2017年に日本家政学会で発表された調査「日本の企業における従業員の制服に関する実態調査」によると、職場に制服があると回答した企業は55.3%で、業種別にみると「食品関係」(91.3%)が最も多いという結果でした。職種別で多いのは「製造職」(60.0%)で、「総務・事務職」「営業・販売職」では、女性のみの制服が採用されている傾向が見られたそうです。
制服を採用している企業では、従業員の統一感が生まれ、企業イメージの向上が図れるといった意見があるほか、働く女性にとっても、毎日の服装で悩まずに済む、汚れても気にならない、服装代が節約できるなどの利点があるといいます。
しかし一方で制服は、女性特有の健康課題を抱えている人にとっては、秘かな悩みの種にもなっています。働く女性のリアルな体験談とともに、産婦人科医であり、産業医として女性の健康支援に取り組んでいる飯田美穂先生のアドバイスを紹介します。

働く女性の声
※コメントは漢字や表現など一部変更しています。
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女性の制服はパステルカラーで薄い色なので、生理の時には経血が漏れないか、いつもヒヤヒヤしている。
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私は学生時代の部活のユニフォームも、今の会社の制服も、ボトムスはずっと白。女性が大人数集まり、スポーツをしたり仕事をする時には、誰かしら生理中の人がいるという状況が当たり前のはずなのに、そこに対する配慮は全くなく、経血漏れの目立つ色が多く採用されているのは疑問。紺色などの目立たない色にするか、他の選択肢も用意してほしい。
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生理2日目などに長時間トイレに行けない状況で、かつ男性が上司だと言い出しづらく、制服を汚してしまうことがある。制服が薄い色なので、長時間座る業務の際は、立ち上がる際にかなり不安がある。
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女性の制服のデザインを決めるのは、社長や役員など全員が男性のため、「女性らしくて可愛い」という理由で、コーポレートカラーとも全く関係のない、ピンク色の上下にされてしまった。生理中には汚れが気になるし、太って見えるし、女性たちの間では大不評。勝手な思い込みで決めず、実際に着る人の意見を聞いてほしい。
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職場のトイレが男女共に和式ばかりで、白衣を着る部署の女性は、生理中に経血が飛ばないかなど、とても気を使っている。
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子宮内膜異型増殖症という病気のため、治療薬の副作用で太ってしまい、仕事で着るスーツがきつくなり、手足の鈍痛や炎症でハイヒールが履けなくなるなど、勤務中の服装がつらかった。
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数年前に「#KuToo」が話題になり、日本の大手航空会社の客室乗務員はハイヒールの規定が撤廃されたのに、私の職場はカジュアルな接客業にもかかわらず、ヒールの着用が現在も強制されている。生理で腹痛や腰痛がひどい時は、ヒールで立ちっぱなしが本当につらい。体調が悪い時だけでもいいから、フラットシューズの着用を認めてほしい。
- ※#KuToo(クートゥー)は、#MeTooをもじり、「靴」と「苦痛」を掛け合わせた造語。職場でハイヒールの着用を義務づけるのに抗議する運動で、2019年の流行語大賞にも選ばれた。
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制服などの貸与品は男性をベースにつくられており、女性の体型や体調に対する配慮がされていないと思う。
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更年期のホットフラッシュで滝のような汗が出ても、職場はジャケット着用がルールのため、暑さと目まいで倒れそうになる。
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更年期症状で、冬でもほてりや発汗がひどく、接客業ができなくなってしまった。上半身は汗だくなのに、下半身は氷水に浸かっているように冷えてしまうが、決められた制服を着ないといけないので、体温調節ができずつらかった。
産業医・産婦人科医から
更年期のコラム(参考記事:更年期症状で汗が止まらず、恥ずかしくて会議で積極的になれない)でも話しましたが、更年期でホットフラッシュの症状がある場合、エアコンなどの室温設定が自由にできたり、制服の選択肢の幅がある職場が望ましいです。暑い場所や風通しの悪い場所で働くと症状が悪化し、一方、自分で温度を調節できる職場では、更年期症状の程度が軽いことが報告されています。また同じ女性でも、生理痛は「冷え」が悪化要因になることに注意が必要です。服装の形状や素材によって、生理痛や更年期症状を悪化させてしまうといったことも研究されています。そのため、職場の制服を検討する際には、①生理中などの「冷え」や更年期のホットフラッシュにも対応できる、温度調節のしやすさ ②体をしめつけない、動きやすさ ③経血漏れなどが目立ちにくい色 などに留意し、個々人の体調に合わせて選択できるようバリエーションを用意したり、柔軟な運用を行うなど、自由度を高める視点を持つことが、女性の働きやすさのために有効ではないでしょうか。生理痛や更年期症状などの不調を抱える女性にとって、自分に合った服装を着用することは、快適に仕事に向き合うことができ、ひいてはパフォーマンスの向上にもつながると考えられます。
参考文献:Menopause. 2017 Mar;24(3):247-251.
J Menopausal Med. 2017 Aug;23(2):85-90.
Int J Environ Res Public Health. 2023 Dec 30;21(1):56

2008年慶應義塾大学医学部卒。2010年同大学医学部産婦人科学教室に入局し、産婦人科医としての研さんを積む。2017年同大学大学院医学研究科修了、医学博士取得。2018年同大学医学部衛生学公衆衛生学教室助教。2021年同講師。女性ヘルスケアの向上に資するエビデンス創出のための疫学研究や、企業における女性の健康支援に従事。女性の健康を社会医学・公衆衛生の側面から取り組んでいる。産婦人科専門医、女性ヘルスケア専門医、社会医学系指導医、日本医師会認定産業医。