中小企業は日本の企業数の99.7%を占め、従業者数の約7割を占めています(総務省・経済産業省 令和3年 経済センサス-活動調査)。多くの人が中小企業で働き、日本経済を支えているにもかかわらず、人手や資金の不足、制度・設備の不備などにより、働きにくさを感じている女性も多くいるようです。中小企業で働く女性から寄せられた、人知れず抱えているリアルな悩みとともに、産婦人科医・産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生のアドバイスを紹介します。

働く女性の声

※コメントは漢字や表現など一部変更しています。

  • 私の職場は執務エリア内にトイレがあり、清掃をスタッフが輪番で行っている。人目が気になるので生理中もトイレに行くのがままならないし、使用済みの生理用品は掃除当番の同僚に見られるのが恥ずかしくて捨てられない。サポート制度の導入以前に、こうした状況の職場はまだまだ存在すると思う。

  • 以前の勤務先は会社の規模が小さく、トイレが男女共用で1つしかなかったため、生理の時はとても嫌で、この苦痛が転職理由の一つになった。男性社員はあまり気にしないと思うが、そういうことで悩んで辞める人がいるということも知ってほしい。

  • 今の職場には女子トイレに汚物入れ自体がなく、使用済ナプキンが処理できない。パートで勤務した他の会社でも「各自で持ち帰るように」と言われた。零細企業では女性は軽視される存在で、体調への配慮など論外という状況だと感じている。

  • 私の会社は小さな企業のため、自分が休んだ時のサポート体制が全く無い。休みを取ったとしても、会社の代表電話や受付にかかってきた電話は私の携帯電話に転送されるようになっているため、本当の意味での休養にはならない。上司に相談したが「ワンオペとはそういうものだ」と、何も変わらなかった。

  • 生理休暇は法律で定められた制度なのに、企業によって取得しやすさに大きな差があるのは不平等に感じる。大企業に勤務していた時は、生理休暇は当然の権利として誰もが取得しており、申請する時もシステム上で、直属の上司に休暇の種類を伏せた状態で申請でき、申請が承認されたら、面識のない総務部に送信すれば完了していた。しかし今の勤務先は中小企業で、DXが進んでいないため休暇の種類を公にしなければならず、総務とも面識があるため気軽に取得できない。そのため自分も含め、女性従業員は生理休暇でなく有給休暇を使わざるを得ない。

  • 創業50年程の会社で働いているが、産休や育休の取得実績はゼロ。女性は皆、その前に退職しているようだ。

  • 私は中小企業の小売の現場で働いており、生理などで困っている女性をサポートしたいのは山々だが、いつ休まれるかわからないため、代替スタッフが見つけられず、結局、周囲の人が迷惑をかけられている。男性上長にも「何とかならないの」と言われるが、実は私だってそう思っているのに……。同じ女性という立場上、かばわないといけない空気感も面倒に感じている。

産業医・産婦人科医から

労働安全衛生法で、従業員が常時50人以上いる企業は産業医を選任することが義務づけられており、違反時には罰則もありますが、50人未満の中小企業でも、従業員の健康を守り、相談しやすい環境を作るため、できれば産業医や産業保健師、相談窓口を用意するのが望ましいとされています。女性特有の健康課題だけでなく、健康診断で従業員に異常所見が出た場合や、休職・復職時など、医学に関する専門的知識と職場に関する情報の両方を持った専門家が果たす役割は多くあり、適切な健康管理を行うことは会社全体の生産性向上や人材確保にもつながります。もし自社単独では難しくても、他社と合同で産業医を選任するケースなどもあるようです(参考記事:女性の健康課題への取組と健康経営が、深刻なドライバー不足と離職率の増加を食い止める)。また、厚生労働省が所管する独立行政法人 労働者健康安全機構が運営する公的機関「産業保健総合支援センター(通称さんぽセンター)」では、事業者やそこで働く人を対象に、健康保健に関するセミナーや研修の実施など、さまざまなサービスを原則として無料で提供しています。全国の47都道府県すべてに設置されていますので、ぜひご活用ください。

また女性特有の健康課題については地域の婦人科医と連携し、女性従業員が専門医に相談し、受診しやすい環境を整えることもおすすめしたいです。日本女性医学学会では、女性医学の専門知識を持つ「女性ヘルスケア専門医」の地域別リストを公開しているので、参考にしてみるのはいかがでしょうか。そしてまずは、自社の従業員がどのような健康課題を抱え、業務中の身体的な負担がないか、トイレや作業スペースなど設備に問題はないか、アンケート調査などを行って現状を把握し、解決できることから一つずつ向き合っていくことが大切だと思います。

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飯田美穂さん
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 講師

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。

女性の健康課題別体験談一覧