東京都のフェムテック導入のための奨励金をきっかけにワーキンググループを発足
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マンションの一括受電など、電力に関するさまざまなサービスを開発・提供するアイピー・パワーシステムズ。女性従業員の健康課題に対するサポートを考える過程で活用したのが、東京都による「フェムテック導入による職場環境の整備等奨励金」でした。取組の指針になったという奨励金への申請やワーキンググループ活動を中心にお話をうかがいました。
- 奨励金申請の検討を通じて、経営層が女性の健康課題に関する知識を深めた
- 女性従業員が本当に必要とする施策を検討するためのワーキンググループを発足
- セミナーや生理痛体験を通じて、管理職や男性の理解を促進した

女性特有の健康課題による経済損失の大きさに衝撃を受けた
女性の健康課題を話し合うワーキンググループがあるそうですね。
大庭健二さん(以下、大庭さん)2024年10月に立ち上がった「idonna レモ会」です。経営企画部長、舟木の発案でメンバーを募集し、女性3名と男性1名に舟木を加えた5名でスタートしました。
和田江里香さん(以下、和田さん)ワーキンググループ名は、「i」は会社の頭文字とイタリア語で女性を意味する「donna」を組み合わせた造語「idonna」と、「レモンバームの会」を略した「レモ会」を組み合わせています。レモンバームは花言葉が「思いやり」ということから採用しました。私は普段は保安管理部に所属していますが、「idonna レモ会」のメンバーとしても活動しています。
立ち上げのきっかけを教えてください。
舟木 剛さん(以下、舟木さん)昨夏に、グループ会社のJCOMで女性の健康課題に取り組んでいる鈴木(関連記事:男性従業員の提案で、社内フェムテックイベントを開催。ボトムアップで“知る機会”をつくる)と情報交換して興味を持ちました。その時に、鈴木から、東京都で「令和6年度 フェムテック導入による職場環境の整備等奨励金」(※令和7年度の募集を開始しました。詳しくは、記事の下をご覧ください)を募集していると聞き、申請することにしたんです。この奨励金は、フェムテック製品やサービスを新たに導入し、福利厚生制度の整備や拡充等に取り組む企業をサポートするものですが、募集要項自体がとても勉強になりました。生理やPMS(月経前症候群)、更年期症状、産後のホルモンバランスの乱れなど女性特有の体調不良は、女性が仕事を続け、活躍していく上でハードルとなることがあると書かれていたり、特設サイト「働く女性のウェルネス向上委員会(※本サイト)」が紹介されていたり。サイトでは、記事だけではなく動画も見ました。中でも、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失が総額で年間3.4兆円と試算されているということが、個人的にとてもインパクトがあって。社長に学んだことを報告しました。
大庭さん舟木から提供された情報には、私も驚きました。また、東京都で力を入れていたり他企業で取組が進んでいたりする話も刺激になり、弊社も力を入れていきたいと考えました。それで、社内でメンバーを募ることを思いついたのが、「idonna レモ会」のスタートにつながりました。
どのような活動からスタートしたのでしょうか?
舟木さんまずは社内の意識調査を実施しました。というのも、東京都の奨励金を受け取る条件に「社内意向調査の実施」があったんです。「社内意向調査票」のフォーマットもいただいたので、それを利用しました。男女共にアンケートを実施し、仕事中に生理のことで困ったことがある女性が多い、生理について話したり相談したりできる環境がないといった社内の課題感を抽出できました。さらに具体的な要望を聞くために、「idonna レモ会」で追加アンケートを作成し、任意のアンケートを採りました。
2回目のアンケートはどのようなものだったのですか?
舟木さん従業員がどのようなことに困っていて、会社に何をしてほしいのかを改めて聞くものです。奨励金で課題解決につながるアイテムを購入する予定でしたから、導入してほしいアイテムも改めて聞きました。設問を平易な言葉で書いたり回答を選択式にしたり、なるべく多くに回答してもらえるように、簡単なものにしました。おかげで、具体的な取組につながる回答を多く得られました。
弊社には、それまで「アンケートを採る」という文化がありませんでした。けれど、このときのアンケート調査を通じて、従業員の意見を広く聞くのに良い手法だと改めて気づきました。実はそれ以降、社内のさまざまな施策の検討段階でアンケート調査を活用するようになったんです。
アンケートでは、どのような回答が集まりましたか?
和田さん就業中に経血が漏れてしまって椅子を汚してしまった方から、洋服や椅子を汚してしまったことを言えずにこっそり片付けるのが大変だった、恥ずかしいと感じたという声が聞かれ、生理の困りごとを話せる空気を作るのが課題だと感じました。
舟木さん生理中に長時間トイレに行けないと不安になることにも意識が向きました。調査の後は管理職に対して、会議は原則1時間で終わらせ、長くなる場合は途中で休憩をはさむように伝えています。
経血漏れの対策としては、普段の椅子に重ねて使える、腰痛対策用のサポートクッションを購入しました。生理中は腰がつらい人もいるということから導入したのですが、「idonna レモ会」で考えて、プラスチック製で濃い色を選びました。生理中に使えば、万一経血が漏れてしまった場合でも椅子は汚れず、クッション自体はサッと洗えます。
和田さんアンケートをもとに、女性トイレも見直しました。誰でも自由に使える生理用品をトイレの個室に常備しています。また、アンケートで、サニタリーボックスを直接触るのに抵抗があるという意見が聞かれたことから、奨励金で、手をかざすだけで蓋が開くサニタリーボックスを設置しました。直接ボックスに触ることなく捨てられるので、とても好評です。

奨励金を上手に活用していますね。
舟木さんそうですね。せっかく補助をいただけるなら本当に必要とされるものを購入したいと、「idonna レモ会」と相談しながら商品を決めています。奨励金自体は女性の健康課題解決を目的としていますが、弊社としては、女性の健康課題も含め会社全体の健康経営促進にも生かしたいとも考えています。ですから、女性の健康課題を解決しつつ男性にも使ってもらえるものも検討しました。例えば、スタンディングデスクです。生理中に座った姿勢が長く続くと、腰回りを圧迫してつらい人もいるということから導入しました。実際には腰痛予防やちょっとした運動不足解消に、男女問わず使っています。奨励金を意識しすぎて必要のないものを買うよりも、自社の経費で購入しても後悔がないものを買ったほうがいいと考え、実際に、そのようにしています。
和田さん冷えによって生理痛が悪化することもあるので、通常の使い捨てカイロよりも温度が低い使い捨ての「低温カイロ」も購入しました。こちらも、屋外で作業する技術者には男女問わず使ってもらえました。
国際女性デーに合わせて女性の健康課題を学ぶ機会を
今年3月には女性の健康課題を学ぶセミナーを開催したそうですね。
舟木さん女性の健康課題を学ぶセミナーとフェムテック商品の展示会を、3月8日の国際女性デーに合わせて3月6日に開催しました。JCOMで取り組んで反響があったので、弊社でも開催してはどうかと鈴木から勧められたんです。女性の健康課題に関するイベントをパッケージでお願いできるイベンターも紹介してもらいました。展示会は会議室一つを会場にして1日中オープンし、男女問わず自由に見てもらいました。生理関係のアイテムだけではなく、更年期に関するものなど、幅広く置いていました。
反響はいかがでしたか?
舟木さん社内の理解が進んだと思います。管理職からは、女性部下への声の掛け方が少し理解できたという声が聞かれました。また、女性の生理を理解したことで、配慮の仕方がイメージできたという人もいましたね。定期的に体調が悪くなる女性に対して、何か深刻な病気があるのではないかと過剰に対応しがちだった上長が、女性特有の健康課題があることを知って、相談しながら適切にケアできるようになったという例も聞きました。
また、生理だけではなく更年期の話もしたのですが、それは女性だけではなく男性にもあるものですから、男女問わず自分の体調について言いやすい空気を醸成するのに一役買ったとも感じます。
大庭さん「idonna レモ会」のモチベーション維持にもつながったと思いますね。社内の意識が変わっている実感を得られないまま頑張り続けるのは難しいですから、セミナーと展示会とで、自分たちの活動によって社内の空気が変わるのを実感してもらえたのも良かったと思います。
3月には「生理痛体験会」も実施しましたね。
舟木さんイベントとは別に、管理職以上を対象に生理痛を疑似体験できるデバイスを使って行いました。体験するだけではなくその後でディスカッションもしてもらい、理解を深めてもらえるように工夫しました。事後アンケートでは、「女性の8割が痛みを我慢して就業している事実を知った。会社としてサポートすべき」「自分自身も声掛けをするなど行動を変える必要がある」といった声が寄せられ、管理職層の意識の変化を感じました。
大庭さん私も体験しましたが、内臓を締め付けられるような痛みに驚きました。3段階あったのですが、私は2段階で耐えられず、途中で止めてもらいました。
和田さん女性も一緒に体験しましたが、叫び声をあげている男性の横で3段階目を体験する女性が涼しい顔をしているなど、差が大きかったです。
大庭さん生理痛体験を通じて、女性の生理を甘く見ていたと痛感しました。私の娘が、生理がつらいと、ずっと家で横になっていることがあったのですが、私はそれを「昼間からゴロゴロして…」と快く思っていなかったんです。体験の後は、本当に反省しましたね。娘には「苦しくて動けないよね」と話しました。きちんと知ることで、皆が思いやりのある声掛けをできるようになると思いますね。
座談会や交流会などで、女性から直接話を聞く機会もあるのですか?
和田さん今年6月に初めて座談会を開催しました。健康課題だけではなく、仕事をする上での悩み事や相談事などを、リラックスして話す場にしました。部署を超えた横のつながりも作っていきたいと考えていて、今後も機会を見つけて開催したいですね。

取組を始めて、良い変化はありましたか?
舟木さん女性の健康課題に対する社内理解が進んだのはもちろんですが、従業員全体が積極的に会社を良くするために意見し行動するようになりました。「idonna レモ会」に、この春、1人追加メンバーが手を挙げてくれました。また、今、健康経営優良法人の認定取得を目指した取組を始めているのですが、そのワーキンググループメンバーを募集したところ、「idonna レモ会」に触発されたと女性従業員2名が手を挙げてくれました。
大庭さん会社として、女性の採用と活躍の場を広げていきたいという思いもありますから、女性の働きやすさを整えることで、女性活躍推進にもつなげたいと考えています。技術職は男性が多いので、人材確保の観点からも、女性の働きやすさを整えるのは重要課題です。
安彦伽恵さん私は技術設計部という技術系の部門で働きながら、「idonna レモ会」のメンバーにもなっています。女性も働きやすい現場にすることで、女性技術者を増やしたいという目標を持って参加しました。話し合いでも、女性トイレや休憩場所の問題など、現場に出ていないと気づかない課題を共有しています。
「idonna レモ会」のメンバーは、今後、入れ替えていく予定はありますか?
舟木さん他社のワーキンググループが任期1年でメンバーを入れ替えるようにしたことで自律的に継続できている例を聞き、「idonna レモ会」もいずれは任期1年などとして、継続性を高めたいと思っています。
大庭さん弊社はグループ内人事で経営層が変わることも少なくありません。舟木や私が異動したことで、女性の健康課題に関する取組がなくなってしまうことがないように、しっかりと制度化したいですね。
事業電力一括受電事業など
従業員数/84名 女性従業員数/19名(2025年5月末時点)
(※内容は2025年6月取材時点のものです)
令和7年度 フェムテック導入による職場環境の整備等奨励金募集のご案内
令和7年度も、フェムテック導入による職場環境の整備等奨励金を募集します。申請をご希望される場合は、募集要項をご確認の上、まずは事前エントリーをお願いします。事前エントリーの受付期間は令和7年7月15日(火)10時から7月31日(木)17時まで。予定社数を上回る場合は抽選を行います。募集要項等の詳細は、以下からご覧ください。
東京都産業労働局雇用就業部ホームページ「TOKYOはたらくネット」