PMSや更年期症状の女性従業員にどう接する? 上司ができるサポートと配慮ポイント【マネジメント層のための健康相談室①】
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近年、さまざまな企業で、女性特有の健康課題について理解を深めるための取組が進んでいますが、実際に職場の女性が生理やPMS、更年期などの不調があると「デリケートな問題なのでどう対処すればいいのか分からない」と、戸惑いを感じている管理職・同僚も多くいるようです。産業医であり、婦人科医として、多くの企業で研修やアドバイスを行ってきたイーク表参道 副院長の高尾美穂さんにアドバイスを聞きました。
PMSで感情の波がある女性への接し方とは? 職場で上司が取るべき配慮、言葉の選び方
明らかにPMSで感情の波がある女性部下にはどのように接すればよいのでしょうか。業務上、コミュニケーションをゼロにすることは難しく、部署全員が被害を被っています。
「PMSか更年期症状で感情を爆発させる女性上司に、どう自覚してもらうか」(関連記事:情緒不安定などPMSへの対処法は? 治療法やPMDDとの違い、セルフケアを医師が解説【働く女性の健康相談室②】)というお悩みへの答えと共通しますが、「体調が悪そうに見えるので、専門家に相談してみては?」という言い方をすれば、相手も「周囲の人にもそう見えているんだな」と受け止めやすくなるのではないでしょうか。PMSや更年期など、性特有の健康問題を他人から指摘されるのは抵抗感を感じる人も多いので、「体調が悪そう」という表現にとどめるのがいいと思います。
「PMSかどうか」を見分ける必要はない? 職場で上司が意識したいポイント
イライラしたり、急に態度が豹変する女性が、PMSや生理のせいなのか、それとも元来の性格なのか、見分け方はありますか?
そもそも職場で、個人の症状について病名を判断したり、見分けたりする必要があるのでしょうか。パフォーマンスが低下し、周囲とのコミュニケーションに課題が生じることは企業にとって問題ですが、その原因が何であるのかを特定するのは、医師など専門家の仕事です。
管理職の役割は、部下の体調不良などで業務に支障が出た場合に、どうカバーするかをあらかじめ準備したり、円滑に対処することだと思います。普段から、誰か一人が欠けたとしても業務が回る体制を整えておくことが重要なのであって、相談を受けているわけでもないのに、個々の健康課題に深入りして原因を特定しようとすることは、避けることが望ましいと考えます。
PMSは悪化する? 職場環境やストレスによる影響と上司の役割
入社したての頃は何も言っていなかった女性が、年々PMSを訴えるようになり、それを理由に休むこともあります。PMSは年齢とともに悪化するものなのでしょうか? 周囲が気をつけたりサポートできることはありますか?
PMSの症状はストレスや睡眠時間などの生活習慣が大きく影響するので、仕事が忙しくなったり、役割や責任が増えたり、育児などによって、症状が悪化することは十分に考えられます。ただ男性の管理職であれば、PMSの詳細な症状についてそこまで知らなくても、「女性は体調に揺らぎがあることがある」と理解しておくだけでも十分かもしれません。大切なのは、必要と感じた時に、女性が気軽に相談できたり、医療機関にかかりやすい空気や環境を、職場に作り上げていくことです。すでに存在する生理休暇などの制度が形骸化していないかを確認したり、PMSや更年期、通院でも利用しやすいよう制度を整備するなど、管理職以上でないと難しい役割を、まずは果たしていただければと思います。
更年期症状のため退職を考えている女性への声のかけ方とは?
「更年期症状がつらい」と退職や降格を申し出る女性に対し、会社はあまり引き止めないのですが、個人的には、年収だけではなく将来の退職金や年金で大きく損をしてしまうし、せっかくのキャリアがもったいないと感じています。どのようにアドバイスするといいのでしょうか?
辞めてしまうのは惜しいと感じる相手であれば、「体調が良くない時に大きな決断はせず、先延ばしにした方がいい」とアドバイスしてはいかがでしょう。更年期に限らず、うつなどもそうですが、すぐに退職してしまうのではなく、働き方を少し変える、業務内容を調整するなど、他の選択肢もあるはずです。更年期症状が落ち着き、体調が戻った時にまた仕事を探そうとしても、今と同じ条件で働ける保証はありません。あなたが男性であれば「女性の更年期はずっと続くわけではないと聞いたんだけど、どうなんだろう」など、素朴な意見として話してみても良いと思います。
更年期を理由にした業務の押しつけを防ぐには? 上司ができる対応と研修の重要性
「更年期は色々あって大変なのよ、若い子は元気なんだから働きなさい」などと、体調不良を逆手に、勝手に若年者に仕事を押しつける女性が職場にいます。人手不足なのにアルバイトが入っても辞めてしまい、困っています。
まず本人も周囲も「更年期の不調はどうしようもない」と諦めるのをやめて頂きたいです。更年期症状の治療法は確立されています。インフルエンザにかかったら治療薬を飲むのと同じで、更年期のさまざまな不調がある場合、ホルモン補充療法などを受ければ改善することが多いですし、漢方薬などもあります。周囲の人に仕事を押しつけて離職を招いたり、そのせいで職場全体の活力を奪われることがないよう、更年期について学ぶ研修を行い、正しい知識や共通認識を皆が持つようにしてはいかがでしょうか。
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日本スポーツ協会公認スポーツドクター・産業医
東京慈恵会医科大学大学院修了後、同大病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て、2013年から現職。専門は女性のヘルスケア。ヨガの指導者資格も持ち、女性の心身をさまざまな角度からサポートする。
(※内容は2025年8月取材時点のものです)