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不妊治療を続けるか諦めるか……経験者が語る、仕事との両立の難しさ

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不妊治療と仕事の両立は、働く女性にとって大きな課題になっています。日本産科婦人科学会によると、2023年に不妊治療の体外受精で生まれた子どもは過去最多の約8.5万人で、9人に1人が体外受精で生まれているとされています。しかし不妊治療を経験した人のうち26.1%が、不妊治療と仕事を両立できずに離職したり、雇用形態を変えたり、不妊治療をやめたりしています(令和5年度 厚生労働省 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査)。「会社に言いたくない」「休みすぎと思われるのが不安」「お金の問題で諦めるべきか悩んでいる」など、不妊治療と仕事の両立に悩む女性から寄せられた声と、産婦人科医・産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生のコメントを紹介します。

働く女性の声

※コメントは漢字や表現など一部変更しています。

不妊治療と仕事の両立が難しい理由|休みを取りづらく会社に言えない現実

  • 不妊治療は前日まで治療が分からないこともあり、職場に休みを申し出るのがとても気が引ける。スケジュールや人員に余裕がない職場では不妊治療は難しいと思う。

  • 生理については男性の理解も多少、進んできたように感じるが、不妊治療は職場で話しづらい。無事に出産してから「実は」と話題にはできても、治療中は難しいと思う。それなのに病院からは「明日の朝、来てください」などと急に言われ、仕事との両立は困難。

  • 男性上司が、「不妊治療のために、しばらく突然お休みをいただくことがありますが、ご理解いただけませんか?」と相談した人に、「あなただけ特別扱いはできない」と断っていた。結局、その方は退職した。

  • 不妊治療をしたかったが、頻繁に通院しないといけないのが会社に言いづらく、子どもを持つことは諦めた。

参考記事:管理職の共感から広がる、女性がいきいきと活躍できる職場づくり

お金がかかる、低用量ピルが飲めない、職場の人間関係も負担に

  • 不妊治療はお金がかかるので働かなくてはいけないが、仕事を頻繁に休まないと治療ができない……。完全な板挟み状態。

  • 不妊治療を試みたが、23時まで残業させられるような忙しい部署でなかなか休めず、諦めた。少子化対策のためにも、全国の職場が不妊治療に取り組みやすい、理解ある職場になってほしい。

  • 妊活中で低用量ピルが飲めないので、生理痛とPMSがひどい。鎮痛剤だけでは、仕事もプライベートも影響が出てしまう。

  • 不妊治療で人工授精を失敗したときに、誰も悪くないのに自分を責め、気分が落ち込み胃腸も悪くなったことがある。そんな中、出社して子どものいる同僚や他人と普通に接するのはつらかった。

  • 不妊治療をしている人に対する配慮や理解がほしい。職場でわざわざ子どもの自慢をしないでほしい。

  • 望んでも子どもができない女性もいる中、子どもの有無や「なぜつくらないのか」など、職場で心無い質問をする人がいる。特に上司に当たる年代の男性に多い。軽い言葉でも深く傷つく女性がいることを理解してほしい。

  • 私は不妊治療のため仕事を諦めた。現代の日本では、女性がどんなに努力して学歴や職歴を積んでも、一度キャリアを手放すと「もうおしまい」なのだと鬱々と暮らしている。子どもには恵まれたが、本当にこれで良かったのか、ずっと悩んでいる。

産業医・産婦人科医から

不妊治療は2022年から保険適用になり、不妊治療のための休暇制度を設ける企業が増えるなど、サポートする動きは広まってきています。一方で、仕事との両立が難しく、どちらかを諦めざるを得なかったという方は多くいます。コメントにもある通り、治療のためには頻繁な通院が必要で、排卵誘発剤や採卵・移植などによる身体的負担、治療を繰り返してもうまくいかない場合の精神的な影響、さらに経済的負担など、複数の負荷が同時にのしかかります。また不妊治療中は低用量ピルを含め妊娠に備えて薬が服用しづらいため、生理やPMSの不調が強くなり、仕事に大きな支障が出るという声も聞きます。

一方で、職場の立場から見ると、突発的に業務を調整しなければならない状況が、どの程度続くのか見通しが立たないなど、対応に苦慮する場合があることも事実です。人手不足や業績不振など、余裕がない体制の中では、十分な対応が難しい職場も少なくありません。そのような状況の中で、不妊治療を行っている本人が「迷惑をかけているのではないか」と感じてしまうことがありますが、これは決して個人の問題ではなく、今の働き方の仕組みが抱えている課題だと考えています。

だからこそ、不妊治療を行う個人の努力や、周囲の善意だけに委ねるのではなく、誰かが一時的に働き方の調整を必要とする状況でも、業務が回る仕組みを整えることが重要です。不妊治療に限らず、病気や介護、育児など、働き方の調整が必要になる場面は誰にでも起こり得ます。不妊治療をきっかけに、こうした前提に立った職場のあり方を考えることが、結果的に、すべての人が無理なく働き続けられる環境づくりにつながると思います。そのような環境が整っていくことで、不妊治療を選択した人が休暇を取る際にも、責めるのではなく「応援しよう」という空気が、自然に生まれてくるといいと思います。

また最近の学会では「男性が不妊治療を受けることへの理解のなさ」も問題として取り上げられています。不妊症の原因の約半分は男性側にあるとされていますが、男性が不妊治療を受けることへの配慮は非常に乏しいのが現状です。男性不妊症の治療でも、服薬だけではなく手術が必要になるケースもあり、女性と同様に心身への大きな負担を伴います。そのため「男性不妊」についても、職場や社会における理解と配慮が求められています。

不妊治療や卵子凍結などの選択肢が増えるのは良いことですが、医学的には妊娠・出産は年齢が若いほどリスクが低いという側面があることも事実です。そのため働く女性が「早く産んで、復職する」という選択肢を選べるよう、企業や社会の側で環境を整えていくことも重要だと思います。社会全体として、多様なライフコースを認め、それぞれの状況に寄り添う想像力を大切にしていきたいものです。

飯田美穂さん写真
飯田美穂さん
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室 講師

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。