生理休暇は「名ばかり休暇」!? 取得を阻む職場の現状とは
東京都の調査では、働く女性は生理休暇について「使っている人がいない」「上司などに言いづらい」ため取得しづらいと考えており、生理休暇が法律で定められた権利であることを、半数以上の働く女性は知らないということが明らかになっています(関連記事:生理やPMS、更年期……職場における女性の健康課題を徹底調査)。実際に生理休暇への職場の無理解や取得しづらさについては、多くのリアルな声が寄せられました。産婦人科医であり、産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生に、働く女性に向けたアドバイスと、職場や上司、同僚男性が知っておきたいことについて聞きました。

働く女性の声
※コメントは漢字や表現など一部変更しています。
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生理休暇を取得したくても、「これだから女性はダメだ」と言われるのが嫌で、生理休暇ではなく有給休暇を取得してきた。でも毎月「体調不良」として有給休暇を取得するため、「身体が弱い人」と職場で言われてしまう上、他の人のように楽しむ目的では有給休暇を利用できない。生理休暇を毎月取得している社員に対しては、「あの人、実は生理痛が軽いのに毎月休んでるらしいよ」などと、たいして知りもしない人が陰口を言っているのを聞いたこともある。仕方がないと諦めて今まで働いてきたが、生理休暇がもっと取りやすい世の中になれば本当に嬉しいと思う。
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後輩が毎月生理休暇を取得したら、マイナス評価された。女性のための制度が拡充されても、いざ利用するとなると「?」というのが現状だと思う。
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月1回までの生理休暇が前年度までは取れていたのに、男性社員が「おかしい」と声を上げたため、制度としては今年度もあるものの、だいぶ取りにくくなった。取得しようとすると、上司の男性が良い顔をしない。生理休暇のかわりに有給休暇を使ってしまうと、受験生の子どものために休まなくてはいけないときに休めなくなる。生理休暇は男性にはない休みだが、体の構造が違うのに認めないのはおかしいと思う。
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中小企業で生理休暇を申請すると、本来は「生理がつらい」なんて知られたくないのに、全社に広まってしまう。また有給でもなくなるため、体調不良として申請せざるをえない。
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生理痛のひどい女性が生理休暇を取得すると、その度に上司が男性たちに「あいつは年齢的に更年期障害だから生理痛なんて嘘で、ただ休みたいだけだ」などと話し、怠惰な社員というイメージがついてしまっていた。その様子を見てきたので、私自身は絶対に生理休暇を取得したくないと感じている。
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私の職場では、生理痛で休む若い職員に対して「生理痛で仕事を休むなんて信じられない、ありえない!」と女性同士で普通に話している。
生理休暇は労働基準法に定められた権利で、会社の就業規則に記載がなくても、働く女性であれば雇用形態に関係なく請求できます。半日や時間単位での休暇請求も可能で、医師の診断書の提出についても不要とされています。また生理による体調不良を事前に予測するのは難しいため、当日申請を認めるのも一般的です。しかし「会社に生理休暇がない」「派遣社員やパート、アルバイトは取得できない」と思い込んでしまっている女性は多く、生理休暇を機能不全に陥らせている職場もあるようです。
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生理痛がつらいのに生理休暇制度がないので、病休として休もうとしたら、男性上司に「女はそうやってすぐ休めていいよな」と嫌みを言われ、生理痛がひどくても生理休暇はおろか病休も取れない。
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生理周期は予想通りでないこともあるのに、「休暇申請は1日前まで」と言われる。
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派遣社員は生理休暇が使えなかったため、生理で休むと評価が下がるだけだった。女性特有の腫瘍が見つかって入院したときも同様だった。
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会社の制度に生理休暇が書かれておらず、休みたくても休めない。私は生理中に下痢がひどくなるが、トイレで席を外すたびに、上司や同僚から「忙しいんだから外さないでよ」「さぼってんじゃねぇ」「下痢くらい我慢しろ」と言われる。別にさぼりたくてさぼっているわけではないし、トイレで席を外すと伝えているのに……会社にいづらいと感じる。
産業医・産婦人科医から
働く女性へのアドバイス
生理休暇は雇用形態に関係なく、日本のすべての働く女性が請求できる権利です。ただ、生理に伴う不快な症状については個人差が大きいため、症状の軽い女性が、生理休暇を取得する女性を理解できず、「怠けている」と感じたり、心ない態度を取ってしまったりというケースもあるようです。これは生理に限らないことですが、自身に現在悩みがないからといって、健康上の不安を持つ同僚に対する思いやりは忘れてほしくないと思います。一方で、産業医としては会社側から、生理休暇の不正取得について相談された経験もあるため、生理休暇はあくまでも「生理日の就業が著しく困難な女性」のためと規定されていること、「生理があれば取得していい」ものではないということを理解しておいてほしいとも感じます。そして鎮痛剤が効かないほどつらい症状を抱えている女性は、毎月、我慢し続けるのではなく、ぜひ婦人科を受診してほしいです。治療を受けることで症状が軽くなり、生理休暇を取得しなくても済むようになった女性もたくさんいます。
職場と上司・同僚男性へのアドバイス
現在は人手不足に悩む企業が多いため、「できれば急に休んでほしくない」と感じている人もいるかもしれませんが、生理日の下腹痛、腰痛、頭痛などで働くのが難しい女性が休暇を申請した場合、断ることはできません。休暇を取得させなかった場合、労働基準法により30万円以下の罰則が科されます。これは女性の雇用形態や業務内容を問わないもので、休暇日数についても制限できません。生理休暇を認めないことは法律違反であることを、まずは認識しましょう。そして「女性はダメだ」「ずるい」などと差別するのではなく、女性と男性は生物学的に異なること、毎月生理がある女性には特有の健康課題があることを皆で理解し支え合うことが、これからの職場づくりには不可欠だと思います。実際、ダイバーシティマネジメントや健康経営の一環として、生理休暇の柔軟な運用などに取り組む企業も増えているようです(関連記事:企業の取組事例)。その上で、毎月生理休暇を取得するほどつらい症状を抱えている女性には、婦人科の受診をすすめるなどの働きかけや支援制度づくりも、ぜひ検討いただきたいです。

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。