東京都が2023年に企業に対して行った調査で、女性特有の健康課題へのサポートを行う上での課題について聞いたところ「何をすればいいかわからない」という回答が最も多く、27.5%でした(関連記事:生理やPMS、更年期……職場における女性の健康課題を徹底調査)。困っていることや要望があっても、職場に対して声高に訴えられない女性が多く、企業側は十分にニーズを把握しきれていない現状が浮かびます。しかしオフィス環境、特にトイレについては、働く女性から多くの悩みが寄せられています。産婦人科医であり、産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生に聞いたアドバイスとともに紹介します。

働く女性の声

※コメントは漢字や表現など一部変更しています。

  • 職場のトイレが男女共用で、使用済みの生理用ナプキンを捨てる場所がなく、仕方がないので持ち帰っている。またナプキンを付け替える音が他の人に聞こえてしまうと恥ずかしいため、なるべく替えないようにしており、衛生的にも良くないなと感じている。

  • 秋から冬は、会社のトイレの手洗いの水が、自動的にお湯になる。しかしお湯だと、生理の経血が漏れてしまった時など、血液の汚れが熱で固まってしまい落とせなくなるので、実は困っている。水かお湯かを選べる蛇口にしてほしい。

  • 職場でトイレに行く時、生理用ナプキンのポーチを持っていくのを、同僚男性に見られたくない。以前は女子トイレ内にナプキンなど個人のものを収納できるロッカーがあったのだが、オフィス移転で廃止されてしまった。

  • 生理の経血が、思わぬところにシミを作っていたことに気づかず、同僚女性がこっそり指摘してくれたが、大変恥ずかしい思いをした。職場のトイレに1つでいいから、全身が映る鏡が欲しい。

  • 私の職場の近くにはコンビニやドラッグストアがないため、急に生理になってしまっても、生理用品を買うことができない。しょうがないのでトイレットペーパーを重ねて代用しようとしたが、結局漏れてしまい、職場の同僚ともう顔を合わせられないと思うほど恥ずかしく、嫌な思いをした。トイレに誰でも使える生理用品を常備するのが無理なら、せめて個人用ロッカーか、生理用品の自販機を設置してほしい。

  • 友人の職場のトイレに、スマホを使って生理用ナプキンを取り出せるフェムテックが導入され、とても便利になったと聞いた。しかし私の会社はセキュリティ対策のため、職場にスマホを持ち込めないルールになっているので、たとえ設置されたとしても使えない。シンプルに生理用品が入った箱を常備するサービスもあるそうだが、総務の男性には相談しにくい。

  • 私は生理の2日目が、出血量がとても多くてつらい。食品製造の仕事をしていた時には、制服が全身白で経血漏れが気になったが、製造ラインの他の人に迷惑をかけてしまうので抜けにくく、また着替えやエアシャワーなども大変で、トイレになかなか行けず大変だった。結局、仕事自体を辞めてしまった。

  • 職場には休憩できるスペースがないので、動けないほど生理痛がつらい時には、トイレの個室にこもって痛みがおさまるまで我慢している。しかし女子トイレの数自体も少ないため、使用したい人が並んでいるのを感じると申し訳なくなる。できれば横になって休める休養場所があればいいのにと思う。

産業医・産婦人科医から

働く女性へのアドバイス

健康な女性でも、生理周期が多少前後することがあるのは決して珍しくありません。周期が25日~38日であれば正常の月経周期です。ある程度余裕を持って生理用品を準備しておくとよいでしょう。一方、それにあてはまらない場合は「月経不順」とされ、中でも周期が24日以内の場合は「頻発月経」、周期が39日以上の場合は「稀発月経」と分類されます。月経不順には様々な原因があり、子宮や卵巣だけでなく、甲状腺などの病気が隠れている場合や、不妊の原因になることもあるため、一度、産婦人科でチェックを受けてみましょう。またこうした症状を見逃さないためにも、生理日は毎回きちんと記録しておくことをおすすめします。

また、同僚や男性に対して、生理などについて話したくないという気持ちはよく理解できますが、今後も働く女性が皆、不便を感じ続けるよりは、困っていることや設備の問題について、職場に言えたほうがいいのではと思います。タブー視しないこと、諦めないことは、女性が働きやすい職場環境や風土をつくるための、大切な一歩になるはずです。

職場と上司・同僚男性へのアドバイス

職場のトイレや、生理用品の入手に問題があると、働く女性には大きな負担が生まれてしまいます。安心して働き続けていくためにも、トイレまたは総務部などに、従業員が自由に使える緊急用生理用品を、ぜひ常備して頂きたいです。現在は職場のトイレに生理用品を提供するフェムテックサービスもいくつか登場しているので、自社の状況やニーズに合わせて検討してみても良いのではと思います。またトイレ内に個人用のロッカーがあると、万一、経血が漏れてしまった時のために替えの下着なども用意しておけるため、働く女性の安心感が増します。男女別のトイレは労働安全衛生規則でも定められており、プライバシーが保たれる男女別のトイレ、サニタリーボックスの設置は必須条件であると考えて頂きたいです。そして設備だけでなく、ラインを抜けられず、トイレに行けないシフト体制の見直し、休憩時間の確保も必要だと思います。

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飯田美穂さん
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 講師

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。