたい」と話していたり、女性が「男性従業員がこんなに痛がっているのなら、自分たちはもっと生理のことを言ってもいいのだと感じた」と発言したりしており、それが非常に印象に残りました。そこで、2024年に管理職の方々に、その動画を視聴してもらいました。

動画は公共機関や専門事業者が制作したものを使うことが多いのでしょうか?

岡野さん良いものがあれば社内ポータルサイトで紹介しつつ、研修やeラーニングで使用するものは2024年度からは内製に切り替えました。PowerPointでスライドを作って私が話す程度の簡単なものですが、アンケートで寄せられた悩みを紹介したり、社内の具体的なケースを例に挙げて伝えたりしたほうがイメージしやすく、浸透率も高いのではないかと考えました。病気や体調不良なども、従業員の罹患率や相談件数、相談内容を盛り込んで紹介しています。

2025年度はアンケートから見えた課題を紹介しながら、子宮内膜症や良性疾患といった、より医療的な内容に踏み込みました。専門的な内容になりましたが、2022年から継続して社内教育を進めてきた成果が実を結び、非常に多くの女性従業員に視聴してもらえました。

オンラインセミナーやeラーニングは時間や場所の制約がなく、広く視聴してもらえるメリットがある一方で、興味を持たない層に視聴してもらうのが難しいという課題があります。

岡野さんその通りです。その解決策の一つが、先ほどお伝えしたように、動画を内製化してより自社に沿った内容で制作することです。それ以外にも、動画の視聴をポータルサイトやメールなどで呼び掛ける際には、特に男性従業員に向けて「ご家族のことを知るきっかけにしてください」とか「部下のマネジメントに必要なことです」など、自分事として考えてもらうための言葉を使っています。

2024年度には、eラーニングの実施期間中に、社内食堂などの従業員が集まる場所で、肌年齢や血管年齢を測定するイベントを行いました。それは、今まで積極的に参加していない層にも、測定という入り口から関心を持ってもらいたいという狙いがありました。測定自体は外部の事業者にお願いし、私たち健康経営推進チームは、来場者への声掛けやeラーニングへの誘導を行いました。肌や血管の状態は若々しさにも関わるため、意外に男性も多く参加していました。そこからホルモンバランスや男性更年期といった話にもつなげていき、興味を持ってもらえるように努めました。

休職制度や相談窓口設置など不妊治療へのサポートにも力を入れる

女性の健康課題に配慮した環境整備としては、どのようなことを行っていますか?

濱本さん医療支援として、婦人がん検診への補助を行っています。また、生理休暇、不妊治療休職制度など、休暇・休職制度を整えました女性の健康課題の相談窓口も設置しています。

岡野さん子宮頸がんは20歳以上、乳がんは30歳以上の従業員を対象に、健康保険組合が検査費用を全額補助します。従業員だけではなく、家族も全額補助の対象です。婦人がん検診は就業時間内に受けられるようにしており、再検査が必要になった場合でも、年3回まで就業時間内の受診が可能になっています。

乳がん検診は、マンモグラフィと乳腺エコーから選択可能ですが、全額補助となるのは片方だけです。両方受診したい場合は、一方が自己負担となります。10月のセミナーで年齢に応じた適切な検査方法の情報を伝え、自分で判断してもらえるようにするのとともに、受診を啓発しています。

休暇制度はどのようなものでしょうか?

岡野さん生理休暇は、月1.5日まで有給で取得できます。半日単位での取得も可能なので、満員電車を避けて午後から出社したり、生理の症状が重いときに半休を使って通院したりすることも可能です。

不妊治療休職制度は、不妊治療のために通算1年まで休職できる制度です。無給ですが、不妊治療と仕事との両立が難しく退職まで考えるような状況になることもありますから、そのようなときに取得して、不妊治療としっかりと向き合うために利用してもらいたいと思っています。

相談窓口とはどのようなものでしょうか。

岡野さん一つは以前から設置されていた、社内の相談窓口です。「女性の健康支援チーム」として、私ともう1人のスタッフが担当しています。全国の事業所から、電話やメールなどで相談していただけます。各事業所に診療所はあるのですが、女性に特化した相談ができるのは、この相談窓口のみになります。

生理の不調やPMS(月経前症候群)などの具体的な症状の相談を受けることもありますし、不妊治療と仕事の両立の悩みなどを相談されることもあります。そのようなときには、不妊治療休職などの制度を案内して、上司に相談してはどうかと提案することもありますね。窓口への相談を通じて、会社の制度を上手に利用したり、医療機関を受診したりする手助けをしたいと思っています。

2024年からは社外の事業者と提携して、不妊や妊孕(にんよう)性に関する悩みやプレコンセプションケアなどについて無料で相談できる窓口も設置しました。こちらは、相談内容を個人と紐づけて会社に報告することがないので、心理的ハードルが低い状態で、より専門的な相談をしてもらえます。

2025年3月には、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」(健康経営優良法人の大規模法人部門「ホワイト500」に認定された企業の中から、従業員の健康管理を経営的視点で考え、戦略的に取り組む特に優れた上場企業50社のみが選定されるもの)に初めて選ばれましたね。「ホワイト500」も2026年3月に、3年連続4回目の認定を受けました。

岡野さん2022年に「CASIO健康基本方針」を策定し、健康経営への本格的な取組を開始しました。2022年からはその推進体制を強化し、サステナビリティレポートへの掲載や各種研修による意識醸成、ヘルスリテラシー向上施策の展開など、基盤の浸透を図りました。各種検診の促進や成人病予防といった従来的な健康支援だけでなく、睡眠支援や運動習慣の促進、喫煙・アルコール対策などへと対象領域を広げたことや、健康診断再検査対応の強化、マネジメント研修などを通じて、健康を組織パフォーマンス向上の重要要素として位置付けていったことなどが評価されたと考えています。

女性の健康課題への取組は全従業員の健康増進策の中の重要な柱の一つとして取り組んできました。このことも高く評価していただいたと思っています。

カシオ計算機にとって、女性の健康課題への取組はどのような意味を持つのでしょうか。

岡野さん従業員が安心して働ける会社風土をつくるという点で、非常に重要な意味を持っています。女性1人ひとりの体調や事情に寄り添う姿勢は、「会社が従業員を大切にしている」という信頼感を醸成し、安心して能力を発揮できる職場づくりにつながります。また、女性が健康上の不安なくキャリアを継続できる環境を整えることで、その経験や専門性を組織として生かすことができ、結果として従業員のロイヤリティー向上やモチベーション維持にも寄与すると考えます。

会社として、女性比率が上がってきています。働き続けやすい環境を整備することで、将来的には女性管理職のさらなる活躍にもつなげていきたいと考えています。そのために、会社として女性のさまざまな課題にしっかりと取り組み、働きやすい環境づくりを進めていきたいと思っています。

カシオ計算機株式会社

主力事業時計、EdTech(教育)、サウンド(楽器)関連製造業
従業員数/2,053名 女性従業員数/516名(2026年3月末現在)

(※内容は2026年7月取材時点のものです)

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