男性更年期とは? 症状のチェック法は? 受診先と治療法を専門家が回答【男性のための健康相談室①】
女性特有の健康課題について社会の目が集まるにつれ、男性特有の健康課題として「男性更年期障害」という言葉を聞くようになってきました。女性の更年期とセットで研修する企業も出てきているようですが、まだまだその実態が知られていません。そこで、男性ホルモンとも関連する男性特有の不調についての質問に、男性更年期外来も担当する専門医の田村貴明さんが答えます。
男性更年期とは? 40〜50代に増える理由と発症しやすい人の特徴
男性更年期がなぜ今、話題になっているのですか? どんな人がなりやすいのか、何歳くらいから意識すべきなのかを知りたいです。
男性ホルモン(テストステロン)の研究は、欧米では性機能の低下を遅らせるアンチエイジングを中心に進みましたが、老化は受け入れるものという文化の強い日本では遅れていました。ですが、男性ホルモンが性機能だけではなく、筋骨格や認知機能、社会性、意欲、フレイルなど社会問題になっている疾患にも関わることが明らかになってきたことから、最近は働く中高年男性の健康維持や予防医学の視点から注目されるようになっています。
臨床経験的には40代、50代で男性更年期の強い症状(男性更年期障害)に苦しむ人が多いです。もともと人一倍元気だった人、責任感が強い人、自分に求めるものが高い人などがなりやすい傾向があるようです。ちょうど40代、50代は、重責の役職に就いたり、部署を移動して責任者になったり、親の介護が発生するなど大きなストレスがかかりやすい時期。本来は、なだらかに減ってゆくテストステロンですが、こうしたストレスがあると急激な差異を伴って減ることがあります。すると、それまでの体が感じていた環境とのギャップが大きくなり、体力的にも身体的にも新環境に折り合いがつけられなくなることで、症状が出ると考えられています。糖尿病やがんの治療の影響でテストステロンが下がって症状が出るケースもあります。
男性更年期障害は放置して大丈夫? 症状が軽い場合でも見直すべき習慣
男性ホルモンが加齢と共に減るのは自然なことだと思うのですが、誰でも対策が必要なのでしょうか? 症状があるけれどなんとかやり過ごせる場合、放置すると何か問題がありますか?
おっしゃる通り、男性ホルモンが年齢と共に減るのは普通のことで、通常は緩やかに減ってゆくので、その変化に大きな落差を感じることもなく、自然に受け入れることができる人は多くいます。症状があっても生活に支障が出るほどでないなら、素晴らしいこと。特別な治療をしなくても問題はありません。
ぜひ、睡眠・栄養・運動などの生活習慣を見直して、よりいい状態に保つ努力をしてください。そうすれば、今ある軽い症状も治まっていくと思います。
男性更年期の治療効果とは? テストステロン補充で期待できる変化を解説
男性更年期の治療の効果は? 治療した人のリアルな感想も知りたいです。
男性ホルモン値が下がっていて、本人が不調に困っているようなら筋肉注射によるテストステロン(男性ホルモン)補充療法が代表的な治療法です。効果の実感が早い人が多く、注射をして数日後には多くの人が「調子が良くなった」と言います。一番よく聞くのは、階段の上り下りが楽になった、疲れにくくなったという声です。
症状が重い人でも2、3週間で調子が良くなることが多いです。大切なのは、ずっと薬で治療することを前提にするのではなく、治療で体調が良くなっている間に、生活習慣の乱れを整えること。睡眠、運動、食事を見直し、社会との関わり方も見直してみることを勧めています。ヒトの体を車に例えるなら、テストステロンはエンジンオイルのようなもの。エンジンオイルをさして車がスムーズに動くようになると、気持ちも前向きになります。いい具合に車が動かせている間に、どれだけ土台となる生活習慣を改善できるか、が重要だと思ってください。
男性更年期障害は何科に行けばいい? 受診先の選び方、クリニックの見極め方
保険診療と自由診療がありますが、どのように病院を見つければいいのでしょうか? 良いクリニックの見分け方は?
保険診療で使えるテストステロンの種類はエナント酸テストステロン注射剤で、自由診療ではそれ以外のホルモン剤を医療機関が並行輸入するなどして使っている場合が多いです。良いクリニックの見分け方を明言するのは難しいですが、日本メンズヘルス医学会の専門医やテストステロン治療認定医がいることは、一つの目安になるかと思います(テストステロン治療認定医について | 日本メンズヘルス医学会)。あとは治療費がやたらに高いクリニックは、慎重に検討すべきだと思います。
男性更年期の治療費と通院ペース|保険診療と自由診療の違いを解説
個人差があると思いますが、保険診療と自由診療ではそれぞれ毎月、いくらくらいかかりますか?どのくらいのペースで通院が必要で、いつまで続ければいいのでしょうか?
40歳以上を目安とし、臨床所見で性腺機能の低下が疑われ、血液検査でテストステロンが一定の基準値以下に低下している場合、または、血液検査でテストステロンが一定の基準値以下に低下していなくても、臨床所見で性腺機能低下症が強く疑われる場合に、保険が適用されます。3割負担の場合で、薬代だけなら1回数千円程度。安定するまでは副作用のチェックや検査も必要なので1カ月に1回程度の通院が普通ですが、症状が安定したら3カ月に1回くらいで済む人もいます。私は、3カ月から半年治療をして様子を見る、というやり方をすることが多いです。先程の質問でも話しましたが、テストステロン補充をして体調が上向いている3カ月から半年の間に生活習慣を改善することが、悪いサイクルを断ち切り、症状を軽快させていくコツだと思っています。
男性更年期障害の症状チェックはAMSスコアで|セルフチェックの方法と医療相談の目安
自分が男性更年期障害かどうか、病院に行かなくてもセルフチェックできますか?
最終的には、血液検査でテストステロン値を測り、医師が症状などを総合的に聞き取って診断をつけることになりますが、自分で目安を知りたい場合は診断で使うAMSスコアが参考になるでしょう(関連記事:男性の更年期はいつから始まる? 年齢・症状・効果的な対策を専門医が解説)。
ただ、「本人が困っていること」が診断の条件なので、該当する症状が複数あっても本人が困っていないのなら、男性更年期障害を心配する必要はありませんし治療をする必要もありません。
| 症状 | なし | 軽い | 中程度 | 重い | 非常に重い |
|---|---|---|---|---|---|
| 1. 総合的に調⼦が思わしくない(健康状態、本⼈⾃⾝の感じ⽅) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 2. 関節や筋⾁の痛み(腰痛、関節痛、⼿⾜の痛み、背中の痛み) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 3. ひどい発汗(思いがけず突然汗が出る、緊張や運動とは関係なくほてる) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 4. 睡眠の悩み(寝つきが悪い、ぐっすり眠れない、寝起きが早く疲れがとれない、浅い睡眠、眠れない) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 5 .よく眠くなる、しばしば疲れを感じる | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 6. いらいらする(当たり散らす、些細な事にすぐ腹を⽴てる、不機嫌になる) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 7. 神経質になった(緊張しやすい、精神的に落ち着かない、じっとしていられない) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 8. 不安感(パニック状態になる) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 9. からだの疲労や⾏動⼒の減退(全般的な⾏動⼒の低下、活動の減少、余暇活動に興味がない、達成感がない、⾃分をせかせないと何もしない) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 10. 筋⼒の低下 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 11. 憂うつな気分(落ち込み、悲しみ、涙もろい、意欲がわかない、気分のむら、無⽤感) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 12.「絶頂期は過ぎた」と感じる | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 13. ⼒尽きた、どん底にいると感じる | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 14. ひげの伸びが遅くなった | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 15. 性的能⼒の衰え | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 16. 早朝勃起(朝⽴ち)の回数の減少 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 17. 性欲の低下(セックスが楽しくない、性交の欲求がおきない) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
| 合計点 |
各項目を「ない」1点、「軽い」2点、「中程度」3点、「重い」4点、「きわめて重い」5点で集計します。合計点で男性更年期障害の症状の重症度を見ます。
症状の程度
- 17〜26点:なし
- 27〜36点:軽度
- 37〜49点:中程度
- 50点以上:重度
37点以上は、医療機関で相談することを勧められており、特に50点以上では専門医による検査が推奨されます。
出典:加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き
「HeinemannらによるAgingmales'symptoms(AMS)スコア」より引用
テストステロン補充療法をしてはいけない人と、治療に伴う副作用のリスク
男性更年期症状の治療による副作用と、副作用が出る割合は?
前立腺がんの人、その可能性がある人、妊活中の男性はテストステロンの投与は禁忌です。また、治療の際には、前立腺の検査を行うことになっています。
副作用の代表的なものは、
- 多血症(赤血球が多くなり、血流が悪くなる、血栓症などのリスクが上がる)
- 肝機能低下
- 陰茎肥大、持続性勃起、特に大量継続投与により精巣萎縮・精子減少・精液減少などの精巣機能抑制。女性化乳房
- 発疹などの過敏
などですが、副作用の頻度は不明です(薬の添付文書にも記述がありません)。
男性更年期に企業はどう向き合うべきか|職場での理解促進と相談体制づくり
男性更年期に対して、女性の健康課題のように企業が導入すべきことは何でしょう? 同僚や上司が注意すべきことはありますか?
男性更年期については話題に上るケースが増えたとはいえ、どんな症状や状態を疑うべきかなどを知らない人も多いですし、つらい症状を「男性更年期障害」と知らず、我慢している男性もいるはずです。ですから、企業にはぜひ、正しい知識の啓発機会を作ってほしいと思います。予防のポイントや具体的な症状、改善のための生活ポイントや治療法などを知ることで、必要な人が受療しやすくなるはずです。また、症状を疑う人が気軽に相談できるように、産業医や産業保健師らと協力するなどして相談窓口を設けたり、オンライン相談などの仕組みを活用するのもいいと思います。
千葉大学医学部卒業。泌尿器科専門医。医学博士。ロボット(da Vinci)手術認定医、テストステロン治療認定医。日本泌尿器科学会、日本癌学会、日本メンズヘルス医学会など多数の学会に所属。千葉や神奈川の地域中核病院で主にがん診療に従事した後、現在は大学でがんの転移メカニズムや早期診断の基礎研究に取り組む一方、男性更年期の診療や啓発活動にも力を入れている。
(※内容は2025年11月取材時点のものです)