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乳がん治療をしながら仕事を続けるには? 職場への伝え方や注意点などを専門家が解説

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清水理恵子さん写真

乳がんと診断され、「治療をしながら仕事を続けられるのだろうか」「職場にはどう伝えればいいの?」と不安を抱える方は少なくありません。医療の進歩により、乳がんは「治療を続けながら長くつき合っていく病気」に変わってきています。一方で、そのためには経済面の安定が求められ、仕事との両立が大きな課題となっています。
本記事では、乳がん治療をしながら仕事を続けるための考え方や、職場への伝え方、仕事を辞めるかどうかの判断など、診断後間もない人が安心して働き続けるために知っておきたいポイントを、国立がん研究センター中央病院 がん相談支援センターの清水理恵子さんにうかがいました。

乳がん治療をしながら仕事を続けるメリットは? 診断後すぐに考えたいポイント

乳がんは女性がかかるがんの1位で、9人に1人が生涯のうちにかかると推計されています。30代から増え始め40代後半以降ピークを迎えるため、働き盛りに多いがんということから、治療や生活とともに、働き方も併せて考える必要が出てくる代表的ながんといえます。

がんの確定診断を受けると、誰でも強い不安や動揺を覚えるものですが、仕事をどうするかについてはすぐに結論を出さないほうがいい、と清水さんは話します。

ショックや不安のあまり「今の仕事は続けられそうにない」と思い込み、早まって退職を決断してしまう“びっくり離職”は、退職しないことで得られるものを知らないまま、手放すことになりかねません

「治療を続けながら働くことは、経済的な安定につながるだけではなく、社会とのつながりや生活のリズムを保ち、治療に向き合うモチベーションにもなります。さらに、社会保険に加入していれば利用できる傷病手当金などの制度もあります」

制度の中には、在職中であることが申請の条件のものもあり、退職後にそのことを知って後悔する人も少なくないそうです。

乳がん治療中に仕事を辞める? 「治療しながら再就職」の現実も考えておく

一方、退職を考える場合は、治療を受けながら再就職するイメージを持つことが大切です。

がん治療中であることを再就職の場で伝えるかどうか、悩む方は少なくありません。治療を続けながら新しい職場に支援を求めることは、精神的な負担につながる場合もあります。また、入社1年目は年次有給休暇も少なく、それ以外で利用できる休暇制度に制限がある場合もあるため、通院や治療のための休暇を取りにくくなることも考えておく必要があります」

ですから、「“びっくり離職”は絶対に避け、まずは仕事を続ける上での不安や困りごとを挙げて整理し、退職以外にどのような選択肢があるか考えてみることをお勧めします」と清水さんは助言します。「退職を後悔しないためにも、じっくり考えてみてください」。

考えるときのヒント①
乳がん治療と仕事の両立で感じている不安を客観的に整理する

国立がん研究センター中央病院 相談支援センター監修の「がんとお仕事チェックシート」は、仕事との両立でよくある悩み13項目を「はい」「いいえ」「どちらとも言えない」の3択でチェックできる。自身の不安を客観視し、整理をする際に役立つ。

乳がんと診断された人が抱えがちな不安や困りごとの一例

  • 職場の理解が得られるか心配……
  • 通院と勤務のやりくりに自信がない……
  • 副作用が出たら、今と同じ仕事ができないかも……
  • 副作用で外見が変わると周囲の目が気になる……
  • 仕事に子育て、さらに治療も……できるか不安

など

(国立がん研究センター中央病院 相談支援センター 監修)

乳がんと診断された人から最も多い相談は、「職場に病気を伝えるべきかどうか」だそうです。「女性特有のがんは、身体への負担だけではなく、心にも大きな影響を及ぼします。そのため非常にデリケートな問題であり、『できれば誰にも知られたくない』と感じる方も少なくありません」と清水さんは話します。

雇用継続や待遇、キャリアへの影響を心配する声も多いとか。「契約社員やパートなど非正規雇用の方は、病気を伝えることで契約更新に影響するのではないかと不安を抱くことがあります。また、正社員であっても、昇進への影響や、現在の仕事や役割の変更を心配し、迷うケースも見られます」(清水さん)

乳がん治療中、職場に伝える・伝えない判断はどう考える?

それでは伝えないほうがいいのかと考えがちですが、必ずしもそうではありません。特に化学療法や放射線治療が続く場合には、職場に伝えた上で配慮をお願いする必要が生じることがあります。「例えば、一部の上司のみに伝えて配慮を得ることで、治療と仕事を両立されている方も多いです。『職場に迷惑をかけるのでは』と遠慮して希望を伝えず、無理をしてしまう方も少なくありませんが、勇気を持って希望を伝えることが大切です」と清水さんは続けます。

「伝えるにしても伝えないにしても、それぞれにメリット、デメリットがあり、治療内容、仕事内容や雇用形態、さらには職場の人間関係など個々の状況で大きく変わります。また、例えば契約社員の場合、契約を続けたいときは、次の更新が終わった後に伝えると安心です。こうしたタイミングの工夫も大切です」

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考えるときのヒント②
職場に「伝える」「伝えない」のメリットとデメリットを整理する

伝えるメリットの例

  • 治療のための休みが取りやすくなる
  • 重い荷物を持つ作業を避けるなどの配慮を受けられる
  • 外見の変化があっても前もって話しておけば心持ちが軽くなる

伝えるデメリットの例

  • 将来の昇進や契約に影響する場合もある
  • 周囲から特別視されることで、居心地の悪さにつながる場合も

伝えないメリットの例

  • プライバシーを守れる
  • これまでと変わらない環境で働ける

伝えないデメリットの例

  • 治療に必要な休みが取りづらくなるなど、病気を理由にした配慮が受けられない

(取材を基に作成)

乳がん治療と仕事の両立で悩んだときは専門家に相談を

乳がん治療をしながら仕事を続けるか、職場にどう伝えるかといった判断や選択は、誰にとっても簡単なものではなく、迷いが生じます。さらに経済面や治療内容、職場や家庭での役割など多様な条件が重なり、その人にとって最適な対処法は大きく異なります。

乳がん治療は長期に及ぶことも多いため、その過程で治療内容や副作用の影響により、当初の想定とは異なる働き方を選ばざるを得ない場合もあります。だからこそ最初からすべてを決めてしまうのではなく、治療の節目ごとに自分の状況を整理し、今後の働き方を柔軟に考えていくことが重要です。

乳がん治療をしながら仕事を続ける相談もできる「がん相談支援センター」

乳がん治療と仕事の両立に迷ったときにぜひ頼りたいのが、医療機関内にある患者相談窓口です。中でも、各都道府県のがん診療連携拠点病院には、専門研修を受けた看護師や医療ソーシャルワーカーなどがいる「がん相談支援センター」が設置されており、その病院の患者でなくても、無料かつ匿名で相談できます

相談の際には「どんなことに困りそうか、どんなことが心配か」を考えておくと、より具体的なアドバイスを受けやすくなる、と清水さん。「例えば、抗がん剤の副作用による脱毛で周囲の目が気になる場合は、治療前からウィッグを着用しておくと、違和感を持たれにくく、お勧めです」

また、職場に治療の予定を伝えるときは、「あまり先々の細かいスケジュールまで言うよりは大まかな見通しを伝える程度にしておくほうが、途中で治療方針が変わっても柔軟な対応をしてもらいやすいといった、職場への伝え方のコツもアドバイスできます」。

乳がん治療をしながら仕事を続けるために「療養・就労両立支援制度」の活用を

職場には、できないことや困難な業務だけを訴えるのではなく、「どの業務なら無理なく続けられるか」「どんな配慮があれば可能か」といった前向きな要素も伝えることが大切です。こうした姿勢は職場との関係を円滑にし、医療的な根拠を添えることで説明に説得力が増し、職場側も対応を検討しやすくなります。

このような場面で役立つのが、厚生労働省による「療養・就労両立支援制度」です。「これは、患者さんの治療と仕事の両立をサポートするために、医療機関と職場が必要な情報を共有できるように整えられた仕組みです」(清水さん)。

この制度は、患者が作った「勤務情報提供書」を基に、主治医が今の体調や治療を踏まえ、仕事への影響を考え望ましい配慮を記載した「意見書」を職場に提示するものです。従来からある診断書との違いは、患者が治療と仕事を両立するにあたり、職場に求めたい配慮について、医療の面からも提案するところです。これにより、患者が職場の協力や理解を得やすくなることを目的にしています。

この意見書があることで、「どのような働き方が可能か」「どんなサポートが必要か」が客観的に、かつ明確になり、「患者さんと職場が共に相談しやすくなる点が大きなメリットです」と清水さん。

乳がん治療と仕事・家庭の両立やトラブルで悩んだときの相談先

職場との調整以外にも、家族に関わる事柄も検討する必要が出てくることがあります。

「特に乳がんは、家庭で子育てや介護を担う方も多く、治療中には様々な困りごとが生じます。こうしたときには、地域包括支援センターや子ども家庭支援センターなどに相談し、利用できる地域のサポートについて情報を得ることをお勧めします」(清水さん)。

また、乳がん治療を理由にそれとなく退職を促されるなど理不尽な対応を受けた場合も、ひとりで悩みを抱え込まないでください。「こうした内容でも、がん相談支援センターやソーシャルワーカーにぜひ相談してください。必要に応じて、社会保険労務士や産業保健総合支援センターなど、法的な観点から助言してくれる専門機関を紹介することもできます。一緒に解決の糸口を探っていけたらと思います」

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仕事との両立に悩んだときの主な相談先

  • がん相談支援センター(がん拠点病院に設置)
  • 病院のソーシャルワーカー
  • 産業保健総合支援センター
  • 社会保険労務士 など

外部機関に相談する際に、準備しておきたいこと

  • 病気、治療、体調面に関する情報
  • 職場の就業規則
  • 自身が困っていること、不安を感じていることを挙げておく
  • 職場に求めたい配慮を考えておく
    例:
    • 仕事内容の変更
    • 出勤日数や勤務時間の調整
    • 勤務地の変更、在宅勤務への意向
    • 休憩や休暇の取り方

乳がん治療と仕事への向き合い方は「自分が納得できる選択」が最適解

ここまでは、乳がん治療をしながら仕事を続けるためのノウハウや考え方を中心に紹介してきました。

さらに、清水さんは別の視点からの重要なポイントも助言してくれています。「がん患者さんにとって、治療と仕事の両立だけが選択肢ではありません。退職という選択もあり得ます。仕事について考える際に本当に大切なのは、自分にとっての仕事の位置づけや、人生の中で何を大切にしたいかという自身の価値観だからです」

仕事は、収入源として生活を支える手段であるばかりではなく、自己実現の場だったり、社会とのつながりを保つ方法だったりと、その位置づけは人によってさまざまです。

「治療へのモチベーションを保つために働きたいという人もいれば、いったん退職し、今は治療に専念したいと考える人もいます」(清水さん)

乳がん治療と今の仕事を無理に両立することが、必ずしも、すべての人にとって最善とは限らないというわけです。

大切なのは、患者さん自身が十分な情報を得た上で、自分にとって納得できる選択をすること。例えば、社会とのつながりを保ちたいという人には、体に負担の少ない働き方に変える、ボランティアをするといった選択肢もあります。一方で、経済的な理由で働き続ける必要がある場合は、できる限り収入を維持し、治療と両立できる働き方を考えることが求められます。仕事に求める目的によって、一人ひとりにとっての最適解は違ってきます。現在は、がん患者さんの『治療と仕事の両立』が重要視されていますが、じっくり考えた結果の退職という選択肢にも自信を持ってもらいたいです」

「正解のない選択」をしなければならない難しさはありますが、患者自身が必要な情報を得て、十分考え、納得した上で今後の働き方を選ぶこと――これこそが、治療との向き合い方やその後の人生にも大きな影響を与える、とても大切なことなのです。

「乳がん」と診断されたとき「仕事どうする問題」に向き合う心得

  • 1:すぐに仕事を辞めるという結論は出さない
  • 2:自分の不安や悩みを整理してみる
  • 3:病院や地域の専門家(社会資源)の力も借りて冷静に情報を集める
  • 4:自分にとっての仕事の位置づけを考える
  • 5:職場への伝え方、伝える内容、伝える時期なども工夫する
清水理恵子さん
国立がん研究センター中央病院 がん相談専門統括職

社会福祉士、医療ソーシャルワーカー。認定がん専門相談員。千葉大学教育学部卒。
がん患者の就労支援だけではなく、がん患者を取りまく様々な社会問題(高齢、身寄り無し、ひとり親、虐待など)に取り組む。

(※内容は2025年11月取材時点のものです)