「職場でキレる女性」の原因は性格ではなく、更年期症状の場合も
生理前や生理中の不快な症状と並び、働く女性に大きな影響を与えている健康課題が更年期症状です。2023年に東京都が約3,500人の働く女性に実施したアンケートでは、45歳~54歳の約半数が、更年期症状により仕事への支障が出ていると回答しました(関連記事:生理やPMS、更年期……職場における女性の健康課題を徹底調査)。中でも更年期の「イライラ」については、本人だけでなく職場の同僚や部下からも、多くのお悩みや体験談が寄せられています。産婦人科医であり、産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生に、働く女性に向けたアドバイスと、職場や上司、同僚男性が知っておきたいポイントについて聞きました。
働く女性の声
※コメントは漢字や表現など一部変更しています。
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生理のせいか、更年期のせいなのか、イライラする時があり、職場で突然泣き出したり、けんか腰になったり、自分で感情がコントロールできなくなってしまい、後で自己嫌悪に陥る。周囲から「怖い」「扱いにくい」とレッテルを貼られてしまった。
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イライラがすごく出る。普段から我慢していた上司への不満が爆発して喧嘩のようになってしまったり、後輩を怒って不仲になってしまったりして、コミュニケーションが悪化した。
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更年期の症状が強い同僚が、業務中に感情をコントロールできない状態になるため、周囲が仕事をやりづらくて困っている。医療機関を受診して診断書を会社に提出し、時短勤務やテレワークに切り換えれば、本人だけでなく周囲への影響も減るので、会社が働きかけてくれたら良いのにと思う。
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以前、会社の女性上司からひどいパワハラ、モラハラを受けたが、もしかするとあれは更年期のせいもあったのではないかと思う。
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更年期と思われる年代の先輩女性が、常にイライラした状態となり、職場の雰囲気、人間関係が悪化して退職者も出た。現在、本人は憑き物がとれたように穏やかになっており、一時的な休職制度や女性専門の相談窓口などがあればいいと思った。
更年期だけでなく、PMS(月経前症候群)によるイライラ症状によって職場で困っているという声も寄せられています。
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PMSでイライラしている先輩から強い口調で指示されると、怖くて何も言えなくなる。雰囲気も悪くなり仕事も滞る。「生理がつらくてごめんね~」と言われることもあるが、本人もつらいけれど、当たられる周囲もつらい。できれば婦人科を受診してほしいといつも思う。
産業医・産婦人科医から
働く女性へのアドバイス
更年期には女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減り、それに伴い「幸せホルモン」などと呼ばれるセロトニンの合成が少なくなります。その他にも、ホットフラッシュや睡眠不足、仕事や私生活におけるストレスなどがあいまって精神的に不安定になり、イライラや落ち込みなどの症状が現れることがあります。さまざまな研究結果を統合した医学論文でも、閉経前後には人種を問わず、落ち込みや不安などの症状に悩まされる女性が増えることが示されており、もともと持病がある人や産後うつ、PMSの症状があった女性でリスクが高いことも報告されています。
婦人科を受診して、減ってしまった女性ホルモンをホルモン補充療法(HRT)で補えば、こうした症状は改善されることがあります。また加味逍遙散(かみしょうようさん)などの漢方薬や、症状によっては向精神薬の処方も有効です。なお、イライラの原因が女性ホルモンの低下ではなく、別に隠れている可能性もあります。更年期に生理が頻繁に来るようになったり、1回あたりの期間が長くなったりすることで、鉄不足になりイライラする場合や、女性に多い甲状腺の病気が隠れている場合にもイライラを感じることがあります(関連記事:病気ではないけれど快調でもない“なんとなく不調”。女性に多い「不定愁訴」への対処法は?)。いずれも血液検査を受け、治療することが大切です。
更年期世代の女性は仕事や子育て、介護などでストレスを抱える人も多く、イライラした後の自己嫌悪がさらにストレスを増やし、悪循環を生んでしまうことがあります。更年期症状には治療法があること、イライラは自分だけでなく周囲も傷つけてしまう可能性があること、そして自分をいたわる習慣を持つことを忘れないようにしてください。
職場と上司・同僚男性へのアドバイス
イライラしている女性に対しては「触らぬ神に祟りなし」と避けてしまう人もいるかもしれませんが、女性ホルモンの波によって精神的にゆらぎが生まれることを、職場の同僚や上司が研修などで理解できていれば、働く女性の心理的安全性が増し、仕事へのモチベーションが向上したり、コミュニケーションが良くなったりという効果が期待できます。また更年期に限らず、不調がある時には医療機関を受診するための休暇を気軽に取得できる職場づくりを行っておくことも大切です。婦人科医や保健師、助産師など医療の専門家に相談できる窓口や、更年期にも取得できる休暇制度など、働く女性をサポートする制度の充実も望ましいです。企業が更年期に向き合うことは、職場全体の活性化やチームワークの向上、離職率の低下にもつながると思います。

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。