男女それぞれの健康課題や妊娠・出産について正しく理解し、自身の状態について知った上で早くから健康管理を行う「プレコンセプションケア(略してプレコン)」が注目されています(関連記事:最近よく聞く「プレコンセプションケア」って何?いつか妊娠・出産したい男女のための「健康づくり」の知恵)。定期的な検査・受診などで健康状態をチェックし、適切なケアを行うプレコンは、妊娠・出産だけでなく、長く健康に働き続けるためにはとても大切です。しかし知識不足や忙しさから先送りしてしまい、後悔しているという女性もいるようです。産婦人科医・産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生のアドバイスとともに、働く女性の声を紹介します。

働く女性の声
※コメントは漢字や表現など一部変更しています。
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「生理は痛いのが普通」だと思い、毎月、激痛に耐えながら働いていたら、30代になって子宮内膜症になり、現在は不妊治療に苦しんでいる。時間もお金もたくさんかかり、家族にも負担がかかり、もう取り返しがつかないが、重い生理痛を早めに治療しなかったことを大変後悔している。
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私は生理痛やPMS、産後の不調、さらに更年期症状も経験してきたが、職場が人員不足のためずっと休めなかった。中でも生理痛はかなりひどかったが、周囲の人と比べることもできないので放置し続けてしまった。その結果、子宮筋腫と卵巣嚢胞(のうほう)で子宮を全摘出。卵巣も片方摘出することになり、入院・手術で大変だった。
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20代の頃は仕事に慣れるのに精一杯で、30代になると部下もでき、やりがいをもって働いていた。そして40代になり「そろそろ子どもが欲しい」と思って婦人科に行ったら「今からでは妊娠する確率は低い」と言われてしまった。40代以上で出産する女性がメディアでは多く取り上げられているのに「それはレアケース」なんて……ひどすぎる。
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私は学生時代に陸上競技の部活でやせて生理が止まり、社会人になってからも仕事が忙しくて生理がたまにしか来ないまま過ごし、結婚してから「痩せすぎや生理不順は妊娠しづらい」と分かり、不妊治療をすることになった。学校ではそんなリスクについて教えてくれなかったどころか、減量すると「体型管理している」と褒められたし、ずっと「スタイルが良い」と言われ続けてきたのに。そして妊活のために体重を増やそうとしたら、周囲に「幸せ太り?」などと言われ、すごく嫌だった。私も知識不足だったが、世の中の「太っている」という基準も間違っているのではないかと感じる。
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私の職場の健康診断には婦人科検診が含まれていないので、忙しい中、何とか時間を工面して2つの病院に行き、自治体による乳がんと子宮頸がんの検査を受けた。これで婦人科系の病気は大丈夫だろうと安心していたのだが、ひどい生理痛で気を失い、「大きな子宮筋腫があるので手術を」と診断された。そこで初めて、子宮頸がんの検査では子宮の入り口しか見ておらず、超音波検査をしないと、子宮本体の異常については分からないものであると知った。私だけでなく、周囲の女性に聞いてみても、皆、誤解していた(そもそも検査を受けていない人も多いが)。こうした情報が少なすぎると思うし、色々な婦人科検診がもっと受けやすくなるよう、1箇所でセットで実施してほしい。
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子宮頸がん、子宮体がん、乳がん、ホルモン検査などさまざまな婦人科検診を、それぞれ「2年に一度」「できれば毎年」と定期的に受けるよう推奨されているのは知っているが、そのために何度も会社を休むのは難しく、結局、検査を受けるのをあきらめてしまう。また全額自己負担の検査もあり、女性だけお金がかかるのも納得いかない。会社の健診に婦人科検診も含めるか、それが無理なら、検査受診のための休暇取得を制度化したり、金額補助を行わないと浸透しないと思う。
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将来のためにも生理痛は放置しないほうがいいと聞き、婦人科を受診した。月経困難症と診断され、治療で低用量ピルを飲み始めたら、生理前と生理中の不快な状態がなくなり、日々を楽しく過ごせるようになった。仕事でのミスが格段に減り、辞めたいと思うことも無くなった。以前は、1カ月のうち調子がいいのは1週間くらいしかなく、それ以外は何かしら調子が悪かった。もっと早めに行けば良かったと感じている。
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「男性は年を取っていても子どもが作れる」と思っていたが、年齢や生活習慣によって精子の質が変わるとは知らなかった。女性が仕事と妊活、その後の育児を両立させていくためには、仕事を言い訳に健康管理もできず、妊活に協力的でない男性を選ぶべきではない。20代の頃の私に教えてあげたい。
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通っている婦人科の先生に「現代女性は生理の回数が増えているが、低用量ピルを服用すれば卵巣を休ませることができ、子宮内膜症などの悪化も防ぐ」と言われ飲むようになったら、対人関係で荒れたり、眠気で仕事がはかどらなかったりすることが無くなり、仕事のストレスもコントロールしやすくなった。また生理日予測が簡単になり、出血量も減ったので、漏れを心配することなく仕事に集中できるようになった。パートナーとのケンカも減り、オンオフ共に激変した。
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職場の先輩が不妊治療のため退職した。私自身はまだ結婚の予定もなく、妊娠・出産は遠い未来のことだと感じていたが、「同性だから言うけれど、早くから意識だけはしておいたほうがいいと思う」と最後にアドバイスされたので、プレコンについてネットで調べてみた。肥満だけではなくやせすぎも良くないこと、妊娠する前に抗体検査やワクチン接種をすべきなど、全く知らないことばかりだった。「その状況になった時に考えよう」では甘いと感じたし、もし子どもを産まないとしても、自分の体についてチェックしておこうと思った。
産業医・産婦人科医から
仕事との兼ね合いで妊娠・出産の先送りを考える女性は決して少なくないと思います。医学的には35歳前後から妊娠する力が下がり始め、40歳を過ぎると妊娠はかなり難しくなります。不妊治療も進歩していますが、妊娠が成立したとしても流産のリスクが高まり、不妊治療で授かる「生産率」は、35、6歳では20%以下、40歳になると10%を切るというデータもあります。
上のコメントにもある通り、生理痛が重い月経困難症には子宮内膜症などの病気が潜んでいることがあり、放置すると不妊症のリスクが高まってしまいます。生理痛で婦人科を受診する女性は未だ多いとは言えませんが、低用量ピルを含む適切な治療を行うことで、子宮内膜症の予防や進展を抑え、産みたい時に産める確率も高まります。
そして日本では毎年、1万人以上の女性が子宮頸がんにかかり、3,000人近くが亡くなっている他、9人に1人の女性が生涯で乳がんにかかっている中、婦人科検診(子宮がん・乳がん検診)の受診率が先進国の中で突出して低いのも問題になっています。がん検診の受診や気になる症状の相談など、信頼できる婦人科医に定期的に診てもらうことは、将来妊娠する、しないに関わらず、心身ともに健康で快適な生活を送るために大切なことです。一人ひとりのライフプランを尊重し、適切なケアを提供してくれる婦人科のかかりつけ医を持ち、忙しい中でも検査の機会を逃さないようにすることで、その後の人生やQOL(生活の質)が大きく変わる可能性があることを、働く女性の皆さんにはぜひ意識して頂きたいですし、企業側も受診を後押ししてほしいと思います。

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。