「不調があったら早めの受診を」「しっかり休養して適度な運動を」……健康のためにいいこと、すべきことは知ってはいるけれど、働く女性は一人で何役もこなさなければならない傾向があり、忙しくて自分のための時間が持てないという声が多くあります。今回は、同僚や家族にも言えずに、マルチタスクによる時間のなさや重圧に悩んでいる女性から寄せられたリアルな声とともに、自身も子育てをしつつ、産婦人科医・産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生のアドバイスを紹介します。
働く女性の声
※コメントは漢字や表現など一部変更しています。
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体調が悪くて仕事を休みたくても、私の職場では人員振替や各所への連絡など、自身で調整を行わなくてはならないため、負担が大きい。また普段から仕事と家庭の両立に余裕がないので、もし1日休んでしまったら、その後の業務がさらに大変になり、生活も回らなくなってしまう。結局は休めず、死ぬような思いで頑張るしかない。
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年齢を重ねると更年期障害などの健康問題が増えてくるのに、日本では女性ばかりが家事を行い、さらに女性も男性と同じように働くべきとされているのがつらい。もっと男性が家事をするのが当たり前の世の中になってほしい。
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仕事と子育て、介護が重なると、自分のことは後回しになってしまう。少しでも自分の体と向き合う時間が取れるといいなと思う。今は無理して働かないといけないが、本当はサポートが欲しい。
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仕事から帰宅しても、やらなくてはいけないことが山のようにあり(家事、子供の習い事の送迎や学校の宿題、親の介護など)、自分が体調不良でも休めないので、月に数回でも、掃除や食事づくりなどの家事代行サービスを、無料で利用できるようになればいいと思う。また病院の数も増やしてほしい。会社帰りには婦人科が閉まっていることが多く、予約も取りづらく、利用したくても利用できない。
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私はフルタイム勤務だが、夫はほとんど家事を手伝ってくれないため時間に余裕がない。今年、更年期の診察を受けたいと思い、土日診察の婦人科を探したが、近所にはほぼなかった。有給休暇は家族の休みに合わせて取る必要があるため通院に使う余裕がなく、婦人科の受診はあきらめようかと思ったが、何とか会社の近くで発見し、昼休みをつぶしてやっと受診できた。
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婦人科医と小児科医、精神科医をもっと増やしてほしい。郊外在住だと病院に行くのも一苦労になってしまう。 また子育てで手が離せず、自身の健診にも行けない状況を変えてほしい。
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女性は生理、出産、子育て、仕事、介護など、人生でゆっくりできる時間が少ない。病院に行く時間を作るのも、仕事をしていると難しいと思う。私の職場では、休むためには替わりの人を自分で見つけることが必要で、女性は苦しんでいる。また男性は仕事さえすればいいと思い込んでいるのを変えるべきで、そのためには幼い頃から、道徳や家庭科、保健体育など、さまざまな角度から教育しないと、日本の現状は変わらないと思う。
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育児や家事をパートナーと進めていけるようにしてほしい。男性の長時間労働の見直しも必要。
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出産、育児、生理、更年期など、女性は男性にはないライフイベントや不調が多い中、男性と同じように仕事をすること、昇進を目指すことは困難だと個人的には感じている。「管理職になれない人」「残業できない人」「短時間勤務で会社に貢献していない人」など、女性が会社に評価されない現状を変え、人柄や仕事の質でも評価できる仕組みづくりが必要だと考える。
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私は長距離通勤の仕事と家事、近隣に住む親の介護も担っている。職場では女性が私一人で、オフィス内の家事のようなこともしなくてはならず、在宅勤務や休みがとりにくいため、体を壊す前に辞めようか迷っている。女性は無理してでも頑張りがちなことを、男性は理解してほしい。
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生理痛がひどくて子宮を摘出したが、そうしないと仕事を休むことになり、私だけ納期やノウハウの取得に遅れてしまう恐れがあった。私の毎日は朝、子供を保育園に預けて会社に向かい、同僚と同じように仕事をして、また子どものお迎えに行き、帰宅して夕食を作り、お風呂に入れて子どもを寝かせ、その後に洗濯物をし、翌日の準備をするという繰り返しで過ごしてきたが、何と仕事量の多いことか! そしてその間、夫の手伝いは一切、なかった。これを3人の子どもに対してずっとしていたと思うと、自分で自分をほめてやりたい。
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家庭と仕事を両立するのに在宅ワークはいい制度だと感じているが、最近、在宅ワークを撤廃する動きになってきているのがつらい。
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仕事中のタバコ休憩が認められているのに、生理でつらくて一時的に横になることは許されない。こんな環境で女性の働く気力を削ぐから、会社の業績が上がらないんだと思う。
産業医・産婦人科医から
働く女性へのアドバイス
仕事と家事や子育て、介護の両立に悩む人は多く、マルチタスクの役割を果たしきれないと自分を責め、自己嫌悪に陥ってしまう女性もいます。以前の記事でも紹介しましたが(関連記事:忙しすぎて食事もとれない、通院も難しい…働く女性のリアルな悩み)、忙しい毎日の中でも、女性が自身の健康について後回しにしたり、治療の機会を先延ばしにしたりすることなく、適切なストレスマネジメント法やセルフケアを見つけてほしいと思います。
そして時には、完璧ではなくても自分の頑張りを認めること、自己肯定感を持つことも大切です。私自身も子育てをしていますが、仕事と家庭を両立していく中では、ある程度「これは仕方がない」と妥協することもあります。最近は、「やらないことを決める」ことも大切にしています。日々「やるべきこと」に追われがちですが、「やらないこと」を決めることで、自分にとって本当に必要な時間やエネルギーを確保できるようになります。それでも悩んだりストレスを感じる時には、子どもと体を動かしたり、10分間でもいいのでランニングをしたりしてリフレッシュするようにしています。家族が寝た後、夜中に一人で映画を観るなど、自分だけの時間を作ることもあります。そんな気力も湧かない時は、横になり、ただ呼吸に集中するマインドフルネスを実践しています。マインドフルネスは、ストレスの改善や不安の症状を和らげる効果があることが数多くの科学的研究で示されているので、おすすめです。こうした自身に合ったストレスケアに加え、東京都の区市町村では、家事育児サポーターの派遣なども行っているそうなので、お住まいの地域の制度を活用するなど、時には外部の力を借りるのもいいと思います。
職場と上司・同僚男性へのアドバイス
日本では「男女平等」が標榜(ひょうぼう)される一方で、「女性が家事・子育てをすべき」といった固定的な性別役割分担意識が根強い傾向があり、働く女性が仕事を続けていく上で大きな負担になっています。特に女性が管理職などの責任ある立場に立つことが多い年代では、量的・質的に業務負荷が増えると同時に、家庭での役割も増え、さらに更年期障害など自身の健康課題を抱えるケースがあり、女性活躍のハードルになっているといえるでしょう。
ぜひ一度、自身や職場の中に性別役割分担意識やアンコンシャスバイアスがないか、男女が平等に取り組むべきことを一方の性に押しつけていないか、見直してみましょう。そして健康課題や、育児・介護など家庭の問題は、働く個人だけにゆだねるのではなく、職場の誰もが持ち得る全体の問題であると意識し、さらに制度も整えていくことで、就業継続やエンゲージメントの向上につなげていきましょう。

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。